ゆとりるのはてなブログ

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しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十二話 乙女心がだいばくはつ


第二十二話 乙女心がだいばくはつ

 レベッカは、その背にハナとチオンジェンを乗せて、北へ走り出した。チオンジェンが自力で走っていたときよりも、五倍は速そうだ。

 レベッカたちを見送ったグレンは、ホタルの方を振り向く。地面を深く見つめて、考え事をしているようだ。
「さ、うちらもアンヤをぶっ飛ばすかね。とりあえずは、ラティたちを待つしかねーけど」
「今のうちに作戦を立てようにも、不確定な要素が多すぎるな。ラティ王がどれくらいの人数でいらっしゃるか、そしてアンヤへの攻撃をどう判断されるか」

「じゃあ、作戦の名前でものんびり考えとくか?」
「作戦の……名前?」
ホウエン番長連合ができるときに、天下分け目の大ゲンカがあってさ。『えんとつ山殴り込み艦隊』っつって、みんなで盛り上がったんだ。懐かしーなー」
「せっかくなら、もう少し実用的なことを考えたいな」
「お前、名前のかっこよさナメてんだろ。士気ってのに関わるんだぜ、士気に」
「子どもじゃあるまいし、名前くらいでは変わらないと思うが」

 グレンの足元では、ラテアとラテオがすやすやと眠り続けている。
「コイツらもなかなか起きねーな。さっきまでチオンの近くにいたから、クソダサオーラでまたヘタばっちまったか?」
「ああ、可能性は十分あると思う。それもあって、子どもたちとチオンさんが別行動になるようにしたんだ」

 ホタルは再び、地面と睨めっこを始めた。
「二人がまだ動けないとなると……私だけでも先に城に戻るのは、どうだろうか。街の被害を、なるべく食い止めたい。漁村から城まで運んでくれたオオスバメたちは、そのへんにいないのか?」
「アイツらは帰した。この竜星群でワチャワチャだし、オオスバメも自分たちの家族が心配だろ」
「そうか。彼らもこの竜星群の被害者だからな、当然の配慮だ。私一人で走って城に戻るのも、できなくはないが……」

「なあ、ホタル……」
「なんだ?」
「一生懸命なとこ悪いんだけどさ、少しはサボったらどーだ?」
「ゆっくりはしてられんだろ。そうこうしているうちに、また竜星群が降ってきて街を襲うんだぞ。今のうちに、できる限りの対策を考えておかないと」
「街はもう、切り捨てよーぜ」
「何を言い出すんだ。私には責任がある。ラテアとラテオを保護し、さらに二人の恩を返すために、アルトマーレの街を守るという責任が」
「街を守るっつっても、実際ムリだろ。降ってくる竜星群をアタシたちで弾いたって、街のほんのちょっとしか守れねー。やっぱ、ラティたちを待ってアンヤを倒す、それしか方法はねーって」
「だから、まだ気づけていない良い方法が他にないか、探そうとしているんだ。グレンも力を貸してくれないか」

「ったく、わかっちゃいねーな」
「何かへんなことでも言ったか……あ、わかったぞ。乙女心だな」
「ちげーし。当てずっぽで言ってんじゃねーよ、バーカ」
「そうか、すまない」

「お前、疲れが溜まってんだよ。城に駆けつけたときからずーっと、ギリギリのむずかしー顔してる。でけーケンカに勝とうと一晩中考えて、結局負けて帰ってくる子分と同じ顔だ」
「私たちが、負けるというのか?」
「ああ、そーだ。余計なことにまで手を出してヘタばってちゃ、アンヤをぶっ飛ばすことはできねー。勝ち確に持っていくには、作戦と体力の両方がいるんだよ」
「勝ち確?」
「ここまでくりゃ絶対勝てるぞっていうアレだ。思い出せ、お前の作戦は何だった?」
「作戦……『チオンさんに逃げてもらう』こと。そして、ラティたちの力を借りて『アンヤを倒す』ことだ」
「そうだ。その二つの作戦だけでもう十分だし、みんなもそれに賛成した。だから、それ以上の『街を守る』とかは、いったん忘れろ」
「見殺しにしろと?」
「そーゆー言い方じゃなくてさ……なんつーか……アタシたちだって、なんでもできるわけじゃねーって話だよ。切り捨てるのがしんどいのは、わかるけど」

 互いの意見を交わしながら、ホタルは、自分をひたと見つめるグレンの視線に気付く。威圧や怒気ではない。考えを見守る、親か恩師のような目だ。

「お前……そういう顔もできるんだな」
「あんだって?」
 褒めているのか貶しているのか、グレンには判断がつかなかった。

「わかった。確かにお前の言うとおり、本筋の『アンヤを倒す』に注力するべきだ。ありがとう」
「わかればよろしい。もし責任がどうとか文句言うヤツが出てきたら、アタシがぶっ飛ばしてやっから。今はとりあえず、肩の力抜いて休め」
「うん、そうさせてもらおう」

 グレンの目尻が緩んで見えた……のも束の間、グレンはふいに人の姿に化ける。
 そして、ホタルのすぐ目の前で近づくと、膝をついてかがんだ。
 キュウコンの姿のホタルと、人の姿のグレン。お互いの顔が、同じくらいにの高さになる。

