ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 最終話 世界の平和はおっきすぎて


最終話 世界の平和はおっきすぎて

 ジョウト地方の南東にある島国アルトマーレ。その南の沖合に、二十人は乗れそうな大きな船が浮かんでいる。甲板にポケモンを封印するための資材が並んでいるが、今回は出番がなかったようだ。整った身なりをした人間が二人、船の手すりにもたれかかりながら、満足げに島の方を眺めている。

「終わってみれば、今回の商売も大成功でしたね」
「まさか最後に、他の王位継承者が契約書を買い取りに現れるなんて、棚からイモモチでした。でも、契約書を売ってしまって、大丈夫だったんですか。もしそんな噂が広がったら、これからの信用問題になりませんかね」
「その心配はありません。いわゆる『司法取引』というやつです。『私たちの罪は問わず、他言もしない』という条件で、あの契約者を真の王位継承者の方にお売りしましたから」
「そういうことでしたか。お見事としか言いようがありません」
国益に反する悪の王位継承者を裁くための『てだすけ』もできましたし、清々しい気分ですね」
「もしかして、出航を遅らせたのも……これが狙いだったのですか」
「ええ、真の王位継承者の方が接触してきやすいように……」
「おかげで、我もお前たちと会うことができーた」
「「え?」」
 予期せぬ声に、二人の商人は揃って疑問符を浮かべた。

 声の元へ振り向くと、巨大なクレベースが、船にぶつかるギリギリのところまで迫っていた。クレベースの先端から一人の男……人に化けたホタルが見下ろしている。そのホタルの両隣には、キュウコンの姿のハナとグレンが控える。

「操り……人?」
「我は操り人ではなーい。神の遣いであーる」
 ホタルは仰々しく話す。
「へ?」
「このキュウコンも、そしてお前の船を取り囲んでいるサメハダーたちも、全て神の僕であーる」
 商人が海面を見下ろすと、無数のサメハダーの背鰭が浮いている。時折甲板の高さまで勢いよく飛び上がって、その恐ろしい牙を見せつけた。

「この島でのお前たちの行いは、すべて見させてもらーった」
「なな、何を見たというのですか……?」
 商人の言葉に応える素振りもなく、ホタルは淡々と続ける。
ポケモンを蔑ろにする悪行、実に許し難ーい。今すぐ船を沈めてサメハダーたちの餌にするか、
お前たちの喉笛をこのキュウコンたちに喰らいちぎらせたいところだーが……」
「「がーお」」
 ハナとグレンは、わざとらしく口を開けて吠えてみせる。
「ひええええ、お許しおおおおお」
「……慈悲と情けで、グッと我慢しよーう」
「あ、ありがとうう……ござまいすす……」
「代わりに、我が今から言うことを、お前たちの肝に銘じおーけ」
「何なりとお申し付けください!」

「あの黒き渦の伝説に、今後一切関わるーな。お前たちが捕えた四種のポケモンたちも、全員解放しーろ」
「災厄のことでしょうか。アレをもう二度とするなと、仰るのですか?」
「彼らは災厄などではなーい。こうなったらもう全て、神の僕であーる」
「しっ、失礼いたしました!」

「お前たちの仲間のうち『誰かたった一人』でも、あの黒き渦の伝説に再び手を出す者があれば、全ての海の何億ものサメハダーが『お前たち全員』を、世界の果てまで追いかけて根絶やしにすーる」

(億って、万の次か?)
(そうですわ)
(一万が十個集まったら一億だな、ありがと)
(ちょっグレンさん、そうじゃなくて……)

「何億……根絶やし……全ての海……」
 話の規模のあまりの大きさに、商人は愕然とする。
サメハダーだけではなーい。空のカイデンから、街のコラッタまで、世界中のポケモンが、お前たちを監視していると思ーえ」
「はいいいいい」

「あの黒き渦の伝説に、今後一切関わるーな。これは既に最終通告であり、一片の猶予もなーい」
「「がーお」」
 再び、ハナとグレンがわざとらしく吠える。無数のサメハダーたちも、激しい水飛沫を上げながら、一斉に飛び上がって牙を見せる。グレンとハナが発動した特性「ひでり」は、まるで後光が差しているような神々しさを演出している。大勢のポケモンを意のままに操る異様な光景に、商人たちは恐れ慄き、涙ながらに許しを乞うた。

