ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十話 末代まで祟って差し上げないと


第二十話 末代まで祟って差し上げないと

 アルトマーレの城から北西に向かって、キュウコンの姿のホタルとハナ、そしてレベッカが並走している。レベッカの背中には、ラテアとラテオが横たわっている。グレンの姿は見えない。

レベッカさんにお城までお越しいただいていて、本当に助かりました。疲れて寝てしまったこの子たちを置き去りにもできず、頭を抱えておりましたので」
「お役に立ててよかったよ。人間の姿ならともかく、ラティアスラティオスの姿のこの子たちを抱えて移動するのは、大変だったろう」

「もうすぐラティ王国のラティたちが気づいて、迎えに来てくれるはずなんだけどな」
「ラティ王国の方々とは、ご連絡をお取りになれましたのでしょうか」
「いや、できていない。連絡手段が『日没に港町の酒場』しかないからな。ただ、ラティたちは、日中から日没にかけてアルトマーレの周辺を定期的に調査している。この竜星群の異変にも気付いて、何かしら動いている頃合いだろう」
「ラティ王様の過保護っぷりでしたら、大軍勢でいらっしゃいそうですわね」
「私たちがレベッカで来ていることはラティ王も知っているし、空からでも目立つレベッカを、じきにラティ軍団が見つけてくれると思うんだ」
「この子たちを、これ以上危険な目に遭わせるわけには参りませんから。早く保護していただいて、お国へお帰りいただきましょう」

「このままチオンさんを見つけて一緒に城から離れれば、竜星群は止まり、アルトマーレは平和を取り戻す。城から遠ざかる分だけラテアとラテオも安全だろうし、私たちの役割も全うできる」
「でもそちらですと、パオジアン様やディンルー様の問題が……」
「ああ。竜星群の根本的な原因が残ったままだ。その辺りは、チオンさんと相談して考えたい」

「おーい、見つけたぞー!」
先行して走っていたグレンが、レベッカの進路の右手から現れる。

「あっちだレベッカ。まっすぐ北に走ってる……いや『歩いてる』くらいだな。むっちゃ遅え」
「みなさん足の速さはそれぞれ違うのですから、チオン様の前で、そういう失礼なことは仰らないでくださいね。グレンさんこそ、ディンルー様と無駄にバトルした後でしょうに。どうしてそのように体力が有り余ってらっしゃるのか、信じられないくらいですわ」
「無駄じゃねーって。ああいうヤツはケンカで黙らせねーと、喋ってくんねーからな。おかげで『ディンルーたち四人がボールから出ると、アンヤの勘違いで竜星群がドーン!』って話も聞けたろーがよ」
「ああ、それは助かった。今アルトマーレで起こっている竜星群と、あとパルデアの天変地異の原因も見えたからな。空に浮かんでるアンヤというポケモンの見た目から、昔のガラルのブラックナイトも、似たような経緯だったんだろう」

「まさかパオジアン様が、世界の平和のために各地を行脚されていたなんて。わたくしたちおくりび山のキュウコンホウエンを治めておりますのと、同じなのでございますね」
「パオジアンたちは、決して災いなどではない。むしろ私たちと志を同じにする、大事な仲間だ」
「あのアンヤも、ムチャクチャなとこはあっけど、全部が全部悪いってヤツじゃなさそーだよな」
「パオジアンたちの、上司にあたる存在だからな」
「『邪悪な怪物』とでもお呼びするべき諸悪の根源は……皆様を利用している、お腐りになった人間どもですわね。わたくしたちキュウコンの怨念で、末代まで祟って差し上げないと、気が済みませんわ」
「珍しくやる気じゃねーか。そのケンカ、アタシも乗るぜ」
「皆様は、わたくしたちの先輩でいらっしゃいます。おくりび山王国よりも歴史が古く、ブラックナイトの時代よりも昔から、しかも世界中の平和を守ろうと活動されていらっしゃるのです……」
「そんな先輩方に迷惑をかける人間がいれば、おくりび山王国としても、全力で援助するべきだな」

「じゃ、みんなの決起集会も済んだところで、ご到着だよ」
 レベッカが立ち止まり、鈍い緑色の巨大なマグカルゴのようなポケモン……チオンジェンに挨拶をする。顔は蔦と葉で覆われ、背中の殻にあたる部分には、木の札が螺旋状に連なっている。
「はじめまして、アタシはレベッカだ」

――

 レベッカを皮切りに、一通り自己紹介を終えるや否や、チオンジェンがタネマシンガンのように話し始める。

「あなたたち揃ってピクニックかしら。こんな散々な天気で、運が悪かったわねえ。曇りときどき竜星群でしょ。がんばって避けても、イテッって当たっちゃうでしょうし、怪我とかしてない? レベッカさんの背中でねんねしてる子どもたちも、楽しみにしてたでしょうに。まあ、世の中思い通りにはいかないっていう、お勉強になったと思えばね」
「何と申しますか……勢いがございますわね」
「私たちは、ピクニックではないんです。この竜星群を止めるために、チオンさんにご協力をお願いしたいと思いまして、ここまで伺いました」

「やっぱりピクニックするなら、そりゃもちろん、竜星群が降ってない日の方がいいものね。キュウコンさんなら、だいたいのお天気は『ひでり』でどうにかできるんでしょうけど、さすがにこのお天気は書き換えできないわ。今はちょうど、竜星群が止んでるお時間なんだけど」
「そーいや、ここまで走っておっかけてる間、竜星群降ってねーな」

「でしょでしょ。アンヤさんの竜星群って、休み休みなの。特性の『なまけ』みたいな感じかしら。しばらく竜星群をばら撒いたら、ばら撒いた時間の倍くらい休憩して、また竜星群ばら撒くお仕事して……みたいな。休憩時間の方が長いの、お仕事的には羨ましいわよね。でも夜もずっとそんな感じで続いてるから、そこは羨ましくないかも。夜通し働いてるのって、ポケモン離れしてるわよね。頭の中で、三交代制とかしてるのかしら」
「竜星群が止んでいるのは、たまたま凪の時間というわけなんですね。やはり根本的には、どなたかお一人でもアンヤと距離を置くことしか……」

「あらホタルちゃん、詳しいわね。そうなの、だからこうやって一生懸命走ってるのよ。焼け野原を眺めて楽しむなんて趣味はないし、早いとこ終わってくんないと、アンヤさんだって疲れちゃうと思うわ。三交代制とはいえね、たまには長期休暇もほしくなっちゃうじゃない?」
「走ってるっつーか……」
「こほん、グレンさん」
「……あーはいはい。一生懸命、お疲れさまっす」
「よろしければ、チオン様の逃避行を、お手伝いさせていただけませんでしょうか? わたくしたちとしましても、なるべく早めに、この竜星群を解決したく存じます」

「ありがとうねえ。手伝ってもらえるんだったら、そりゃあぜひお願いしたいわ。歳をとると時が経つのを早く感じるって言うけど、最近はほんと一瞬でびゅびゅーんって時間が過ぎちゃうから、困っちゃうわねえ。いつもの調子だと、竜星群が止むところまで逃げるのに、だいたい一ヶ月はかかっちゃうから……」
「一ヶ月! なが!」
「そ、それだけ走り続けるのは大変ですし、お疲れにもなるでしょう。よろしければ、うちのレベッカに乗って行きませんか?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがチオンジェンと出会う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 パオジアンたちを「災厄」と思っているのは人間だけなので、ポケモンたち(ホタルもラティもパオジアン自身も)はみな、「災厄」や「災い」とは呼びません。

