ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 最終話 世界の平和はおっきすぎて


最終話 世界の平和はおっきすぎて

 ジョウト地方の南東にある島国アルトマーレ。その南の沖合に、二十人は乗れそうな大きな船が浮かんでいる。甲板にポケモンを封印するための資材が並んでいるが、今回は出番がなかったようだ。整った身なりをした人間が二人、船の手すりにもたれかかりながら、満足げに島の方を眺めている。

「終わってみれば、今回の商売も大成功でしたね」
「まさか最後に、他の王位継承者が契約書を買い取りに現れるなんて、棚からイモモチでした。でも、契約書を売ってしまって、大丈夫だったんですか。もしそんな噂が広がったら、これからの信用問題になりませんかね」
「その心配はありません。いわゆる『司法取引』というやつです。『私たちの罪は問わず、他言もしない』という条件で、あの契約者を真の王位継承者の方にお売りしましたから」
「そういうことでしたか。お見事としか言いようがありません」
国益に反する悪の王位継承者を裁くための『てだすけ』もできましたし、清々しい気分ですね」
「もしかして、出航を遅らせたのも……これが狙いだったのですか」
「ええ、真の王位継承者の方が接触してきやすいように……」
「おかげで、我もお前たちと会うことができーた」
「「え?」」
 予期せぬ声に、二人の商人は揃って疑問符を浮かべた。

 声の元へ振り向くと、巨大なクレベースが、船にぶつかるギリギリのところまで迫っていた。クレベースの先端から一人の男……人に化けたホタルが見下ろしている。そのホタルの両隣には、キュウコンの姿のハナとグレンが控える。

「操り……人?」
「我は操り人ではなーい。神の遣いであーる」
 ホタルは仰々しく話す。
「へ?」
「このキュウコンも、そしてお前の船を取り囲んでいるサメハダーたちも、全て神の僕であーる」
 商人が海面を見下ろすと、無数のサメハダーの背鰭が浮いている。時折甲板の高さまで勢いよく飛び上がって、その恐ろしい牙を見せつけた。

「この島でのお前たちの行いは、すべて見させてもらーった」
「なな、何を見たというのですか……?」
 商人の言葉に応える素振りもなく、ホタルは淡々と続ける。
ポケモンを蔑ろにする悪行、実に許し難ーい。今すぐ船を沈めてサメハダーたちの餌にするか、
お前たちの喉笛をこのキュウコンたちに喰らいちぎらせたいところだーが……」
「「がーお」」
 ハナとグレンは、わざとらしく口を開けて吠えてみせる。
「ひええええ、お許しおおおおお」
「……慈悲と情けで、グッと我慢しよーう」
「あ、ありがとうう……ござまいすす……」
「代わりに、我が今から言うことを、お前たちの肝に銘じおーけ」
「何なりとお申し付けください!」

「あの黒き渦の伝説に、今後一切関わるーな。お前たちが捕えた四種のポケモンたちも、全員解放しーろ」
「災厄のことでしょうか。アレをもう二度とするなと、仰るのですか?」
「彼らは災厄などではなーい。こうなったらもう全て、神の僕であーる」
「しっ、失礼いたしました!」

「お前たちの仲間のうち『誰かたった一人』でも、あの黒き渦の伝説に再び手を出す者があれば、全ての海の何億ものサメハダーが『お前たち全員』を、世界の果てまで追いかけて根絶やしにすーる」

(億って、万の次か?)
(そうですわ)
(一万が十個集まったら一億だな、ありがと)
(ちょっグレンさん、そうじゃなくて……)

「何億……根絶やし……全ての海……」
 話の規模のあまりの大きさに、商人は愕然とする。
サメハダーだけではなーい。空のカイデンから、街のコラッタまで、世界中のポケモンが、お前たちを監視していると思ーえ」
「はいいいいい」

「あの黒き渦の伝説に、今後一切関わるーな。これは既に最終通告であり、一片の猶予もなーい」
「「がーお」」
 再び、ハナとグレンがわざとらしく吠える。無数のサメハダーたちも、激しい水飛沫を上げながら、一斉に飛び上がって牙を見せる。グレンとハナが発動した特性「ひでり」は、まるで後光が差しているような神々しさを演出している。大勢のポケモンを意のままに操る異様な光景に、商人たちは恐れ慄き、涙ながらに許しを乞うた。

「「もうしませんんん、ごめんなさいいいいい」」

――

「あの方々、本当に涙をお捨てになっていらっしゃいますでしょうか?」
「人間はずる賢いから、どうだろうね」
 ハナとレベッカは、心配気な表情だ。
「心を入れ替えてくれると信じたいが……」
「ガチでビビってたし、大丈夫なんじゃね?」

「念の為、今後それらしき船が往来しないか、監視した方がいいかもな。ラティ王国と協力すれば、広い範囲まで見れるだろう。おくりび山に帰ったら、さっそくお母様に進言してみる」
「ホタル様……応援しております」
「グレンから、ひたむきに前に進む姿勢を学ばせてもらったからな。できるところから、どんどん動いていくぞ」
「アタシから?」
「グレンさんのように、後先考えずに行動される鉄砲玉のようなキュウコンは、おくりび山にはいらっしゃいませんからね。とても勉強になりましたわ」
「あんなんで勉強になるとか、箱ん中の連中は臆病もんばっかみてーだな。まあアタシも……もう少し頭使えばまだまだ強くなれるっつーのがわかったから、お互い様か」

「図らずも、互いに学び合い、助け合う形になったということか。おくりび山王国とホウエン番長連合……そのうち手を取りあえるときが来るかもな」
「そんなんじゃ足りねー。国がどうこうっつーのがいらねーホウエンにすんだよ。アルトマーレのヤツらみてーにな」
「仰る通りですわね。まずはわたくしたちから、おくりび山を変えて参りましょう」

「ハナこそ、これからが大変なんじゃないか。お父様の……」
「はい、お父様とは戦うつもりです。その際は、あの漁村の晩のお約束……お父様を失脚させるための計画に、ぜひご助力をお願い致します」
「もちろんだ。グレンのためにできることはなんでもするから、遠慮なく言ってくれ」
「ホタル様……?」

 その場の空気が、「ぜったいれいど」を三連続で受けたかのように、凍りつく。

「わたくしの名を、『また』間違われましたね」
「名前は絶対ダメだっつーのに……」
「ホタル君、この旅で乙女心……学べなかったみたいだね」
 救いようのない絶体絶命の危機が、ホタルを襲う。

「「「うっわ、最悪」」」

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/13 ラティ王が捜索依頼の手紙をおくりび山に送る
7/14 ラティ王の捜索依頼の手紙がおくりび山に届く
7/16 キンセツ学園でホタルがグレンを勧誘
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/20 アルトマーレ近海でホタルがイチを回収
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利
7/26 瓦礫の城でミツの悪事が暴かれる
7/27 グレンとハナが土産屋を訪れる / 神の遣いごっこをする Update!

