ゆとりるのはてなブログ

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しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十七話 早業九連


第二十七話 早業九連

「はやわざ……きゅーれん?」
レベッカ様のお背中の上で、お話ししたはずですが」
「んな難しい話、聞いたことねーよ」
「しっぽの毛並みを整え、神経を集中させれば、しっぽ一本ごとにそれぞれ技を繰り出すことができる……それが『早業九連』です。あの『氷の丘』も、こなゆき五連、フリーズドライ四連で一息にお作りしました。技一つ一つの威力は落ちますが、今回のような状況ではとても有効です」
 ひとしきり言い切ったハナは、自身を落ち着かせるために、改めてため息を一つついた。

「アルトマーレへ着く前、レベッカ様の上で毛繕いをして差し上げたときに、わざわざ教えて差し上げましたのに……」
「あーあの『クシ』でやってもらったときのやつ、そういう話だったんだ」
「まったく、これだから愚民さんは」
「ごめんって。いやマジで助かった、本当にありがとう」

グレンは人の姿に化けると、氷キュウコンの姿のハナに「だきしめる」をした。
「グレンさん……な、なにを……」
「お礼の気持ちだ。あったけーだろ」
「それはそうですが……なにか、よろしくないことをしているような気が……」
「なんでよくねーことなんだよ。『いやしのしずく』みたいな感じで、アタシも回復するんだぜ」
「そうは仰っても、周りの目もございますので……」
「周りの目とか気にするもんか……って、確かになんか多いな?」

 気が付けば、数十人のポケモンがグレンとハナを囲みながら、二人を思い思いに見つめていた。
アローラキュウコンさんと操り人さんの、ユウジョウ!」
「さっきまで、人間の方もキュウコンじゃなかった?」
キュウコンの女の子同士で……あら〜」

「わたくしたちを心配なさって、集まってくださったのかしら?」
「もともと街にポケモンが多いっつっても、集まり過ぎじゃね?」

――

「姐御ー!」
「お前……オオスバメ!」
 周りのポケモンの輪の中から、見慣れたオオスバメが飛び寄ってきた。

「姐御の指示通り、家族はみんな避難させてきましたぜ」
「おう、ご苦労だったな。でもなんでお前がここに?」
「この街にはダチのポケモンがたくさんいるんで、助けに来てたんす。このへんに集まってるみんなもそうっすよ。人間は先に逃げちゃってアテになりませんし、街のポケモンも森のポケモンも、困ったときはお互い様っすからね」
「お住みになってる場所に関係なく、助け合っていらっしゃるんですね」
ホウエンなら、ナワバリ争いでしょっちゅうケンカしてるっつーのにな」
「えっ、そうなんすか? あとほら……空を飛べる連中は、上で戦ってるみなさんを応援しに集まってきてます。ありゃ、まだまだ増えますぜ」

 オオスバメは、空の端を羽で指す。城下町から見上げた空の大部分は、アンヤの「本体」と一緒に現れた暗闇の雲に覆われている。ホタルたちは、その雲の中で戦っているのだろう。そして、オオスバメの羽が指す先……暗闇の雲の外側には、雲を囲むように四方八方から、無数の鳥ポケモンたちが集まってきている。

「すごい数……二百人のラティのみなさんも、圧巻でございましたが……」
「その倍はあるぜ、あの大群は……」
 アルトマーレのポケモンたちの団結力を目の当たりにし、二人とも呆気にとられる。

「ただ……アンヤの破壊光線はマジでヤバかったからな。あのポケモンたちも、どんどん叩き落とされちまう」
「落下の危険性は、わたくしたちが身をもって存じております。何か打つ手が、欲しいところでございますわね」
「お前の『氷の丘』的なやつを、ここの連中にさせよーぜ」
「たくさん集まってらっしゃるみなさんのお力を借りるのですね。『応用』の要点さえお伝えすれば、あとはみなさまそれぞれの技で『氷の丘』を再現していただけるでしょう」
「だったら、ここの連中を一ヶ所に集めて、お勉強の時間をしなくちゃいけねーな」
「空の上では、みなさんがわたくしたちのことを心配なさっているでしょう。できるだけ手短に済ませて、上に帰りますわよ」
「じゃ、お勉強会の場所だけど……やっぱりいるな。ポケモンをもっと集めてくれてる連中が」
 グレンは、視界の先の広場に、ポケモンたちがさらに集まっているのを見つける。

「ちょっと、どこへ行かれるのですか!」
「あの広場だ。お前もなるべくたくさんのポケモンを、あそこに集めてくれ!」
「まったく、勝手な行動ばかり……でも、目的はしっかりと見据えていらっしゃるようですし、今回は大目に見て差し上げますわ」

――

 ホタルたちと別れたパオジアンは、その後ディンルーと合流し、引き続きアルトマーレの城下町を破壊していた。しかし気が付くと、多くのアルトマーレのポケモンたちが、パオジアンとディンルーの二人を取り囲んでいる。
「何なのだコイツらは。揃って人間の味方をするというのか」
「さすがにこの数が相手じゃあ、僕たちもちょっと骨が折れるね」

「おいおいどうした? 街をぶっ壊すって、粋がってなかったけー?」
 群がるポケモンたちの合間を縫って、グレンが姿を現す。
「貴様は……あのときの、破廉恥キュウコン!」
「そうだ、昨日お前を張っ倒したキュウコンだ。あんとき、アタシは『街を壊すのを三日待て』って言ったはずなんだが、なんだこのザマは。ケンカの流儀、もっかいその臭い口に叩き込んでやろーか?」
「ワシは、街の破壊には手を出しておらん。降りかかる火の粉を払っているだけだ」
「そう……僕がいくらそそのかしても、ディンルーは律儀にキミとの約束を守っていたよ。代わりに今度は、僕と約束してくれないか。ゆっくりお茶の約束でも……美しいお嬢さん」
「わりーが、アタシはそーゆーの困ってねーんだ。おめーがもう一人のアレだな……パ……パなんとか!」
「パオジアンだ。キミのことは伺っているよ、グレン嬢。ディンルーに勝つなんて、すごいじゃないか」

「気をつけろ。この女、バトル中にフォルムチェンジするぞ」
 パオジアンはディンルーに向かって頷く。
「しかし、いくらキミが姑息な手を使っても、二対一なら流石に勝ち目がないんじゃないかな?」
「二対一だと……」
「貴様は『卑怯は礼儀』と言っていたな。ではワシらも、その礼儀を尽くそうではないか」
 ディンルーとパオジアンは、じりじりとグレンに歩み寄る。

「おめーら二人揃ってバカだな。アタシにはハナもいるし、それに、頭の上で起こってたの見てたろ? あそこで戦ってる二百人のラティアスラティオスが、アタシの後ろについてるんだぜ。二対一じゃなくて二対二百だ」
「なるほど。上で起こってるアレは、キミたちキュウコンの計画というわけか。ただの『ライコウの威を借るクスネ』ではなさそうだね」
「ああ、こっちは察しがよくて助かるぜ。そっちの口臭くちくさ野郎は、口臭帽子のせいで上も見れねーだろーからな」
「おのれ、どこまでも侮辱しおって」

「そっちのパなんとかも……って、よく見たらお前その口、大丈夫か⁉︎」
 パオジアンの口から伸びている牙が、痛々しく見える。
「なんかブッ刺さってんぞ!」
「これはこういうお洒落……」
「あーわかった、お前は口グサ野郎だな。口くさと口グサ……なるほどそういう二人組なわけか。あーなるほどね」
「こういうヤツだ。コイツの調子に惑わされるな」

「あと、すまん。二対二百じゃなかったわ。もっと絶望してくれ」
「そうやって、また口から出まかせを言っても無駄だ」
「忘れたのか? 周り見てみろよ」
 パオジアンとディンルーを囲んでいたポケモンの数が、ますます増えている。皆、今にも襲い掛からんとする形相だ。
「アイツらもこの街の住人らしいぜ。この街は人間だけのものじゃなくて、アイツらのものでもあるってわけだ。それでも街をぶっ壊すっつーんだったら、どうなっちまうかなー?」