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 第二十一話 人の色恋は蜜の味

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十九話 特別にゲンナマなしで見せてやる


第十九話 特別にゲンナマなしで見せてやる

「え? 口の臭いは関係な……」
「いーや、関係あるね。お前の硬さの正体は、誰が何と言おーと、口の臭さだ。そのせいで気が散って、火力が下がってる。頭のクソダサ帽子も、口臭くちくさをなんかアレするやつだろ!」
「口の臭いではない、ワシの特性『ウツワオーラ』だ!」
「え、特性……てゆーか、名前ダッサ。臭い上にダサいとか、サイテーだな!」

「悪態をついている暇などあるのかな。いわなだれ!」
「キャアアア!」
「意外とかわいい声を出すではないか」
「黙れ、クソキモ野郎。口臭をばら撒くな」
「いつまで粋がっていられるかな」
「いつまでって……お前をボコボコにするまでに、決まってんだろ!」

(岩技あんなら、あの「とっておき」も命懸けになるか……)
 逡巡するグレンの視界に、見慣れた水色の影が映る。
(いや、どうにかなるな)

「そんなにお望みなら、もっとイイモン見せてやんぜ!」
「なに!」
「若い娘の生着替えだ。特別に、ゲンナマなしで見せてやる!」
「そんな破廉恥な……」

 グレンは、九本のしっぽをえいえいっと振る。
 まばゆい光が、キュウコン琥珀色の姿を覆う。

「おい、謎の光で何も見えんぞっ!」
「円盤なら、光がなくなるかもな!」
「どういうことだ⁉︎」

 光が収まった跡には、優雅に波打つ毛並みの、純白のキュウコンが立っていた。「アローラのすがた」だ。その降臨を祝福するかのように、神秘的に輝く白雪が舞い始める。

「その姿……貴様、バトル中にフォルムチェンジだと⁉︎」
「今度こそ、目ぇかっぽじってよーく見とけよ。マジカルシャイン!」
うおっまぶしっ!」
「どうした、足がとまってんぜ。アタシの姿に見惚れちまったか?」
「生着替えなどと期待……もとい、またもや謀りおって。許さんぞ!」
「先にキモいこと言ってきたのは、どの口臭だ。ふぶき!」
「ぐぬう……」
 効果抜群の技を立て続けに受け、さすがのディンルーも後ずさる。
「さっきまでの余裕はどーした。アタシのかわいい声を聞きたいんだろ。ああん⁉︎」
 ことさらドスを効かせた、ガブリアスのような声で凄む。

「まだだ、まだ跪かんぞ! じだんだ!」
「んなんじゃ、当たってやんねーなー」
「ひっかかったな。こちらが本命……トドメだ、いわなだれ!」
「見え見えなんだよ……レベッカ!」
「あいよ! ワイドガード!」
 レベッカワイドガードが、ディンルーの「いわなだれ」からグレンを守る。

「もう一人いたのか、卑怯だぞ!」
「アタシのケンカじゃ、卑怯は礼儀なんだよ!」
「アンタも相手が悪かったねえ。あらよく見れば、けっこういいカラダしてんじゃない」
「もっと涼んでいけよ。ふぶき!」
「ぐう……まだ跪くわけには……いかん!」

 ふぶきの猛攻をどうにか耐え凌ぐディンルーだが、その巨躯が、ついに分厚い氷で覆われる。ふぶきの追加効果で、凍結したのだ。
「こんなときに凍るとは、運の尽きか!」
「ねっぷうもふぶきも試行回数あったからな、そのうち凍るだろーよ。耐久型の定めだ」
トドメとばかりに、レベッカが追い打ちをかける。
「じゃあ後は、ゆっくり遊びましょ。ボディプレス!」
「グワーッ!」

――

「助かったぜ、レベッカ。よくここまで来てたな」
「港町の沖合で待機してたら、あの竜星群に気付いてね。どうせホタル君たちも異変の中心……このお城に向かうだろうと思って、加勢しに向かってたのさ」
ワイドガードをアテにしてたのも、よく気づいてくれた」
「バトル見てたら、あのガチムチの岩雪崩に苦戦してたからね。グレンちゃんなら、さっきみたいな『ふいうち』好きだろうと思って、機会を伺ってた」
「さすがだ」
「あと、ハナちゃんの顔も見えたけど……バトルが始まったのを見て、すぐ引き返していったね」
「ちっ。ケンカを、ホタルにチクりにいったか」

「……で、そっちのガチムチ口臭野郎。ケンカに勝ったからには、言うこと聞いてもらうぜ」
「その前に、貴様の目的はなんだ。なぜ、こうまでして邪魔をする。この土地のポケモンではない貴様が、なぜここの人間の味方をするのだ?」
「人間のことは知らねー。ただ、この人間の街が壊されると、アタシのちっせーダチが悲しむからな。それを止めてーだけだ」
「この街の破壊を止めたいのか。ならば貴様の言うことを、聞き入れるわけにはいかん」
「ケンカに負けたどの口臭が言ってんだ。もっかいぶっ飛ばされてーのか?」
「そういう問題ではない。仮にワシがこの街の破壊をやめたとして、アンヤの竜星群はどうするつもりだ?」
「それは……ホタルがなんかいい感じに考えるさ。そういう難しいことを考える係がいるんだよ」
「考えなしに動く、脳筋め」
「てめーだって、一緒だろーが!」
「何も考えていないわけではない。ワシらが散り散りになれば、ひとまずこの島の竜星群が止むのはわかっている。だがそれでは、いつかまた人間たちが、別の場所で同じ問題を繰り返すのだ」
「この竜星群は、人間のせいだって言ってたな」
「そうだ。そしてこれを根本的に止めるためには、ワシらを無理やりここに集めた人間を滅ぼす必要がある。だから、どうか邪魔をしないでくれ」
「無理やり集めた人間……その集まるのが、なんで竜星群になんだよ?」

「ワシらは四人で一組のポケモン。それぞれがあちこちの地方を回り、ポケモンたちの様々な問題を解決する役割を担っている」
「おくりび山のキュウコンたちとおんなじようなことを、お前らはやってんのか……」
「しかし、一人の力では解決できないような大きな問題が起こると、ワシらは一ヶ所に集まってアンヤの助けを借りるのだ。ワシら四人の特性が一ヶ所で重なったとき、アンヤは世界の危機だと察し、大空から現れてワシらを助けてくれる」
「助けてくれるって……じゃあアンヤは、いいヤツなのか?」
「本来はな。ただし、大した問題でもないのにアンヤを呼び出すと、『つまらないことで呼ぶな』とお叱りを受ける。それがあの竜星群だ」
「お叱りって……ちょっと呼んだだけでこんな竜星群祭りとか、ムチャクチャだな!」
「それは同感だ。しかしワシらではどうしようもできん。アンヤは、ワシらにとって神に等しい存在だからな」
「ほんとはぜんぜん平和なのに、勝手に人間に集められて、であの竜星群祭りか。そりゃお前が怒るのも当然だ」
「わかってくれるか」

「だけど、なんで人間たちは、そんな面倒なことするんだろうねえ。自分たちの街を、自分で壊すってことだろ?」
 レベッカも会話に加わる。
「ワシも、そこがさっぱり理解できない。その理由がわかれば、犯人の人間を見つける手がかりになりそうなんだがな。わかっているのは、ワシらの入ったボールを人間たちが一ヶ所で解放して、アンヤを呼んでいるということだけだ」
 ディンルーは、崩れかかっているアルトマーレの城を見やる。
「その城のような立派な場所で呼び出されることが多い故、身分の高い人間が犯人だろうと考えてはいるが……」

「人間は、ヘンなことを考えるやつが多いからな。いろいろあるんじゃね」
「いろいろとはなんだ」
「『アンヤを操って世界征服するぞぐははは』とか『竜星群をドーンされたくなかったらゲンナマよこせ』とかな」
「ゲンナマってなんだい?」
「世界を征服……自分の仕事が増えるだけだろうに。そんな面倒、何になるというのだ?」
「なんか、こう……イイことがあるんだよ。うまいメシが食える……とか?」
「アタシだったら、ラテアオちゃんの歌を、一度聞いてみたいねえ」
「そ、そういうものなのか……」
ディンルーもレベッカも、言い始めたグレンでさえも、よくわからない空気になってきた。

