ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十七話 早業九連


第二十七話 早業九連

「はやわざ……きゅーれん?」
レベッカ様のお背中の上で、お話ししたはずですが」
「んな難しい話、聞いたことねーよ」
「しっぽの毛並みを整え、神経を集中させれば、しっぽ一本ごとにそれぞれ技を繰り出すことができる……それが『早業九連』です。あの『氷の丘』も、こなゆき五連、フリーズドライ四連で一息にお作りしました。技一つ一つの威力は落ちますが、今回のような状況ではとても有効です」
 ひとしきり言い切ったハナは、自身を落ち着かせるために、改めてため息を一つついた。

「アルトマーレへ着く前、レベッカ様の上で毛繕いをして差し上げたときに、わざわざ教えて差し上げましたのに……」
「あーあの『クシ』でやってもらったときのやつ、そういう話だったんだ」
「まったく、これだから愚民さんは」
「ごめんって。いやマジで助かった、本当にありがとう」

グレンは人の姿に化けると、氷キュウコンの姿のハナに「だきしめる」をした。
「グレンさん……な、なにを……」
「お礼の気持ちだ。あったけーだろ」
「それはそうですが……なにか、よろしくないことをしているような気が……」
「なんでよくねーことなんだよ。『いやしのしずく』みたいな感じで、アタシも回復するんだぜ」
「そうは仰っても、周りの目もございますので……」
「周りの目とか気にするもんか……って、確かになんか多いな?」

 気が付けば、数十人のポケモンがグレンとハナを囲みながら、二人を思い思いに見つめていた。
アローラキュウコンさんと操り人さんの、ユウジョウ!」
「さっきまで、人間の方もキュウコンじゃなかった?」
キュウコンの女の子同士で……あら〜」

「わたくしたちを心配なさって、集まってくださったのかしら?」
「もともと街にポケモンが多いっつっても、集まり過ぎじゃね?」

――

「姐御ー!」
「お前……オオスバメ!」
 周りのポケモンの輪の中から、見慣れたオオスバメが飛び寄ってきた。

「姐御の指示通り、家族はみんな避難させてきましたぜ」
「おう、ご苦労だったな。でもなんでお前がここに?」
「この街にはダチのポケモンがたくさんいるんで、助けに来てたんす。このへんに集まってるみんなもそうっすよ。人間は先に逃げちゃってアテになりませんし、街のポケモンも森のポケモンも、困ったときはお互い様っすからね」
「お住みになってる場所に関係なく、助け合っていらっしゃるんですね」
ホウエンなら、ナワバリ争いでしょっちゅうケンカしてるっつーのにな」
「えっ、そうなんすか? あとほら……空を飛べる連中は、上で戦ってるみなさんを応援しに集まってきてます。ありゃ、まだまだ増えますぜ」

 オオスバメは、空の端を羽で指す。城下町から見上げた空の大部分は、アンヤの「本体」と一緒に現れた暗闇の雲に覆われている。ホタルたちは、その雲の中で戦っているのだろう。そして、オオスバメの羽が指す先……暗闇の雲の外側には、雲を囲むように四方八方から、無数の鳥ポケモンたちが集まってきている。

「すごい数……二百人のラティのみなさんも、圧巻でございましたが……」
「その倍はあるぜ、あの大群は……」
 アルトマーレのポケモンたちの団結力を目の当たりにし、二人とも呆気にとられる。

「ただ……アンヤの破壊光線はマジでヤバかったからな。あのポケモンたちも、どんどん叩き落とされちまう」
「落下の危険性は、わたくしたちが身をもって存じております。何か打つ手が、欲しいところでございますわね」
「お前の『氷の丘』的なやつを、ここの連中にさせよーぜ」
「たくさん集まってらっしゃるみなさんのお力を借りるのですね。『応用』の要点さえお伝えすれば、あとはみなさまそれぞれの技で『氷の丘』を再現していただけるでしょう」
「だったら、ここの連中を一ヶ所に集めて、お勉強の時間をしなくちゃいけねーな」
「空の上では、みなさんがわたくしたちのことを心配なさっているでしょう。できるだけ手短に済ませて、上に帰りますわよ」
「じゃ、お勉強会の場所だけど……やっぱりいるな。ポケモンをもっと集めてくれてる連中が」
 グレンは、視界の先の広場に、ポケモンたちがさらに集まっているのを見つける。

「ちょっと、どこへ行かれるのですか!」
「あの広場だ。お前もなるべくたくさんのポケモンを、あそこに集めてくれ!」
「まったく、勝手な行動ばかり……でも、目的はしっかりと見据えていらっしゃるようですし、今回は大目に見て差し上げますわ」

――

 ホタルたちと別れたパオジアンは、その後ディンルーと合流し、引き続きアルトマーレの城下町を破壊していた。しかし気が付くと、多くのアルトマーレのポケモンたちが、パオジアンとディンルーの二人を取り囲んでいる。
「何なのだコイツらは。揃って人間の味方をするというのか」
「さすがにこの数が相手じゃあ、僕たちもちょっと骨が折れるね」