「これはさすがに分が悪すぎる。僕たちの負けだ」
「くっ……一度ならず二度までも。なんたる屈辱」
「つまんねー意地張ってんじゃねーよ。始めからアタシたちは、敵じゃねーだろーがよ」
うなだれる二人に、グレンはそっと近づく。

「ラティの王様が言ってたんだけどな、アンヤを呼び出した犯人の人間、もうこの島にはいねーんだってさ。船でどっかに逃げちまったんだと。だから、いくらこの街を壊したって、犯人は痛くも痒くもねーし、復讐なんかにもならねー」
「やっぱり……そうなんだね」
「で、とりあえず今は、上にいるアンヤを倒すために、うちの『考える担当』ががんばって仕切ってるってわけだ」
「あのいけ好かないキュウコンが中心になって、動いてるのか」
「だから、お前らがこれ以上街を壊す意味はねー。大人しくアタシたちに協力しろ。いいな?」
「どっちみち、僕たちに拒否権はないんでしょ」
 諦め顔のパオジアンに、グレンは満面の笑みで応える。

「よーし話はついた。上の連中も早く安心させてやりてーし、さっさと進めっか。ハナも集めてくれてっけど、アタシからももう一声な。『ゆめうつし』がねーから、全力で張り上げねーと……」
「貴様、何をするつもりだ?」
「空まで届く『おたけび』だ」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す

Comment
 「わざ」の名前の表記は、ゲーム本編にならって仮名を原則としています。ただし、アンヤの竜星群と破壊光線については、一般の技の範疇を超える「異質なモノ」として敢えて漢字表記にしています。

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 第二十八話 半ではなくて全ですね

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十六話 食ってるもんが違うんだろな


第二十六話 食ってるもんが違うんだろな

「「「一惑星完全燃焼! ファイヤードリル!」」」
「エタアアアアア!」
 グレンとイーユイの「炎の槍」を喰らい、アンヤはひと際大きな咆哮を上げる。

「やっぱ、必殺技の名前があると、火力も上がるな!」
「名前を考えたのはオレだからな、感謝しろよ!」
「名前を決めよーっつったのはアタシだからな、アタシにも感謝しろよ!」
「二人ともありがとー!」
「「「いぇーい!」」」

 さらに、周りのラティたちの「りゅうせいぐん」や「りゅうのはどう」が、アンヤの中心部に次々と命中していく。
「エダアアアアアアアア」
 これまでにない、断末魔のような不気味な叫びが、ひとしきり続く。
「やったか⁉」

 まだ日没には早いにも関わらず、辺りが俄かに暗くなっていく。アンヤから滲み出てきた暗雲に、覆われつつあるのだ。重く不気味な空気に気圧されて、ラティたちの攻撃も、グレンやイーユイの手さえも、止まる。

「おててだ……」
 アンヤの中心部からヌズヌズと生えてきた「本体」を、ラテアはそう形容した。

――

「さあ、竜星群殴り込み艦隊!」
「こっからが本番……」
 グレンに合わせてイーユイが叫ぼうとした瞬間、アンヤの一本の指先が赤紫色に光る。そして、極太の破壊光線が、グレンとラテアのいる場所を襲った。

「くそっ!」
 グレンは全体重をかけてラテアの背中を蹴り、右へ跳ぶ。その反動でラテアは左……破壊光線の射線の外へと押し出される。
「「キャアアアアア!」」
 ラテアを庇ったグレンが、破壊光線の直撃を受けて弾き飛ばされる。ラテアも直撃こそ免れたものの、衝撃の余波で気を失い、グレンと一緒に落下してしまう。地上にはアルトマーレの城が小さく見える。この高さから落ちたら、ひとたまりもない。

「マジかよ!」
 ラテアはどうにか自力で飛んでくれ……そう祈りながら、イーユイは必死にグレンを追う。
「届かん……くそおおおお!」
 しかしイーユイの速度では、グレンの落下の加速に追いつけない。

「かわいいいいいラテアアアアア!」
 落下するラテアを拾い上げたのは、ハナを連れてきたラティ王だった。
「ラテアさん、お怪我は大丈夫ですか⁉︎」
「パパ……おばさん……」
「パパはグレンちゃんを追う! 一人で飛べるか?」
 ラティの速さなら、落下するグレンにまだ追いつける。
「私……ダメ……」
 衝撃でラテアが受けた傷は深く、自力で飛ぶことができない。
「そんな……グレンさん……」
「誰かおらんのか!」

でんこうせっか!」
 ふいに、ラティ王の体がガクンと「上に」あがった。意図せず背中が軽くなった反動だ。

 絶望に暮れるイーユイの脇を、琥珀色の何かが通り抜ける。この場で琥珀色といえばキュウコンしかないが、ホタルは色違いで青みがかった毛色のはず。別のキュウコン……ハナだ。
「おいおい……アイツ、なにお迎えに行ってんだよ……」

――

「認めましょう。グレンさんが恋敵でいらっしゃると。そしてわたくしの勝ち目が、薄氷のように薄いことを。しかしながら、みすみす救える命を、失わせるわけには参りません」

 ハナは、さらに「でんこうせっか」で加速する。グレンに追いつくまでの速さは、どうにか確保できそうだ。

「『王こそ前へ出よ』……ラティ王国のお言葉の『王』にわたくしが含まれるかは存じませんが、グレンさんを庶民とお呼びする以上、わたくしにも前へ出る責務がございましょう」

 しっぽをえいえいっと小刻みに振る。炎キュウコンの姿が光に包まれ、氷キュウコンへと「衣替え」した。

「お父様は、様々な技の『応用』を、わたくしにお教えになった。殊に、汎用性が高いエスパー技と、様々な物を形作れる氷技を中心に。おそらく、わたくしを暗殺者や密偵として利用するためだったのでしょう。しかしながら、これからは……わたくし自身が、わたくしの意志で、利用させていただきますわ!」

――

「あーあ……ヘタこいちまったな」

 まっすぐ落下しながら、グレンは天を仰ぐ。
「あんな速攻で、第二段階の破壊光線が来るかー。アタシとしたことが、油断した」

 上空のラティたちが小さく見える。竜星群と破壊光線に、苦戦しているようだ。
「あのアンヤとのケンカで死ぬ……それもアリか。今までじゅーぶん楽しかったし」

 破壊光線の傷は、それほど問題ではない。しかし、落下を止める手段がない。
「ラテアには、悪いことしたな。自分が殺したとか思わんでほしい」

 目を閉じると、残していったものが、走馬灯のように思い起こされる。
番長連合のみんな……は、まあアタシがいなくても大丈夫だろ」

 おくりび山からの逃走、キンセツ学園のつまならい授業とケンカの日々、そしてそこへ訪れたアルトマーレへの招待。
「『だきしめる』したホタル……いい匂いだった。いいとこのおぼっちゃんは、食ってるもんが違うんだろな」

 そのとき、冷たい何かが、グレンの横を通り過ぎていった。
「さっむ!」

――

「こなゆき! フリドラ!」
 落下するグレンを追い越したハナは、無数の「こなゆき」と「フリーズドライ」を、地表に向かって放つ。交互に折り重なった雪と氷は、瞬く間に、キョダイダストダスのような「氷の丘」を形造った。

「すぅーっ……ふぶき!」
 ハナはさらに、真下の「氷の丘」に向かって、渾身の「ふぶき」を放つ。逆噴射の作用で、ハナの落下速度が緩まる。そして幾層にも重なった「氷の丘」が、緩衝材となってハナの体を受け止めた。超高度からの着地に、成功したのだ。