「と、とりあえずだ。ワシらの想像のつかない理由がある……というのは、なんとなくわかった」
「よーするに、アタシら脳筋組が考えてもラチがあかねーってことよ。うちらは、いったんホタルんとこ戻ろーぜ。考えるのは、アイツに任せとけば大丈夫だ」
「そうだね。アタシがいるのを知ったら、びっくりすると思うけど」

「お前はどうするんだ。やっぱこの街をぶっ壊すのか?」
「ああ、そうしたいところだ」
「やれやれ。頑固モンはめんどくせーな」
「ただ……一つ、貴様に聞きたいことがある」
「奇遇だな。アタシも一つ、お前に言いたいことがある」

「貴様たちは、これから何をするつもりだ?」
「何って、このへんの大惨事をなんか終わらせる……みたいな?」
「つまり、ワシらの力になってくれる……というのか?」
「それは、アタシらの『考える係』次第だな」
「そうか。正直なところ、この『勝手に集められてアンヤの竜星群を喰らう』という問題、頼れるものなら藁にも縋りたい思いなのだ」
「ああ。悪い人間のせいで、お前らが迷惑してるってのは、わかった。『考える係』なら、もっとよくわかってくれる。アイツのことだし、全部が丸く収まるいい感じのアレにすると思うぜ」
「そうなることを祈らせてもらおう。では、貴様の言いたいこととはなんだ」

「お前もケンカの流儀がわかるヤツのはずだ。アタシが勝ったからには、その流儀を通させてもらう」
「もちろんだ」
「街を壊すのをやめろ。そっちの都合もあるだろーし、ずっととは言わん。三日でいい」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / グレンがディンルーと戦う
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 ダブルバトルでは、岩の物理技は「いわなだれ」が主流なのです。範囲技かつ怯みが狙えるので。環境によっては、範囲技の対策としてワイドガードが採用されることもあります。

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 第二十話 末代まで祟って差し上げないと

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十八話 穏やかに暮らせる日


第十八話 穏やかに暮らせる日

「ホタル様、『めいそう』からお帰りなさいませ。この竜星群……いかがいたしましょうか」
「ああ、待たせた。パオジアン、キミに聞きたいことが二つある」
「なんなりと」
 ラテアとラテオに絡まれているパオジアンは、顔だけホタルの方を向いて応える。

「まず、『認められない答え』を教えてくれ。『一人が遠ざかる』以外にも、何か方法があるんだろう?」
「ああ、それね。それは……あの竜星群の源になっているポケモン、アンヤを倒せばいいんだ。でもそれは、僕らにはできない。そもそも倒せるかどうかすら甚だ怪しいが、仮に倒せたとしてもだ……僕らがアンヤを攻撃すればするほど、僕ら自身が後々酷い仕打ちを受けることになる」
「仕打ち?」
「あのアンヤを倒せば、確かに竜星群は止まる。でも倒してもしばらくすると、復活なのか、再生なのか、転生なのか……よくわからないけど、また現れるんだよ。そして今度は、手を出した僕らを、この竜星群以上の力で直接狙ってくる。僕らは、処刑されるんだ」
「復活……処刑……竜星群の出どころの方は、思っております以上に、尋常ならざるポケモンのようでございますわね」
「だから、僕らはあのアンヤに手を出すのを諦めている。まあイーユイちゃんだけは、どうにか一泡吹かせられないか、虎視眈々と狙ってるみたいだけど」
「なるほど、ありがとう。『認められない答え』で解決できないかと思ったが、いったんはナシにしよう。キミたちが処刑される姿は、あまり想像したくないからな」
「助かるよ。じゃあもう一つの質問というのは?」

「そのイーユイと、あとグレンと戦っている『帽子』のポケモン、それと最後四人目のチオンジェンというポケモン。彼らが、この竜星群の解決方法についてどう考えているのか、教えてほしい」
「チオンさんのことも知ってるとは。さすがはキュウコン、賢しいね。まず、キミたちが『帽子』と呼ぶポケモン……ディンルーなんだけど、彼は僕とだいたい同じだよ。なるべく多くの人間と、人間の作った物を壊すことが、最大の予防だと考えてる」
「ということは、残りの二人は違う考えだと?」
「たぶんね。イーユイちゃんは、ケンカっぱやい子で、毎回一人でアンヤに戦いを挑んでるよ。実際、アンヤがいる空まで飛べるのも、イーユイちゃんだけだしね。でも単純に力不足でアンヤを十分攻撃できていないから、罰も軽めで済んでる。彼女の場合、何か考えがあってっていうより、単にバトルを楽しんでるだけだと思うけど」
「どこぞの『ギャラまた』さんと、気が合いそうですわね」

「チオンさんは……どう考えてるのかよくわからないけど、いつも明後日の方向に走ってるんだよね。アンヤの竜星群に当たるとやっぱり痛いから、出どころから遠ざかるのがいちばん賢い……といえば賢いのかな」
「それは、『一人が遠ざかる』を率先してやっているのでは?」
「なるほど、言われてみればそうかもしれない。さすが、僕らの中で知恵担当のチオンさん。あ、ちなみに僕は顔担当で、その他二人は脳筋たん……」
「つまり、チオン様なら『一人が遠ざかる』作戦に、ご協力いただけるということですね。お冷たい氷タイプの、パオジアン様とは違って」

「つめたいパオジサンだって、アハハ」
「こら、パオジサンに聞こえちゃうで……ぷっ! パオジサンっておもしろすぎ、アハハハハ」
「黙って聞いてれば、お前たちわあああ!」
「アハハハハ! パオジサンが怒った!」
「こらあああ、待て待てえええ!」
「こっちきた! にげろー!」

「顔担当というより、子守担当だな」
「はい。なんだかんだで、子どもたちのお相手をしてくださってて、助かりますわ」
「で、これからだが、チオンさんを探そう。遠ざかる作戦を『てだすけ』するか、他にもっといい知恵があれば拝借する」
「かしこまりました」

「パオジアン、私たちはチオンさんを追いたい。今どの辺りにいるかわかるか?」
「北西に! 向かったよ!」
 パオジアンは、ラテアとラテオを追いかけながら、声を張り上げて応える。
「まだそんなに! 遠くないはず!」

「北西……港町や漁村があった東側とは別方向か。わかった、ここまで協力してくれてありがとう。この竜星群を止めれるよう、努力してくる」
「ああ、がんばれよ」
「私からは……街を破壊するキミに『がんばれ』とは言えない。この土地の人間に、少なからず恩があるからな。ただ、キミたちが穏やかに暮らせる日が来るよう、なるべくいい着地点を探してくるよ」
「穏やかに暮らせる日か……それはありがたい」

「よかったらその『着地点』の結果を、キミにも報告したい。もしキミも興味があれば、五日後の日が沈む時間に、東の港町でいちばん大きな酒場の裏手に来てくれ。遣いの者を置いておく。五日後も竜星群が降っていたら、そのときは諦めてくれ」
「五日後の夕暮れに、東の港町の酒場か……遣いには『期待しないで待つように』と言っといてくれ」
「わかった。それと、ラテアとラテオの相手をしてくれてありがとう。二人とも、いくぞ!」
「パオジアンさん、またねー!」
「おねーちゃん、ちがうよ。パオジサンだよ」
「え、パオジ……どっちがほんとだっけ。アハハハハ」
 やれやれとしっぽを振り、パオジアンはその場を去る……が、首だけニュルンと振り返る。

