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しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十五話 王こそ前へ出よ


第二十五話 王こそ前へ出よ

 チオンジェンとレベッカに同行してアンヤから遠ざかっていたハナだったが、今は二人と別れ、ラティアスの背中に乗っていた。

「お背中を拝借するご無礼をお許しください。まさか、ラティ王国の王妃にあらせられるラテス様が、直々にお迎えにいらっしゃるとは、思ってもおりませんでした」
「いえいえ、お気になさらず。私が望んで買って出た役ですので」
 ラテスは、アルトマーレの城の西……作戦本部のある丘へと、一直線に向かう。

「ハナさんのお国だと、王族の者がこのように率先して行動するのは、不思議に見えるものですか?」
「おくりび山でしたら、このような際は、警察部か執行部のキュウコンがお伺いしますね。王族の方が直接動かれることは、まずございません」
「そうなんですね。我が国には、『王こそ前へ出よ』という言葉があるんですよ。高い地位にある者こそ、こうした非常時には、矢面に立って動くのです」
「高い地位の方ほど……でございますか」
「私たちは普段、国民のみなさんのおかげで、贅沢な暮らしをさせてもらっています。その平時の恩を返すために、いざというときには、危険を冒してでも前へ出るのです」
「思い返してみますと……最初にアンヤが現れ、竜星群が降り始めたとき。ラテア様とラテオ様は、お迷いなるご様子もなく真っ先に、アンヤの元へ飛んで行かれました。きっと、『王こそ前へ出よ』を実践されていたのですね」
「あの子たちがそんなことを……子どもはいつの間にか、大きくなっているものですね」

「ラテス様、あの『だいもんじ』は……?」
 上空に、炎で「大」の文字が描かれているのに気付く。
「あれは、作戦の開始を告げる狼煙……アンヤへの総攻撃が始まったようですね」
「ラティ王国のみなさんによる一斉攻撃。ホタル様が前線で指揮を取っていらっしゃる……というお話でしたね」
「はい。建前はイーユイさんという方が指揮官だそうですが、実際はホタルさんが中心でしょう」
「イーユイ様……パオジアン様やチオン様のお仲間とも、合流されたようですね」

「ハナさんは、ラテザエモンが待つ作戦本部まで、お送りしますので」
「ラテ……ザエモン? えっ、ザエモン?」
 ハナは思わず、二度聞きしてしまう。
「あ……いえ、もしよろしければわたくしも前線に出させていただいて……」
 戸惑っている間に、ラテスは作戦本部に着陸してしまった。

「ご紹介します。こちらが、夫のラテザエモンです」
「初めまして。ラティ王国国王のラテザエモンだ。この作戦の作戦本部長……ということになっている」
「初めまして。わたくしは、おくりび山王国副王の娘ハナと申します。国王様にお会いできまして、光栄至極にございます」
「戦時だからな。堅苦しい挨拶は抜きで、大丈夫だよ」
「承知いたしました。お気遣い、恐れ入ります」

「で……ラテスちゃんが帰ってくるの、ずっと待ってたんだよー」
「はいはい。ラテザエモンも、さっさと前線に行きたかったんだよね」
 ラティ王の様子が急に家庭内のそれに変わり、ハナは戸惑いを隠せない。一方、周りにいる護衛のラティたちは、「いつものこと」と特に気にする様子もない。

「ここで待ってなきゃダメだって、ホタル君が言うから……」
「お偉いさんにしかできない仕事もあるから、仕方ないでしょ。勝ったよーっていう宣言とか、マズいときの逃げるよーっていう判断とか」
「そういうのは、ラテスちゃんに任せた。『王こそ前へ出よ』だし、私が前に出れば、もっとみんなの士気が上がると思うんだ」
「本音は?」
「かわいい子どもたちの側に居たい!」
 ラティ王は恥ずかしげもなく、元気よく言い放つ。
「素直でよろしい。じゃあ行っておいで……って、そういえば、ハナさんも前線に行きたいんでしたっけ?」
「一緒に行きますか、竜星群殴り込み艦隊へ」

