ゆとりるのはてなブログ

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しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三十三話 しかもこのようなお洒落なお店で


第三十三話 しかもこのようなお洒落なお店で

 真・竜星群殴り込み艦隊が勝利を収めてから、二日後。

 瓦礫の山と化したアルトマーレの城を、王位継承三位のミツが視察していた。城の再建工事の指揮を取るためだ。
「商人は一ヶ月続くと言っていたが、思いの外すぐに終わったな。ラティオスラティアスたちが飛んでいたが、あいつらのせいか」

 そこへ、王位継承二位のフタが現れる。
「ミツ、竜星群の首謀者が俺だと触れ回っているようだが、どういうわけだ」
「ワケもタマゲタケもございませんでしょう。あなたは、『決着のバトル』に勝つために、災厄ポケモンという禁忌の力に手を出してしまった。案の定その力を制御することができずに、あの竜星群を引き起こした……それが事実でございましょう」
「なるほど。戴冠式の前日……『決着のバトル』に備えて訓練をしているときに、あの見知らぬポケモンたちが現れたのは、そういう筋書きだったのか」
「筋書き……なんのことでございましょうか。フタ様こそ、お芝居がお上手でいらっしゃる」
「芝居を打っているのはどちらかな」
「あなたはイチ様を亡き者にするだけでは飽き足らず、さらにアルトマーレに災厄をもたらすという罪まで重ねてしまわれた。次の国王の座に就くべきお方ではないのは、もはや『決着のバトル』を挟むまでもなく、明らかでございます。うちの陣営の者がすぐに証拠を見つけて、その『ばけのかわ』を剥いで差し上げます……」
「証拠か……『見つける』ではなく、『でっち上げる』の間違いではないのか?」
「余裕でいられるのも今のうちでございます。今にきっと……」
「もうよい……これ以上は時間の無駄か」

 痺れを切らしたフタが、一枚の紙を取り出す。
「これを見ても、まだそんなことが言えるのか!」
「そっ、それは……」
「お前の印が押してある契約書だ。災厄ポケモン四匹とその取扱説明書に延長保証付き。三日以内の成約で、なんと今ついているお値段から三割引。おまけに期間限定でプレミアボール三十個、現金一括払いでポイントマックス十個がついてくる特典まで利用し、さらに一家庭一度きりのご購入に限り……」
「わ、わかった。もうわかったから!」
「これだけの特典をもらっておきながら、さらに値引き交渉までしたそうじゃないか。王国の恥晒しめ!」
「それ関係なくね?」

「こほん。ともあれ、この契約書の押印は、ミツお前自身しか押すことができないもの。仮にお前以外の者が押したのであれば、大事な印の管理もできないということになるな」
「いったい、それをどこで……」
「お前に災厄ポケモンを売った商人から、買い取ってきた」
「あの守銭奴め……寝返りおって」
「災厄商法の噂は、これまでも何度か耳にしていたからな。訓練中に現れた四匹のポケモンとあの竜星群を見て、すぐにパルデアの件を思い出したよ。まだ商人が近くにいるかもしれないと近海を調査したら、すぐに話をつけることができた」
「くそ……王になる夢が」

「すまんな。アルトマーレを、私利私欲の肥やしにするわけにはいかない。この一件は然るべき時期に公表するから、それまで国の復興に協力しろ」
「この私に、まだ協力しろというのか?」
「お前を応援している者……有り体に言えば、お前の権益が生活の支えになっている者も、たくさんいるだろう。少なくともその者たちの今後が決まるまでは、しっかり働いてもらう。王族の誇りは忘れても、彼らへの恩義は忘れるな」
「恩義か……相変わらずご立派なことで」

――

 そのさらに翌日。
 アルトマーレの東岸にあった港町は、アンヤの竜星群の被害が比較的少なく済んでいた。多くの商店も、通常通り営業している。

 アルトマーレグラスのお土産屋の看板から、一人のヤミカラスが飛び立つ。
「昼間からヤミカラス……不吉ですね」
「僕はそういうの信じないタチでね。せっかくだし、旅立ちの記念に何か買っていこうかな」
「イチ様、あまり無駄遣いはよろしくないですよ。ホウエンへの船代は、ジョウトの倍かかりますし」
「よく知るジョウトよりも、あまり足を運んだことがないホウエンの方が、新天地に向いているかと思い直してね」
「風の向くまま気の向くまま、ですね。あと仲間から聞いた話ですが、ミツ様の悪事がバレて、失脚されたそうですよ」
「そうか。キミが生きていることも公言できるようになって、ようやく表立って動けるな」