――

「ねえパパ、バンチョーさんやパオジサンたちは、世界の平和を守ってるんだって!」
「バンチョーかっこいい!」
「私たちも、そういうことできないかな……」
「おお、かわいいラテアも、あのポケモンたちみたいに世界の平和を守りたいんだね」
「ぼくもぼくも!」
「かわいいラテオも偉いねー」

「でも、私たちまだ子どもだから、世界の平和はおっきすぎてムリだと思うの」
「そこは謙虚なんだ……」
「だからかわりに、あのアルトマーレっていう遊び場をね、私たちが守ってあげる!」
「ジッジさんとバッバさんがいるしね!」

「それはいい考えだ。アルトマーレの人間たちにもポケモンたちにも、感謝してもしきれないからね。せっかくだし、パパたちもその守るのを手伝ってもいいかな?」
「えーどうしよっかなー」
「そこをなんとか!」
 ラティ王は、手を合わせて「お願い」の仕草をする。
「そこをなんとか!」
 ラテオも、それを真似して手を合わせる。

「じゃあ、特別に……パパたちも手伝わせてあげる!」
「「ヤッタァー!」」
 ラティ王とラテオは一緒に喜ぶ。

「アルトマーレの新しい王様の戴冠式が、改めてあるそうですよ。それにあわせて、アレを差し上げたらどうかしら?」
 一部始終を見守っていたラテスが提案する。
「さすがラテスちゃん。今回の感謝の気持ちを伝えるには、アレがいちばんだね」
「アレってなーにー?」
「ラテオはほんとバカね。ここまできたら、もうアレしかないでしょ」
「……あ、ぼくもわかった!」
「じゃ、せーのっ」

「「「こころのしずく!」」」

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三十三話 しかもこのようなお洒落なお店で


第三十三話 しかもこのようなお洒落なお店で

 真・竜星群殴り込み艦隊が勝利を収めてから、二日後。

 瓦礫の山と化したアルトマーレの城を、王位継承三位のミツが視察していた。城の再建工事の指揮を取るためだ。
「商人は一ヶ月続くと言っていたが、思いの外すぐに終わったな。ラティオスラティアスたちが飛んでいたが、あいつらのせいか」

 そこへ、王位継承二位のフタが現れる。
「ミツ、竜星群の首謀者が俺だと触れ回っているようだが、どういうわけだ」
「ワケもタマゲタケもございませんでしょう。あなたは、『決着のバトル』に勝つために、災厄ポケモンという禁忌の力に手を出してしまった。案の定その力を制御することができずに、あの竜星群を引き起こした……それが事実でございましょう」
「なるほど。戴冠式の前日……『決着のバトル』に備えて訓練をしているときに、あの見知らぬポケモンたちが現れたのは、そういう筋書きだったのか」
「筋書き……なんのことでございましょうか。フタ様こそ、お芝居がお上手でいらっしゃる」
「芝居を打っているのはどちらかな」
「あなたはイチ様を亡き者にするだけでは飽き足らず、さらにアルトマーレに災厄をもたらすという罪まで重ねてしまわれた。次の国王の座に就くべきお方ではないのは、もはや『決着のバトル』を挟むまでもなく、明らかでございます。うちの陣営の者がすぐに証拠を見つけて、その『ばけのかわ』を剥いで差し上げます……」
「証拠か……『見つける』ではなく、『でっち上げる』の間違いではないのか?」
「余裕でいられるのも今のうちでございます。今にきっと……」
「もうよい……これ以上は時間の無駄か」

 痺れを切らしたフタが、一枚の紙を取り出す。
「これを見ても、まだそんなことが言えるのか!」
「そっ、それは……」
「お前の印が押してある契約書だ。災厄ポケモン四匹とその取扱説明書に延長保証付き。三日以内の成約で、なんと今ついているお値段から三割引。おまけに期間限定でプレミアボール三十個、現金一括払いでポイントマックス十個がついてくる特典まで利用し、さらに一家庭一度きりのご購入に限り……」
「わ、わかった。もうわかったから!」
「これだけの特典をもらっておきながら、さらに値引き交渉までしたそうじゃないか。王国の恥晒しめ!」
「それ関係なくね?」

「こほん。ともあれ、この契約書の押印は、ミツお前自身しか押すことができないもの。仮にお前以外の者が押したのであれば、大事な印の管理もできないということになるな」
「いったい、それをどこで……」
「お前に災厄ポケモンを売った商人から、買い取ってきた」
「あの守銭奴め……寝返りおって」
「災厄商法の噂は、これまでも何度か耳にしていたからな。訓練中に現れた四匹のポケモンとあの竜星群を見て、すぐにパルデアの件を思い出したよ。まだ商人が近くにいるかもしれないと近海を調査したら、すぐに話をつけることができた」
「くそ……王になる夢が」

「すまんな。アルトマーレを、私利私欲の肥やしにするわけにはいかない。この一件は然るべき時期に公表するから、それまで国の復興に協力しろ」
「この私に、まだ協力しろというのか?」
「お前を応援している者……有り体に言えば、お前の権益が生活の支えになっている者も、たくさんいるだろう。少なくともその者たちの今後が決まるまでは、しっかり働いてもらう。王族の誇りは忘れても、彼らへの恩義は忘れるな」
「恩義か……相変わらずご立派なことで」

――

 そのさらに翌日。
 アルトマーレの東岸にあった港町は、アンヤの竜星群の被害が比較的少なく済んでいた。多くの商店も、通常通り営業している。

 アルトマーレグラスのお土産屋の看板から、一人のヤミカラスが飛び立つ。
「昼間からヤミカラス……不吉ですね」
「僕はそういうの信じないタチでね。せっかくだし、旅立ちの記念に何か買っていこうかな」
「イチ様、あまり無駄遣いはよろしくないですよ。ホウエンへの船代は、ジョウトの倍かかりますし」
「よく知るジョウトよりも、あまり足を運んだことがないホウエンの方が、新天地に向いているかと思い直してね」
「風の向くまま気の向くまま、ですね。あと仲間から聞いた話ですが、ミツ様の悪事がバレて、失脚されたそうですよ」
「そうか。キミが生きていることも公言できるようになって、ようやく表立って動けるな」

「なによりイチ様ご自身も、これで王位に返り咲くことができるではありませんか。もたもたしていると、延期されたフタ様の戴冠式がすぐに執り行われます。その前に……」
「いいんだ。このままフタに、王になってもらう。王の仕事にはフタの方がどう考えても適任だし、僕はこのまま第二の人生を歩むことにするよ」
「そうですか……でもフタ様は、イチ様の捜索隊を出されるご様子ですよ。『イチ様が生きている』と信じていらっしゃるようで」
「僕は、ミツの策略で、無理やり死んだことにされたからな。フタなら、僕の死体が見つかっていない以上、生きている可能性を追い続けるだろう」
 イチはしばらく天を見上げ、考えを巡らせた。

「正直、僕一人で生きていくのに、先立つ物のアテもないしな……よし、わかった。こっそりフタに会いに行こう。僕が生きていることを内密に伝えてから、第二の人生を始めることにする」

――

 お土産屋の店内では、人の姿に化けたグレンとハナが、買い物を楽しんでいた。グレンは、二つのアルトマーレグラスの櫛を、ハナに見せる。
「どっちがいいかな?」
「お色味で言えば、こちらの方が炎キュウコンに合うと存じます。もし氷キュウコンでも使われるのでしたら、そちらの方が無難でしょうか」
「なるほどなー。さっすがハナだ、頼りになるぜ」

「まさかグレンさんと二人で、人間のお買い物をする日が来るなんて、夢にも思いませんでしたわ。しかもこのような、お洒落なお店で」
「お前の『毛繕い』でむっちゃ助かったからよ、アレ自分でもできるようにしたいんだ。海でレベッカに乗ってる間に、やり方教えてくれ」
「グレンさんが身だしなみに気を遣われるというのも、よっぽど奇跡でございますね。明日また、竜星群が降るんじゃないでしょうか」
「まーな。アタシのキュウコンの姿も、むっちゃキレイだったし。さすがアタシ」

