ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十八話 半ではなくて全ですね


第二十八話 半ではなくて全ですね

 城下町の広場の中央で、グレンは大きく息を吸う。
「てめえらあああ! アタシはあああ! ホウエン番長連合総代いいい! グレンだあああ!」
「なんだあのキュウコン。あの帽子と牙の仲間なのか?」
「いや。さっきまでにらみあってたからな、きっとオレたちの味方だ!」
ホウエン番長連合って、聞いたことあるぞ。なんかかっけぇーヤツらだ!」
 周りを囲んでいたポケモンたちが、ざわついている。

「そしてえええ! 上で戦ってるううう! 竜星群殴り込み艦隊のおおお! 隊長だああああ!」
「なぐりこみ……艦隊?」
「どっかの島国で、そんな場所なかったっけ?」
「竜星群つってたから、アレを止めてくれるんだよ!」
 この竜星群の危機に立ち向かっているポケモン……そう捉える者も出始めた。

「お前たちにいいい! 頼みがあるううう! 寄ってこおおおい!」
「頼みだってよ。アレを止めれるなら、なんだってやるぜ!」
「隊長が言ってんだ、きっといい手があるに違いない」
「あっちからも、もっとポケモン呼んでこい!」
 多くのポケモンが、グレンに期待の眼差しを向けていた。

――

 グレンの絶叫とハナの呼び込みで、広場は千人近いポケモン鮨詰めになっていた。さらに集まろうとしてるポケモンたちも大勢いる。

「あんな街中に響く『ばくおんぱ』をお使いになるなんて、存じませんでしたわ。グレンさんのこと、ぎりぎりキュウコンだと思っておりましたが、本当はバクオングでいらっしゃったんですね」
「そいつは聞き捨てならねーな。アタシの評判のイイ声を、もうちょっとコイツらに聞かせっから、その後でお前の相手をしてやんぜ」
「時間がないのは存じております。さっさとお始めになってくださいませ」

 集まったアルトマーレのポケモンたちに、グレンは手短に用件を伝える。
「みんな集まってくれてありがとな。今この街に降ってきてる竜星群を止めるために、上でお前らの仲間たちが戦ってくれてる。ただ、敵の力はむっちゃヤベー。ようは、お前らの仲間たちがやられて、『上からどんどん落ちてくる』かもしれねーっつー話だ」
 ポケモンたちのざわめきから、心配と不安が滲み出ている。
「そこでお前たちに頼みたいのは……上から落ちてきた仲間を、『みんなで受け止める』ことだ。あの高さだ、拾いそこなったらマジで死ぬからな。受け止め方のコツを、得意なヤツから説明してもらう」

「わたくしは、ホウエン地方おくりび山王国副王の娘、ハナと申します。受け止める際に大事なことはただお一つだけ……一度にお止めになるのではなく、層のように『何回かにわけてお止めする』ことです。一度にお止めになろうとすると、反動が大き過ぎて、地面にぶつかるのと変わりません。こごえるかぜ、エレキネット、フェザーダンス、このは……みなさんのお得意な技で構いませんので、少しずつ何度も繰り返して、衝撃を柔らげてくださいませ」
「すまんが時間がねーから、今質問は聞けねえ。ここで聞いたことを、これから集まってくる他の連中にも伝えてやってくれ。そして、なるべくたくさんの仲間を、助けてやってほしい」

 続いてグレンは、ポケモンたちの中で居心地悪そうにしているディンルーとパオジアンに、視線を向ける。
「あと、そこの二人ももうダチだ。これ以上この街は壊さねえって、約束してくれた」
「どーもー。ダチでーす」
「お前らのニョロニョロと帽子も、ポケモンたちを受け止めるのに使えるだろ。しっかり働いてくれよ」
「ふん。好きにしろ」

「じゃあみんな、頼んだぞ!」
 グレンは、今一度大きく息を吸う。

「お前たちもおおお! 竜星群殴り込み艦隊のおおお! 仲間だあああ!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「このカチコミいいい! みんなでえええ! 勝つぞおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」

 街に集まった大勢のアルトマーレのポケモンたちが、一斉に歓声をあげる。
 千を束ねたその「おたけび」は、アンヤと戦う上空のポケモンたちにまで届くほどであった。

――

「では、わたくしたちも……」
「とっとと戦線復帰だ!」

 傍らで待機していたオオスバメは、またいつの間にか仲間を呼び、二人に増えている。
「上まで全速力で頼む!」
 持たれやすいよう、グレンとハナは人の姿に化ける。二人をガッと掴んだオオスバメたちは、大きな翼を全力でしならせ、空に向かって一気に上昇する。

「ひいいいい風ええええ!」
「うおおおお圧うううう!」
「姐御、大丈夫ですかい?」
「このままああああいけええええ!」
「あいよ!」
「ひいいいいいい」
「うおおおおおお……お?」

――

 その頃、レベッカとチオンジェンは、アンヤから遠ざかるために、引き続きアルトマーレを北へと向かっていた。

「ハナさん、そろそろ彼のところへ行けたかしらね。『役割』って言って私たちに付き合ってくれてたけど、あんな話を聞かされたら、意中の彼のところへ送り出してあげなきゃ、ポケモンが廃るってものよ。だって、ハナさんのお父様、ほんと酷いわよね。絶対に他所では言うなって言われたけど、今ならね、私とレベッカさんしかいないから大丈夫よね」
「ええ、アタシもホウエンの者ではないので、お国の事情はよく知らなかったんですけど……怒涛の勢いで愚痴こぼしてて、よっぽど鬱憤が溜まってたんでしょうね」
「だってあんなお父様ナイわよ。そりゃあね、お金と権力があるのば、子どもとしては有難いことよ。でも、だからといって子どもに酷いこと命令したりとか、道具みたいに扱うとか、そういうのは絶対ダメ。意中の彼を暗殺しろだなんて、論外も論外よ。ここにいたら、私たち二人で半殺しにしてたわよね」
「『半』ではなくて、『全』ですね」
「あらあら、レベッカさんも言うわね。いいわよ、そういう子大好き。レベッカさんも、そういう話が何かあったら、なんでも相談のってあげるわよ。キュウコンさんほどではないけど、私も相当長生きしてるから、ひょーっとしたら何かのお役に立てるかもしれないわ」
「アタシは……そうですね……」
「もしかして話づらかったら全然いいのよ。言いたいことも言いたくないことも、それぞれあるものね。それにしても……お気づきになったかしら。ここのポケモンさんたち、みーんなお城の方に走って行ってるの。あ、もちろんお空を飛んでる子も多いわね。私もお空が飛べたら、もっと楽にビュビューンって行けるのに。レベッカさんに迷惑かけちゃって、ほんとごめんなさいね」
「これがアタシの『役割』ですから、むしろ運ばせてくださいよ。確かに、みんなお城の方に向かってますね。アンヤの竜星群があって危険なのに……」
「他の地方でアンヤさんが出てきたときは、その土地のポケモンさんも私と同じようにアンヤさんから離れる方に逃げてたんだけど……きっとアレね、竜星群で困ってる街のポケモンさんたちを、みんなで助けに行ってるんだわ。こんなの初めてだし、ここのポケモンさんたち、ほんとすごいことよ」
「そうなん……ですかね」
「アルトマーレのポケモンのみなさんなら、ひょっとしたらアンヤを……レベッカさん、ちょっと休憩していかない?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す

Comment
 グレンが「隊長」と自称していたのは、話を聞いてもらうための出まかせです。番長連合をまとめるだけのカリスマ的な素質があるので、こういう咄嗟の機転が本能的に働く感じです。

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 第二十九話 今は憚らない