ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十一話 喉笛を喰らいちぎって差し上げます


第十一話 喉笛を喰らいちぎって差し上げます

「……今宵は、ホタル様とわたくしの二人きりで、ございますわね」
 ハナは、ホタルを見つめる。
「ああ、そうだな。グレンがいない今のうちに……」
 ホタルは、窓の向こうの夜空を眺める。

「今のうちにしか言えないが、アイツは本当にすごいよな」
「えっ、グレンさんの……話でございますか?」
「うん。本人の前で言うと、調子にのって面倒そうだと思って」
「まあ……左様でございますわね……」

「グレンは、『千歳の掟』を破り、おくりび山王国から追われてまで、山という箱の外に飛び出した。そして、ホウエン番長連合という新しい国を、自分の手で作り上げた」
番長連合……名前こそふざけていらっしゃいますが、確かに一つの『国』とお呼びしても差し支えない規模でございますわね。若いポケモンを中心として、おくりび山王国・カナズミ同盟組合の双方にも、そこそこの支持者がいらっしゃいます」
「私たちと同じくらいの歳だというのに、グレンはもう世界を大きく変えている。片や、私はどうだ。箱の中で、親の敷いた道の上を歩くだけ。ちやほやされながら暮らすだけで、何一つ変えることができない」

「そのようなことはございません。ホタル様は、十分ご立派です」
「ハナには、そう見えるのか?」
「はい。この遠征にわたくしがお供することが決まったとき、カエン様のお付きの方から伺いました。ホタル様は、おくりび山を変えようとされていらっしゃる。新しい王の決め方、『千歳の掟』の在り方、ほかにも山をよりよくしようと、たくさんのことを」
「でも、実際は何一つ変わっていない。考えるだけでは、意味がないんだ」
「そんなこと仰らないでください。わたくしだって、変えようと努力しておりますのに……」
「ハナも?」
「はい。ホタル様もお気づきかと存じますが、わたくしの父のことです」
「ああ……」

「父は、この遠征にあたって、わたくしに命じられました……」
 ハナは、ホタルから目を逸らす。
「ホタル様を……」
 ホタルは、ハナを優しく見つめる。

「ホタル様を、暗殺しろと。なので本当は……箱の中の私であれば、直ちにホタル様を刃物で刺させていただくか、キュウコンの姿に戻り、喉笛を喰らいちぎって差し上げなければなりません」
「……」
「しかし、わたくしは世界を変えさせていただきます。とてもとても、本当にお恥ずかしいくらい小さな世界でございますが、わたくしを覆う箱の中の世界を変えます。いえ、たった今変えました!」
「お、おう」
「もう、お父様の言いなりにはなりません。むしろ、お父様の喉笛を喰らいちぎって差し上げます!」
「それは……ちょっと変えすぎなのでは」
「それだけ本気で変わった、ということです。わたくしでも世界を変えることができるのですから、尊敬するホタル様であれば、もっとたくさんのことを変えられると信じております。幼い頃からずっとホタル様を拝見してきたわたくしが申すのですから、間違いございません」
「幼い頃からか。グレンにそう言われると、否定のしようがないな」
「ホタル様……?」

 その場の空気が、「ぜったいれいど」を受けたかのように、凍りつく。

「そういえば昔は……」
「今、わたくしの名を、間違われましたね」
「あ」
「しかも最悪なことに、ギャラまたのグレンさんと」
「あの……その……さっきまで、グレンってすごいなーって流れだったし、その……ね」
「いい雰囲気で、ドキドキしておりましたのに。やはり、ホタル様の喉笛を、喰らいちぎって差し上げた方がよろしかったでしょうか」
「はわわ……」
「興醒めしましたわ」
「ごめんなさい」

「誠意の証として、一つお願いがございます」
「なんなりとお願いしたいします」
「それは……わたくしの……」

――

 アルトマーレの城の一室で、王位継承三位ミツの側近が「神の一手」と持ち出したのは、「決着のバトル」というものだった。意外な提案に、イチの元側近や商人たちは戸惑う。

「みなさんも、『決着のバトル』というアルトマーレのしきたりは、よくご存知かと思います。議論で折り合いがつかない問題が起こったときに、ポケモンバトルで決着をつける……という伝統的な手段です。その『決着のバトル』を、イチ様の側近だった方から申し出ていただくことで、みなさんの今後のお仕事や商売の問題を、解決することができるのです」

「ようは、バトルでぶん殴って、フタ様を引き摺り下ろすってことだな」
「そんな野蛮な話ではない。ポケモンバトルの強さは、すなわち国力に繋がる。より国力に貢献できる者の意見を採用する……というのが、『決着のバトル』の主旨だろ」
「私たちももちろん、『決着のバトル』は検討したさ。でも、それを申し出たところで、王位継承を覆すことはできん。もともと、そういう面倒なことをしなくてもいいように、王位継承の順位が決まっているのだからな」
「『決着のバトル』の議題が、『継承の順位をひっくりかえす』ではなく、『フタ様がイチ様を暗殺した』であれば、いちおう筋は通るが……」