キュウコンって、けっこうお人好しなんだね。騙したり恨んだりするのが好きな、意地悪なポケモンだとばかり思ってたよ」
「ありがとうございます。騙したり恨んだりも……否定しづらいところではございますが」
ハナとホタルは、揃って苦笑する。
「今回は、道理的・合理的に判断したまでだ。次も『お人好し』に見える行いができるかどうかは、保証できないな」

――

 ホタルたちがパオジアンと出会う少し前。
 竜星群が降り注ぐ城下町では、逃げ惑う人とポケモンがごった返し、大混乱が起こっていた。そんな中、バッフロンのような立派な体躯のポケモンが、建物に八つ当たりするかのように暴れている。巨大な兜をひっくり返したような異形の冠を振り回し、街の破壊をさらに加速させる。

「おい、てめー。何様のつもりで、好き勝手やってんだよ」
「ふむ、少しは骨のあるやつがいたようだな。ワシの名はディンルー。ここは貴様のナワバリであったか、失礼した」
「アタシは、ホウエン番長連合総代グレンだ」

ホウエン……ここはホウエン地方なのか?」
「ここがどこかも、わかってねーのか」
「ああ。ワシらは、人間によって無理やりここに集められた。あのアンヤを呼ぶためだろう」
「竜星群をぶっぱなしてるヤツ、アンヤっつーんだな」
「ワシは、その人間を探し出して復讐するのだ。貴様がこの地方の代表を名乗るのなら、ワシらを集めた犯人を、知ってはおらぬか」
「知らねーな。ここホウエン地方じゃねーし」
「貴様、たばかったな」
「勝手に勘違いしてんじゃねーよ。アタシだってよそモンなんだ」
「時間を無駄にさせおって。手伝う気がないのなら、邪魔をしないでもらおう」

「復讐するっつってたけど、この辺ぶっ壊すのが復讐になんのか?」
「ああ、そうだ。犯人が見つからないとは言え、この辺りにいる可能性は十分あるからな。それに、仮にいなかったとしても、人間たちの連帯責任で、街を破壊させてもらう」
「もっと他にいいやり方があんだろーよ。そーゆーのは、頭いい連中に任せときゃいい」
「他人任せになどできるものか。これ以上邪魔をするのなら、力で黙らせるまでだ」
「アタシも、喋るよりは殴る方が得意だからな。売られたケンカは買うのが心情。道理もゴーリキーも関係ねー!」

――

「グレンさん、争っている場合では……って、もう手遅れですわね」
 ハナがやっとグレンを見つけたときには、辺りは既に、炎と地鳴りと竜星群が飛び交う戦場と化していた。

 グレンは渾身の「ねっぷう」を放つ。しかし、ギャラドスも焼き尽くす程の炎を浴びてなお、ディンルーは顔色一つ変えずに歩みを進める。
「くっそ、むっちゃ硬え。何発当てても、ビクともしねーぞ」
「ふははは、それでねっぷうのつもりか。涼しいわ!」
「ほんとに等倍だよな。なんでこんなに通らねー」
「喰らえ、じだんだ!」
「当たってたまっか!」
「素晴らしい身のこなしだ。しかし、いつまで避けられるかな」
「こっちならどうだ、エナジーボール!」
「かゆいなあ。それが貴様の奥の手か?」
「不一致じゃ、弱点ついても足りんか……」

「貴様の技は効かん。片や、ワシのじだんだを喰らえば致命傷。貴様に勝ち目はないぞ」
「つべこべ言ってんじゃねー! そーか……わかったぞ、お前の硬さのワケが!」
「ほう、気づいたか」
「お前のくせー口だな!」
「そのとお……え?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / グレンがディンルーと戦う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 「穏やかに暮らせる日」など各話のタイトルは、本文中からそのままピックアップしています。固有名詞は含まず、なるべくネタバレにならないように考えるのも、楽しかったです。

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 第十九話 特別にゲンナマなしで見せてやる

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十七話 ご飯食べにくくないですか


第十七話 ご飯食べにくくないですか

「私たちの喫緊の目的は、この人間の街を守ることだ。そこで単刀直入に聞く。あの竜星群を止めるには、どうすればいい?」
 ホタルは、降りしきる竜星群を見上げながら、パオジアンに尋ねる。

「アレの発端は、僕たち四人の仲間が一ヶ所に集まったことだ。だから、僕たち四人のうち誰か一人でも、この場からいなくなればいい。それが、認められた唯一の答えだ」
「四人の方がお集まりになって……やはりパルデアと同じ現象のようでございますわね」
「誰か一人が『この場からいなくなればいい』と言っていたが、つまりキミを殺せばいいのか?」
「なるほど、僕たちが死んだら、どうなるんだろうね。考えたこともなかったよ……って、殺す気か!」
「すまない。キミを見てると、不思議とイライラしてしまって。つい、ガラにもない冗談を言ってしまった」
「わたくしに汚い手を差し伸べてきた悪漢を、忌むべき敵と認識してくださってるのですね。うれしゅうございますわ」
「悪漢て、お嬢さんもはっきり仰いますね」
「キミを殺すのは、とりあえず置いておいて……」
「とりあえずではなく、はっきりきっかりたっぷり置いてきてくれ」

「キミがこの場からいなくなる……つまり、キミが一目散にアルトマーレの島の端まで走れば、竜星群は止まるんだな」
「それなら、確実に止まる。僕が素直に言うことを聞くかは、わからないけどね」
「聞いてくれないのか?」
「僕には僕の都合があるからね。多少脅されたとしても、それでも言うことを聞くわけにはいかない。なんなら試しに、追いかけっこでもしてみるかい?」
「アルトマーレの果てまで、キミを追い詰めるか……」
キュウコンよりもラティアスよりも、僕の方がずっと素早いからね。このあたりをぐるぐる回って、一ヶ月逃げ続けようと思ってるけど」
「バトルはともかく、オタチごっこなら、キミの方が有利ということか」
「そういうこと。僕は僕で、『人間に恨みを晴らす』って目的があるんだ。街中でこの竜星群が長く続くなら、それだけである程度は目的を達成できる」

「では、その人間への恨みというのを、仮に私たちが晴らせたら……そのときは最果てへの旅に付き合ってもらえるものかな?」
「なるほど、僕たちに協力してくれるってことか。それはありがたい話だ。けど……たぶん『代わりに恨みを晴らす』のも、難しいと思うよ。達成条件は、僕たちをここ一ヶ所に無理やり集めた人間を見つけ、また同じことが起こらないようにすること。キミたちにできそうかい?」

「一ヶ所に集めた人間……この災厄を引き起こした、元凶の人間がいるってことなのか。それは誰なんだ?」
「それがわかれば、苦労はしないさ。犯人がわからないから、こうやって手当たり次第に人間の街を破壊して、戒めとしてるんだ。こんな酷い天罰が下るんだったら、次からはもうやめよう……賢い人間なら、そう考えてくれると思ってね」
「しかし人間は、パルデアでの惨事から学ばずに、同じ過ちをここでも繰り返している。キミの恨みの晴らし方が、有効ではない証拠だ」
「僕の仲間がパルデアで同じ目に遭った話は、知ってる。キミが『有効ではない』と言うのも、正しいんだと思う。じゃあ聞くけど、他にどんな方法があるっていうんだ? 否定するだけじゃなくて、代替案もぜひ出してほしいものだね」

 目線を尖らせるパオジアンとは裏腹に、ホタルは肩の力を抜き、笑顔で頷く。
「ああ、私もその代替案を一緒に考えたい。大丈夫だ、私たちは敵ではない。どこかいい着地点があるはずだ」
「それなら助かるよ。ぶっちゃけ、けっこうウンザリしてるんだ。目が覚めたら、人間から濡れ衣を着せられ、アンヤから竜星群でむっちゃ怒られる。僕も初めてじゃないからね。ほんと邪魔くさいよ、人間って」
「わかった。最善の方法をじっくり考えたい……ところだが、残念ながら時間も限られている。すまないが、『めいそう』に入らせてもらう」

