ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三十一話 待ってちゃダメダメむかえにいこう


第三十一話 待ってちゃダメダメむかえにいこう

 四方の援軍の様子を「ゆめうつし」で確認したホタルは、最後の追い込みの指示を出す。

「援軍の数は、やはり北からが多い。その分アンヤからの攻撃も北方向が激しいな。西から北に戻った部隊に加えて、さらに西から四割を北へ送れ。空いた四割は南から補う。南は六割に縮小、様子を見る程度でも構わない」
「はい! 各方面の補佐へ通達します!」

「どちらの方角がアンヤにとって危険なのか、アンヤ自身が気づいていらっしゃるようですわね」
「『本体』が出てきた直後はまだ、『手当たり次第に攻撃している』感が強かったからな。私たちが作戦や陣形を適宜変えているように、アンヤも、経験を踏まえて少しずつ適応しているんだろう」
「アンヤは……本当にポケモンなのでしょうか。わたくしには、あちらがわたくしたちと同じ生き物のようには、感じられないのです」
「そうだな。仮に未知の伝説ポケモンだったとしても、行動基準が不可解……というか不気味過ぎる。普段はパオジアンたちの上司として正しい行いをしているようだが、今回のようにひょんなことで豹変し、暴れ出す」
「あまりにも異質と申しますか、心を感じないと申しますか」
ポケモンでも、ましてや人間でもないとしたら……なんだと思う?」
「これもおくりび山の伝承部の言い伝えですが、セレビィ様という『時をお渡りなるポケモン』のお話がございます。もしセレビィ様か、またはセレビィ様と同じようなお力をお持ちの方が、遠い未来からお連れになった存在……かもしれないと考えております」
「未来か……私たちポケモンも人間も、年月をかけて少しずつできることが増えているからな。ずっと先の未来では、アンヤのような強大な力を手にすることができるのかもしれない」

「ホタルさん、一つご報告よろしいでしょうか。いいご報告です」
「余計なお話が過ぎましたね。申し訳ございません」
「いや、私も気になってたことだし、むしろ助かったよ」
 ハナに礼を言うと、補佐班のラティオスに応える。
「待たせた、報告を頼む」

「『ゆめうつし』で見せてもらったのですが、東側のアンヤの暗雲に綻びが出ています。先ほどの螺旋の炎の光のときと同じくらいの、大きな綻びです。それに伴い、東方面への竜星群や破壊光線の威力が、明らかに落ちているのです」
「あの雲が、アンヤの攻撃を補助する天候のようなものだった……ということか。この弱体化を利用しない手はないな」
「私も東の隊長も、同じ意見です。東隊の攻撃効率が劇的に改善していたのも、その為かと思われます。さらに東補佐の話によると、ポケモンたちの『羽ばたき』による風で、暗雲が散っているとのことです」
「そういえば、東にはプテラオオスバメ……大きな翼のポケモンが多かったな」
「我々ラティの飛び方では暗雲を散らすには至らないようなので、彼らの『羽ばたき』というのは盲点でしたね」
「それに、この圧倒的なまでのポケモンの数だ。『羽ばたき』の回数が、単純に激増しているのもあるだろう。やはりこの戦い、私たちだけでは勝てなかった。アルトマーレのポケモンたちの勝利と言う他ない」

――

「パパー、ただいま!」
 ラテアが元気よく帰還を報告する。
「かわいいラテア、怪我はないか⁉︎」

 イーユイは、既にラテアの腕の中で眠りこけている。グレンも、ラテアの背中にぐったりとうなだれており、言葉にならない声を発している。
「あと……たの……む……」
「いつも体力が有り余っているグレンさんがここまで……前線でみなさんの旗印になっていただき、ご苦労様でした」

「おねーちゃん、おかえりー!」
 ラテオも姉の帰りを嬉々として迎える。
「ありがとう、ラテア。グレンが世話になった。二人は……一足先に夢の中のようだな。二人もありがとう」
 ホタルは、既に気を失っているグレンとイーユイに、優しく声をかけた。

「おじさん、あのおててまだ倒せてないよ。もうちょっとだけがんばろ!」
「ぼくたちで、ぶんなぐる!」
 まだまだ元気いっぱいのラテアとラテオに、ラティ王がわざとらしく咳払いをする。
「かわいい二人には、最後の大事な役目をお願いするよ。喉の準備をしておきなさい」
「おうただね、わかった!」
「みんな戦ってるけど、『ゆめうつし』でライブハイシンしちゃっても大丈夫なのかな」
「『ゆめうつし』を見てる間は、周りが見えなくなって、さすがに危ないからね。『ゆめうつし』じゃなくて、かわいく歌いながら、かわいく飛んで、全ての部隊をかわいく回るんだ」
「参謀としてもぜひ、最後の追い込みを二人に後押ししてほしい」
「とびながらおうた、たのしそー!」
バカラテオ、楽しいだけじゃダメでしょ。ありがとうの気持ちを込めるのよ。一緒に戦ってくれてるみんなと……」
「ジッジさんバッバさんにも、ありがとー!」
「そうだ。かわいい二人の感謝の想いは、ホウエンとアルトマーレの距離も、ポケモンと人間の距離も飛び越え、みんなに届くからね」