 休む間もなく、ハナは必死に技を打ち続ける。
「こなゆき! フリドラ! こなゆき! フリドラ!」
 尋常ならざる連続技で、グレンが落下してくるであろう地点に、二つ目の巨大な「氷の丘」が出来上がる。
「これで止まって……ふぶき!」
 すぐそこまで落ちてきているグレンに向かって、さらに「ふぶき」を放つ。猛烈な風雪は、グレンの体を雪で包み込むと同時に、上空に向かって煽り上げた。

「受け身っ!」
 そう叫ぶハナの声を耳にしたグレンは、「氷の丘」に接触する直前で、その身を翻す。無数に重なった雪と氷の層が、激しい音を立てながら、グレンの体を受け止める。

「いってえええええ! 死ぬほどいてえええええ!」

 グレンは、激痛に身悶えながら、全身で息をしているハナと目が合う。ハナも、相当体力を消耗しているようだ。

「ハナ……お前マジか……」
「はぁ……はぁ……あなたって人は……」
「ありが……」
 ペシン。ハナのしっぽが、グレンの顔をはたく。
「早々に……諦めていらっしゃいましたよね!」
「いってーな……お前と違って、アタシはいろいろ喰らってんだよ……」
「そうです! あなたのお体を案じる方が、あなたを大切に思われている方が、いらっしゃいるでしょう! それなのに、どうしてあんな腑抜けた顔で、目までつむって、お命をお捨てになろうとされていたのですか!」

「んなこと言ってもな……技の反動で助かるーみたいな話はあっけど、あの高さだったら、どう足掻いてもムリだろーよ。あんな氷の塊で助かるとか、しらねーし」
 ハナは、少しずつ呼吸を整える。
「レベルを上げて物理で殴るのが精一杯のグレンさんでは……その程度のお考えが……関の山でございましょう……」
「はいはい、すみませんね」

「それに……あれはただの氷の塊ではございません。氷の『層』があったからこそ、助かったのですよ」
「そ、そう……だよなーあはは」
「硬い氷では落下の衝撃を吸収できませんし、柔らかい氷では強度が足りません。なので硬い層と柔らかい層を交互に繰り返し重ねることで、このように高いところから飛び降りても、生き延びることができるのです」
「高いところから飛び降りるとか、アギルダーゲッコウガじゃねーんだし、そうそうねーってば。それに、あんな一瞬で繰り返し……重ねる……みたいなやつ? よくできたもんだな」

「はぁ……アルトマーレへの航海中にお話しした『早業九連はやわざきゅうれん』、やっぱり聞いていらっしゃらなかったのですね」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す Update!

Comment
 アンヤ「本体」のビジュアルは「ムゲンダイナ(ムゲンダイマックス)」と酷似しています。あと、英語で「fire drill」は「消防訓練」という意味らしいです。必殺技の名前的に、最高にダサくて好きです。

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 第二十七話 早業九連

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十五話 王こそ前へ出よ


第二十五話 王こそ前へ出よ

 チオンジェンとレベッカに同行してアンヤから遠ざかっていたハナだったが、今は二人と別れ、ラティアスの背中に乗っていた。

「お背中を拝借するご無礼をお許しください。まさか、ラティ王国の王妃にあらせられるラテス様が、直々にお迎えにいらっしゃるとは、思ってもおりませんでした」
「いえいえ、お気になさらず。私が望んで買って出た役ですので」
 ラテスは、アルトマーレの城の西……作戦本部のある丘へと、一直線に向かう。

「ハナさんのお国だと、王族の者がこのように率先して行動するのは、不思議に見えるものですか?」
「おくりび山でしたら、このような際は、警察部か執行部のキュウコンがお伺いしますね。王族の方が直接動かれることは、まずございません」
「そうなんですね。我が国には、『王こそ前へ出よ』という言葉があるんですよ。高い地位にある者こそ、こうした非常時には、矢面に立って動くのです」
「高い地位の方ほど……でございますか」
「私たちは普段、国民のみなさんのおかげで、贅沢な暮らしをさせてもらっています。その平時の恩を返すために、いざというときには、危険を冒してでも前へ出るのです」
「思い返してみますと……最初にアンヤが現れ、竜星群が降り始めたとき。ラテア様とラテオ様は、お迷いなるご様子もなく真っ先に、アンヤの元へ飛んで行かれました。きっと、『王こそ前へ出よ』を実践されていたのですね」
「あの子たちがそんなことを……子どもはいつの間にか、大きくなっているものですね」

「ラテス様、あの『だいもんじ』は……?」
 上空に、炎で「大」の文字が描かれているのに気付く。
「あれは、作戦の開始を告げる狼煙……アンヤへの総攻撃が始まったようですね」
「ラティ王国のみなさんによる一斉攻撃。ホタル様が前線で指揮を取っていらっしゃる……というお話でしたね」
「はい。建前はイーユイさんという方が指揮官だそうですが、実際はホタルさんが中心でしょう」
「イーユイ様……パオジアン様やチオン様のお仲間とも、合流されたようですね」

「ハナさんは、ラテザエモンが待つ作戦本部まで、お送りしますので」
「ラテ……ザエモン? えっ、ザエモン?」
 ハナは思わず、二度聞きしてしまう。
「あ……いえ、もしよろしければわたくしも前線に出させていただいて……」
 戸惑っている間に、ラテスは作戦本部に着陸してしまった。

「ご紹介します。こちらが、夫のラテザエモンです」
「初めまして。ラティ王国国王のラテザエモンだ。この作戦の作戦本部長……ということになっている」
「初めまして。わたくしは、おくりび山王国副王の娘ハナと申します。国王様にお会いできまして、光栄至極にございます」
「戦時だからな。堅苦しい挨拶は抜きで、大丈夫だよ」
「承知いたしました。お気遣い、恐れ入ります」

「で……ラテスちゃんが帰ってくるの、ずっと待ってたんだよー」
「はいはい。ラテザエモンも、さっさと前線に行きたかったんだよね」
 ラティ王の様子が急に家庭内のそれに変わり、ハナは戸惑いを隠せない。一方、周りにいる護衛のラティたちは、「いつものこと」と特に気にする様子もない。

「ここで待ってなきゃダメだって、ホタル君が言うから……」
「お偉いさんにしかできない仕事もあるから、仕方ないでしょ。勝ったよーっていう宣言とか、マズいときの逃げるよーっていう判断とか」
「そういうのは、ラテスちゃんに任せた。『王こそ前へ出よ』だし、私が前に出れば、もっとみんなの士気が上がると思うんだ」
「本音は?」
「かわいい子どもたちの側に居たい!」
 ラティ王は恥ずかしげもなく、元気よく言い放つ。
「素直でよろしい。じゃあ行っておいで……って、そういえば、ハナさんも前線に行きたいんでしたっけ?」
「一緒に行きますか、竜星群殴り込み艦隊へ」

「え。何なのでしょうか、そのダサ……個性的なお名前は」
「ハナさん、はっきり仰っていいですよ」
 ラテスは、ラテザエモンに問いただす。
「そんな勢いだけで考えたような素っ頓狂な名前、私がハナさんを迎えに出発したときは、決まって無かったはずだけど?」
「決起集会の直前に提案されたんだ。ホウエン地方の天下分け目の戦で勝利を収めた作戦にあやかって、縁起がいい名前だって言ってたよ」
「殴り込みなどという乱暴なお名前、おくりび山でも伺ったことがございません。『天下分け目の戦』と仰るのも、どうせグレンさんのケンカのお話でございましょう」
「そうそう。そのグレンちゃんっていう子、なんかすごかった。ホタル君以上にどんどん作戦の案が出てくるのもびっくりだったけど、決起集会のグレンちゃんのスワンナの一声で、みんなの士気がぐぐーんと上がったからね」
「アレは……おくりび山のキュウコンの恥だとばかり思っておりましたが、みなさんのお役に立っているようで喜ばしい限りです。もしご入用でしたら、このままラティ王国で召し上げていただいても構いませんが……」
「あらあら、ハナさんの恋敵ってところかしら。でも、嫌な女を演じるよりも、直接王子様に会って点数を稼ぐ方が、よろしいのでは?」
「はっ……大変失礼なお話をしてしまい、申し訳ございません」
「気にしない気にしない。私だって似たような経験、山ほどあるから。ほら、ラテザエモンもさっさと準備して、ハナさんを乗せてってあげなさい。怪我でもさせたら、承知しないからね」
「うん、わかった!」

