第二十六話 食ってるもんが違うんだろな
「「「一惑星完全燃焼! ファイヤードリル!」」」
「エタアアアアア!」
グレンとイーユイの「炎の槍」を喰らい、アンヤはひと際大きな咆哮を上げる。
「やっぱ、必殺技の名前があると、火力も上がるな!」
「名前を考えたのはオレだからな、感謝しろよ!」
「名前を決めよーっつったのはアタシだからな、アタシにも感謝しろよ!」
「二人ともありがとー!」
「「「いぇーい!」」」
さらに、周りのラティたちの「りゅうせいぐん」や「りゅうのはどう」が、アンヤの中心部に次々と命中していく。
「エダアアアアアアアア」
これまでにない、断末魔のような不気味な叫びが、ひとしきり続く。
「やったか⁉」
まだ日没には早いにも関わらず、辺りが俄かに暗くなっていく。アンヤから滲み出てきた暗雲に、覆われつつあるのだ。重く不気味な空気に気圧されて、ラティたちの攻撃も、グレンやイーユイの手さえも、止まる。
「おててだ……」
アンヤの中心部からヌズヌズと生えてきた「本体」を、ラテアはそう形容した。
――
「さあ、竜星群殴り込み艦隊!」
「こっからが本番……」
グレンに合わせてイーユイが叫ぼうとした瞬間、アンヤの一本の指先が赤紫色に光る。そして、極太の破壊光線が、グレンとラテアのいる場所を襲った。
「くそっ!」
グレンは全体重をかけてラテアの背中を蹴り、右へ跳ぶ。その反動でラテアは左……破壊光線の射線の外へと押し出される。
「「キャアアアアア!」」
ラテアを庇ったグレンが、破壊光線の直撃を受けて弾き飛ばされる。ラテアも直撃こそ免れたものの、衝撃の余波で気を失い、グレンと一緒に落下してしまう。地上にはアルトマーレの城が小さく見える。この高さから落ちたら、ひとたまりもない。
「マジかよ!」
ラテアはどうにか自力で飛んでくれ……そう祈りながら、イーユイは必死にグレンを追う。
「届かん……くそおおおお!」
しかしイーユイの速度では、グレンの落下の加速に追いつけない。
「かわいいいいいラテアアアアア!」
落下するラテアを拾い上げたのは、ハナを連れてきたラティ王だった。
「ラテアさん、お怪我は大丈夫ですか⁉︎」
「パパ……おばさん……」
「パパはグレンちゃんを追う! 一人で飛べるか?」
ラティの速さなら、落下するグレンにまだ追いつける。
「私……ダメ……」
衝撃でラテアが受けた傷は深く、自力で飛ぶことができない。
「そんな……グレンさん……」
「誰かおらんのか!」
「でんこうせっか!」
ふいに、ラティ王の体がガクンと「上に」あがった。意図せず背中が軽くなった反動だ。
絶望に暮れるイーユイの脇を、琥珀色の何かが通り抜ける。この場で琥珀色といえばキュウコンしかないが、ホタルは色違いで青みがかった毛色のはず。別のキュウコン……ハナだ。
「おいおい……アイツ、なにお迎えに行ってんだよ……」
――
「認めましょう。グレンさんが恋敵でいらっしゃると。そしてわたくしの勝ち目が、薄氷のように薄いことを。しかしながら、みすみす救える命を、失わせるわけには参りません」
ハナは、さらに「でんこうせっか」で加速する。グレンに追いつくまでの速さは、どうにか確保できそうだ。
「『王こそ前へ出よ』……ラティ王国のお言葉の『王』にわたくしが含まれるかは存じませんが、グレンさんを庶民とお呼びする以上、わたくしにも前へ出る責務がございましょう」
しっぽをえいえいっと小刻みに振る。炎キュウコンの姿が光に包まれ、氷キュウコンへと「衣替え」した。
「お父様は、様々な技の『応用』を、わたくしにお教えになった。殊に、汎用性が高いエスパー技と、様々な物を形作れる氷技を中心に。おそらく、わたくしを暗殺者や密偵として利用するためだったのでしょう。しかしながら、これからは……わたくし自身が、わたくしの意志で、利用させていただきますわ!」
――
「あーあ……ヘタこいちまったな」
まっすぐ落下しながら、グレンは天を仰ぐ。
「あんな速攻で、第二段階の破壊光線が来るかー。アタシとしたことが、油断した」
上空のラティたちが小さく見える。竜星群と破壊光線に、苦戦しているようだ。
「あのアンヤとのケンカで死ぬ……それもアリか。今までじゅーぶん楽しかったし」