 そう言うと、ホタルはそっと目をつむった。

――

……この場、どう旗を振る。協力者は足りている。ただし時間がない。こうして考えている間にも竜星群は降り注ぎ、人間の被害が拡大する。そしてなにより、ラテアとラテオが危険に晒され続ける。いくつか解決方法の糸口は思いつくが、「短時間」かつ「解決できる可能性が高い」糸口を選ぶべきだ。周りと相談している時間さえ惜しい。お母様はこの遠征を「おくりび山の王になるための試練」だと仰っていた。今ここで、私の責任で、判断しなければならない。一手でも間違えれば、それだけ子どもたちとアルトマーレの被害が倍増する。くそっ。責任が……重い。

「ホタルさん、急に黙っちゃったけど、大丈夫?」
「大丈夫です。このようなときのホタル様は、『めいそう』で集中して、お考えを練っていらっしゃるのですわ」

……この問題、竜星群を仕組んだ人間を、突き止めればいいのか? 犯人を突き止めるには、情報が必要だ。パオジアンから情報を聞き出し、犯人と接触する。再犯を防ぐためには、犯人の動機を把握し、それを解消する必要がある。そこまでしないと、パオジアンは納得してくれないだろう。それからパオジアンをアルトマーレの端まで走らせて、やっと竜星群の問題は解決する。必要な手順は「パオジアンから聞き出す、犯人にあたりをつける、犯人を見つける、犯人の動機を聞き出す、動機を解決する、パオジアンを納得させる、走れパオジアン」……順調に進んだとしても、手順が多すぎる。その間にも、アルトマーレはどんどん破壊されていく。この糸口ではダメだ。

「おはよう……ございます」
「おはよー……」
「ラティちゃんたち、起きるの早いね。もっと何日もかかると思ってたのに」

……話の端々に出てきた「アンヤ」とはなんだ? ポケモンの名なのか。なぜパオジアンたちが集まることが、アンヤの竜星群に繋がるのだ? これも、パオジアンから聞き出すことはできるだろう。ただ、それを聞き出したところで、問題の解決に役立つかは不透明だ。むしろ、パオジアンから詳しく話してこないということから、少なくともパオジアン自身は「解決に直結しない」と思っているんだろう。だったら、このアンヤの謎はひとまずおいといて、他の糸口を探る方が、効率が良さそうだ。

「お二人は、十日ほど前に、同じ症状をご経験されているのです」
「だから耐性がついてて、復帰が早いのか」

……もっと根本的に「アルトマーレの人間を助けない」という糸口はどうだろうか。そもそも、私がアルトマーレに来た目的はなんだ。ラテアとラテオを探し出すことだ。だったら、二人を強引にでもラティ王国へ連れ帰るのが、最善ではないのか。パオジアンの問題は放置することになるが、子どもたちを危険に晒してまで解決するべき問題ではない。……いや、これはダメだ。今はたまたま、パオジアンたちを見捨てることで目的を達成できるが、もし今後同じような問題がおくりび山で起こったら、私はおくりび山のポケモンを見捨てるのか。それは本当に本当の最終手段だ。だから今も、まだ、その最終手段を選ぶわけにはいかない。

「前の症状が十日くらい前ってことは、イーユイちゃんが顔を出したときだろうね」
「イーユイ様……という方もいらっしゃるんですね」

……なんにせよ情報が足りないことと、その情報を聞き出す時間が足りないことが、解決の妨げになっている。それなら「既に情報を知っている者」が考える解決方法はどうだ? パオジアンももちろんその一人だが、パオジアンの考えでは「戒めとして人を滅ぼす」という答えで行き詰まっていた。他に事情を知る者……そうだ、パオジアンの仲間がいるじゃないか。今グレンと戦っている「帽子」が一人、その他にもう二人。彼らの考えている解決方法を聞けば、光明になる可能性は十分にある。この糸口が有効かどうかを判断したいが、それならパオジアンに聞くことで、早めに判断できそうだ。よし、この方法はアリだ。

「このしろいおじさん、だれ?」
「ご飯、食べにくくないですか?」
「余計なお世話だ!」

……それと、パオジアンは、一人でもこの場からいなくなるのが「認められた唯一の答え」だと言っていた。「認められた」とはなんだ? 言いづらい「認められない」答えというのが、きっと存在するんだろう。それもさっさと聞いて、有効な糸口かどうか判断するべきだ。よし、この方法もアリだ。

――

「うぇーん、白いおじさんが怒ったー」
「うぇーん、ぎゃくたいだー」
「うぇーん、子どもたちが僕をいじめるー」
 ラテア・ラテオと一緒に、パオジアンも「うそなき」をしている。

「『めいそう』から只今戻った……って、なんでこの三人で遊んでるんだ?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルとハナがパオジアンと出会う
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 「イタチごっこ」ではなく「オタチごっこ」みたいな、ポケモン世界ならではの言い回しが好きです。リコアニポケ五話でも、「オタチごっこ」って言われてました。

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 第十八話 穏やかに暮らせる日

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十六話 おねえさんが剣でザーン


第十六話 おねえさんが剣でザーン

「ここまで見てきた限り、ひとまず城下町の外まで逃げれば安全そうだ」
「竜星群の出どころの方が、このまま大人しく居座っていただければ、ですが」
「ちょうど城の上空に、黒い雲が渦巻いていて、その中心から竜星群が降り続いているな」
「渦の中心に、ポケモンの方がいらっしゃるようにも拝見できますわね。こちらからでは距離がございますので、なんとも申し上げられませんけれども」

「お前ら、アルトマーレにときどき来てんだろ。ああいうの見たことねーのか」
「初めて……だよね」
「うん、みたことない」

「もしかして、ブラックナイトではございませんでしょうか。長躯の竜が、天に黒き渦を巻き、災いをもたらす……おくりび山の伝承では、そのように形容されていたかと」
「見た目はまさにその通りだな。ブラックナイト……二千年以上前にガラル地方を襲ったポケモンか。全国の言い伝えをまとめる伝承部も、たまには役に立つんだな」
「伝承のとおりであれば、ガラル地方の伝説ポケモンの方が、ブラックナイトをご討伐なさったそうです。今回も……そんな都合よく現れてくださるでしょうか」

「ガラルの伝説、私知ってるよ。おねえさんが剣でザーンってするの!」
「ぼくもしってる。たてでダーンってするやつ!」
「私たちでザーンダーンってやったら、優勝だね!」
「そいつはすげーな。いざとなったら頼むぜ」
「うん、まかせといて!」

「アレはどーなんだ。ちょっと前に、どっかの地方で人間が全滅したーみたいなのあっただろ。ココもなんか全滅しそうだし、関係あんじゃね?」
「パルデア地方ですわね。それに、全滅なんて物騒なこと仰らないでください。パルデアの人間のみなさんも、ちゃんと半分くらいは生き残っておられたようですから」
「それそれ。キンセツ学園でもその噂でむっちゃ盛り上がったから、おくりび山にはもっと話入ってんだろ」
「あれは……全国を行脚している四人のポケモンが、当人の意思とは別に、偶発的にもたらした天変地異……だと聞いている。ただそれ以上のことは、おくりび山でもよくわかっていないんだ。どんなポケモンたちかもな」
「お一人だけ……チオンジェン様という方は、以前おくりび山にいらっしゃったはずですわ。お父様が接待なさったと、伺っております」
「本当か。初耳だな」
「お父様……まさかご自身のご都合で、カエン様や皆様にご報告されなかったのでは。申し訳ございません」
「そーゆーのいいから、今のコレをどうするかっつー話だよ」
「そうだな。今アルトマーレで起こっていることと、パルデアの天変地異が、仮に同じものだったとしてもだ。わかっていることは『未知のポケモン四人の仕業』くらいで……」

