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しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十話 聞くだけタダの神の一手


第十話 聞くだけタダの神の一手

 ホタルたちがアルトマーレに着く二日ほど前。
 アルトマーレの城の一室に、十人ほどの人間が集まっていた。王位継承一位であったイチの側近と、その庇護を受けていた商人たちだ。

「イチ様が海で嵐に遭ってお亡くなりになり、王位は継承二位のフタ様へ……一巻の終わりだ……」
「あなたはまだ、次の仕事口があるからいい方だ。僕なんか、どこにも雇ってもらえない」
「イチ様のご贔屓があったからこそ、うちの店は成り立ってたんだ。路頭に迷えっていうのか」
「イチ様が王位に就かれる前提で仕入れちまってるのに、急にハシゴを外されて……」
「うちもそうだ。こうなってしまっては、もう首を括るしかない」

「ここで愚痴をこぼし合ってても、仕方がない。まずは、どうしてイチ様がお命を落とす羽目になったのか、そこから議論するべきでは?」
「議論と言ってもな。『イチ様が乗っていた船が嵐で沈んだ』それだけだろ。今さらどうしようもないじゃないか」
「イチ様のご遺体が見つかっていないのが、ひっかかるな。もしかしたら、まだ生きていらっしゃるのでは?」
「だったら、なぜ姿を見せない。仮に生きていらっしゃったとしても、戴冠式が終わってしまえば、覆すのは難しいぞ」
「嵐と難破の衝撃で、記憶喪失になっているとか……」
「おとぎ話じゃあるまいし、そんな都合よく記憶喪失になんてなるものか」

「そう、そもそも都合が良すぎる。戴冠式は五日後だぞ」
「そんな直前に、イチ様がお亡くなりになるなんて偶然が、起こるはずがない」
「誰かの陰謀に決まっている!」
「首謀者は誰だ。やはりフタ様か?」
「イチ様が亡くなって得をするのはフタ様だし、まっとうに考えればそうだな」
「でも、そう見せかけたミツ様の仕業かもしれんぞ」
「証拠を探し出して、犯人を明らかにするんだ!」

「いや待て。仮に犯人がわかったとしても、イチ様が生き返るわけではない。どっちにしろ、我々は終わりなのでは?」
「いっそフタ様に取り入って、私たちの商売が続けられるように、取り計らってもらえないだろうか」
「それだ。賢く優しいフタ様なら、俺たちのことを気遣って、何かしら配慮してくださるはず!」
「本当にそうだろうか。イチ様が我々を抱えてくださっていたように、フタ様にもお抱えの側近が大勢いるだろう」
「私たちまでお世話になる余裕なんて……あるわけないか」
「逆に、俺たちが潰れることで、フタ様お抱えの商人たちが儲かるからな。あっさり見捨てられるのがオチだ」
「じゃあどうすればいいんだよ。八方塞がりか……」

 場が煮詰まっていたところへ、新たな人影が現れる。
「みなさん、お困りのようですね」
「あなたは……王位継承三位ミツ様の側近の方。いったい何の御用で?」
「みなさんをお救いする『神の一手』がございまして、そのお誘いに参りました」

「『神の一手』なんて、そんな仰々しい。どうせ、俺たちを騙くらかすつもりなんだろ」
「そう心配なさるのも当然でしょうね。そこで、ぜひみなさんに、お選びいただきたいと思っております。このまま終わりのない愚痴のこぼし合いをお続けになるか、とりあえず聞くだけタダの『神の一手』に耳を傾けてみるか。いかがでしょう?」
 一同はどよめく。他陣営の人間の提案など、疑わしいことこの上ない。ただ、自分たちの議論の見通しが立たないのも、また事実だ。

「まあ、聞くだけなら……」
「誘いに乗るかどうかは、知らんぞ」
「ありがとうございます。では、単刀直入に申します。戴冠式当日の朝に『決着のバトル』を執り行うのです」

