ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十二話 そーゆーの困ってねーんだ


第十二話 そーゆーの困ってねーんだ

「あなた方イチ様陣営をお救いする『神の一手』について、『青写真』に続く二つ目、『お誘いした理由』をご説明させていただきますね」
「そうだな。お前たちミツ様陣営だけでやれば済む話だ。そうすりゃ、俺たちに分け前を取られることも、ねえだろうよ」
「僕たちを騙して、おいしい蜜だけ吸おうって魂胆だろ」
「腐っても我々は商売人。騙し騙されの世界には、嫌というほど慣れているからな。思うツボツボにはならんぞ」

「『決着のバトル』は、ただいたずらに文句をつければいいわけではない……というのは、仰っていただいた通りです。国民のみなさんの納得が得られるような主張でなければ、国民からの支持も失いますし、フタ様陣営からも門前払いされます」
「そうだ。出鱈目に『決着のバトル』を申請しても徒労に終わるのは、ヒトモシを見るより明らかだ」
「むしろ国民から、白い目で見られるだけだしな」

「ええ。仮に、我々ミツ様陣営の者が『フタ様がイチ様を暗殺しました』と申し出たとしても、よほど決定的な証拠がなければ『ミツ様自身が王になりたいがための言いがかりだろう』と却下されるでしょう」
「面の皮が厚いだけの、不届者だな」
「暗殺する側としても、それほど有力な証拠を残すわけがないし、現実的ではない」

「しかし『フタ様がイチ様を暗殺しました』と申し出るのが、イチ様陣営の方だった場合は、どうでしょうか。『王位継承権を不当に奪われた』という主張に見え、フタ様としても不用意に断るわけには参りません。もしフタ様が申し出を却下し、そのまま王位に就いたとしても、『暗殺してのし上がった王』の噂が、ずっと付きまとうことになりましょう」
「身の潔白を証明するためにも、『決着のバトル』を受けざるを得ない……というわけか」
「誰が主張するかによって、こうも印象が変わるものだな」

「裏でイチ様陣営とミツ様陣営が繋がっているというのは、少し想像すればモロバレルかもしれません。しかし、国民への表向きの見せ方としては、『イチ様陣営からの主張』は十分に機能します。このように、半ば名義貸しのような形にはなりますが、この度の『神の一手』には、イチ様陣営のご協力が必要不可欠なのです。それがみなさんを『お誘いした理由』です」
「ふむ。言いたいことはわかった」
「俺はまだ、信用できねーけどな」

「では最後に、『神の一手』の三つ目のご説明……『準備』についてお話します。結論から申しますと、既にほぼ全ての準備が終わっております」
「既に終わっているとな」
「そんなまさか」
「手際が良すぎて、逆に怪しいまである」

「前提として、『決着のバトル』までの日程を整理させていただきます。本来であれば、戴冠式の前日までにフタ様宛に『決着のバトル』を申請し、戴冠式の日の午前中にバトルを行うのが、通例の流れです。しかし今回は、より誠意を見せるために、申請を一日前倒しします。つまり戴冠式の二日前に、全ての準備を終え、申請する予定です」
「全ての準備って……フタ様がイチ様を暗殺したという証拠がいるだろ」
「証拠だけじゃない。バトルの準備も必要だ」
「フタ様の操り人を超える強さの者は、そうそういない。今からたった三日で探し出すのは、不可能だ」
「誠意を見せるのは大事だが、前倒しは無理があるのではないか」
「でも、それがもう終わっているっていうんだろう?」

「はい。まず証拠集めと、それをまとめた文書の執筆までは、既に終わっています。文書をお配りするための写本を印刷所で進めており、それも明日の夜には終わる予定です。準備を『ほぼ全て』とぼかしたのは、この印刷の作業のみです」
「素晴らしい手際の良さだ」
「いくらなんでも、ちょっと準備が早すぎやしないか?」
「印刷というのは、ミツ様陣営の会社の新しい技術ですな」

「ありがとうございます。我々ミツ様陣営の発端は、アルトマーレの運送業の寄合。運送から波及して、交通や出版という仕事を始めた者もおります。モノやヒトの移動は情報の移動でもありますから、今回のような調査や情報収集に関しては、フタ様陣営と言えど、我々の足元にも及びません」
「それは頼もしい」
「情報は……これからの時代、武器になりそうだ」
「バトルの問題も、解決しているんだろうな」
「俺らが言えた義理じゃないが、ミツ様のとこの操り人でも、フタ様の操り人には勝てんだろ」

「はい、もちろんです。磐石の準備が整ったからこそ、こうしてお伺いしましたので。確実に勝つための『秘策』を用意しております……」

――

 ハナの「じんつうりき」によって、ラテアとラテオが意識を取り戻した翌朝。
ジッジの家の庭から臨む砂浜で、二人が人間の姿で遊んでいる。ホタルは、それを一人で見守っていた。

