ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第九話 負けじと腕をピーンと伸ばし


第九話 負けじと腕をピーンと伸ばし

 再び人の姿に化けたホタルは、ベッドに横たわってる姉弟の額に手を当てる。やはり、人間と比べてひんやりとしている。ラティたちは、姿形は人に似せる事ができても、体温までは化けることができず、人間のそれよりも低いままなのだ。

「ハナ、できるんだな?」
「はい。『じんつうりき』の応用で、この子たちの意識を取り戻せるはずでございます。お任せくださいませ」
 キュウコンの姿のハナは、目をつむり、二人に「じんつうりき」の念波を送る。

「これは……ゴーストタイプの『のろい』のような、何かまとわりつくものを感じますわ。どちらかといえば悪タイプに近い……残留思念と申しますか」
「悪タイプの残留思念、ダークオーラか?」
「どちらかで覚えのある感覚と存じましたが、仰る通りイベルタル様のダークオーラに近うございますね。以前カロス地方への外遊をお供させていただいた折に、イベルタル様にお会いしたことがございますので」
イベルタルがこの辺りに現れ、この子たちはそのダークオーラの影響を受けて、意識を失ってしまったと。小さい子なら、より影響を受けやすいとは思うが……」
イベルタル様がおいでになったのでしたら、ラティ王国の調査でお噂くらいはお伺いできそうでございますわね。ご立派なお翼は、お目立ちになりますので」
「そういう話が一切なかったということは、もっと違う原因なのかもしれないな」
「引き続き『じんつうりき』で話しかけてみますね。もう少しお時間いただければ、お二人ともお目覚めになると思います」

「いべる樽?」
「だー食おう……ら?」
ポケモンさんのお話は、さっぱりわかりませんね」
「失礼しました。かいつまんでご説明しますと……この子たちは、今日中には目が覚めそうです」
「そうなんですね、よかったです」
「やっぱり、ポケモンさんのことはポケモンさんに聞くのが、いちばんでしたね」
 バッバとジッジは、安堵の表情を浮かべる。

「お医者さんに診ていただいたのですが、よくわからない症状だと頭を抱えるばかりでした」
「この子たちが倒れていたのも、人に化けているのも、何か特別な事情があるのだろうと思ってまして。お医者さんに『この子はポケモンさんだ』とも言えず、途方に暮れていたのです」

「本当に大事に保護していただいて、ありがとうございます。私たちはこの子たちの本当の親ではありませんが、人間の言葉を話せるという理由で、代理を務めている者です。本当の親に代わって、心からお礼を申し上げます」
「いえいえ、困っているときはお互い様です。本当の親御さんも、きっと心配しているでしょう。早く元気な顔を見せてあげたいですね」
「そうですね。元気な顔……この子たちが目を覚ましたら、きっとお腹をすかせていると思いますので、何か食べるものをご用意いただくことはできますでしょうか。人間のみなさんが作るご飯は、人に化けるポケモンみんなに大人気なのです。命の恩人であるお二人にご用意いただいたものなら、なおのこと喜んでくれるでしょう」
「あらあら、それでは腕によりをかけないといけませんね。ほら、じいさんもボサっとしてないで、手伝ってください」

――

 一方その頃、ホタルたちと別れたグレンは、独りで漁村を散策していた。

「イッチーたち、こっちの方に歩いてったよな。この崖……登ってった方が近道じゃね?」
 人の姿からキュウコンの姿に戻り、崖を一気に駆け上がる。崖の上の草むらを進むと、イチと部下の二人の影が見えた。
「お、いたいた。なんだアイツら、家ん中に入んねーのか?」

 グレンは、草むらの陰から様子を伺う。二人は、崖の上の家を遠巻きに眺めているようだ。
「アレじゃー、泥棒に入る家を探してるみてーだ」
 そして家に入ることもなく、二人揃ってそのまま立ち去ってしまった。
「何しに来たんだアイツら。あ、そーいえばホタルが『イチが暗殺される』みてーなこと言ってたっけ。もしかして子分の家も、もうみんな殺されてるとか……こっわ」
 キュウコンの姿のまま、おそるおそる家に近づき、家の中を覗いてみる。

「なんだ、家ん中の人間、ちゃんと生きてんじゃねーか」
 母親に抱かれた五歳くらいの子どもと、窓越しに目が合う。
「あれが、子分のガキと奥さんね」
 子どもは、見慣れぬポケモンの来訪に楽しそうにはしゃいだ。母親も、その反応を見てグレンに気づいたようだ。親子で顔を合わせて、微笑んでいる。
「アタシみたいなキュウコンを見て、何が面白いってんだ。人に化けた姿ならともかく、キュウコンの姿ならボッサボサで……」
 窓ガラスに反射する自分の顔を見て、グレンは驚く。