「……意外ですわね」
「ん、何が?」
「わたくしの嫌味に、すぐにつっかかってくるかと思いましたのに」
「嫌味ってわかってて言ってたんだな。まあ、お前がそーゆーつっかかる方が好きっつーんなら、そっちでもいいけど」
「べっ、別に好きとか嫌いとか、そういう問題ではございませんの……あ、こちらの櫛も一緒にあった方がよろしゅうございますよ!」
「おー、太さが違うんだな。こっちの方は、なんかトゲトゲしてる」

「ところで、そのカゴに入っている丸い玩具は、なんでございますの。ニャローテさんがお持ちになっているような……」
「おお、これは『ヨーヨー』っつー武器だよ。丸に紐がついてて、ぐいーんって伸びる。最強の伝説ニンゲンの『スケバン』が、これを持って敵をバッタバッタと倒していくんだ」
「なるほど……伝説ポケモンの『ザシアン様』が、『剣』をお持ちになってバトルなさるのと同じなのでございますね。わたくしも勉強になりますわ」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利
7/26 瓦礫の城でミツの悪事が暴かれる New!
7/27 グレンとハナが土産屋を訪れる New!

――

「……つかぬことを伺いますが、アルトマーレの城下町でわたくしにしてくださった『だきしめる』、まさかホタル様にもされてませんよね?」
「まさか。アイツになんか、キモくてできねーよ」
 グレンは、顔色一つ変えずに即答する。

「でも、地上からアンヤがいる上空に戻りました折、ホタル様に『またアレをして差し上げる』というようなお話を、されていらっしゃいませんでした?」
「アレは『殴り込み艦隊がんばるぞー』みたいなヤツだ」
「そのようなご様子には、見えませんでしたが」

「お前な……いろいろ勘違いしてるみてーだけど、よくよく考えてみろよ。今アイツを支える『役割』ができるのは、誰がどー考えても、アタシじゃねー。お前以外の誰が、箱の中のアイツを支えるっつーんだよ」
「それは……」
「だから、お前が心配することは、なんもねー」
「……わかりました。グレンさんがそう仰るのなら、そういうことにしておきます」
「ああ、頼んだぜ」

――

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 最終話 世界の平和はおっきすぎて

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三十二話 海は涙を捨てる場所


第三十二話 海は涙を捨てる場所

「パオ! ディン! やっとアンヤをぶっ飛ばせたぜ!」
 アルトマーレの城下町まで降りてきたイーユイが、これ見よがしに勝利を報告する。
「ああ見ていた。まさか本当に倒せるとは、思ってもみなかったぞ」
「必殺のファイヤードリル、お前たちにも見せたかったなー」

「わあ、みんな集まってる!」
「パオジサーン、あそぼー!」
「お、ラティのちびっこたちも来たみてえだな」

 ラテアとラテオと一緒に、ホタル・ハナ・グレンの三人も現れる。
「げ……あのキュウコンたちも一緒なのか」
「なんだよその言い草は。お前らもアンヤと一緒に、ぶっ飛ばしてやってもいーんだぜ?」
「パオジアン様、ディンルー様、お久しゅうございます」
「キミたちも、地上でみんなの救援を手伝ってくれたと聞いている。そのお礼を言いに来たんだ。ありがとう」

 さらに、チオンジェンを乗せたレベッカも現れる。
「チオンさんの言った通り、ほんとにあの化け物を倒せちゃってるね。さすがはおくりび山とラティ王国のみんなだ」
「それと、ここのポケモンさんたちの協力よね。遠くからどんどんポケモンさんたちが集まっていくのが見えたから、きっと大丈夫だろうって思って。だからレベッカさんに、先にもう引き返しましょうってお願いしてたの。あとね、ラティアスの女王様にお会いできたのよ。ほんとお美しかったわ。私もあと三十若かったら、引けを取らないんだけどねー」

「イーユイ様、パオジアン様とディンルー様、それにチオン様……みなさまが一ヶ所にお集まりになられて、大丈夫なのでしょうか。アンヤが現れたのは、みなさんが集まったから……でございましたよね」
「ああ、それは大丈夫だよ。次のアンヤが現れるまで一ヶ月くらいはかかるんだ。それまでに、僕とイーユイちゃんがさっさと立ち去るから、僕たちのせいでまたアンヤが現れることはない」
「ワシらの目的は、すべてのポケモンたちの平和を監視することだからな。また全国を巡回する旅に出なければ」

「全国を巡回なさる……わたくしたちとは規模が違いますわね。頭が上がりません」
「お嬢さんも、全国を巡っているのですか?」
「わたくしたちおくりび山のキュウコンは、ホウエン地方の平和を守っているのです」
「おくりび山王国という国を作り、ホウエン地方で起こる様々な問題を解決しようと、努力している」
「ワシらは全国を広く浅く監視し、貴様たちはホウエン地方に密着して監視する……形は違えど、ワシらは同胞というわけか」
「そう仰っていただけるのでしたら、光栄でございます」

「パオジサンたちも、バンチョーのみんなも、かっこいいね!」
「そだね。私たちも、何かできることがあったらいいのに……」
「もしラテアたちもなんかするんなら、めんどくせー決まりとかは作らない方がいいぜ。そのせいで困る連中が出てくるかもしんないからよ」
「決まりが本当にいるのかどうか、ちゃんと考えるのは大事だな。おくりび山の決まり……『千歳の掟』については、私に任せてもらおう」
「ああ、期待して待ってる」

「オレたちも、アンヤの『決まり』が雑すぎて、すっげー迷惑してるからな」
「そのことなんだが……今後のアンヤの予防について、擦り合わせたいことがある」
「僕たちが穏やかに暮らせる『着地点』、見つかりそうかい?」
「ああ、善処するよ」
「やはりワシらの力になってくれるのか……それはありがたい」

――

「これからキミたち四人が散り散りになり、今後悪い人間たちに捕まらなければ、もうアンヤの竜星群は起こらない……と見ていいのか?」
「それはちょっと微妙ね。あのボールって私たちがイヤイヤっていっても無理やり捕まっちゃうことがあるから、逃げる作戦も完璧じゃない。それにもっと危ないのは、他にもう捕まっちゃってる子が何人もいるってこと。このままだと、私以外のチオンジェンちゃんたちがまた一ヶ所で解放されちゃうのは、時間の問題ね」
「お仲間の方々が、いらっしゃるのでしたね」
「オレらで犯人のアジトに乗り込んで、全員助け出してくっか」
「それいいな。また大暴れしてやろーぜ」
 乗り気のイーユイとグレンを、パオジアンが制する。
「アジトがどこにあるのか、いくつあるのか……さすがにキュウコンやラティたちでも、全部を見つけるのは難しいんじゃないかな」
「全部は難しいとしましても……さしあたって、今回のアルトマーレで悪事をお働きになった人間どもでしたら、見つけることができるのではないでしょうか」

「そこでだ。邪悪な怪物たる彼らに、このアルトマーレの海で一つ学びを得てもらう……というのはどうだろうか。ちょうど、『海は涙を捨てる場所』だしな」
「お、それ懐かしーな。おくりび山にいた頃に、よく聞かされたやつだ」
「なんだそれ。初めて聞くわ」
 ホタルの言葉に、珍しくグレンとイーユイが正反対の反応を示す。