「おいおいどうした? 街をぶっ壊すって、粋がってなかったけー?」
 群がるポケモンたちの合間を縫って、グレンが姿を現す。
「貴様は……あのときの、破廉恥キュウコン!」
「そうだ、昨日お前を張っ倒したキュウコンだ。あんとき、アタシは『街を壊すのを三日待て』って言ったはずなんだが、なんだこのザマは。ケンカの流儀、もっかいその臭い口に叩き込んでやろーか?」
「ワシは、街の破壊には手を出しておらん。降りかかる火の粉を払っているだけだ」
「そう……僕がいくらそそのかしても、ディンルーは律儀にキミとの約束を守っていたよ。代わりに今度は、僕と約束してくれないか。ゆっくりお茶の約束でも……美しいお嬢さん」
「わりーが、アタシはそーゆーの困ってねーんだ。おめーがもう一人のアレだな……パ……パなんとか!」
「パオジアンだ。キミのことは伺っているよ、グレン嬢。ディンルーに勝つなんて、すごいじゃないか」

「気をつけろ。この女、バトル中にフォルムチェンジするぞ」
 パオジアンはディンルーに向かって頷く。
「しかし、いくらキミが姑息な手を使っても、二対一なら流石に勝ち目がないんじゃないかな?」
「二対一だと……」
「貴様は『卑怯は礼儀』と言っていたな。ではワシらも、その礼儀を尽くそうではないか」
 ディンルーとパオジアンは、じりじりとグレンに歩み寄る。

「おめーら二人揃ってバカだな。アタシにはハナもいるし、それに、頭の上で起こってたの見てたろ? あそこで戦ってる二百人のラティアスラティオスが、アタシの後ろについてるんだぜ。二対一じゃなくて二対二百だ」
「なるほど。上で起こってるアレは、キミたちキュウコンの計画というわけか。ただの『ライコウの威を借るクスネ』ではなさそうだね」
「ああ、こっちは察しがよくて助かるぜ。そっちの口臭くちくさ野郎は、口臭帽子のせいで上も見れねーだろーからな」
「おのれ、どこまでも侮辱しおって」

「そっちのパなんとかも……って、よく見たらお前その口、大丈夫か⁉︎」
 パオジアンの口から伸びている牙が、痛々しく見える。
「なんかブッ刺さってんぞ!」
「これはこういうお洒落……」
「あーわかった、お前は口グサ野郎だな。口くさと口グサ……なるほどそういう二人組なわけか。あーなるほどね」
「こういうヤツだ。コイツの調子に惑わされるな」

「あと、すまん。二対二百じゃなかったわ。もっと絶望してくれ」
「そうやって、また口から出まかせを言っても無駄だ」
「忘れたのか? 周り見てみろよ」
 パオジアンとディンルーを囲んでいたポケモンの数が、ますます増えている。皆、今にも襲い掛からんとする形相だ。
「アイツらもこの街の住人らしいぜ。この街は人間だけのものじゃなくて、アイツらのものでもあるってわけだ。それでも街をぶっ壊すっつーんだったら、どうなっちまうかなー?」

「これはさすがに分が悪すぎる。僕たちの負けだ」
「くっ……一度ならず二度までも。なんたる屈辱」
「つまんねー意地張ってんじゃねーよ。始めからアタシたちは、敵じゃねーだろーがよ」
うなだれる二人に、グレンはそっと近づく。

「ラティの王様が言ってたんだけどな、アンヤを呼び出した犯人の人間、もうこの島にはいねーんだってさ。船でどっかに逃げちまったんだと。だから、いくらこの街を壊したって、犯人は痛くも痒くもねーし、復讐なんかにもならねー」
「やっぱり……そうなんだね」
「で、とりあえず今は、上にいるアンヤを倒すために、うちの『考える担当』ががんばって仕切ってるってわけだ」
「あのいけ好かないキュウコンが中心になって、動いてるのか」
「だから、お前らがこれ以上街を壊す意味はねー。大人しくアタシたちに協力しろ。いいな?」
「どっちみち、僕たちに拒否権はないんでしょ」
 諦め顔のパオジアンに、グレンは満面の笑みで応える。

「よーし話はついた。上の連中も早く安心させてやりてーし、さっさと進めっか。ハナも集めてくれてっけど、アタシからももう一声な。『ゆめうつし』がねーから、全力で張り上げねーと……」
「貴様、何をするつもりだ?」
「空まで届く『おたけび』だ」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す

Comment
 「わざ」の名前の表記は、ゲーム本編にならって仮名を原則としています。ただし、アンヤの竜星群と破壊光線については、一般の技の範疇を超える「異質なモノ」として敢えて漢字表記にしています。

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 第二十八話 半ではなくて全ですね