「ラティ王、私も二人と一緒に回ってもよろしいでしょうか。後はもう、一斉攻撃でトドメを刺せるところまできていますし」
「わたくしも、グレンさんたちが繋がれた思いを、共に結実させとうございます」
 ホタルとハナが、揃って名乗りを上げる。

「もちろんだ。残りの指揮は作戦本部長である私が預かるから、安心して行ってくるといい。かわいいラテオ、かわいいラテア、二人をよろしくね」
「うん。いこー、おじさん!」
「いきましょー、おばさん!」

――

 ラテオがホタルを、ラテアがハナをそれぞれ背に乗せて飛ぶ。アンヤの南側から西側に向かって、大きく弧を描くと、まもなく、西側で戦ってる仲間たちが見えてきた。
「みなさん、あと一息です!」
「わたくしたち自身の手で、勝利を掴み取りに参りましょう!」
 ラテアとラテオは、その歌でみんなを応援する。

〜待ってちゃダメダメ、むかえにいこう!

「なにあの子たち、歌うまっ。めちゃかわっ」
「ラテアオの歌が聴けるなんて!」
「この戦いに勝って、もっとラテアオに貢ぐぞおおお!」

〜やるときゃやるやる、すぱーとかけろ!

 ラテアオを知らないポケモンでさえも、思わぬ応援に士気が上がる。ラティアスの「ひかりのかべ」が、アンヤの破壊光線の進路を歪ませ、アルトマーレのポケモンたちから逸らす。破壊光線の切れ目を縫って、ラティオスりゅうせいぐんが、プテラはかいこうせんが、クロバットエアスラッシュが、ワタッコエナジーボールが、アンヤ「本体」の最後の指に次々と命中していく。

――

 ホタルたちは、さらに北側へ回る。ラテアとラテオの姿を見るや否や、戦っているポケモンたちが、一斉に歓声を上げる。
「勝利の天使たちのおでましだ!」
「きゃー! 鬼かわー!」
「上に乗ってるヤツ、そこ代われー!」

〜涙も笑顔も、ひとりじゃないぜ!

(グレンには笑顔と……恥ずかしいところを二度も見られてしまったな。生きて帰ってきたときと、一万の応援を知ったとき。いや、グレンがいたからこそ、憚らずに溢せたのかもしれない)

〜いつもいつでも、げんきをあげよう!

(グレンさんはいつも、お子様のような底なしの元気で、失敗を恐れずに真っ直ぐに進んでおられました。わたくしがこの旅で、箱の中から飛び出すことができましたのも、その真っ直ぐに進む姿勢を学ばせていただいたお陰でしょう)

――

 ラテアはラテオに、さらに右手に曲がるように合図をする。アンヤの東側で戦っているポケモンたちが、ラテアとラテオに手や羽を振る。
「ラテアちゃんが、私に手を振ってくれた!」
「ラテアオの前で、下手な戦いは見せられんぞ!」
「アンヤさっさと大人しくしやがれっ。歌が聞こえねーじゃねーか!」

〜ぶつかりあっても、わかりあえるぜ!

(グレンさんとは最初からぶつかってばかりでしたが、仲良くなれたのでしょうか……いえ、もしそうでなくても、またぶつかって仲良くなればよろしいですね)

〜本気も本気、いっしょに走ろう!

(グレンの本気が、番長連合を作り上げた。私も、これからのあるべきおくりび山王国のために、本気をぶつけ続けよう。それがアイツに追いつく、最適な糸口だ)

〜いーくーぜー! うぃーびーぜー!

 ラテアとラテオが全身全霊を込めて、最後の一節を歌い終える。それに合わせるかのように、アンヤ「本体」の指の最後の一本が、瓦解する。
 アンヤは全ての指を失い、長く熾烈なバトルが、ついに終わりを迎えた。残った暗黒の渦の胴体も、散りつつあった暗闇の雲とともに、空の狭間に消えていく。

「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「エダアアアアアアアアアア!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」
「ああ、うちの子かわいい」
「うおおおおおおおおおおお!」
「うおおおおおおおおおおお!」

 アンヤの正真正銘の断末魔をも掻き消し、その場にいる全てのポケモンが、全力で勝鬨を大合唱する。空も地上も、アルトマーレもホウエンも関係なく、全員で勝利の喜びを分かち合った。

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊のカチコミ → 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利 Update!

Comment
 歌は、アニポケ主題歌の中から「スパート」を引用しました。「バトルフロンティア」も候補に上がっていて、ラテザエモンの台詞に、その歌詞「想いは距離を飛び越え、みんなに届く」の名残があります。

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 第三十二話 海は涙を捨てる場所