「ねね、あのひとしらないひと!」
「指さしたらダメでしょ、このバカ!」
「だって、あんなでっかいぼうしかぶってるひと、みたことないもん」
「ほんとだ、なにあのクソダサ帽子」
「なんか……きもちわるい……」
「近づいたら……ダメな感じする」
ラテオの顔色が優れない。ラテアも嫌な違和感があるようだ。

「アルトマーレにちょいちょい来てる二人が知らないってだけで、もうむっちゃ怪しくね。ちょっくら挨拶してくんよ」
「ちょっとグレンさん。悪い方とは決まっておりませんし、穏便にお願い致しますね!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「バンチョーさん、アイツやっつけちゃって!」
「バンチョーがんばれー!」
「おーう、任せとけー!」
 ラテアとラテオの応援を背に、グレンはしっぽを構えながら、見慣れないポケモンの方へぐんぐん歩いていく。

「アレに任せては危険だ。ハナに頼んでもいいか?」
「はい、承知しました!」
「おばさんも、あの帽子やっつけちゃってくださーい!」
「おばさんがんばれー!」
「おば……ハナ、平常心を保つのよ。平常心を……」
 ハナも、人の姿からキュウコンの姿に戻り、グレンを追う。

――

「じゃあラテアとラテオは、ジッジさんとバッバさんのところに帰ろうか」
 グレンとハナを見送ったホタルは、ラテアとラテオの説得に移る。
「えー、やだー」
「私たちもアルトマーレのために戦います。ジッジさんとバッバさんに、恩返ししたいんです!」
「これ以上、キミたちを危険に晒すわけにはいかないんだ。異変に気づいたラティ王たちも、すぐに駆けつける。ここは、私たち大人に任せてほしい」

 三人の所へ、細長いオオタチのような影のポケモンが、ひたひたと近づいてきた。
ラティアスラティオス……キミたちは、人間に味方するんだね?」
 レパルダスのような顔立ちだが、全身が降り積もった雪のように白い。口からは、二本の剣が長い牙のように異様に伸びている。もともと一本だった剣が、二本に折れているようだ。

「また……しらない……ひと……」
「この感じ……前に……」
 ラテアとラテオは、その場にぐったりと倒れ込む。人の姿のホタルは、しゃがみ込んで二人の顔色を伺う。
「二人とも大丈夫か⁉︎ お前、何をした!」
 二人の異変の原因が、この剣の牙のポケモンなのは明らかだ。

「感受性の高いポケモン……とくにエスパータイプや子どもたちは、僕たちから放たれるオーラで体調を崩してしまうらしい。意図的なものではないので、ご勘弁いただきたい」
「オーラだと? まさか、最初にアルトマーレの海岸で、この子たちが倒れたのも……」
「ほう。もしやと思ったが、人間のくせに僕の言葉がわかるのか。その二人なら、じきに動けるようになるから、安心したまえ」
「私たちは……大丈夫……」
「だいじょ……」
 ラテアとラテオは、ついに気を失ってしまった。

「では、本題に移らせてもらおう。ラティアスラティオスを従える操り人よ。僕は、キミたち人間の行いを許すことができない。よって、キミたちの死をもって、懲罰とさせていただく」
「人間の行い……だと?」
「その反応だと、僕たちを集め『アンヤ』を呼び出したのは、別の人間なのだろうな。だがそれも関係ない。人間の街を壊し、ここにいる人間をすべて殺すことで、同じ悲劇を繰り返さぬための戒めとする」

「人間でなければ、争う必要がないということだな?」
 ホタルは人に化けた姿から、キュウコンの姿に戻る。
「私は、おくりび山王国王位継承一位ホタルという者だ。この肩書きは、好きではないけどね」
「なんと人に化けていたのか、これは失敬した。僕は……」

 そこへ、グレンを追っていったハナが、息を切らして帰ってきた。
「グレンさんとあの帽子ポケモンさん、すごい勢いでバトルをお始めになってしまわれ……え?」
「これは……美しいキュウコンのお嬢さん。僕はパオジアンと申します。以後お見知り置きを」
 パオジアンは、ハナに深々とお辞儀をした。
「ご丁寧にありがとうございます、パオジアン様。わたくしはキュウコンのハナと申します。ホタルの空前絶後超絶怒涛の妻でございます」
「えっ、その設定まだ生きてたの?」
「そうですか……ご夫婦だったのですね。表立ってお会いできないのは残念ですが、旦那さんに内緒で、後日こっそりお食事でもいかがですか?」
「お誘いありがとうございます。しかしながら、パオジアン様のような容姿端麗なお方でしたら、わたくしなどよりも、もっと相応しい方がいらっしゃると存じます。せっかくの有難いお誘いではございますが、お気持ちだけ頂戴致しますわ」
「完璧だ……ホタルさん、こんなに素晴らしい奥様がいらっしゃるとは、隅におけませんね」
「アッハイ」

「では、僕はこれで失礼させていただ……」
 パオジアンは、にゅるりと踵を返す。
「ちょっと待て。どこに行く気だ」
「いや、だって。炎キュウコン二人が相手じゃあ、どう見ても僕に勝ち目ないでしょ。氷タイプで相性不利な上に、耐久ぜんぜんないんだよ。人間とラティたちが相手だったら勝てそうだなーと思って、かっこよく顔を出したのに」

「私たちも、なにもキミをとって食おうとは思わん。せめて、今起こっていること……あの竜星群の情報が欲しい」
「もし協力しなかったら?」
「三人目の炎キュウコンが、こだわりはちまきヒヒダルマのような地獄の業火で、キミを焼き尽くすことになるだろう」
 ホタルの目は笑っていない。

「やれやれ……どっちみち、キュウコンであるキミに声をかけた時点で、僕の負けだからな。事情を話すくらいなら、アンヤの逆鱗にも触れないだろう」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルとハナがパオジアンと出会う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 ブラックナイトなど、ポケモン本編のゲーム内で詳しく語られなかった歴史や設定が多々ありますが、それらを勝手に掘り下げたり繋いだりするのが楽しいです。

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 第十七話 ご飯食べにくくないですか

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十五話 焼け野原こんがりボディ地方


 第十五話 焼け野原こんがりボディ地方

 空からの竜星群を受け続けるアルトマーレの城。強固な岩壁も少しずつえぐりとられ、城自体が倒壊するのも時間の問題だ。

「竜星群、むっちゃ降ってるな」
 王位継承三位のミツが、無惨な姿となった城を見上げる。
「土砂降りですね」
 深紅のモンスターボールを持った商人は、諦め顔で応える。

「竜星群って、とくこうが下がって少しずつ弱まっていくんじゃなかっけ」
「勢力を維持したまま、北上していますね」
「北上なんかしてないだろ。むしろ場所的には停滞だ」
「うーん……バチンウニの歩く速さくらいは、動いてませんかね」
「そういう問題じゃない。現実逃避するな」
「はい、すみません」

「あと、城下町のあちこちで、むっちゃ暴れてるポケモンもいるな」
「ヤバい。逃げましょう」
「そうそう、ああいうやつ。頭に丼を載せてる変なのが、こっち来てる」
 商人はミツを誘導し、走り始める。
「あれ、私たちを探してるんですよ。無理やり一ヶ所に集めて災厄を起こしたから、怒ってるんです」
「逃げるんじゃなくて、その赤いボールで捕まえる予定じゃなかったっけ。暴れてる災厄ポケモンのうち、どれか一匹でもボールに収めれば、それで竜星群が止むと」
「それが、なかなか捕獲クリティカルが出なくて……」
「捕獲くり……あんだって?」
ポケモンたちのレベルが上がってるんです、きっと」