「『海は涙を捨てる場所』と申しますのは……涙を流して過ちを悔い、そこから一つの学びを得ましたら、過ちは海に捨てて忘れる……という、おくりび山に代々伝わる教訓ですわ」
「ふむ。さしずめ『罪を憎んで、ポケモンを憎まず』……と言ったところか」
「今回で言うと、『罪を憎んで、犯人の人間を憎まず』ってことになるのかな? そこまでキュウコンはお人好しなのかい?」
「『過ちから学びを得よ』というのが『涙を捨てる』の肝要なところでございますが……何かご関係がございますのでしょうか?」
 パオジアンとハナは、ホタルの真意を伺う。

「犯人は憎いが、殺さず生かして利用するという方法もある。今後二度とアンヤの竜星群を起こさないよう、彼らにはしっかりと学びを得てもらいたいと思っているんだ。そのために、こういう『作戦』を考えてみたんだが……カクカクシキジカ

――

 ホタルの提案に、一同は諸手を挙げて賛成した。

「そうしましたら、おくりび山への帰りの航路で、ホタル様の『作戦』を実行させていただきましょう」
「ああ。ラテアとラテオも世話になったな。おくりび山に帰ったら、手紙を出すよ」
「うん、おじさんもおばさんもありがとー!」
「私、大きくなったら、バンチョーさんみたいなかっこいいお姉さんになります!」
「楽しみにしてる。アタシは、ホウエンのキンセツ学園ってとこにいるから、こっちくることがあったら遊びに来な」
「わかりました!」
「イーユイもだ。お前ら世界中回ってんなら、ホウエンに来ることもあんだろ」
「ああ。キンセツ学園だな、カチコミに行ってやんよ!」
「アタシの子分たちはつえーぜ。吠え面かくなよ!」

「じゃあ、そろそろ出発するかい?」
レベッカが、背中に乗るように促す。
「あ、そうだ。途中で、港町のお土産屋っつーとこに寄ってくれよ」
「学園のみなさんに、お土産ですの?」
「それよりももっと大事なもんだ。ハナにも付き合ってもらうからな」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利

――

アンヤが瀕死になっているだと
ビームのスキームをやっとアップデートしたばかりだと言うのに

このログは
あの時代でこれだけ削るには
伝説ポケモンの力を借りるしかないはずだが
しかもこんな小さな島で

ダメージ元はどうなっている
イーユイからは微々たるものだから捨て置こう
地元のポケモンから
一発の被ダメージは小さいが
被攻撃回数が二十万オーバー
想定した最大値の十倍だと

しかしなぜアンヤが起動した
さして問題は起こっていないようだが
四幸の教育がまだ足りないか
いや
ボールの痕跡
そうか人間たちが意図的に集めたのか
進歩が良からぬ方に進んでいるな

アンヤの起動サーキットにはまだ欠陥が多いな
慣れない分野で手探りだが
世界をより良きものにするために

それにしても
ポケモンはともかく
人間は
救うに値しないということなのか

――

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 第三十三話 しかもこのようなお洒落なお店で

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三十一話 待ってちゃダメダメむかえにいこう


第三十一話 待ってちゃダメダメむかえにいこう

 四方の援軍の様子を「ゆめうつし」で確認したホタルは、最後の追い込みの指示を出す。

「援軍の数は、やはり北からが多い。その分アンヤからの攻撃も北方向が激しいな。西から北に戻った部隊に加えて、さらに西から四割を北へ送れ。空いた四割は南から補う。南は六割に縮小、様子を見る程度でも構わない」
「はい! 各方面の補佐へ通達します!」

「どちらの方角がアンヤにとって危険なのか、アンヤ自身が気づいていらっしゃるようですわね」
「『本体』が出てきた直後はまだ、『手当たり次第に攻撃している』感が強かったからな。私たちが作戦や陣形を適宜変えているように、アンヤも、経験を踏まえて少しずつ適応しているんだろう」
「アンヤは……本当にポケモンなのでしょうか。わたくしには、あちらがわたくしたちと同じ生き物のようには、感じられないのです」
「そうだな。仮に未知の伝説ポケモンだったとしても、行動基準が不可解……というか不気味過ぎる。普段はパオジアンたちの上司として正しい行いをしているようだが、今回のようにひょんなことで豹変し、暴れ出す」
「あまりにも異質と申しますか、心を感じないと申しますか」
ポケモンでも、ましてや人間でもないとしたら……なんだと思う?」
「これもおくりび山の伝承部の言い伝えですが、セレビィ様という『時をお渡りなるポケモン』のお話がございます。もしセレビィ様か、またはセレビィ様と同じようなお力をお持ちの方が、遠い未来からお連れになった存在……かもしれないと考えております」
「未来か……私たちポケモンも人間も、年月をかけて少しずつできることが増えているからな。ずっと先の未来では、アンヤのような強大な力を手にすることができるのかもしれない」

「ホタルさん、一つご報告よろしいでしょうか。いいご報告です」
「余計なお話が過ぎましたね。申し訳ございません」
「いや、私も気になってたことだし、むしろ助かったよ」
 ハナに礼を言うと、補佐班のラティオスに応える。
「待たせた、報告を頼む」

「『ゆめうつし』で見せてもらったのですが、東側のアンヤの暗雲に綻びが出ています。先ほどの螺旋の炎の光のときと同じくらいの、大きな綻びです。それに伴い、東方面への竜星群や破壊光線の威力が、明らかに落ちているのです」
「あの雲が、アンヤの攻撃を補助する天候のようなものだった……ということか。この弱体化を利用しない手はないな」
「私も東の隊長も、同じ意見です。東隊の攻撃効率が劇的に改善していたのも、その為かと思われます。さらに東補佐の話によると、ポケモンたちの『羽ばたき』による風で、暗雲が散っているとのことです」
「そういえば、東にはプテラオオスバメ……大きな翼のポケモンが多かったな」
「我々ラティの飛び方では暗雲を散らすには至らないようなので、彼らの『羽ばたき』というのは盲点でしたね」
「それに、この圧倒的なまでのポケモンの数だ。『羽ばたき』の回数が、単純に激増しているのもあるだろう。やはりこの戦い、私たちだけでは勝てなかった。アルトマーレのポケモンたちの勝利と言う他ない」

――

「パパー、ただいま!」
 ラテアが元気よく帰還を報告する。
「かわいいラテア、怪我はないか⁉︎」

 イーユイは、既にラテアの腕の中で眠りこけている。グレンも、ラテアの背中にぐったりとうなだれており、言葉にならない声を発している。
「あと……たの……む……」
「いつも体力が有り余っているグレンさんがここまで……前線でみなさんの旗印になっていただき、ご苦労様でした」

「おねーちゃん、おかえりー!」
 ラテオも姉の帰りを嬉々として迎える。
「ありがとう、ラテア。グレンが世話になった。二人は……一足先に夢の中のようだな。二人もありがとう」
 ホタルは、既に気を失っているグレンとイーユイに、優しく声をかけた。

「おじさん、あのおててまだ倒せてないよ。もうちょっとだけがんばろ!」
「ぼくたちで、ぶんなぐる!」
 まだまだ元気いっぱいのラテアとラテオに、ラティ王がわざとらしく咳払いをする。
「かわいい二人には、最後の大事な役目をお願いするよ。喉の準備をしておきなさい」
「おうただね、わかった!」
「みんな戦ってるけど、『ゆめうつし』でライブハイシンしちゃっても大丈夫なのかな」
「『ゆめうつし』を見てる間は、周りが見えなくなって、さすがに危ないからね。『ゆめうつし』じゃなくて、かわいく歌いながら、かわいく飛んで、全ての部隊をかわいく回るんだ」
「参謀としてもぜひ、最後の追い込みを二人に後押ししてほしい」
「とびながらおうた、たのしそー!」
バカラテオ、楽しいだけじゃダメでしょ。ありがとうの気持ちを込めるのよ。一緒に戦ってくれてるみんなと……」
「ジッジさんバッバさんにも、ありがとー!」
「そうだ。かわいい二人の感謝の想いは、ホウエンとアルトマーレの距離も、ポケモンと人間の距離も飛び越え、みんなに届くからね」