――

 ラテアとラテオは、人間の姿のままベッドで寝息を立てている。

「子どもたちが寝ているうちに……今後のことについて、ご相談があります」
「……はい」
 ジッジは、切なげにホタルに応える。
「遅かれ早かれ、この子たちは、本当のご両親の元へ帰ることになります。遅くとも明後日の朝には、心配しているご両親が、こちらに到着するでしょう」
「そうですね、それがあの子たちの本来あるべき幸せですから。名残惜しいですが、致し方のないことです」
「じいさん。せめてあの子たちに、戴冠式を見ていってもらうのはどうかね」
「それは良い。ホタルさん、明後日の戴冠式をあの子たちに見てもらうよう、ご両親に融通していただけませんでしょうか?」
戴冠式……アルトマーレの国王の、代替わりの式典があるのでしたね」
「そうです。数十年に一度の、国を挙げてのお祭りです。きっとあの子たちも、あの子のご両親も、楽しんでもらえると思います」
「わかりました。ご両親もあなた方にはとても感謝されるでしょうし、私からも是非にと伝えます。きっと聞き届けてくれるでしょう」
「ありがとうございます。ホタルさんたちも、どうぞ楽しんでいってください」

「はい、もちろんです。ところで……その戴冠式について、一つ気になることがあります。延期になったりすることは、ありませんでしょうか。ご両親に伝える以上、いちおうお伺いしておきたいと思いまして」
「延期……それはないと思いますよ。いろいろありまして、王位継承二位のフタ様が王位に就かれることになったのですが、フタ様はご聡明でお人柄も素晴らしく、むしろ継承一位の方以上に国民から好かれていると思います。なので、戴冠式が取りやめになるなんてことは……」
「ジッジさんは、『不審な人間はお城に連れて行かれる』と仰っていましたよね。何か事件を警戒されているのかなと思ったのですが、そのような物騒な話もなさそうでしょうか」
「お城がピリピリしているという話は、村のみんなもしていますが……戴冠式の警備をしっかりしているだけでしょう。きっと大丈夫ですよ」
「わかりました。変なことを伺って、すみません」
「いえいえ、構いません。それでは私たちは、後片付けをしてから休みます。ホタルさんたちも、隣の部屋でどうぞお休みください。ご案内しますね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

――

 その日の夜更け。ジッジとバッバの家の客間で、ホタルとハナがくつろいでいる。
「人間の方のお宅ですと、人に化けた姿の方が、落ち着くものでございますね」
「そうだな。このベッドというのも、意外と心地いい」

「ホタル様は……戴冠式のことが、ご心配なのでしょうか?」
「ジッジさんに、根掘り葉掘り聞いていたことだね」
「ええ。とても積極的にご質問されるので、何か思い当たることがございますのかと」
「私は……戴冠式がすんなり終わるとは、思っていないんだ。昨日酒場でイチさんが部下と話しているのを盗み聞きしたときに、『王位継承三位のミツという人間が戴冠式をさきおくりする』というような話をしていた」
「わ、わたくしがお酒にうつつを抜かしている間に、そのような大事なお話が……その節は大変失礼いたしました」
「いやいや、全然いいんだよ。むしろハナの楽しそうな一面を見れて、私も楽しかった。幼馴染とは言っても、しこたま飲むところなんて、見る機会なかったからね」
「しこたま……わたくしはなんて醜態を……」
「ま、まあ、それはそれとして。私としても、子どもたちとジッジさんたちが、できるだけ長く一緒にいれるようにしてあげたい。そのためには、今のアルトマーレのお家騒動をなるべく正しく把握して、ラティ王にきちんと説明したいと思ってる」
「アルトマーレの実情を知るには、現地の人間の方のお話を伺うのが、一番でございますものね……」

 ハナは、躊躇いながらも、言葉を続ける。
「ちなみに、あの……グレンさんは、今日はもうこちらには、いらっしゃらないのですよね」
「うん。明日の晩に例の酒場で定時連絡をするから、そのとき一緒にグレンも集合すると思う。それまでは、一人で羽を伸ばしてるんじゃないかな」
「ということでしたら……今宵は、ホタル様とわたくしの二人きり……」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に神の一手を提案 New!
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/24 フタの戴冠式の予定 → 決着のバトルとフタの戴冠式の予定 Update!

Comment
 城の一室の会議を合間に挟むことで、時系列の前後がわかりづらいかなと思って、毎話の最後に Calendar を足す仕様にしました。「城の一室」と「漁村のホタルたち」とで場面があっちゃこっちゃなってすません。

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