「とりあえず、捕まえる計画は無理ということだな。これ……このままだとどうなるんだ?」
「一ヶ月続いて、島中が焼け野原になります。あの竜星群から逃げようと、災厄ポケモンたちが島中を駆け巡る。災厄ポケモンを追って、竜星群も島中を駆け巡る。こうして、焼け野原こんがりボディ地方の完成です。できあがったのがパルデア地方こちらになります」
「わーおいしそう! ほのお技が無効で、ぼうぎょも上がるなんて、信じられなーい……って、やかましいわ!」
「はい、すみません」

「しかし、災厄ポケモンたちにとっても、あの竜星群って逃げたいものなんだな」
「そうみたいです。竜星群が当たって、イテッてなってるのもよく見ますし。あ、ほらあんなふうに」
「だったら、災厄ポケモンにお願いして、散り散りになってもらうのはダメなのか。一ヶ所じゃなくなれば、竜星群も止むんだろ。災厄ポケモンたちも助かるし、我々も助かるし、一石二ポッポでは?」
「それも難しいですね。彼らは、私たち人間に対して、とても怒ってるんです。『よくも勝手に集めて竜星群呼びやがったなコノヤロー』みたいな感じです。なので、今はぜんぜん言うことを聞いてくれません。むしろ『竜星群で人間たちが痛い目みればいい』とまで思っているんじゃないでしょうか。平時なら、仲良くしてくれる子もいるんですけどね」

「じゃあ、あの竜星群の出どころを止めれないのか? 自然災害のようにも見えるが、『災厄ポケモンを追う』みたいなことも言っていただろう。こちらの言うことを聞かせたり、できないのか」
「竜星群の主は、引っ込み思案な伝説ポケモン……だと私たちは考えています。正直なところ、正体はさっぱりわかってないんですけどね。商売上、調べる意味も薄いですし。いずれにしても、我々の手に負えるモノではありません」
「出どころも打つ手も無しか。パルデアのときは、どうやって収拾したんだ」
「パルデアでお取引させていただいたときは、竜星群の振り始め……ちょうど今のような折に、パルデアの王様にネタバラシしたんです。先日お売りしたコレは災厄ポケモンなので、『ゲットする特別なボール』と再発防止用に『未来永劫に封印できる資材』をさらに買いませんかと。なかなかご購入を渋られたので、被害がどんどん拡大していきましたが……最終的には両方ともお買い上げいただき、収拾することができました」
「思ってたよりも、むっちゃエグい商売だったわ」
「商売にエグいもサッパリもないのは、ミツ様もご存知でしょう。パルデアの王様が『操り人が災厄を止めた』と公表されているのは、見栄でしょうね。『カネで解決した』よりも、よっぽど建前がいいですし。私たちとしても、そうやって事実をぼかしていただいた方が、次の商売がやりやすくて助かります」

「ん……でも、災厄ポケモンたちを『未来永劫に封印』したんなら、なぜまたココで暴れているんだ?」
「ミツ様なのでさらにネタバラシしますが、災厄ポケモンは何匹もいるんです。ひょいひょい見つけられるものではありませんが、在庫が……言える範囲ですと『数匹ずつ』はいます。あ、もちろんこの辺りのお話は、内密にお願いしますね。私たちも『災厄ポケモンを購入された』というミツ様の『印』を頂戴していることを、ゆめゆめお忘れなきよう」
「もちろんだ。もはやこうなってしまった以上、私がどう騒ごうが意味は薄いだろうがな。フタのせいにする計画も、練り直さなければならない」

「これ、ここにある最後のオリジンボールですけど、ダメ元で投げてみます?」
「お、いいのか。前々から、操り人の真似事をやってみたいと思ってたんだよな」
「投げるボールも通常のモンスターボールと違って特別仕様ですし、投げる相手も国を滅さんとする災厄ポケモンです。ミツ様の初陣に相応しいかと」
「ヨイショされても、この後に及んで払えるカネはないぞ」
「商人としての性で申しあげたまでですので、お気になさらず。今回のこの有様でこれ以上お代を頂戴するなんて、滅相もございません」
「あ、外れた」
「最初はそんなものですよ、ささ逃げましょう」
「そこは、ヨイショしてくれないんだな」
「のんびりお話ししているように見えるかもしれませんが、けっこうカツカツなんです。城下町の港にある私たちの船まで、急ぎましょう。竜星群も沖合までは及びませんので、静まるまでの一ヶ月、そちらへ避難します。他にも一緒に避難されたい方がいらっしゃれば、船に乗ってからお伺いしますので、ひとまずは」

――

「スピードスター!」
ひかりのかべ!」
 降りかかる無数の竜星群から街を守ろうと、ラテアとラテオは必至に技を放つ。しかし、防ぎ損なった竜星群の断片が、城下町の建物に直撃する。
「あのふってくるやつ、ぜんぜんとまんないよー」
「わ……でっかいのくる。アレちょうだい!」
「うん! てだすけ!」
「ミストボール!」
 姉弟のとっておきの一撃が、竜星群の塊を砕く。しかし、その飛び散った破片が、家々の壁に衝突する。
「こんなのむりだよー」
「あきらめないでよ、バカラテオ! 助けてくれたジッジさんたちに、恩返しするんでしょ……っと、またでっかいのきた!」

「ねっぷう!」
 新たな竜星群の塊が、予期せぬ炎に瞬く間に包まれる。そして破片の一つも残すことなく、灰になって消え失せた。
「ったく……勝手に飛び出して、泣き言いってんじゃねーよ」
 キュウコンの姿のグレンだ。
「まぁ……その度胸は、褒めてやってもいいけどな」
「バンチョーさん!」
「かっこいいー!」

「恩返しも素晴らしいが、自分の身も大事にしてほしいな」
「この竜星群の数では、わたくしたちでも対応しきれませんわ。人間のみなさんの避難を優先した方がよろしいかと」
 続いて、人に化けた姿のホタルとハナも駆けつける。
「おじさん!」
「おばさん!」
「おば……お子様の仰ること……お子様の仰ること……」

――

 Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

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 時代考証的に、技・特性・道具の名前以外では、なるべくカタカナ言葉を使わないようにしています。ポケモントレーナーのことを「操り人」と呼んでいるのは、ポケモン映画「ルギア爆誕」のオマージュです。

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 第十六話 おねえさんが剣でザーン

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十四話 戴冠式の前日に災厄を


第十四話 戴冠式の前日に災厄を

「パルデアを襲った災厄の正体は、四匹の災厄ポケモンたちです。彼らを一ヶ所に集めて解放する……つまり、まとめてモンスターボールから出すことで、災厄の力が発動します。そして、無数の竜星群がその一帯を襲うのです」
「なんと恐ろしい……」
「そして、四匹の災厄ポケモンのうち一匹でもボールに収めれば、災厄は止まる。そうやって災厄を安全に管理することができるのです」
「災厄ポケモン四匹を、フタ様の手元で解放するんだな」
「それが、フタ様を陥れるための『秘策』というわけか」

「はい。私が申しました『決着のバトル』で勝つための秘策とは、フタ様の手元で災厄ポケモンを解放して災厄を引き起こし、それを我々が収拾することです。フタ様は、災いをもたらした張本人として国民の信頼を失い、逆に我々は、災いを的確に収めたとして賞賛されるでしょう。信頼を失ったフタ様は王に不適格とされ、『決着のバトル』を迎えることすらなく、王位継承二位の座から退いていただくことになります」
「勝ちに執着したフタ様が、悪魔の力に手を出した……という触れ込みも通るな」
「ただ、フタ様の手元で四匹を同時に場に出すとなると、実際のバトル中では難しくないか?」
ダブルバトルだとしても、もう二匹をこちらから出すわけにもいかないしな」