「ラティ王、私も二人と一緒に回ってもよろしいでしょうか。後はもう、一斉攻撃でトドメを刺せるところまできていますし」
「わたくしも、グレンさんたちが繋がれた思いを、共に結実させとうございます」
 ホタルとハナが、揃って名乗りを上げる。

「もちろんだ。残りの指揮は作戦本部長である私が預かるから、安心して行ってくるといい。かわいいラテオ、かわいいラテア、二人をよろしくね」
「うん。いこー、おじさん!」
「いきましょー、おばさん!」

――

 ラテオがホタルを、ラテアがハナをそれぞれ背に乗せて飛ぶ。アンヤの南側から西側に向かって、大きく弧を描くと、まもなく、西側で戦ってる仲間たちが見えてきた。
「みなさん、あと一息です!」
「わたくしたち自身の手で、勝利を掴み取りに参りましょう!」
 ラテアとラテオは、その歌でみんなを応援する。

〜待ってちゃダメダメ、むかえにいこう!

「なにあの子たち、歌うまっ。めちゃかわっ」
「ラテアオの歌が聴けるなんて!」
「この戦いに勝って、もっとラテアオに貢ぐぞおおお!」

〜やるときゃやるやる、すぱーとかけろ!

 ラテアオを知らないポケモンでさえも、思わぬ応援に士気が上がる。ラティアスの「ひかりのかべ」が、アンヤの破壊光線の進路を歪ませ、アルトマーレのポケモンたちから逸らす。破壊光線の切れ目を縫って、ラティオスりゅうせいぐんが、プテラはかいこうせんが、クロバットエアスラッシュが、ワタッコエナジーボールが、アンヤ「本体」の最後の指に次々と命中していく。

――

 ホタルたちは、さらに北側へ回る。ラテアとラテオの姿を見るや否や、戦っているポケモンたちが、一斉に歓声を上げる。
「勝利の天使たちのおでましだ!」
「きゃー! 鬼かわー!」
「上に乗ってるヤツ、そこ代われー!」

〜涙も笑顔も、ひとりじゃないぜ!

(グレンには笑顔と……恥ずかしいところを二度も見られてしまったな。生きて帰ってきたときと、一万の応援を知ったとき。いや、グレンがいたからこそ、憚らずに溢せたのかもしれない)

〜いつもいつでも、げんきをあげよう!

(グレンさんはいつも、お子様のような底なしの元気で、失敗を恐れずに真っ直ぐに進んでおられました。わたくしがこの旅で、箱の中から飛び出すことができましたのも、その真っ直ぐに進む姿勢を学ばせていただいたお陰でしょう)

――

 ラテアはラテオに、さらに右手に曲がるように合図をする。アンヤの東側で戦っているポケモンたちが、ラテアとラテオに手や羽を振る。
「ラテアちゃんが、私に手を振ってくれた!」
「ラテアオの前で、下手な戦いは見せられんぞ!」
「アンヤさっさと大人しくしやがれっ。歌が聞こえねーじゃねーか!」

〜ぶつかりあっても、わかりあえるぜ!

(グレンさんとは最初からぶつかってばかりでしたが、仲良くなれたのでしょうか……いえ、もしそうでなくても、またぶつかって仲良くなればよろしいですね)

〜本気も本気、いっしょに走ろう!

(グレンの本気が、番長連合を作り上げた。私も、これからのあるべきおくりび山王国のために、本気をぶつけ続けよう。それがアイツに追いつく、最適な糸口だ)

〜いーくーぜー! うぃーびーぜー!

 ラテアとラテオが全身全霊を込めて、最後の一節を歌い終える。それに合わせるかのように、アンヤ「本体」の指の最後の一本が、瓦解する。
 アンヤは全ての指を失い、長く熾烈なバトルが、ついに終わりを迎えた。残った暗黒の渦の胴体も、散りつつあった暗闇の雲とともに、空の狭間に消えていく。

「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「エダアアアアアアアアアア!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「ああ、うちの子かわいい」
「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」

 アンヤの正真正銘の断末魔をも掻き消し、その場にいる全てのポケモンが、全力で勝鬨を大合唱する。空も地上も、アルトマーレもホウエンも関係なく、全員で勝利の喜びを分かち合った。

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊のカチコミ → 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利 Update!

Comment
 歌は、アニポケ主題歌の中から「スパート」を引用しました。「バトルフロンティア」も候補に上がっていて、ラテザエモンの台詞に、その歌詞「想いは距離を飛び越え、みんなに届く」の名残があります。

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 第三十二話 海は涙を捨てる場所

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三十話 真・竜星群殴り込み艦隊


第三十話 真・竜星群殴り込み艦隊

 アンヤの巨大な暗雲が漂うすぐ外側。次から次へと集まってくるアルトマーレのポケモンたちに、ラティ王が「ゆめうつし」を通じて訴えかける。

「駆けつけてくださった、アルトマーレのポケモンのみなさん。私は、ホウエン地方にあるラティオスラティアスの国の国王、ラテザエモンと申す者です。我々の『ゆめうつし』という技で、みなさんに話しかけています」
「なんだこれ。声と風景が……見える、見えるぞ!」
ラティオスラティアスって、すっげえ強いヤツらじゃん」
「ラテ……ザエモン? えっ、ザエモン?」

「今この暗闇の雲の中では、我が国のラティたち及びその協力者が、竜星群の元凶であるアンヤというポケモンと戦っています。しかしアンヤの力は強大です。この戦いに勝つには、ぜひともみなさんのご協力が不可欠です」
「ああ、もちろんそのために来たんだ!」
「ここは私たちの故郷です。私たちにも戦わせてください!」
「アンヤっつーんか、ぜってーぶっ飛ばすかんな」

「みなさん、ありがとうございます。そこで、暗雲の中で戦っていただくにあたって、二つだけお願いしたいことがあります。みなさんの命を守るための、大事なお願いです。まず一つ目。ぜひとも、攻撃一辺倒にはならず、『ご自身の身を守ること』を常に意識してください。中では、アンヤの強力な竜星群と破壊光線が頻繁に襲ってきます。我々ラティたちができるだけ攻撃を引きつけ、『ひかりのかべ』で軽減しますが、それでも一撃で瀕死に追い込まれるかもしれません。『ご自身の身を守ること』をぜひお忘れなきよう、お願いします」
「身を守るか……わかった!」
「竜星群と破壊光線なら、『ひかりのかべ』は助かるな」
「ラティたち優しくない?」

「そして、二つ目のお願い。それは、傷ついたときの撤退の方法です。暗雲の外に引き返すことができればそれでも構いませんが、怪我や乱戦でうまくいかないかもしれません。そのときは、勇気を出して、そのまま地上へ落ちてください。地上では、我々ラティ王国の者だけでなく、同じくアルトマーレのポケモンのみなさんが、しっかりと受け止める体制を整えています。実際に私も落ちてみましたが、怪我一つなく拾ってもらえました」
「逃げ方まで考えてくれてるのか」
「あとは全力で攻撃するだけだな!」
「ザエモン自分で落ちてみたの? すっげ!」