「え。何なのでしょうか、そのダサ……個性的なお名前は」
「ハナさん、はっきり仰っていいですよ」
 ラテスは、ラテザエモンに問いただす。
「そんな勢いだけで考えたような素っ頓狂な名前、私がハナさんを迎えに出発したときは、決まって無かったはずだけど?」
「決起集会の直前に提案されたんだ。ホウエン地方の天下分け目の戦で勝利を収めた作戦にあやかって、縁起がいい名前だって言ってたよ」
「殴り込みなどという乱暴なお名前、おくりび山でも伺ったことがございません。『天下分け目の戦』と仰るのも、どうせグレンさんのケンカのお話でございましょう」
「そうそう。そのグレンちゃんっていう子、なんかすごかった。ホタル君以上にどんどん作戦の案が出てくるのもびっくりだったけど、決起集会のグレンちゃんのスワンナの一声で、みんなの士気がぐぐーんと上がったからね」
「アレは……おくりび山のキュウコンの恥だとばかり思っておりましたが、みなさんのお役に立っているようで喜ばしい限りです。もしご入用でしたら、このままラティ王国で召し上げていただいても構いませんが……」
「あらあら、ハナさんの恋敵ってところかしら。でも、嫌な女を演じるよりも、直接王子様に会って点数を稼ぐ方が、よろしいのでは?」
「はっ……大変失礼なお話をしてしまい、申し訳ございません」
「気にしない気にしない。私だって似たような経験、山ほどあるから。ほら、ラテザエモンもさっさと準備して、ハナさんを乗せてってあげなさい。怪我でもさせたら、承知しないからね」
「うん、わかった!」

――

 アンヤの渦の下で、イーユイと大勢のラティたちが激しい空中戦を展開している。グレンはラテア、ホタルはラテオの背中に乗り、イーユイと共に竜星群の合間をすり抜けるように飛び回っていた。

「ラテア、右から攻めるぞ!」
「うん、わかった!」
 背中のグレンの指示に従って、ラテアは降ってくる竜星群の右手に回り込みながら、アンヤとの距離を縮める。

「ねっぷう!」
「かーらーのー、かえんほうしゃ!」

 イーユイの放った「かえんほうしゃ」が、グレンの「ねっぷう」を纏い、激しく輝く一本の炎の槍となって、アンヤの中心部に直撃する。
「エタアアアアア!」
 攻撃が効いているのか、アンヤの咆哮が響く。

「イーユイ、やるじゃねーか」
「この合体技イイな。ガンガンいこうぜ!」
「バンチョーさんも、イーユイさんも、かっこいい!」
「お姫さまのお墨付きもらったぜ。いぇーい!」
「ラテアもいぇーい!」
「いぇーい!」

「ぼくたちは、たたかわなくていいんですか?」
「ああ、このまま大人しく見回ろう。もともと攻撃は、ラティのみんなに任せる作戦だからな。私たちは、全体を見渡して、困ってる班がいないか気を付けるのが役割だ」
「でもおねーちゃんたちは……」
「グレンたちも同じ見回り役のはずなんだが……まあ二人がああなるのは、最初から織り込み済みだ」

「あっ……あっちの『ひかりのかべ』よわってない?」
「ほんとだ、偉いぞ。やっぱり二人分の目があると助かる」
「えへへー」
「あっちに移動して、ラテオも壁を頼む」
「うん、わかった!」
 ラテオはアンヤの西側に、大きく弧を描いて旋回する。

「西壁、大丈夫か?」
「ホタルさん、西壁の班長です! 補佐まで負傷者が出ていて、壁張りが追いつきません!」
「補佐が救援の『ゆめうつし』を出す余裕もないということか」
 西の部隊は、アンヤから降り注ぐ竜星群を避けるのが精一杯で、攻めあぐねている。ラテオも加わって「ひかりのかべ」を張るが、それでも予断を許さない。
「火力から三人、壁に回ってくれ。西は火力を十から七に減らす。西補佐の班長はいるか!」
「私です! 補佐の人数も増やせませんか?」
「南は余力があるから、そっちから西へ人員を呼んでくる。あと二分持たせてくれ」
「助かります。みんな、あと二分持ち堪えろ!」

「みんな、がんばってー!」
「ラテオきゅんが応援してくれてる!」
「きゃーかわいいー!」
「ラテオ、今度はあっちに急ぐぞ!」
「うん、わかった!」
 ラテオは南へ進路を変えて加速し、一気に南隊へ駆けつける。

「南補佐の班長は、あなたでしたね」
「ええ、西は大丈夫そうですか?」
「かなり厳しい。二人……できれば三人、補佐か壁ができるのを回せないか。あっちには二分で来ると言っている」
「三人出せます。火力にも『いやしのはどう』まで使えるのがいますので」
「助かる。戦況は余談を許さない。状況を見て、現場の判断でもっと融通してもらって構わない」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ

Comment
 ラティ一家のネーミングがネタ切れして、パパの名前はテキトーになりました。あと、「王こそ前へ出よ」は、一般的な西洋貴族の文化にあった「ノブレス・オブリージュ」そのまんまです。

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 第二十六話 食ってるもんが違うんだろな