破壊光線の傷は、それほど問題ではない。しかし、落下を止める手段がない。
「ラテアには、悪いことしたな。自分が殺したとか思わんでほしい」
目を閉じると、残していったものが、走馬灯のように思い起こされる。
「番長連合のみんな……は、まあアタシがいなくても大丈夫だろ」
おくりび山からの逃走、キンセツ学園のつまならい授業とケンカの日々、そしてそこへ訪れたアルトマーレへの招待。
「『だきしめる』したホタル……いい匂いだった。いいとこのおぼっちゃんは、食ってるもんが違うんだろな」
そのとき、冷たい何かが、グレンの横を通り過ぎていった。
「さっむ!」
――
「こなゆき! フリドラ!」
落下するグレンを追い越したハナは、無数の「こなゆき」と「フリーズドライ」を、地表に向かって放つ。交互に折り重なった雪と氷は、瞬く間に、キョダイダストダスのような「氷の丘」を形造った。
「すぅーっ……ふぶき!」
ハナはさらに、真下の「氷の丘」に向かって、渾身の「ふぶき」を放つ。逆噴射の作用で、ハナの落下速度が緩まる。そして幾層にも重なった「氷の丘」が、緩衝材となってハナの体を受け止めた。超高度からの着地に、成功したのだ。
休む間もなく、ハナは必死に技を打ち続ける。
「こなゆき! フリドラ! こなゆき! フリドラ!」
尋常ならざる連続技で、グレンが落下してくるであろう地点に、二つ目の巨大な「氷の丘」が出来上がる。
「これで止まって……ふぶき!」
すぐそこまで落ちてきているグレンに向かって、さらに「ふぶき」を放つ。猛烈な風雪は、グレンの体を雪で包み込むと同時に、上空に向かって煽り上げた。
「受け身っ!」
そう叫ぶハナの声を耳にしたグレンは、「氷の丘」に接触する直前で、その身を翻す。無数に重なった雪と氷の層が、激しい音を立てながら、グレンの体を受け止める。
「いってえええええ! 死ぬほどいてえええええ!」
グレンは、激痛に身悶えながら、全身で息をしているハナと目が合う。ハナも、相当体力を消耗しているようだ。
「ハナ……お前マジか……」
「はぁ……はぁ……あなたって人は……」
「ありが……」
ペシン。ハナのしっぽが、グレンの顔をはたく。
「早々に……諦めていらっしゃいましたよね!」
「いってーな……お前と違って、アタシはいろいろ喰らってんだよ……」
「そうです! あなたのお体を案じる方が、あなたを大切に思われている方が、いらっしゃいるでしょう! それなのに、どうしてあんな腑抜けた顔で、目までつむって、お命をお捨てになろうとされていたのですか!」
「んなこと言ってもな……技の反動で助かるーみたいな話はあっけど、あの高さだったら、どう足掻いてもムリだろーよ。あんな氷の塊で助かるとか、しらねーし」
ハナは、少しずつ呼吸を整える。
「レベルを上げて物理で殴るのが精一杯のグレンさんでは……その程度のお考えが……関の山でございましょう……」
「はいはい、すみませんね」
「それに……あれはただの氷の塊ではございません。氷の『層』があったからこそ、助かったのですよ」
「そ、そう……だよなーあはは」
「硬い氷では落下の衝撃を吸収できませんし、柔らかい氷では強度が足りません。なので硬い層と柔らかい層を交互に繰り返し重ねることで、このように高いところから飛び降りても、生き延びることができるのです」
「高いところから飛び降りるとか、アギルダーやゲッコウガじゃねーんだし、そうそうねーってば。それに、あんな一瞬で繰り返し……重ねる……みたいなやつ? よくできたもんだな」
「はぁ……アルトマーレへの航海中にお話しした『早業九連』、やっぱり聞いていらっしゃらなかったのですね」
――
Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す Update!
Comment
アンヤ「本体」のビジュアルは「ムゲンダイナ(ムゲンダイマックス)」と酷似しています。あと、英語で「fire drill」は「消防訓練」という意味らしいです。必殺技の名前的に、最高にダサくて好きです。
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第二十七話 早業九連