「今日中に、ラティ王国の誰かが『ゆめうつし』で話しかけてくると思うんだ。二人は、人に化けた姿でも『ゆめうつし』に気づけるかな?」
ラテアは、ラテオと遊ぶ手を止めて応える。
キュウコンさんの『人に化ける』って言うの、かわいいですね。私たちは『変身する』って言うんですけど」
「おねーちゃんちがうよ。へんしんじゃなくて、へんっ! しんっ!」
「ラテオのバカはおいといて……変身したままでも『誰かがなんか送ってきてるなー』くらいならわかりますよ。ちゃんと見せてもらうとか、私から送るとかなら、ラティアスの姿に戻んなくちゃだけど」
「それなら大丈夫そうだね。今までは二人とも寝てたから気付けなかったと思うけど、二人を探すために、ラティ王国の人が定期的に『ゆめうつし』で話しかけてたんだ。ジッジさんたちの家に二人がいるのは、王国の人も知ってたしね。だから今日も、夕方くらいまでには『ゆめうつし』の着信があるはずだよ」
「パパたちが迎えに来てくれるんですね。ヤッタァー!」
「『ゆめうつし』で連絡があったら、私にも教えてもらえるかな?」
「はい、わかりました。ラテオも聞いてた?」
「うん、きいてたよー!」
「パパたちがなんか言ってきたら、このおじさんに教えるの」
「おじさん……」
「わかった!」
「ほんとにわかってんのかな……」

「ねえねえ、ジジイさんとババアさんは?」
「このバカ、お名前間違えすぎ。ジッジさんとバッバさんでしょ」
「面倒を見てくれた人たちの名前、知ってるんだね」
「私たちが寝てる間、人間の人たちのお話がぼんやり聞こえてたんです。私たちが変身してるって、バレてたみたいだったけど……」
「いいひとだったね。ぜんぜんたべられなかった!」
「ほんとそれ。すっごくビビってたのに、損しちゃった。パパったらウソついてたのね!」
「そういえば、お父さんから『人間に食べられる』って言われてたんだっけ」
「パパのウソッキー!」
「ウソついたらダメだって言ったのはパパなのに、大人ってほんとワガママ!」
「えっと……それは……」

「そりゃ、お前たちがいい子にしてたから、ギリギリ食べられなかったんだぜ」
 答えに窮するホタルに、救いの声が舞い降りる。
「悪い子だったら、人間の腹んなかでぐちゃぐちゃになってるとこだった」
 人に化けた姿のグレンだ。
「グレン、こっちに来てたのか!」
「ああ。いろいろあったのも一段落したから、遊びにきた。村の人間は……いねーんだな」

「あたらしいひときた!」
「お前がラテオか。いぇーい!」
「いぇーい!」
「ラテアもいぇーい!」
「いぇーい!」

「お前が、こんなに子どもの扱いになれてるとはな。正直、助かった」
「学園にはちっちぇーやつもいっぱいいるからな。よく相手してんだ。番長連合総代なめんなよ」
「バンチョーさん?」
「ああ、ホウエン番長連合総代グレンだ。よろしくな」
「バンチョーかっこいー!」
「ほいほい、ありがとな」

「ハナはどこいった? トサキントのフンみてーに、お前にくっついてんのかと思ったけど」
「ジッジさんとバッバさん……子どもたちを保護してくれた人間と、朝から出かけている。村の役場というところに、明日の戴冠式の予定を聞きにいったんだ」
「そういや、なんか人間のお祭りがあるみてーだな」
「ああ。その戴冠式をみんなで見てから、おくりび山に帰ろうと思っている」

「バンチョーさん、このおじさんって彼氏さんですか?」
「えっ?」
 戸惑うホタルとは裏腹に、グレンは余裕で笑っている。
「おじさんだってよ、キャハハハ」
「かれしだー!」
「いや、そういう話はだな……」
「彼氏じゃねーよ。アタシは、そーゆーの困ってねーんだ」
「こまって……ない?」
「モテモテで、彼氏さんがたくさんいるってことよ」
「バンチョーすっごーい!」
「ほいほい、ありがとありがと」

「たくさんの彼氏さんの話、聞きたいです!」
「バトルごっこしよーよー!」
「じゃあバトルごっこしながら話してやっから、覚悟しろよお前ら」

 グレンとラテオはそれぞれポケモンの姿に戻り、「ひのこ」や「ねんりき」を打ち合う。ラテオとのバトルごっこの片手間に、グレンは過去の恋バナをラテアに話す。人の姿のままのラテアは、バトルの実況風に、グレンの恋バナに相槌を打つ。

「その彼氏さんとは、いったいどこで出会ったのでしょーか!」
「別れ際の一言は、こうかはばつぐんだ!」
「歪んでいます、おかしい、なにかが、修羅場の!」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に神の一手を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 ジッジの家のホタル・ラテア・ラテオにグレンが合流 New!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 ミツ&イチ陣営の行動を理解しやすい(飲み込める)ように、背景の説明シーンをしっかり目にした結果、字が多くて読む方も大変ですね。書く方も大変だったんで、がんばってください(投げやりのキマワリ

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 第十三話 お母様に紹介したい