「建設的にお話いただいて、嬉しい限りです。仰る通り、『決着のバトル』の最中に自然に災厄を発動させるのは、現実的ではありません。そこで、『決着のバトル』の前日……すなわち、戴冠式の前日に災厄を発動させます。フタ様がバトルの練習をしているところを、見計らうのです」
「なるほど、バトルの準備中を狙うのか」
「それなら、フタ様の操り人が四匹同時に場に出しても、不自然ではないな」

 今や真剣に思案している一同を前に、ミツの部下は講釈を締めくくる。
「長くなりましたが、以上が『決着のバトル』の秘策であり、我々が用意した『神の一手』の全容です」
「『決着のバトル』を申請し、フタ様が準備されている所で、意図的に災厄を起こす……」
「我々が災厄ポケモンをボールに収めて、災厄を収拾する……」
「フタ様は『災厄を起こした元凶』として国民から非難される……」
「逆に我々は『災厄を終わらせた英雄』として支持を集める……」
「元凶であるフタ様に、王位を継ぐ資格は当然なく、自動的にミツ様が王位に就かれる……」

「まさに、悪魔の力を使った神の一手……だな」
「そううまくいくのか?」
「何を言っている。よくできた筋書きじゃないか」
「他に、我々が生き残る道もあるまい」
「どうせこのままだと、路頭に迷って首をくくる運命だ。手段を選んでる余裕はねえ」

「正直、胸を張って言えるような、美しい計画ではありません。しかしながら、イチ様陣営とミツ様陣営双方の明るい未来を叶えることができ、さらにはアルトマーレを新しい時代へと進める、革新的なものです。ぜひとも、皆様のご協力をお願いしたく存じます……」
そう言って、ミツの部下は深々とお辞儀をした。

――

 村の役場から帰ってきたジッジ・バッバ・ハナの三人を、ラテアとラテオが出迎える。

「バンチョーさん、みんな帰ってきましたよ」
「おばさんもおかえりー!」
「よっ、おばさん!」
「そんな低俗な煽り方をなさっても、乗せられなくてよ。実際のお歳の差と、この子たちの自由奔放さを考慮すれば、おば……そちらの呼称も止むを得ませんわ」
「痩せ我慢しちゃって。じゃ、アタシもこの『大きいお子様』の面倒見んの疲れたから、後はお前に任せるわ」
「ホタル様になんてご無礼を。ホタル様こそ、この気の利かない乱暴者のお相手をされて、お疲れではありませんか? すぐにお茶をお淹れしますね」

「ちっす、アタシはグレン。このおバカ夫婦の、お目付け役ってとこだ。よろしくな」
「初めまして、ジッジと申します。三人でお越しになっていると伺っておりましたので、お会いできてよかったです」
「初めまして、バッバです」
「バッバ……さん……?」
「……グレンさん、人間としてもなかなか腕がお立ちになるようだね」
「もしかしてアンタ……伝説のヨーヨー使いの……」
「おっと、そこまでにしとくれ。もうとっくの昔に、引退した身なんでね」
「失礼しました!」
「アルトマーレグラスのヨーヨーなら、港町のお土産屋さんで売ってるから、買っていくといい」
「はい! ゲンナマしときます!」

「ばあさんは、何の話をしてるんでしょうね」
 グレンとバッバのやり取りを尻目に、ジッジはホタルに、役場で聞いてきた話を報告する。
「村の役場で、明日の戴冠式の詳しい話を聞いてきました。戴冠式自体はお昼からですが、その日の朝に『決着のバトル』というのをするそうです。急に決まったみたいなんですが……ポケモンさんのバトルでも、戴冠式を盛り上げてくれるようですね」
「急に……なんですね。盛り上がるのなら、なによりです。戴冠式の会場って、あそこに見えるお城ですよね?」
「はい。朝のバトルを見るなら、よっぽど早起きをしないとですね」
「でもこの子たちに乗せてもらえれば、すぐにでも飛んでいけますので……」

――

 初めに異変に気づいたのは、ラテアとラテオだった。
「おねーちゃん、おしろにはなびー!」
「お祭りは今日じゃなくて、明日でしょ。バカなこと言わないでよ」
「ほんとだってばー!」
「わ、ほんとだ。でも花火って、下から上にドーンじゃなかったっけ。あれ、お空から落っこちてない?」
「したからもでてるよ。くろいもくもく」
「え……あれ……なんかダメなやつだよ……」

「ホタル様、あのお城の煙……ご様子がおかしくございませんか?」
「そうだな。ジッジさん、バッバさん、何かご存知ですか?」
「お祭りの予行練習……ではなさそうですね」
「じいさん、ありゃ火事ですよ。しかも相当な大火事だ……みんなで助けにいきましょう」

「空から城に降り注ぐ光……巨大なポケモンに襲われているようにも見えるな」
「わたくしたちで、止められるでしょうか」
「わからない。しかし居合わせた以上、やるしかあるまい。まずは、この子たちの安全を……」
 ホタルは、ラテアとラテオを無事にラティ王国へ帰すまでの算段を巡らせる。定期的に漁村の様子を見にきているラティたちに、二人を連れ帰ってもらおう。そのためには、城から離れたこの漁村で、ジッジとバッバに預けておくのが最適だ。

「ジッジさん、バッバさん、私たちはお城へ向かってあの『火事』を止めてきます。お二人はこちらに残って、子どもたちをお願いできますか? 今日の夕方までには、他のラティオスラティアスたちが、子どもたちを引き取りに現れるはずです」
「わ、わかりました」
「バタバタになって申し訳ありません。それと……お二人には彼らの言葉がわからないかもしれませんが、お二人からの言葉は必ず伝わります。『そのとき』が来たら、ぜひ言葉をかけてあげてください」
「わかった、任せときな」
 バッバが頼もしく応える。
「バッバさん、ありがとうございます!」
「グレンさんが敬語を⁉︎ 拾い食いでもなさったのですか⁉︎」
「あの伝説のバッバさんに、失礼しちゃダメだろーが!」
「何を仰ってるのか、わかりません!」
「とにかく、ガキたち聞いてたよな。ここに残って迎えが来るのを……」

「ラテオ、わかってるよね。王こそ前へ出よ……」
「うん……こわい……けど!」
 瞬時にラティアスラティオスの姿に戻る。
「「いこう!」」
「「いくな!」」
 グレンとホタルの制止を耳に入れる間もなく、ラテアとラテオは、凄まじい勢いで城へと飛び立った。

「なんという速さですの」
「アイツら、根性すげーな」
「くっ、子どもが危険な場所に赴くなど……」

「こい、オオスバメ!」
 グレンはふいに、虚空に向かって叫ぶ。
「さっそく出番があるとは、ありがてえ!」
 オオスバメが一人、どこからともなく現れた。
「アタシたち三人、あの城まで運べるよな。キュウコンと人間、どっちが持ちやすい?」
「人間の方が運び慣れてます。すぐに仲間呼びますんで」

「どちら……さま?」
「アタシの弟子だ。今朝いろいろあって知り合った」
「さすが、手が早いな」
「そういう意味深な言い方、マジでキモイからやめろって」
「えっ、意味深?」
「天然ちゃんかよ!」

「お待たせしました、姐御!」
 オオスバメは仲間を呼び、いつの間にか三人に増えていた。
「助かる! だいぶ離されちまったけど、前のガキたち追ってくれ!」
「「「あいよ!」」」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 ジッジの家のホタル・ラテア・ラテオにグレンが合流 → 災厄が発動 Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 オオスバメとの出会いを描いたエピソードも二話分書いたので、なにかの折に公開できたらと思っています。ホタルとハナが二人きりで過ごした漁村の夜の、グレンサイドのスピンオフです。

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 第十五話 焼け野原こんがりボディ地方