「「もうしませんんん、ごめんなさいいいいい」」

――

「あの方々、本当に涙をお捨てになっていらっしゃいますでしょうか?」
「人間はずる賢いから、どうだろうね」
 ハナとレベッカは、心配気な表情だ。
「心を入れ替えてくれると信じたいが……」
「ガチでビビってたし、大丈夫なんじゃね?」

「念の為、今後それらしき船が往来しないか、監視した方がいいかもな。ラティ王国と協力すれば、広い範囲まで見れるだろう。おくりび山に帰ったら、さっそくお母様に進言してみる」
「ホタル様……応援しております」
「グレンから、ひたむきに前に進む姿勢を学ばせてもらったからな。できるところから、どんどん動いていくぞ」
「アタシから?」
「グレンさんのように、後先考えずに行動される鉄砲玉のようなキュウコンは、おくりび山にはいらっしゃいませんからね。とても勉強になりましたわ」
「あんなんで勉強になるとか、箱ん中の連中は臆病もんばっかみてーだな。まあアタシも……もう少し頭使えばまだまだ強くなれるっつーのがわかったから、お互い様か」

「図らずも、互いに学び合い、助け合う形になったということか。おくりび山王国とホウエン番長連合……そのうち手を取りあえるときが来るかもな」
「そんなんじゃ足りねー。国がどうこうっつーのがいらねーホウエンにすんだよ。アルトマーレのヤツらみてーにな」
「仰る通りですわね。まずはわたくしたちから、おくりび山を変えて参りましょう」

「ハナこそ、これからが大変なんじゃないか。お父様の……」
「はい、お父様とは戦うつもりです。その際は、あの漁村の晩のお約束……お父様を失脚させるための計画に、ぜひご助力をお願い致します」
「もちろんだ。グレンのためにできることはなんでもするから、遠慮なく言ってくれ」
「ホタル様……?」

 その場の空気が、「ぜったいれいど」を三連続で受けたかのように、凍りつく。

「わたくしの名を、『また』間違われましたね」
「名前は絶対ダメだっつーのに……」
「ホタル君、この旅で乙女心……学べなかったみたいだね」
 救いようのない絶体絶命の危機が、ホタルを襲う。

「「「うっわ、最悪」」」

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/13 ラティ王が捜索依頼の手紙をおくりび山に送る
7/14 ラティ王の捜索依頼の手紙がおくりび山に届く
7/16 キンセツ学園でホタルがグレンを勧誘
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/20 アルトマーレ近海でホタルがイチを回収
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利
7/26 瓦礫の城でミツの悪事が暴かれる
7/27 グレンとハナが土産屋を訪れる / 神の遣いごっこをする Update!

――

「ねえパパ、バンチョーさんやパオジサンたちは、世界の平和を守ってるんだって!」
「バンチョーかっこいい!」
「私たちも、そういうことできないかな……」
「おお、かわいいラテアも、あのポケモンたちみたいに世界の平和を守りたいんだね」
「ぼくもぼくも!」
「かわいいラテオも偉いねー」

「でも、私たちまだ子どもだから、世界の平和はおっきすぎてムリだと思うの」
「そこは謙虚なんだ……」
「だからかわりに、あのアルトマーレっていう遊び場をね、私たちが守ってあげる!」
「ジッジさんとバッバさんがいるしね!」

「それはいい考えだ。アルトマーレの人間たちにもポケモンたちにも、感謝してもしきれないからね。せっかくだし、パパたちもその守るのを手伝ってもいいかな?」
「えーどうしよっかなー」
「そこをなんとか!」
 ラティ王は、手を合わせて「お願い」の仕草をする。
「そこをなんとか!」
 ラテオも、それを真似して手を合わせる。

「じゃあ、特別に……パパたちも手伝わせてあげる!」
「「ヤッタァー!」」
 ラティ王とラテオは一緒に喜ぶ。

「アルトマーレの新しい王様の戴冠式が、改めてあるそうですよ。それにあわせて、アレを差し上げたらどうかしら?」
 一部始終を見守っていたラテスが提案する。
「さすがラテスちゃん。今回の感謝の気持ちを伝えるには、アレがいちばんだね」
「アレってなーにー?」
「ラテオはほんとバカね。ここまできたら、もうアレしかないでしょ」
「……あ、ぼくもわかった!」
「じゃ、せーのっ」

「「「こころのしずく!」」」