ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十三話 お母様に紹介したい


第十三話 お母様に紹介したい

 ラテアとラテオは、ジッジの家の庭に仰向けになって寝転んでいる。それを眺めながら、ホタルとグレンは、ジッジの家の縁側に並んで腰掛ける。ひとしきり遊んで、みな休憩の時間だ。

「やっぱ、ガキたちの体力はやべー」
番長連合総代も、音を上げるほどとはな」
「世の中の親たちはみんな毎日コレやってるって思うと、マジですげーぜ」
「番長というよりも、託児所の先生だな」
「そーゆーのも、アリかもな」

 ラテアとラテオが起き上がり、二人でまた遊び始めた。
「あんま遠くにいくなよー。ジジイとババアに食われるからなー」
「「はーい!」」

「アタシが子どもウケいいのってさ……アタシが子どもだからだと思うんだ」
「それは……わかる」
「少しは否定しろよ。アタシがガキだってか!」
「すまない。どうも乙女心というのが、わからなくて」
「まあ、確かにアタシはガキなんだよな」
「ますますわからない……」

「アタシはいくつになってもガキだったから……うまくいかないことがあったら、頭で考える前に、拳でぶん殴って解決してきた。そんなんじゃダメだってのは、なんとなくわかってたんだぜ。殴られる方が痛いのは当然だけど、殴る方の拳もけっこう痛てーからな。でもガキだから、殴る以外のいい方法が、思いつかなかったんだ」
「殴る方の拳も痛い……か」
「でも周りには、殴る以外の方法でうまくやってるヤツもいる。とくに箱の中の連中だ。このアルトマーレの旅では、そーゆーヤツが多かった」
「始まりが、ラティ王国からおくりび山王国への応援要請だったからな。お前には居心地が悪かっただろう。配慮が足りなくてすまない」
「いや、逆に感謝してるぜ。ハナはいじってておもしれーし、ここの酒はうめーし、イッチーたちもいいヤツだった。おくりび山を飛び出したアタシにとって、外から眺める箱の中は、新しいことがたくさんで飽きないんだ。お前が言ってた『箱の中の事情』っつーのは知らんけど、『箱の中にもなんかイイ感じのモンがあるんだろうな』くらいは、わかってきた」
「それほど価値があるものとは、あまり思えないがな」
「価値があるかどうかは、アタシが直接見て決めるから、気にすんな。お前にハナにラティのガキたち……ありがてーことに、この辺には偉いヤツがたくさんいっからよ。お前らの『箱の中の事情』ってやつを、たんまり盗ませてもらうぜ」

「その、失敗を恐れない好奇心が、世界を変える原動力なんだろうな。グレンはやっぱりすごい」
「なんだよ急に……キモ」
「箱の中には、改善するべき問題がたくさんあるんだ。でも、大人たちは、それに気づかなかったり、気づいても『仕方がないこと』となおざりにしてしまう。それを変えていくには、グレンみたいな、実際に手足を動かして実行する力が必要なんだと思う」

「へー。お前も、箱の中でのんびり生きてるだけじゃねーんだ」
「ああ。おくりび山には、変えなければならないことが、たくさんあるからな」
「『千歳の掟』とかな。アレどー考えてもいらねーし」
「グレンもそう思うか」
「ぜってーいらねー。だってアレ『キュウコンが強すぎて迷惑かかるから、山に引きコモルー』ってことだろ。そんなに強えーんだったら、もっと簡単に番長連合まとめれたっつーに」
「グレンなりの、苦労があったんだな」
「学園の子分たちの前じゃ言えねーけどさ、ギャラドス燃やすために、むちゃくちゃナゾノクサに特訓付き合ってもらったんだぜ。それに、ボーマンダ野郎をぶっ飛ばすのに、どんだけ死にかけたと思ってんだよ」
「やっぱり、『キュウコンが特別な存在』というのは、今はそぐわなそうだな。とても参考になる。ありがとう」

「あのめんどくせー掟をなくせるんだったら、いくらでも手を貸すぜ」
「手伝ってくれるのか?」
 グレンの思わぬ協力的な姿勢に、ホタルは驚く。
「グレン一人だけなら、『掟をなくす』までしなくても、『グレンを掟の例外にする』だけで十分だ。それくらい、山に戻ればすぐにでもできるぞ」
「お前の目はキュワワーか。掟を嫌がってんのが、アタシだけなわけねーだろ。山のお偉いさんたちは知らねーかもだけど、山から出たいってうちまで相談しに来るキュウコン、けっこういんぞ」

「本当か。それは由々しき事態だ……帰ったらすぐにでも、お母様に相談しなければ。グレンのことも、一緒にお母様に紹介したいが、いいか?」
「おい、親に紹介って……いちおう聞くが、なんて紹介するつもりだ?」
「掟を嫌っている……相談窓口?」
「それならヨシ」
「あと、他のキュウコンのことも考えてて、意外と優しい」
「『意外と』が余計だ。アタシは元から優しい」
「そうか」
「ついでに、ホタルの邪魔をするんなら遠慮なくぶっ飛ばしにいく……って紹介しとけ」
「え……ぶっ飛ばす……優しいとは?」
「ほんとホタルは、乙女心わかってねーなー」
「そ、そうなのか。すまない」