「なんだこの美しいキュウコンは……こんなにサラサラで……アタシすげー……」

 ホウエンからアルトマーレへ向かう道中を、思い出す。
レベッカの上で、ハナが毛繕いしてくれたおかげか。どーせ人の姿に化けるんだから関係ねーっつったのに。鏡を移す心だとか、毛並みが千人分でどうとか、しっぽの先に集中しろとか、なんかぶつぶつ言いながら無理やりされたヤツ」

 子どもは、母親の腕の中から懸命に腕を伸ばしている。窓の向こうにいる未知の存在に、興味津々のようだ。

「人の姿に化けたハナが、人間の『クシ』ってやつで器用にサーってしてくれてたな。キンセツ学園に来てから、ちゃんとした毛繕いとかいつ以来だって感じだけど……こりゃすげー」

 グレンは、親子の前でくるっと回って見せる。九本のしっぽが、ふわりと舞う。
「次見せるときは、ゲンナマもらうからな」
 そう言って、崖の上の家を後にした。

――

「箱の中の世界っつーのも、悪くねーのかもな」

……「箱の中」にもそれなりの事情がある。

 レベッカの背中で言われた、ホタルの言葉がよぎる。
「箱の外にいるのはアタシだけ。ホタルもハナも、あとイッチーもイッチーの子分も、みんな箱の中の堅苦しい世界にいる。よくわかんねー掟とか付き合いとかあって、それを無視すると怒られる。怒られないようにぶん殴って黙らせたら、もっと怒られる。そんなめんどくせーのが嫌で、山を飛び出したんだ」

 港町の方へ歩き出す。
「でもアイツらは、そんな箱の中で、澄ました顔して生きてやがる。今までは『ぜんぜん意味わかんねー』って思ってたけど、こうやって毛繕いができるっていうんなら、ちったー箱の中もアリかもしんねーな」

 潮風が、グレンの頬をひんやりと撫でる。
「……いや、やっぱナシだわ。毛繕いだけじゃワリに合わねー。うっかり騙されるとこだった。ちゃんとホタルに約束守らせて、『千歳の掟』から逃れてやる。そいで、学園に毛繕い部を作ろう。ハナがいるうちに、クシ買いに行かなきゃな。アレ買うのに、どれくらいゲンナマいるんだろ」

――

 漁村を訪れた日の夜。
 ハナの目論見の通り「じんつうりき」が功を奏し、ラテアとラテオは無事に目を覚ましていた。人間の少女と少年の姿のまま、ジッジとバッバの手料理を、凄まじい勢いで食べ漁っている。

「おいしいかい?」
「うんめえうんめえ……と言っています」
 人の言葉を話せないラテアとラテオに代わって、ホタルたちが通訳している。
「眠っている間も、ジッジさんとバッバさんのお声は、お二人に届いていたとのことですわ。お返事をしようにもダークオーラの余波で、お体が動かず、お目も開けられず、もどかしかったようですわね」

 ラテアは、満面の笑みで腕をピーンと伸ばし、空になったお皿をジッジに差し出す。
「はいはい、おかわりだね。まだたくさんあるから、たーんとお食べ」
 それを見たラテオも、負けじと腕をピーンと伸ばして、お皿をバッバに差し出す。が、皿は手から滑り抜け、壁に突き刺さらんとする勢いで、バッバを目掛けて飛んでいく。青ざめるホタルとハナをよそ目に、バッバは人差し指と中指でパッシと皿を受け止めた。
「バッバさん、只者ではいらっしゃいませんね……」
 ハナは、驚きと尊敬の眼差しを、バッバに向ける。
「妻たるもの、これくらいは鍛えておかないとね」
「はい! お勉強させていただきます!」

「ジッジさん、バッバさん。お二人は、明日のご予定ありますでしょうか? この子たちが、外で遊びたいと言っています」
「もちろんありますよ」
「え」
「この子たちと遊ぶ予定が、みっちりと」
「おお、ありがとうございます。明日はたくさん遊んであげてください」
「明日と言わず、今からでも構いませんけどね」
「ああ、それは……」
「あらあら。お二人ともお腹いっぱいで、いつの間にかお休みになられたようですね」

 ラテアとラテオは、先ほどまでのご飯を食べていた勢いが嘘のように、コトンと眠りに落ちていた。

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 ホタルたちが漁村のジッジの家を訪問 → 漁村でラテアとラテオが復帰 Update!
7/24 フタの戴冠式の予定

Comment
 一般的には「兄ラティオス、妹ラティアス」が多いですが、逆パターンもアリかなと思い、姉弟のペアになりました。負けじと上の子の真似をしたり、急にコトンと寝たり、かわいい。

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