「ご自身の身を守り、地上にも撤退できる。お願いしたいことは以上です。みなさんのご協力を得た『真・竜星群殴り込み艦隊』であれば、必ずやアンヤに打ち勝つことができます。アルトマーレの明るい未来と新しい時代のために、共に戦いましょう!」

――

「「「日輪の力を借りて、今必殺の……ファイヤードリル!」」」

「エダアアアアア!」
「ヤッタァー! おてての四本目、やっつけたー!」
「倒したらすぐ来る!」
「そだった!」
 アンヤの放つ極太の破壊光線を、ラテアとイーユイは間一髪で避ける。

「イーユイ、あと何発いける?」
「振り絞って……三だ……」
「その三、大事にとっとけ。新人がどこ狙えばいいか目印になっからな。少しずつ時間あけて、ぶっぱなずぞ」
「オレらの必殺技は目立つからな。ただ……見栄張って三っつったが、ぶっちゃけ飛んでるのもしんどい」
「ラテアは……まだ飛べるか?」
「まだまだだいじょぶ!」
「よし、イーユイを抱っこしてやってくれ。お前らの底ナシの体力が、羨ましいぜ」
「うん、わかった!」
「助かる……」

 イーユイ自ら、ラテアの手元にふよふよと収まる。
「イーユイさん、あったかくてかわいいー!」
「だろ。よく言われる。ミヨミヨー」
「それ、人間に抱っこさせたら、ゲンナマもらえるんじゃね?」
「なんだよゲンナマって。それに、人間に抱っことか気持ち悪りいし、絶対ヤだ」

――

「東隊より、四本目の指も撃破!」
 補佐班のラティオスが、ホタルに報告する。
「やったな。こちらでも目視で確認した。あの炎の光、いい狼煙になっているが……グレンとイーユイがやってるのか」
「あそこまで集中攻撃できてれば、勝利は目前ですね!」
「ただし、油断はするな。『本体』が出てきたときと同じように、最後の最後でさらにアンヤの攻撃が激化するかもしれん。各隊補佐班へ『ゆめうつし』で通達。攻撃は現地のポケモンに任せ、私たちは守りを固める。各隊火力の中で『ひかりのかべ』が使える者は壁へ、『いやしのはどう』が使える者は補佐へ回れ」

「ホタル様、海に面した南側から援軍に来てくださっている方々が、減ってきております。四方の編成は、このままでもよろしいでしょうか?」
「なるほど……ありがとうハナ。最後の追い込みに、再編成を考えるべきだな。補佐班、『ゆめうつし』で四方からの援軍の様子を見せてもらえるか?」
「わかりました。準備ができた隊から順次繋ぎます」

 そこへ、他のラティアスが報告に来る。
「グレンさんたちの回復に向かいましたが、『他の治療に当たれ』と突き返されました。あのお二人、ずっと出ずっぱりですよね。大丈夫でしょうか?」
「せっかくの気遣いをアイツら……申し訳ない、代わってお詫びする。あの二人も、マズイと思ったら自分で帰ってくるだろうから、もう野放しにしておこう」

「北と東から、援軍の様子の『ゆめうつし』来ます。順にお見せしますね……あ、西からも!」
「ありがとう、どんどん繋いでくれ」

――

 暗闇の雲の内側に入ってくるポケモンの一団が、グレンの視界に映る。
「いい数の応援が来た……」
「最後の仕事だな……」
「ちゃんと覚えてっか? イーユイ、アレをやるぞ」
「ああ、いいぜ。言う順番はアンタからだからな」

 イーユイは、呼吸を整え、ラテアの腕から飛び出した。そして、アンヤの「本体」に向かって急加速する。
「ラテアも、最後のひとっ飛び頼む!」
「いぇーい!」
 元気よくイーユイを追うラテアの背中の上で、グレンは、改めてハナから教えてもらったことを反芻していた。
「しっぽの先に集中っつってたな……よし、いける!」
 グレンとイーユイは、互いに目配せして息を合わせる。

「螺旋の炎を纏いし竜の!」
「描く軌跡は道標!」

 グレンとイーユイの口上が、暗雲の中に響き渡る。

「勝利を掴めと雄叫び上げて!」
「紅蓮の光が闇夜を穿つ!」

 多くのポケモンたちが、何事かと注目する。

「ねっぷう……早業九連!」
 九筋の炎の旋風が、暴れ狂う八股の竜のようにしなる。しっぽからさらに力の供給を受けた火焔の竜たちは、我先にと一斉に加速し、螺旋を描きながらアンヤへと向かう。

「かーらーのー! ダイナミック……フル……オーバーヒート!」
 イーユイも、巨大な火球を作り出し、さらに全開の「タマオーラ」を纏わせる。残る全ての力を注ぎ込み、紅色に輝く炎の珠をアンヤの最後の指へと解き放つ。

「ギィガァ……ドリルゥ……」
「シャァニングゥ……」
「「「ファイヤードリル!!」」」

 何が何だかよくわからない、なんかもういろいろすごい感じになった巨大な炎の槍が、アンヤの最後の指を直撃する。
「エタアアアアアアアアアア!」
 着弾点に向かって周りの空気が一瞬吸い込まれたかと思うと、瞬く間に凄まじい爆風が巻き起こる。その膨大な熱量は、舞い狂う無数の火の粉を、暗闇の雲に抗うかのように白く激しく輝かせた。

 アンヤを倒すには至らないものの、螺旋の炎の圧倒的な光は、周りのポケモンたちに勝利を確信させるほど、力強かった。
「ラティたち、あんなすげえ技使えんのか!」
「これなら勝てる……勝てるぞ!」
「俺たちも負けてられん、いくぞおおお!」

 反撃の破壊光線がグレンたちを襲うが、もはやかする気配さえない。ラテアもイーユイも、最低限の動きで避けられるようになっていた。
「これで……アタシらは……打ち止めだ……」
「ミヨミヨ……」
 イーユイは、ラテアの腕に帰ってくる余力さえ残っておらず、ゆらゆらと高度を落とす。ラテアは慌ててイーユイを受け止める。
「九連……やべ……」
 グレンも体力の消耗が激しく、まともに立っていられない。

「はぁはぁ……王様ん……とこ……」
「うん、わかった!」
 ラテアは、ラティ王のいる方向を「ゆめうつし」の念波で察知し、勢いよく飛ぶ。
「元気……若さ……」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ → 真・竜星群殴り込み艦隊のカチコミ Update!