――

 アンヤの渦の下で、イーユイと大勢のラティたちが激しい空中戦を展開している。グレンはラテア、ホタルはラテオの背中に乗り、イーユイと共に竜星群の合間をすり抜けるように飛び回っていた。

「ラテア、右から攻めるぞ!」
「うん、わかった!」
 背中のグレンの指示に従って、ラテアは降ってくる竜星群の右手に回り込みながら、アンヤとの距離を縮める。

「ねっぷう!」
「かーらーのー、かえんほうしゃ!」

 イーユイの放った「かえんほうしゃ」が、グレンの「ねっぷう」を纏い、激しく輝く一本の炎の槍となって、アンヤの中心部に直撃する。
「エタアアアアア!」
 攻撃が効いているのか、アンヤの咆哮が響く。

「イーユイ、やるじゃねーか」
「この合体技イイな。ガンガンいこうぜ!」
「バンチョーさんも、イーユイさんも、かっこいい!」
「お姫さまのお墨付きもらったぜ。いぇーい!」
「ラテアもいぇーい!」
「いぇーい!」

「ぼくたちは、たたかわなくていいんですか?」
「ああ、このまま大人しく見回ろう。もともと攻撃は、ラティのみんなに任せる作戦だからな。私たちは、全体を見渡して、困ってる班がいないか気を付けるのが役割だ」
「でもおねーちゃんたちは……」
「グレンたちも同じ見回り役のはずなんだが……まあ二人がああなるのは、最初から織り込み済みだ」

「あっ……あっちの『ひかりのかべ』よわってない?」
「ほんとだ、偉いぞ。やっぱり二人分の目があると助かる」
「えへへー」
「あっちに移動して、ラテオも壁を頼む」
「うん、わかった!」
 ラテオはアンヤの西側に、大きく弧を描いて旋回する。

「西壁、大丈夫か?」
「ホタルさん、西壁の班長です! 補佐まで負傷者が出ていて、壁張りが追いつきません!」
「補佐が救援の『ゆめうつし』を出す余裕もないということか」
 西の部隊は、アンヤから降り注ぐ竜星群を避けるのが精一杯で、攻めあぐねている。ラテオも加わって「ひかりのかべ」を張るが、それでも予断を許さない。
「火力から三人、壁に回ってくれ。西は火力を十から七に減らす。西補佐の班長はいるか!」
「私です! 補佐の人数も増やせませんか?」
「南は余力があるから、そっちから西へ人員を呼んでくる。あと二分持たせてくれ」
「助かります。みんな、あと二分持ち堪えろ!」

「みんな、がんばってー!」
「ラテオきゅんが応援してくれてる!」
「きゃーかわいいー!」
「ラテオ、今度はあっちに急ぐぞ!」
「うん、わかった!」
 ラテオは南へ進路を変えて加速し、一気に南隊へ駆けつける。

「南補佐の班長は、あなたでしたね」
「ええ、西は大丈夫そうですか?」
「かなり厳しい。二人……できれば三人、補佐か壁ができるのを回せないか。あっちには二分で来ると言っている」
「三人出せます。火力にも『いやしのはどう』まで使えるのがいますので」
「助かる。戦況は余談を許さない。状況を見て、現場の判断でもっと融通してもらって構わない」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ

Comment
 ラティ一家のネーミングがネタ切れして、パパの名前はテキトーになりました。あと、「王こそ前へ出よ」は、一般的な西洋貴族の文化にあった「ノブレス・オブリージュ」そのまんまです。

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 第二十六話 食ってるもんが違うんだろな

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十四話 竜星群殴り込み艦隊


第二十四話 竜星群殴り込み艦隊

「アンヤを撃退すれば、アルトマーレを襲う竜星群の脅威は去ります。そして撃退の条件は、ここからも見えるあの黒い渦の中心に総攻撃をしかけ、さらに『本体』を引き摺り出して一斉に叩くことです。アンヤは黒い渦の形をしていますが、渦の中心に一定以上の損傷を与えると、その中心から巨大なカメテテのような五本の指を持った『本体』が現れます。『本体』からは竜星群とあわせて破壊光線も放たれますので、それらを掻い潜って攻撃を続け、五本の指全てを破壊すれば撃退成功です」

 イーユイが捕捉する。
「昔ガラルにアンヤが現れたときは、ガラルの伝説のわんこたちが同じ流れで倒してた。オレたちの仲間がしっかりと見てきた情報だから、間違いない」
「これだけのみなさんに集まっていただいたのです。我々であれば、伝説ポケモンの力を借りずとも、勝利を勝ち取ることができるでしょう!」
 ラティたちから、一気に歓声が上がる。
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」

――

「お前の彼氏、持ち上げんの上手いな」
 出番を終えたイーユイが、脇で待機しているグレンを茶化す。
「あんなん、彼氏のうちに入んねーよ」
 ホタルは作戦の説明を続けている。

 続いて、班分けについてご説明します。事前にお話ししたとおり、みなさんを大きく東西南北の四隊に分け、その四隊それぞれの中でさらに火力班三つ、壁班二つ、補佐班一つに分けさせていただきました。
 火力班のみなさんは、第一班から主力技で攻撃していただきます。負傷したり、ご自身の「りゅうせいぐん」でとくこうが下がった方は、すぐさま後退して下さい。そして、後続の第二班・第三班が矢継ぎ早に攻撃します。後退は班単位ではなく、お一人お一人個別に判断して下がって構いません。各方位ごとに常に十人ほどが攻撃し続けるのが理想です。そのため、第二班・第三班の方は、視界内で誰かが後退したら、または全体を見て攻撃している人数が十人よりも少ないと感じたら、積極的に前へ出てください。
 なお、攻撃技ですが、「ラスターパージ」のとくぼう下降や、「ミストボール」のとくこう下降の効果はあまり見込めません。アンヤは自身の竜星群によるとくこう下降を無視していることから、何かしらの特性が働いている可能性が高いためです。そこで、こちらからも「りゅうせいぐん」で攻めるのを推奨します。数の利を活かし三班制で常に交代できますので、とくこう下降は恐れずに、常に最大火力を押し付けましょう。

ホウエンから、キュウコン三人で来てるんだってな。もう一人はどうした?」
「ハナは、チオンと一緒に北へ……アンヤから遠ざかってる。ただこの作戦が決まってから、ハナだけラティに拾ってもらって、今からこっちに来るんだと」

 続いて壁班のみなさんですが、「ひかりのかべ」を常に広域展開し、他のみなさんや、アルトマーレの街への被害を軽減します。アンヤの竜星群に対して壁が機能するのは、初期対応で奮闘いただいたラテオ様のご活躍により、実証されております。こちらも二班ありますので、負傷した場合は個別に速やかに後退してください。第二班の方は、常に壁の状況を注視し、綻びがあれば率先して補強に回ってください。
 壁を維持する優先度は、一に自分自身、二に味方、三にアルトマーレの街です。アンヤの体力が未知数ということもあり、街を守りながら戦うほどの余裕は、残念ながらありません。多少の街の被害はやむを得ないと、お考えください。

「そのハナってやつだけこっちに来るんなら、チオはそのまま北へ向かうんだな。走るのむっちゃ遅いけど」
「チオンってヤツは、レベッカ……うちのクレベースに乗って移動してる。万が一アンヤを倒せなくても、逃げ切って竜星群を止めるらしい」