「なによりイチ様ご自身も、これで王位に返り咲くことができるではありませんか。もたもたしていると、延期されたフタ様の戴冠式がすぐに執り行われます。その前に……」
「いいんだ。このままフタに、王になってもらう。王の仕事にはフタの方がどう考えても適任だし、僕はこのまま第二の人生を歩むことにするよ」
「そうですか……でもフタ様は、イチ様の捜索隊を出されるご様子ですよ。『イチ様が生きている』と信じていらっしゃるようで」
「僕は、ミツの策略で、無理やり死んだことにされたからな。フタなら、僕の死体が見つかっていない以上、生きている可能性を追い続けるだろう」
 イチはしばらく天を見上げ、考えを巡らせた。

「正直、僕一人で生きていくのに、先立つ物のアテもないしな……よし、わかった。こっそりフタに会いに行こう。僕が生きていることを内密に伝えてから、第二の人生を始めることにする」

――

 お土産屋の店内では、人の姿に化けたグレンとハナが、買い物を楽しんでいた。グレンは、二つのアルトマーレグラスの櫛を、ハナに見せる。
「どっちがいいかな?」
「お色味で言えば、こちらの方が炎キュウコンに合うと存じます。もし氷キュウコンでも使われるのでしたら、そちらの方が無難でしょうか」
「なるほどなー。さっすがハナだ、頼りになるぜ」

「まさかグレンさんと二人で、人間のお買い物をする日が来るなんて、夢にも思いませんでしたわ。しかもこのような、お洒落なお店で」
「お前の『毛繕い』でむっちゃ助かったからよ、アレ自分でもできるようにしたいんだ。海でレベッカに乗ってる間に、やり方教えてくれ」
「グレンさんが身だしなみに気を遣われるというのも、よっぽど奇跡でございますね。明日また、竜星群が降るんじゃないでしょうか」
「まーな。アタシのキュウコンの姿も、むっちゃキレイだったし。さすがアタシ」

「……意外ですわね」
「ん、何が?」
「わたくしの嫌味に、すぐにつっかかってくるかと思いましたのに」
「嫌味ってわかってて言ってたんだな。まあ、お前がそーゆーつっかかる方が好きっつーんなら、そっちでもいいけど」
「べっ、別に好きとか嫌いとか、そういう問題ではございませんの……あ、こちらの櫛も一緒にあった方がよろしゅうございますよ!」
「おー、太さが違うんだな。こっちの方は、なんかトゲトゲしてる」

「ところで、そのカゴに入っている丸い玩具は、なんでございますの。ニャローテさんがお持ちになっているような……」
「おお、これは『ヨーヨー』っつー武器だよ。丸に紐がついてて、ぐいーんって伸びる。最強の伝説ニンゲンの『スケバン』が、これを持って敵をバッタバッタと倒していくんだ」
「なるほど……伝説ポケモンの『ザシアン様』が、『剣』をお持ちになってバトルなさるのと同じなのでございますね。わたくしも勉強になりますわ」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 真・竜星群殴り込み艦隊がアンヤに勝利
7/26 瓦礫の城でミツの悪事が暴かれる New!
7/27 グレンとハナが土産屋を訪れる New!

――

「……つかぬことを伺いますが、アルトマーレの城下町でわたくしにしてくださった『だきしめる』、まさかホタル様にもされてませんよね?」
「まさか。アイツになんか、キモくてできねーよ」
 グレンは、顔色一つ変えずに即答する。

「でも、地上からアンヤがいる上空に戻りました折、ホタル様に『またアレをして差し上げる』というようなお話を、されていらっしゃいませんでした?」
「アレは『殴り込み艦隊がんばるぞー』みたいなヤツだ」
「そのようなご様子には、見えませんでしたが」

「お前な……いろいろ勘違いしてるみてーだけど、よくよく考えてみろよ。今アイツを支える『役割』ができるのは、誰がどー考えても、アタシじゃねー。お前以外の誰が、箱の中のアイツを支えるっつーんだよ」
「それは……」
「だから、お前が心配することは、なんもねー」
「……わかりました。グレンさんがそう仰るのなら、そういうことにしておきます」
「ああ、頼んだぜ」

――

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 最終話 世界の平和はおっきすぎて