「あと、ハナの前で楽しそうにアタシの話をすんなよ。母ちゃんに紹介するとか、グレンはすごいーみたいな話だ。変に恨まれると、めんどくせーからな」
「あ……」
「あ?」
「ごめんなさい」
「手遅れかー。せっかくお前らの仲が進むように、昨日の夜二人っきりにしてやったのに」
「えっ、そういう……」
「で、なにがあった?」
「誠意をお願いされて……ハナと……すまん。やっぱりこれは、グレンでも言えん」
「言えねーってなんだよ。なんか『ごめんなさい』するようなことを、やらかしたんだろ?」
「あ、そっちか!」
「どっちだよ!」
「これはこれで言いづらいんだが……」
「はいどうぞ、ホタル君」
「ハナのことを……うっかりグレンと呼んでしましました。ごめんなさい」
「うっわ最悪」
「反省します」
「名前間違えるのは、絶対ダメだって……うっわ最悪」
「反省しました」
「せめて、他の女の名前を呼んでくれよ……うっわ最悪」

――

「『決着のバトル』で勝つための秘策だと。そんなものがあるのか」
「フタ様は、強力な操り人を何人も抱えていらっしゃるんだぞ」

 アルトマーレの城の一室。ミツの側近の「神の一手」の提案も、大詰めを迎えていた。

「フタ様の陣営に強力な操り人がいらっしゃるのは、紛れもない事実です。しかし、我々ミツ様陣営は、その対策となるポケモンを、既に調達しております」
ポケモンの調達だと。それでバトルに勝てるのか?」
ポケモンバトルは、操り人の能力に左右されるのが常識。ポケモンの用意に努めてもな……」

「みなさん、今一度振り返ってみてください。『決着のバトル』で達成するべき目的は、なんだったでしょう。ポケモンバトルに勝つことでしょうか。いいえ、フタ様を失墜させ、ミツ様が王位に就くことです」
「バトルに勝たずして、フタ様を負けさせるとでもいうのか」
「ちょっと何を言っているのか、わからないな」

「では、質問を変えましょう。仮に、フタ様が悪魔の力を使って、ポケモンバトルに勝とうとしていたら、国民のみなさんはどう思うでしょうか。しかもそのフタ様は、『決着のバトル』でイチ様の暗殺を疑われ、その証拠まで突きつけられています」
「感じ悪くは見えるが……」
「悪魔の力というのが、なんとも抽象的で想像しづらいな」

「失礼致しました。悪魔の力と申しますのは……『バトルに勝つことはできるけれども、勝つと同時に城下町の建物の四分の一を破壊してしまうポケモン』という想定でお願いします」
「それはさすがにやりすぎだろう」
「怪我人だけでは済まないぞ。まあそんなポケモンなんて、いるわけないけどな」
「いくら評判がいいフタ様でも、そこまでケチが続くと、だいぶ厳しそうじゃないか?」

「意地悪なナゾナゾが続いて申し訳ありませんが、これが最後です。パルデア地方が、ある災厄に苛まれた話は、ご存知ですか?」
「もちろんだ。けっこう最近の話だもんな」
「パルデアに災いが降りかかり、国を壊滅に追い込んたという……」
「最後は、操り人が国を救ったんだったな」
「悪魔の力……まさかその災厄を、アルトマーレでも起こす気か⁉」

「ついに正解者が出ましたね。素晴らしい」
「この美しいアルトマーレを、災厄で破壊するというのか?」
「俺は、実際にパルデアを見てきたが、それはもう酷い有様だったぞ。地方一帯が焼け野原で……思い出しただけでもゾッとする」

「パルデアのような被害は出しません。そもそもアレは、災厄を知らなかったばっかりに起こってしまった悲劇です。私たちはその災厄を十分に知り、そして御する術まで用意しています。被害が出たとしても、せいぜい城一帯が瓦礫になる程度。古い体制を一新する、いい象徴になるではありませんか」
「災厄を……意のままに操ることができるというのか?」
「正気の沙汰ではない」
「いや、もし本当にあの力を操ることができれば……」
「王位を得る以上の、国力になるぞ」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に神の一手を提案 → 災厄の発動を提案 Update!
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 ジッジの家のホタル・ラテア・ラテオにグレンが合流
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 当時のアルトマーレでは、バトルの勝敗に「ポケモンの能力」は関係なく「操り人の能力」のみが影響するとされていた……という想定です。バトル文化が未熟で、能力値や技の威力がわかっていない感じです。

Next
 第十四話 戴冠式の前日に災厄を