 班分けの最後は、補佐班です。補佐班のみなさんは、負傷された方の回復と、戦況に大きな変化があったときの「ゆめうつし」の発信、加えて手が空いた場合は火力班への「てだすけ」をお願いします。なお、「ゆめうつし」の受信は各班の班長のみとし、班長の方は班員のみなさんに口頭で連絡事項をお伝えください。「ゆめうつし」と口頭とで連絡を繋ぐことで、視界が制限される「ゆめうつし」中の隙を最小限に抑えます。さらに隙を補うため、各班の班長には「みがわり」を推奨します。

「『りゅうせいぐん』に『ひかりのかべ』に『てだすけ』か……アイツら器用で羨ましいぜ」
「アタシら『てだすけ』ってガラじゃねーだろ」

 そして、この三種類の班とは別に、指揮班というものを設けます。これは指揮官であるイーユイさん、参謀である私ホタル、そしてキュウコンのグレンで構成される特別な班です。数人の専属補佐班と共に前線を巡回し、適宜指示を出させていただきます。そしてなにより……ラテア様とラテオ様も、この指揮班にご助力いただくことになりました。

 ラテアとラテオの参戦に、再び怒涛の歓声が上がる。
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」

「こいつらうっせ。しかも、あんなガキどもが最前線って、正気かよ?」
「ラテアとラテオから『前に出たい』っつったんだと。最初にアンヤが暴れ始めたときも、迷わず真っ先に飛び出したし、アイツらイイ根性してるぜ」
「それを買って、あの親バカ王様も許可したってことか。ラティたちって臆病とか控えめなやつが多いかと思ってたけど、けっこう肝座ってるんだな」

「私もがんばって応援するから、恩返しいっしょによろしくー!」
「じっじさーん、ばっばさーん、ありがとー!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」

「そういや、あの二人は『歌がうまくてライブハイシンで人気』だって、サメハダーが言ってたな」
「前線に出りゃ士気も上がるってか。この短時間で、よくこんな噛み合った作戦を考えたもんだ」

 なお、今回東西南北の四隊に分けてはいますが、常に混戦が予想されます。隊の横断も躊躇なく行なってください。例えば、「東隊の壁班が負傷して引き、南隊の壁班が交代する」といったように、臨機応変に動いていただいて構いません。では、作戦の説明は以上です……

「お、そろそろ終わるな。じゃアタシも……」
「どこ行くんだ? 打ち合わせに、アンタの出番はなかっただろ」
「ただの景気付けだ。親バカ王様には、話つけてる」

 今からみなさんは、所定の持ち場へ移動してください。四方の部隊の移動と準備が完了次第、私が打ち上げる「だいもんじ」を合図に、一斉に作戦を開始します。次の竜星群が降り始めるまでまだ時間に余裕がありますが、こちらから攻撃を始めれば、時を待たずに反撃してくるのは必至です。気を抜かずに、作戦に臨みましょう。ここまでご清聴いただき、ありがとうござ……

「おい、てめーら!」
 ホタルが締めくくろうとした壇上に、グレンが強引に割り込む。突然の大声に対応しきれず、中継の「ゆめうつし」にキーンという雑音が入る。
「アタシは、ホウエン番長連合総代グレンだ!」
思わぬ乱入に、ラティたちもざわついている。

「この『竜星群殴り込み艦隊』のカチコミ。絶対に、成功させんぞおおお!」
「りゅっ……なんだそのふざけた……」
グレンを止めようとするホタルに、さらにラテアとラテオが割り込む。

「このキュウコンさんは、最強のバンチョーさんなの!」
「りゅーせーぐん! なぐりこみ! かっこいいい!」
「せーのっ」
二人は声を揃えて叫ぶ。
「「竜星群殴り込み艦隊っ、がんばっちゃおおおお!」」

「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「ああ、うちの子かわいい」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 アンヤ撃退作戦の集会 → 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ Update!

Comment
 「殴り込み艦隊」の元ネタは、同名の昭和映画と、アニメ「トップをねらえ!」でそれをオマージュした「銀河中心殴り込み艦隊」です。ポケモンで「艦隊」って……改めて考えたらむちゃくちゃですね。

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 第二十五話 王こそ前へ出よ

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十三話 そっちの二人も黙っててくれ


第二十三話 そっちの二人も黙っててくれ

「あなたの目的は、街を破壊する……ではないんですよね。どういったご用でしょうか?」
ホタルは言葉を一つ一つ選びながら、イーユイの真意を測る。
「そんなに警戒すんなって。まあ、バトル好きっつうのをパオから聞いてんなら、しゃあないけどさ。勝手に個人情報もらすなって感じだよな」

「街壊すんじゃないんなら、ケンカでもしにきたってのか?」
「お、アンタがディンを倒したっていう、変態ヒヒダルマキュウコンか」
ホウエン番長連合総代グレンだ。ダルマとの火力勝負でも負けねえぜ」
「バンチョーさんかっこいい!」
「バンチョーやっちゃえー!」
「だけど、今はお前とケンカしてる場合じゃねえ。大事な大事な、ご休憩の時間だ」
「ああ、これからアンヤを木っ端微塵にするのに、ヘトヘトじゃあ意味ねえからな」
「ということは、あなたがここへ来たのは……」
「もちろん。あの調子こいてるポンコツ神様を、ぶっ倒すために決まってんだろ!」

――

 ホタル・グレン・ラテア・ラテオに、イーユイを加えた五人で、円陣を組む。

「オレの特性『タマオーラ』は、オレ以外の周りみんなのとくぼうを下げる。アンヤの特殊耐久を落とせるから、アンタらも殴るなら特殊技の方がいい」
「私たちキュウコンの『ひでり』と合わせて炎で攻撃すれば、三人全員の火力を底上げできるというわけか」
「ああ、最高にアツい組み合わせだ。ただ、アンタらのとくぼうも下がって、アンヤの竜星群もむちゃくちゃ痛いから、気をつけな」
「『ノーガード』で殴り合うってこったな。おもしれー」
「ただそれでも、オレら三人でアンヤの体力を削りきるのは、ぶっちゃけキツイ。何度もしぶとく叩かなくちゃいけねえから、本気で倒すの考えるんなら、かなりの持久戦は覚悟しねえと」
「そこで、こちらの戦力についてだ。今、ラティアスラティオスの大軍勢が、こちらに向かっているところだ。数はまだよくわからないが……」

「おじさん、連絡つきました!」
「パパたち、もうすぐくるって。ヤッタァー!」
「助かる。『ゆめうつし』で私たちにも繋げるか?」
「ちょ……パパうるさい。今おじさんと話してるから……おじさん、繋ぎますね」

「かわいいラテアあああ! かわいいラテオおおお!」
 ラテアの「ゆめうつし」を通じて、一同の視界全体にラティ王の顔が広がる。
「ほんとにいいい! 元気でえええ! よかったあああ!」

「うっせえな……なんだよこのジジイ」
 イーユイが、グレンにぼやく。
「ラテアとラテオの父ちゃんだって。超がつく親バカなんだと」
「親バカなのは、神速でわかったわ」
「ちなみに、ホタルの母ちゃんも、あれとどっこいな親バカらしいぜ」
「マジか。このイケメンも家に帰ったら『ママー!』とか言って、母ちゃんにワシャワシャ撫で回されるんかな。ウケる」
「まざこんって話は聞いたことねーけど……まだ聞いてねーだけかもな」
「二人とも黙っててくれ」
「ほーい」
「あーい」

「ホタル君、かわいい二人を見つけてくれて、ほんっとうにありがとう。流石はカエンさんのかわいいご子息だ」
「ありがとうございます。母の子かどうかは、関係ありませんが」