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 イーユイをミヨミヨだっこできる「イーユイカフェ」をすると、「タマオーラ」でみんな気分が悪くなって、すぐ営業停止になります。

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 第三十一話 待ってちゃダメダメむかえにいこう

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十九話 今は憚らない


第二十九話 今は憚らない

 補佐班の「いやしのはどう」で、ラテアは自力で飛べるまで回復していた……が。
「バンチョーさん……私のせいで……」
「はねがなかったら、どうなっちゃうの?」
「おばさんも……バンチョーさんを追って……」
「しっぽぐるぐるってまわしたら、とべるん……だよね?」
 グレンとハナの「喪失」を目の当たりし、ラテアもラテオも、とても動ける状況ではなかった。

「二人とも大丈夫だよ。下で補佐班が助けたって言ってたし」
「そ、そうだよね。よかったー……」
「そうだと……いいけど……」
 ラティ王が取り繕っても、重たい空気を拭い去ることができない。

 漂う戦場の沈黙を、補佐班のラティたちが打ち破る。
「ホタルさん、東はもうダメです! 破壊光線が集中して、火力に回れる者がいません!」
「北より『ゆめうつし』で連絡あり。北は壊滅状態と判断し、部隊を解散。西に合流します」
「くそっ。破壊光線の間隔が短すぎる!」
「前はもっとゆっくり……アレの半分くらいだったはずだぜ。アイツが出てくるの久しぶりなのに、どこでレベル上げてきたんだ……」
 さすがのイーユイにも、気持ちの翳りが垣間見える。
「すまん、ほんの少しだけ時間をくれ。『めいそう』に入る」

――

……どうする。想定以上に、四方の戦況が芳しくない。直接的な原因はただ一つ、「本体」からの破壊光線の乱射だ。破壊光線にしろ竜星群にしろ、なぜあれだけ継続して打てる。その仕組みがわかれば、戦況は好転するのか。いや、もともとアレは、常識を超えた未知の存在だ。それは「本体」を引き摺り出した今でも、何一つ変わっていない。これから多少やり方を変えたとしても、未知が未知のままで終わる可能性が高い。乱射の解明は糸口にならない。

「下の方が騒がしいようだな。アルトマーレのポケモンたちが集まっているのか」
「あ……たぶん、うちのパオとディンが『人間に復讐だー』っつって暴れてるんすよ。さーせん」

……こうなった以上、撤退も視野に入れるべきだ。判断が遅れれば、それだけラティたちの犠牲が増える。イーユイに非難が及ばないような理由付けが必要だが。それは後から考えればいい。つまるところ、撤退が糸口になるかどうかは、ラティの犠牲とアルトマーレへの恩とを天秤にかけた判断になる。まずはラティ王に相談するべきだ。

「かわいいラテア、かわいいラテオ。作戦本部の場所はわかるかい。ママが待っているところだ」
「黒い雲で見えないけど……お城と海が見えたらわかる……かな……」

……切り札はまだある。ラテアオの歌で士気を上げることだ。ただ、士気を上げるということは、ラティたちに物理的な無茶をさせるということと同義。ラティたちの身の安全を優先するなら、撤退を先に検討するべきだ。なにより、歌の要であるラテアオが、グレンとハナのことでそれどころではない。グレンとハナ……私が声をかけたばっかりに、グレンとハナは……

――

「ホタル君……ホタル君!」
 ラテオの背に乗るホタルの顔を、ラティ王がぐわんぐわんと揺らす。
「あっ、すみません。私が声をかけたばっかりに……」
「ん……とにかく、子どもたちを本部まで返したいから、私の背中で指揮を取ってくれないか」
「わかりました。その方が、二人にとって安全ですからね」
「ありがとう。というわけで……かわいいラテアにかわいいラテオ、ママのことを頼んだよ。二人で『ひかりのかべ』を張って、お互いを守り合えば、破壊光線だってへっちゃらだ」
「うん……わかった……」
「すみません。この子たちのことにまで、気が回らなくて」
「謝ることじゃない。それぞれができることを、できる範囲でがんばればいい」

「……」
「ねえ。あの声……」
 地上から聞こえてくる騒ぎ声の中に、ラテアが気づく。

「……」
「なんかきこえるね」
「あれは……」
 ラテオとホタルも気付いたようだ。

「……」
「もしかして、バンチョーさんじゃない?」

「ぅぉぉぉぉぉ」
「やっぱりそうだよ、バンチョーさん!」
「バンチョーだ、ヤッタァー!」

「うおおおおお!」
「ひいいいいい!」
 グレンとハナが、オオスバメたちに掴まれて、一気に飛び上がってきた。

ホウエン番長連合総代、グレンだああああ!」
「みなさん、ご心配おかけして、申し訳ございませんでした!」
「あのお嬢さん、生きるためのお迎えにいってたんだな。やるじゃねえか!」
「あれがキュウコンの『人に化けた姿』か。たしかに、私たちの変身よりずっと上手だ」

 一同のさらに頭上まで上昇したところで、オオスバメたちはグレンとハナを手放す。
オオスバメのお二方、ご協力感謝致します!」
「ラテア、無事でよかった。また頼むぜ!」
「うん!」
「お背中、改めてお借り致します」
「もちろんだ」

 グレンとハナは空中で、人に化けた姿からキュウコンの姿に戻る。そして、それぞれラテアとラティ王の背に着地する。

「パパ。ぼくもこのまま、おじさんといっしょにたたかうね。おーこそ、まえー!」
「そうだな。ラテオには引き続き参謀君の護衛を任せよう。超重要な任務、できるかなー?」
「もちろんできるよ、まかせて!」
「おおえらいなー、かわいいなー!」

――

「ホタル、面倒かけたな。カチコミはどうなってる?」
「……」
「ん……なんだ。泣いてんのか?」
「うるしゃい……作戦中だ」
「泣いてんだろ。泣いてもいいんだぜ。またアレやってやろっか?」
「しょういうのは後にしてくれ」

「はいはい。見たとこ、『本体』の指一本は詰めてるじゃねーか」
「だが、しょこからが膠着している。指一本に対して、こちらからの竜星群が百発ほど必要だった。残っているラティたちの体力を考えると、うまくいっても壊せるのはせいぜい三本目まで。残り二本を破壊するだけの戦力が、どう考えても足りない」
「破壊光線が、厄介そうだな」
「アレの頻度が想定の倍だ。そのせいで消耗が激しいのが、致命的すぎる……」
 ホタルの声が、また別の震え方をしている。不安と重圧に抗っているのだろう。

「ラティ以外の戦力が集まってるのは、気づいてるか?」
「ああ。オオスバメ以外にも、プテラワタッコクロバットエアームドピジョット……アルトマーレのポケモンたちが、ちらほら手伝ってくれてるな」

「地上で見て来たんだけどさ、ここのポケモンたちは、みんな仲良しこよしなんだ。人間の街にたくさんポケモンが住んでるの、お前も港町で見ただろ。ポケモン同士もあんな感じで、ナワバリを超えてみーんな助け合ってる。しかも、この竜星群の中でだぜ。ホウエンとは大違いだ」
ポケモンの国境……という考え方自体がないんだな」
「ああ。ホウエンの中で『山』とか『組合』とか言ってケンカしてるアタシらからすれば、信じられない連中だ」
「私たちよりもずっと『進化』してるんだな。だから、作戦や指示がなくても、率先して駆けつけることができるのか」

「アイツら、どんくらいいると思う?」
「戦力のアテにしようというのか? 数十、いや寄せ集めなら数百いたところで……」
「飛んでるヤツらだけでも、少なくとも……一万」
「いっ……一万だと⁉︎ お前、数え方知ってるのか? ひゃく・せん・いちまん、だぞ!」
「あーホタル君。今のそれは、乙女心が『だいばくはつ』だな」
「えっ、これも……はい。ごめんなさい」

「こっからだとアンヤの雲みたいなヤツが邪魔だけど、オオスバメでここまで上ってくるときに見えたんだ。味方が七分に空が三分。いいか、味方が七分に空が三分だ」
「そ……」
 のしかかっていたものが、ほろほろと崩れ去っていく。

「それは……それは……」
 涙を、今ははばからない。
「ああ。圧倒的な数の暴力で……」

「「勝ち確だ」」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す

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 「しょういうのは後にしてくれ」ってことは、またあの「だきしめる」を後でやってほしいってことなんですかね。そこんとこ、どうなんですかね。