 ホタルの首の後ろに、すっと両手を回す。
「なにを……」
 鼻先すれすれを、グレンの唇が通る。
「している……?」

 グレンは、ホタルをぎゅっと抱きしめた。

「⁉︎」
 ホタルの鼓動が速くなる。
「『だきしめる』っていう人間の技だ」
 しっとりとした吐息が、ホタルの耳を掠める。

「人間の姿なのに、けっこーあったかいだろ?」
「……ああ」
 ホタルの声が、かろうじて漏れ出る。

「両手が使えると、こーゆーのできてイイよな」
 ホタルの耳をたたむように、手のひらでそっと撫で付ける。

「いい子いい子」
 腕に伝わる感触で、ホタルの体から力が抜けていくのがわかる。
 ホタルの静かな呼吸が聞こえる。

――

 抱きしめる腕を緩めると、グレンはゆっくりとその場に座り込む。
 そして、膝の上にホタルの顔を乗せた。

「お前は、よく頑張ってるよ」
 ホタルの額を、揃えた指の腹でそっと撫で付ける。

「おやすみ……」
 もうとっくに、ホタルからの返事はない。

「いろいろ背負わせてスマンな。ツラかったらいつでも言えよ。ハナでも、アタシでもいいから」

――

「なるほど、ああやって男を手玉に取るのね。さすがはバンチョーさん」
「アレ、ぼくもしてほしー!」
 ラテアとラテオの声に、ホタルはハッと我に帰る。
「おおおお前たち、起きてたのか!」
「キャハハハ。なーにあたふたしてんだよ、あんなん誰にだってしてんぜ」
「えっ、そうなのか?」
「さあ、どーだかな?」
「どっちなんだ!」
「そりゃー……乙女心だからなー」
「な、なるほど……なるほど?」
「でも、ハナには絶対に言うなよ。乙女心が『だいばくはつ』して、最悪だからな」
「乙女心というのは『だいばくはつ』が使えるのか……ますますわからん」
「大人は秘密を着飾ってオトナになる……ってやつだ」
「んー?」

「さっ、おじさんは置いといて。ほれほれ、ラテオも『だきしめる』するかー?」
「わーい、にげろー!」
 ラテオと追いかけっこをするグレンを、ホタルはぼーっと眺める。
「いい匂い……したな……」
「におい?」
 ラテアの声に、ホタルは再びハッと我に帰る。

「そ、そろそろ……ラティ王国のみなさんが来てるはずなんだけど、ラテアから『ゆめうつし』で連絡取ったりできるかな?」
「ちょっと探してみますね。そんなに飛ばせるの広くないけど……」
ラテアは目を大きく見開き、「ゆめうつし」の念波を四方に送る。受信してくれるラティたちはまだ近くにいなさそうだが、「ゆめうつし」とは別の違和感を察知した。
「別の、何かが……来てます」

――

「おーい、ラティオース、ラティアース。いるんだろー? だいじょぶかー?」
 城の方角から、知らない声が聞こえてくる。しかし、声の主は見えない。

「なんだアレ。えっらい遠くから声かけてきてんな。ぜんぜん見えねーぞ」
「大丈夫でーす!」
「だいじょーぶー!」
 ラテアとラテオは、二つ返事で応える。
「声の主は二人のことを知っているようだが……何が大丈夫なんだ?」
「わかりません!」
「ぼくもわかんなーい」
「わかんなくて答えたんか!」

「マジかー心配してたんだぜー。じゃあとりあえず、そっちいくからなー」
 声の主はこちらへ近づいてくるようだ。しかし、その姿はやはり見えない。
「姿を消しているのか?」
「いや……もともとちっさくて、見えねーだけみてーだ」

 やがて姿を現したのは、ふよふよと空を飛ぶ「イアのみ」……ではなく、濃い橙色の小さなトサキントのようなポケモンだった。両目の周りには、黒い浮き輪のような輪っかがついている。

「おっすおっす」
「あのときの!」
「このひとだれー?」
「私たちが砂浜に落っこちたときの犯人よ。アンタのせいで、たくさん寝ちゃってタイヘンだったんだからね!」
「マジでごめんって。オレの特性のせいで、フラフラーってなっちゃったんだよな。今は大丈夫みたいだけど」
「ほんとだ。何ともない……なんで?」
「パオやチオとも会ったんだろ。そのうち慣れてくもんだけど……それでも、もう耐性ついてんのか。流石はドラゴンタイプの体力だな」
「ま、まかせてちょーだい!」
「おおきなくちでガオーッと、つよいぞドラゴン!」

 ホタルは、ラテアとラテオを隠すように、イーユイの前に歩み出る。
「あなたは、パオジアンさんのお仲間の方ですね」
「ああ。オレはイーユイだ、よろしくな。アンタらがこのへんにいるって、パオから聞いてきた」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルとグレンがイーユイと出会う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

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 しっぽさま(グレン)の「だきしめる」いいなあ。

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 第二十三話 そっちの二人も黙っててくれ