「お。イケメン、ツンツンしてんな。そういう年頃か?」
「アタシらが、まざこんとか余計なこと言ったから、機嫌わりーんじゃねーの?」
「おねーちゃん、まざこんってなーに?」
「ママが好きすぎて、他のことがぷーになってる人のことよ。ラテオは、おじさんみたいになっちゃダメだからね」
「うん、わかった。ぼくはママよりおねーちゃんがすきだから、おじさんみたくならない!」
「そっちの二人も黙っててくれ」
「「はーい」」

「アルトマーレの城の上空に浮かんでいる『アンヤ』というポケモンを、ご覧になりましたでしょうか。私たちは、アレを倒したいと考えております。お二人を保護してくださったアルトマーレの人間への、恩返しのためです」
「パルデア地方を壊滅させたアンヤが、アルトマーレでも暴れているようだな。かわいい子どもたちを救ってくれた恩を返すため、アンヤには大人しくなってもらうのも止むを得ないか……しかし……」
「何か、躊躇われることでも、あるのでしょうか?」
「アンヤとその僕の四人のポケモンは、人間の卑劣な行いに巻き込まれた被害者でもある。アンヤたちが人間に対して怒り、人間の街を破壊するのも、ある意味正当なものなのだ。なので本来であれば、我々が手を出すべき問題ではない」
「人間の卑劣な行い……アンヤの竜星群を仕組んだ犯人に、お心当たりがあるんですね」
「アンヤの竜星群を売り物にして、私腹を肥やしている人間たちがいるらしい。船で全国を渡り、意図的に天変地異を起こせる道具として、四人のポケモンを売っているようだ。人智を超えた兵器のように、見えるのだろうな」
「では、その人間を探し出して、四人を入れられるボールを用意させれば、アンヤを止められそうですね。彼らは専用の特別なボールでないと、収まりたくても収まれないようなのです」
「それも一つの手だが……実現は難しいと思っている。その人間たちは、もう既に船で遠くへ逃げている頃だろう。仮に、手分けして彼らを探し出したとしても、その特別なボールというのがすぐに用意できるかどうかも、定かではない」
「では、恩返しとしてアルトマーレを守るのであれば、やはりアンヤを倒すしか……」
「ふむ……」

 決断しかねるラティ王は、「ゆめうつし」に映ったラテオに目を留める。
「かわいいラテオ、そしてかわいいラテア。お前たちはどうしたい?」
「まちがぐちゃぐちゃで、ジッジさんとバッバさんがかわいそう……」
「あの竜星群はやりすぎ。だから、ぶんなぐる!」
「ぶんなぐるか……よし」
「申し訳ございません。不適切な言葉を、私たちが覚えさせてしまったようで」
「気にするな。そして、さすがはかわいい我が子たちだ。恩義に厚いお前たちの思いを、尊重することにしよう」
「と、仰いますと……」
「ああ。今そちらへ向かっている我々全員で……」

「オレらも全員で……」
「くるぞくるぞ……」
 イーユイとグレンが、揃ってうずうずしている。

「アンヤへ、総攻撃を仕掛ける」
「よしきたああああ! やっとアイツをぶっとばせる!」
「ラテア、ラテオ、カチコミいくぜ! いぇーい!」
「「いぇーい!」」

――

 翌朝。アルトマーレの城を東に臨む丘の上。

 ラティ王とともにアルトマーレに駆けつけたラティオスラティアスたちが、整然と並ぶ。その数は、悠に二百を超えている。
「こいつはすっげぇな……」
 その壮観な光景に、イーユイも圧倒されている。

「ラティ王国の皆様、初めまして。この度の作戦で参謀を務めさせていただきます、おくりび山王国王位継承一位ホタルと申します。この肩書きは、あまり好きではありませんが」
 大勢のラティたちの視線を前に、ホタルは臆することなく話を進める。ホタルの立つ壇上は、丘にいる全員に声が届き渡るよう、『ゆめうつし』によって中継されている。

「急拵えの作戦ではありますが、ぜひ一丸となってアルトマーレを守りましょう。ラテア様とラテオ様を救っていただいた人間の皆さんに、恩を返すために!」
 ラテアとラテオの名前を聞くや否や、ラティたちの歓声が一気にあがる。
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」
「うおおおおおお!」

「最初に、指揮系統についてご説明します」
 ホタルは、隣に立つラティ王に視線を向ける。
「まずは、作戦本部長ラティ王。お願い致します」
「ああ、承知した。とは言っても、本部長とは名ばかりであるので、実際の指示は参謀のホタル君と前線の指揮官、および各隊の長に従ってほしい。ただ、私が戦うと決断した以上、全ての責任は私にある。細かいことは気にせず、思う存分に力を尽くしてくれ」

「ありがとうございます。前線の指揮は、この場で唯一アンヤとの実戦経験があるイーユイさんにお願いします。しかしながら、逐次全体に指揮を出せるとは限りません。前線では『ゆめうつし』による連絡は、視界が遮られ大きな隙に繋がるため、非推奨です。重ねて、今回は四方からの全方位作戦です。イーユイさんの指揮が届かない位置にいらっしゃる場合は、各隊の隊長および班長の判断で、積極的に動いていただいて構いません……ということで、よろしいですね?」
「おう。正直オレもどこまで指示が出せるか自信がねえ。いろいろ作戦はあるが『自分の身は自分で守る』で頼む」
「ありがとうございます。では続いて、作戦の目的についてご説明します」

 ホタルは、目の前に広がる重圧を飲み込み、心地よい緊張に変えて言葉に乗せる。
「目的はただ一つ……アンヤを、撃退することです!」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流 Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定 → アンヤ撃退作戦の集会 Update!

Comment
 毎回「ラティアスラティオス」と書くと文字が嵩張ってしまうので、総称して「ラティ」と書くようにしました。結果的に国名も「ラティ王国」となって、おさまりがよかったです。

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 第二十四話 竜星群殴り込み艦隊

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十二話 乙女心がだいばくはつ


第二十二話 乙女心がだいばくはつ

 レベッカは、その背にハナとチオンジェンを乗せて、北へ走り出した。チオンジェンが自力で走っていたときよりも、五倍は速そうだ。

 レベッカたちを見送ったグレンは、ホタルの方を振り向く。地面を深く見つめて、考え事をしているようだ。
「さ、うちらもアンヤをぶっ飛ばすかね。とりあえずは、ラティたちを待つしかねーけど」
「今のうちに作戦を立てようにも、不確定な要素が多すぎるな。ラティ王がどれくらいの人数でいらっしゃるか、そしてアンヤへの攻撃をどう判断されるか」

「じゃあ、作戦の名前でものんびり考えとくか?」
「作戦の……名前?」
ホウエン番長連合ができるときに、天下分け目の大ゲンカがあってさ。『えんとつ山殴り込み艦隊』っつって、みんなで盛り上がったんだ。懐かしーなー」
「せっかくなら、もう少し実用的なことを考えたいな」
「お前、名前のかっこよさナメてんだろ。士気ってのに関わるんだぜ、士気に」
「子どもじゃあるまいし、名前くらいでは変わらないと思うが」

 グレンの足元では、ラテアとラテオがすやすやと眠り続けている。
「コイツらもなかなか起きねーな。さっきまでチオンの近くにいたから、クソダサオーラでまたヘタばっちまったか?」
「ああ、可能性は十分あると思う。それもあって、子どもたちとチオンさんが別行動になるようにしたんだ」

 ホタルは再び、地面と睨めっこを始めた。
「二人がまだ動けないとなると……私だけでも先に城に戻るのは、どうだろうか。街の被害を、なるべく食い止めたい。漁村から城まで運んでくれたオオスバメたちは、そのへんにいないのか?」
「アイツらは帰した。この竜星群でワチャワチャだし、オオスバメも自分たちの家族が心配だろ」
「そうか。彼らもこの竜星群の被害者だからな、当然の配慮だ。私一人で走って城に戻るのも、できなくはないが……」