「その通りです。五日後に控える戴冠式の前に、『フタ様がイチ様を暗殺した』と『決着のバトル』を申し出ていただき、フタ様陣営に勝つ。それが、私が申し上げる『神の一手』なのです」
「それでも、現実的ではないと思うがな」
「『決着のバトル』も、ただ文句を言えばいいというわけではない。それなりの根拠が必要だ」
「そうだ。フタ様がイチ様を暗殺したという証拠はどうする。調査する時間もないだろう」
「だいたい、ポケモンバトルで勝てるのか。フタ様のところには、凄腕の操り人が何人もいると聞くぞ」
「首尾よく進んで、フタ様が王位に就かなかったとして、私たちの生活の問題は解決できるのか?」
「俺は胡散臭えのが、どうも気に食わねえ。お前たちだけで『決着のバトル』を進めればいいじゃねーか」

「みなさんの仰ることは、いずれもごもっともです。そこで、今回の提案がいかにみなさんにとって『神の一手』たり得るのか、『青写真』『お誘いした理由』『準備』の三つに分けてご説明したいと思います」
「手短に頼むよ」
「俺たちも、暇じゃねーんだからな」

「貴重なお時間、ありがとうございます。では、まず一つ目ですが……先に、『決着のバトル』後の『青写真』をご紹介します」
「好きにしろ」
「そううまく行くといいがな」

「我々が『決着のバトル』で勝利すれば、フタ様は五日後の戴冠式で王位を継ぐことができず、後日ミツ様が王位にお就きになります。そしてミツ様は、イチ様陣営のみなさまを手厚く保護し、今までと同等か、またはそれ以上の待遇を約束してくださっています」
「ちょっと待った。だったらミツ様のお世話になるよりも、フタ様のお世話になる方が断然良さそうに見えるんだが」
「実際問題、フタ様陣営の経済規模は、私たちと比べて圧倒的に大きいのが現実だ。イチ様陣営とミツ様陣営を足してもなお、フタ様の方が上回っている」
「寄らばユキノオーの陰。どんなに綺麗な青写真を描いても、ミツ様に付く者はいないだろう」

「みなさんも、仰ってたではありませんか。フタ様は既に十分に商人を抱えており、これ以上ほかの商人の面倒を見れる余裕はない……と。言うなれば、千人の買い手を、フタ様陣営の百人の商人で占有している状況です」
「それはそうだが、ミツ様にはその余裕があるというのか?」
「はい、ございます。抱えている商人が少ないからこそ、イチ様陣営の皆さんを救う事ができるのです。具体的には、ミツ様が王位に就かれた暁に、早々に法を改変し、フタ様陣営の商人百人の全ての権益を剥奪します。ミツ様陣営の商人四十人が、新たな売り手になりますので、残りの六十人分の売り手を、イチ様陣営にお願いします。側近のみなさんについても同様に、フタ様陣営の側近を全て解雇して、その穴をみなさんで埋めていただきます」
「法を変えて権益を剥奪だと」
「そんな非人道的な……」

「思い出してください。もともと、あなた方が将来を憂うこととなったきっかけは、何だったでしょうか。イチ様を暗殺するという『非人道的』な手を、フタ様が用いたからでしょう」
「だったら、フタ様お抱えの商人たちが痛い目を見るのも、因果応報か」
「しかし、汚い手に対して我らも汚い手で報いては、同じ穴のジグザグマ……」
「そうだそうだ。商売人としての誇りを捨てろというのか」

「誇りと仰いますが、食うか食われるかもまた、商売の側面でございましょう。あなた方も、順当にイチ様が王にお就きになっていらっしゃれば、自分たちの権益がより潤うと信じていらっしゃった。誰かが潤うということは、他の誰かは枯れるということです。程度の差こそあれ、あなた方がごく自然にやろうとしたのと同じことをしているだけなのに、『非人道的』と仰るのは悲しいです」
「商売も弱肉強食の世界……たしかに一理はあるが……」
「『物は言いよう』の範疇を超えないな。信用ならん」

「そちらのご感想で十分です。我々の提案に乗るか反るかはさておき、ひとまず『決着のバトル』によって『あなた方の問題を解決できる』という青写真だけ、ご理解いただければ構いません。私も、最悪な場合として『権益を剥奪』などと強めの言葉を使ってしまいましたが、本音はみなさんと同じです。なるべくは穏便に、誇りをもって、商売を続けたいと思っております」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に神の一手を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 「決着のバトル」は、一般的な西洋の文化にあった「決闘」そのまんまです。人間が直接戦うわけではないので、呼び方を変えました。

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 第十二話 そーゆーの困ってねーんだ