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 第三十話 真・竜星群殴り込み艦隊

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十八話 半ではなくて全ですね


第二十八話 半ではなくて全ですね

 城下町の広場の中央で、グレンは大きく息を吸う。
「てめえらあああ! アタシはあああ! ホウエン番長連合総代いいい! グレンだあああ!」
「なんだあのキュウコン。あの帽子と牙の仲間なのか?」
「いや。さっきまでにらみあってたからな、きっとオレたちの味方だ!」
ホウエン番長連合って、聞いたことあるぞ。なんかかっけぇーヤツらだ!」
 周りを囲んでいたポケモンたちが、ざわついている。

「そしてえええ! 上で戦ってるううう! 竜星群殴り込み艦隊のおおお! 隊長だああああ!」
「なぐりこみ……艦隊?」
「どっかの島国で、そんな場所なかったっけ?」
「竜星群つってたから、アレを止めてくれるんだよ!」
 この竜星群の危機に立ち向かっているポケモン……そう捉える者も出始めた。

「お前たちにいいい! 頼みがあるううう! 寄ってこおおおい!」
「頼みだってよ。アレを止めれるなら、なんだってやるぜ!」
「隊長が言ってんだ、きっといい手があるに違いない」
「あっちからも、もっとポケモン呼んでこい!」
 多くのポケモンが、グレンに期待の眼差しを向けていた。

――

 グレンの絶叫とハナの呼び込みで、広場は千人近いポケモン鮨詰めになっていた。さらに集まろうとしてるポケモンたちも大勢いる。

「あんな街中に響く『ばくおんぱ』をお使いになるなんて、存じませんでしたわ。グレンさんのこと、ぎりぎりキュウコンだと思っておりましたが、本当はバクオングでいらっしゃったんですね」
「そいつは聞き捨てならねーな。アタシの評判のイイ声を、もうちょっとコイツらに聞かせっから、その後でお前の相手をしてやんぜ」
「時間がないのは存じております。さっさとお始めになってくださいませ」

 集まったアルトマーレのポケモンたちに、グレンは手短に用件を伝える。
「みんな集まってくれてありがとな。今この街に降ってきてる竜星群を止めるために、上でお前らの仲間たちが戦ってくれてる。ただ、敵の力はむっちゃヤベー。ようは、お前らの仲間たちがやられて、『上からどんどん落ちてくる』かもしれねーっつー話だ」
 ポケモンたちのざわめきから、心配と不安が滲み出ている。
「そこでお前たちに頼みたいのは……上から落ちてきた仲間を、『みんなで受け止める』ことだ。あの高さだ、拾いそこなったらマジで死ぬからな。受け止め方のコツを、得意なヤツから説明してもらう」

「わたくしは、ホウエン地方おくりび山王国副王の娘、ハナと申します。受け止める際に大事なことはただお一つだけ……一度にお止めになるのではなく、層のように『何回かにわけてお止めする』ことです。一度にお止めになろうとすると、反動が大き過ぎて、地面にぶつかるのと変わりません。こごえるかぜ、エレキネット、フェザーダンス、このは……みなさんのお得意な技で構いませんので、少しずつ何度も繰り返して、衝撃を柔らげてくださいませ」
「すまんが時間がねーから、今質問は聞けねえ。ここで聞いたことを、これから集まってくる他の連中にも伝えてやってくれ。そして、なるべくたくさんの仲間を、助けてやってほしい」

 続いてグレンは、ポケモンたちの中で居心地悪そうにしているディンルーとパオジアンに、視線を向ける。
「あと、そこの二人ももうダチだ。これ以上この街は壊さねえって、約束してくれた」
「どーもー。ダチでーす」
「お前らのニョロニョロと帽子も、ポケモンたちを受け止めるのに使えるだろ。しっかり働いてくれよ」
「ふん。好きにしろ」

「じゃあみんな、頼んだぞ!」
 グレンは、今一度大きく息を吸う。

「お前たちもおおお! 竜星群殴り込み艦隊のおおお! 仲間だあああ!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「このカチコミいいい! みんなでえええ! 勝つぞおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」
「うおおおおお!」

 街に集まった大勢のアルトマーレのポケモンたちが、一斉に歓声をあげる。
 千を束ねたその「おたけび」は、アンヤと戦う上空のポケモンたちにまで届くほどであった。

――

「では、わたくしたちも……」
「とっとと戦線復帰だ!」

 傍らで待機していたオオスバメは、またいつの間にか仲間を呼び、二人に増えている。
「上まで全速力で頼む!」
 持たれやすいよう、グレンとハナは人の姿に化ける。二人をガッと掴んだオオスバメたちは、大きな翼を全力でしならせ、空に向かって一気に上昇する。

「ひいいいい風ええええ!」
「うおおおお圧うううう!」
「姐御、大丈夫ですかい?」
「このままああああいけええええ!」
「あいよ!」
「ひいいいいいい」
「うおおおおおお……お?」

――

 その頃、レベッカとチオンジェンは、アンヤから遠ざかるために、引き続きアルトマーレを北へと向かっていた。

「ハナさん、そろそろ彼のところへ行けたかしらね。『役割』って言って私たちに付き合ってくれてたけど、あんな話を聞かされたら、意中の彼のところへ送り出してあげなきゃ、ポケモンが廃るってものよ。だって、ハナさんのお父様、ほんと酷いわよね。絶対に他所では言うなって言われたけど、今ならね、私とレベッカさんしかいないから大丈夫よね」
「ええ、アタシもホウエンの者ではないので、お国の事情はよく知らなかったんですけど……怒涛の勢いで愚痴こぼしてて、よっぽど鬱憤が溜まってたんでしょうね」
「だってあんなお父様ナイわよ。そりゃあね、お金と権力があるのば、子どもとしては有難いことよ。でも、だからといって子どもに酷いこと命令したりとか、道具みたいに扱うとか、そういうのは絶対ダメ。意中の彼を暗殺しろだなんて、論外も論外よ。ここにいたら、私たち二人で半殺しにしてたわよね」
「『半』ではなくて、『全』ですね」
「あらあら、レベッカさんも言うわね。いいわよ、そういう子大好き。レベッカさんも、そういう話が何かあったら、なんでも相談のってあげるわよ。キュウコンさんほどではないけど、私も相当長生きしてるから、ひょーっとしたら何かのお役に立てるかもしれないわ」
「アタシは……そうですね……」
「もしかして話づらかったら全然いいのよ。言いたいことも言いたくないことも、それぞれあるものね。それにしても……お気づきになったかしら。ここのポケモンさんたち、みーんなお城の方に走って行ってるの。あ、もちろんお空を飛んでる子も多いわね。私もお空が飛べたら、もっと楽にビュビューンって行けるのに。レベッカさんに迷惑かけちゃって、ほんとごめんなさいね」
「これがアタシの『役割』ですから、むしろ運ばせてくださいよ。確かに、みんなお城の方に向かってますね。アンヤの竜星群があって危険なのに……」
「他の地方でアンヤさんが出てきたときは、その土地のポケモンさんも私と同じようにアンヤさんから離れる方に逃げてたんだけど……きっとアレね、竜星群で困ってる街のポケモンさんたちを、みんなで助けに行ってるんだわ。こんなの初めてだし、ここのポケモンさんたち、ほんとすごいことよ」
「そうなん……ですかね」
「アルトマーレのポケモンのみなさんなら、ひょっとしたらアンヤを……レベッカさん、ちょっと休憩していかない?」

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Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す

Comment
 グレンが「隊長」と自称していたのは、話を聞いてもらうための出まかせです。番長連合をまとめるだけのカリスマ的な素質があるので、こういう咄嗟の機転が本能的に働く感じです。

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 第二十九話 今は憚らない