「なあ、ホタル……」
「なんだ?」
「一生懸命なとこ悪いんだけどさ、少しはサボったらどーだ?」
「ゆっくりはしてられんだろ。そうこうしているうちに、また竜星群が降ってきて街を襲うんだぞ。今のうちに、できる限りの対策を考えておかないと」
「街はもう、切り捨てよーぜ」
「何を言い出すんだ。私には責任がある。ラテアとラテオを保護し、さらに二人の恩を返すために、アルトマーレの街を守るという責任が」
「街を守るっつっても、実際ムリだろ。降ってくる竜星群をアタシたちで弾いたって、街のほんのちょっとしか守れねー。やっぱ、ラティたちを待ってアンヤを倒す、それしか方法はねーって」
「だから、まだ気づけていない良い方法が他にないか、探そうとしているんだ。グレンも力を貸してくれないか」

「ったく、わかっちゃいねーな」
「何かへんなことでも言ったか……あ、わかったぞ。乙女心だな」
「ちげーし。当てずっぽで言ってんじゃねーよ、バーカ」
「そうか、すまない」

「お前、疲れが溜まってんだよ。城に駆けつけたときからずーっと、ギリギリのむずかしー顔してる。でけーケンカに勝とうと一晩中考えて、結局負けて帰ってくる子分と同じ顔だ」
「私たちが、負けるというのか?」
「ああ、そーだ。余計なことにまで手を出してヘタばってちゃ、アンヤをぶっ飛ばすことはできねー。勝ち確に持っていくには、作戦と体力の両方がいるんだよ」
「勝ち確?」
「ここまでくりゃ絶対勝てるぞっていうアレだ。思い出せ、お前の作戦は何だった?」
「作戦……『チオンさんに逃げてもらう』こと。そして、ラティたちの力を借りて『アンヤを倒す』ことだ」
「そうだ。その二つの作戦だけでもう十分だし、みんなもそれに賛成した。だから、それ以上の『街を守る』とかは、いったん忘れろ」
「見殺しにしろと?」
「そーゆー言い方じゃなくてさ……なんつーか……アタシたちだって、なんでもできるわけじゃねーって話だよ。切り捨てるのがしんどいのは、わかるけど」

 互いの意見を交わしながら、ホタルは、自分をひたと見つめるグレンの視線に気付く。威圧や怒気ではない。考えを見守る、親か恩師のような目だ。

「お前……そういう顔もできるんだな」
「あんだって?」
 褒めているのか貶しているのか、グレンには判断がつかなかった。

「わかった。確かにお前の言うとおり、本筋の『アンヤを倒す』に注力するべきだ。ありがとう」
「わかればよろしい。もし責任がどうとか文句言うヤツが出てきたら、アタシがぶっ飛ばしてやっから。今はとりあえず、肩の力抜いて休め」
「うん、そうさせてもらおう」

 グレンの目尻が緩んで見えた……のも束の間、グレンはふいに人の姿に化ける。
 そして、ホタルのすぐ目の前で近づくと、膝をついてかがんだ。
 キュウコンの姿のホタルと、人の姿のグレン。お互いの顔が、同じくらいにの高さになる。

 ホタルの首の後ろに、すっと両手を回す。
「なにを……」
 鼻先すれすれを、グレンの唇が通る。
「している……?」

 グレンは、ホタルをぎゅっと抱きしめた。

「⁉︎」
 ホタルの鼓動が速くなる。
「『だきしめる』っていう人間の技だ」
 しっとりとした吐息が、ホタルの耳を掠める。

「人間の姿なのに、けっこーあったかいだろ?」
「……ああ」
 ホタルの声が、かろうじて漏れ出る。

「両手が使えると、こーゆーのできてイイよな」
 ホタルの耳をたたむように、手のひらでそっと撫で付ける。

「いい子いい子」
 腕に伝わる感触で、ホタルの体から力が抜けていくのがわかる。
 ホタルの静かな呼吸が聞こえる。

――

 抱きしめる腕を緩めると、グレンはゆっくりとその場に座り込む。
 そして、膝の上にホタルの顔を乗せた。

「お前は、よく頑張ってるよ」
 ホタルの額を、揃えた指の腹でそっと撫で付ける。

「おやすみ……」
 もうとっくに、ホタルからの返事はない。

「いろいろ背負わせてスマンな。ツラかったらいつでも言えよ。ハナでも、アタシでもいいから」

――

「なるほど、ああやって男を手玉に取るのね。さすがはバンチョーさん」
「アレ、ぼくもしてほしー!」
 ラテアとラテオの声に、ホタルはハッと我に帰る。
「おおおお前たち、起きてたのか!」
「キャハハハ。なーにあたふたしてんだよ、あんなん誰にだってしてんぜ」
「えっ、そうなのか?」
「さあ、どーだかな?」
「どっちなんだ!」
「そりゃー……乙女心だからなー」
「な、なるほど……なるほど?」
「でも、ハナには絶対に言うなよ。乙女心が『だいばくはつ』して、最悪だからな」
「乙女心というのは『だいばくはつ』が使えるのか……ますますわからん」
「大人は秘密を着飾ってオトナになる……ってやつだ」
「んー?」

「さっ、おじさんは置いといて。ほれほれ、ラテオも『だきしめる』するかー?」
「わーい、にげろー!」
 ラテオと追いかけっこをするグレンを、ホタルはぼーっと眺める。
「いい匂い……したな……」
「におい?」
 ラテアの声に、ホタルは再びハッと我に帰る。

「そ、そろそろ……ラティ王国のみなさんが来てるはずなんだけど、ラテアから『ゆめうつし』で連絡取ったりできるかな?」
「ちょっと探してみますね。そんなに飛ばせるの広くないけど……」
ラテアは目を大きく見開き、「ゆめうつし」の念波を四方に送る。受信してくれるラティたちはまだ近くにいなさそうだが、「ゆめうつし」とは別の違和感を察知した。
「別の、何かが……来てます」

――

「おーい、ラティオース、ラティアース。いるんだろー? だいじょぶかー?」
 城の方角から、知らない声が聞こえてくる。しかし、声の主は見えない。

「なんだアレ。えっらい遠くから声かけてきてんな。ぜんぜん見えねーぞ」
「大丈夫でーす!」
「だいじょーぶー!」
 ラテアとラテオは、二つ返事で応える。
「声の主は二人のことを知っているようだが……何が大丈夫なんだ?」
「わかりません!」
「ぼくもわかんなーい」
「わかんなくて答えたんか!」

「マジかー心配してたんだぜー。じゃあとりあえず、そっちいくからなー」
 声の主はこちらへ近づいてくるようだ。しかし、その姿はやはり見えない。
「姿を消しているのか?」
「いや……もともとちっさくて、見えねーだけみてーだ」

 やがて姿を現したのは、ふよふよと空を飛ぶ「イアのみ」……ではなく、濃い橙色の小さなトサキントのようなポケモンだった。両目の周りには、黒い浮き輪のような輪っかがついている。

「おっすおっす」
「あのときの!」
「このひとだれー?」
「私たちが砂浜に落っこちたときの犯人よ。アンタのせいで、たくさん寝ちゃってタイヘンだったんだからね!」
「マジでごめんって。オレの特性のせいで、フラフラーってなっちゃったんだよな。今は大丈夫みたいだけど」
「ほんとだ。何ともない……なんで?」
「パオやチオとも会ったんだろ。そのうち慣れてくもんだけど……それでも、もう耐性ついてんのか。流石はドラゴンタイプの体力だな」
「ま、まかせてちょーだい!」
「おおきなくちでガオーッと、つよいぞドラゴン!」

 ホタルは、ラテアとラテオを隠すように、イーユイの前に歩み出る。
「あなたは、パオジアンさんのお仲間の方ですね」
「ああ。オレはイーユイだ、よろしくな。アンタらがこのへんにいるって、パオから聞いてきた」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルとグレンがイーユイと出会う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 しっぽさま(グレン)の「だきしめる」いいなあ。

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 第二十三話 そっちの二人も黙っててくれ

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十一話 人の色恋は蜜の味


第二十一話 人の色恋は蜜の味

「あら、乗せてもらえるのなら助かるわ。でも、背中のラティちゃんたちは大丈夫かしら。レベッカさんの背中の広さ的には大丈夫かもしれないし、なんなら私がよっこらせってラティちゃんを抱っこしてあげてもいいんだど、重さ的にね。最近ちょっと間食しすぎちゃって、一日一回までって決めてるんだけど……あらやだ。男の子がいる前でこんな話しちゃって、ごめんなさいね」
「いえいえ、私のことはお気になさらず。この子たちはなかなか起きる様子もないですし、私と一緒にここに残ります」
「えっ、それでは……」
 ホタルの思わぬ提案に、ハナは驚きを隠せない。

「ハナにはすまないが、私とは別行動を頼みたい。レベッカとチオンさんと一緒に、アンヤの圏外まで移動するのを、助けてあげてほしい」
「こ、子どもたちは、どうなさるおつもりですか?」
「ラテアとラテオも私と一緒にここに残り、ラティ王国の応援が来るのを待つ。定期的に空に『だいもんじ』でも打ってれば、見つけてもらえるだろう。竜星群が再開して仮にここまで降ってきたとしても、私とグレンがいれば、子どもたちを守り抜くことくらいはできる」

「グレンさんは……ホタル様と一緒に、こちらにお残りになるのですね」
「おいホタル、アタシがレベッカと……」
「いえ、グレンさんにチオン様をお任せできるわけがございませんので、ホタル様のご判断は当然です。それにレベッカ様も、おくりび山王国にご協力いただいている方。無理を申し上げて来ていただいた中で、ここまで誠実にご助力いただいています。王国の関係者であるホタル様かわたくしがお供をするのが、然るべき礼儀です」
「礼儀ってなんだよ……」

「グレンさんのご提案もありがたいのですが、わたくしはわたくしの『役割』をしっかり果たさせていただきます。グレンさんも、しっかりお願いしますね。子どもたちやホタル様がお怪我をされるようなことがございましたら、あなたも祟って差し上げますから」
「ったく……わーったよ」

「あらあらまあまあ。いいわよ、そういう青春って感じ。人の色恋は蜜の味っていうからね、何杯でもおかわりできちゃう。男の子一人と女の子二人いると、いろいろあったりなかったりするわよね。あ、今はさらにコブちゃんも二人いて、もっとわちゃわちゃしちゃうわ」

――

 寝ているラテアとラテオを起こさないようそっと下ろし、代わりにチオンジェンがレベッカの背中に乗る。

レベッカさん、足がお速いのよね。こんなに大きなお体なのに、羨ましいわ。この竜星群お散歩、何度かしてるんだけどね。私ぜんぜん走るの速くならなくて、コツとか教えてもらえたら嬉しいわ。あ、また長話しちゃってる。空気読めなくて、ほんとごめんなさいね。急いでるんだから、早く出発した方がいいわよね」
「いえ……出発の前に、一つだけ伺いたいことがあります」
「はいはい、なんでも聞いてちょうだい。ホタルちゃんの質問なら、昔の男以外ならなんでも答えちゃうわ。昔っていっても、キュウコンさんほどは長生きしてないから、チオンジェン感覚での『昔』ね。何年くらい前なら『昔』って言うのかしら。私って最近はずっとボールに入ってたから、あんまし時間の感覚がね」

「伺いたいのは、そのボールについてです。ディンルーの話だと、みなさん四人がモンスターボールから出されることで、アンヤが召喚されるんですよね。それなら、誰かお一人がボールに入っていただくだけで、アンヤを止めれないのでしょうか? わざわざ遠くまで移動する時間も手間も、省けると思うのですが」
「それができればほんといいんだけど……普通のモンスターボールだとね、私たちは収まらないのよ。そのボールを投げる人がちゃんと信頼のおける人で、私自身が『ボールに入りたい』と思ってたとしても、なんでか飛び出ちゃうのよね。私たちの特性と相性が悪いのかしら。私たちをゲットしてた悪い人たちは、特別な赤いボールを使ってたみたいだけど」
「その特別なボールを、今から手にいれるのは……さすがに現実的ではなさそうですね。犯人の人間を、この混乱の中で探し出すのは難しそうですし」
「ホタルちゃんの言うとおり、そのボールがあればもっと早く解決できそうなんだけどね。普通にレベッカさんに走ってもらったとしても、何日もかかっちゃうでしょうし。その間に、竜星群が降り続けちゃって、人間さんの街もどんどん酷いことになっちゃうのは、やっぱりあんまり見たくないわよね」

「なあ、チオンさんよ。アタシらであのアンヤってのをぶっ倒すのは、やっぱダメなのか? パオッサンってやつの話だと、『アレ倒すと処刑される』っつーんだろ。アンタたちは手を出さず、アタシらだけでアンヤを倒したら、どうなるんだ?」
「私たちが攻撃するわけじゃないから、まず『処刑』みたいなのは誰もされないわ。だから、アンヤさんを倒してくれるんだったら御の字よ。それでもしばらくしたら復活するみたいだから、長い目でみたら一時凌ぎな感じにはなっちゃうけどね。それに……そもそも、何人かで囲んで棒で叩いて倒せるような、ヤワな相手じゃないわ。腕に自信があるみんなでも、さすがに難しいんじゃないかしら」
「仮に一時凌ぎだったとしても、アンヤを倒して、この竜星群を終わらせる意味は大きいですね。アルトマーレを守ることには、変わりありませんから」

「囲んで叩く……か」

「どうせグレンさんは、ケンカをされたいだけ……」
 ハナは、グレンが珍しく真剣な表情をしているのに気付く。
「……ではないようですわね」
 その表情には、つい最近見覚えがあった。ホタルが「めいそう」をしているときの顔と、とてもよく似ている。ただのガサツで乱暴なキュウコンの顔ではない。今のホウエン地方の在り方に一石を投じている、番長連合総代の顔だ。

「何かお考えがあるようですが……話しかけてもよろしいでしょうか?」
「ん? なに気い遣ってんだよ、気持ちわり。アタシなりの『役割』を果たそうって考えてたんだ。まあ、ケンカはケンカだけど」
「アンヤを倒す策が、何かあるのか?」
 ホタルも、グレンの考えに興味を示す。

「もうすぐラティたちが来るっつってたよな。しかも、王様直々っつーんだから、数人どころの数じゃねーだろ」
「お子さんの溺愛っぷりは凄まじいらしいから、数十か……それ以上になるかもしれん」
「もともと火力があるラティたちだ。そんだけの数がいれば、アンヤに勝てるんじゃねーか?」
「ラティ王国の火力に頼るということか。なるほど、それは一理ある。ラティ王とも相談することにはなるが、ぜひ検討しよう」

「大勢でアンヤさんに挑戦しようっていうの、すっごくおもしろいわね。今までこういうときって、他のポケモンさんはみんな、竜星群に怖がって逃げ出しちゃうのよ。誰かが協力してくれるなんて、初めてだわ。みんなの恐れ知らずの団結力、全力で応援しちゃう」
「ただ、敵の強さがまだわかんねー。ちゃんとあっちの戦力や戦法を把握して、勝てる準備しっかりしてから、カチコミすんぞ」

「グレンさんの『役割』、楽しみにしておりますわ」
「ああ、そっちはそっちでがんばれよ」

「では、そろそろ出発しよう。まず、チオンさんにアンヤ圏外まで逃れてもらうの基本とし、できることならラティたちの力を借りてアンヤを倒す。この二面作戦で、難局を乗り切るぞ」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがチオンジェンと出会う
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
チオンジェンがボールに収まらないのは……当時のボールは性能が低く、一部の伝説系のポケモンは収めることができない……という想定です。

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 第二十二話 乙女心がだいばくはつ