ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十六話 おねえさんが剣でザーン


第十六話 おねえさんが剣でザーン

「ここまで見てきた限り、ひとまず城下町の外まで逃げれば安全そうだ」
「竜星群の出どころの方が、このまま大人しく居座っていただければ、ですが」
「ちょうど城の上空に、黒い雲が渦巻いていて、その中心から竜星群が降り続いているな」
「渦の中心に、ポケモンの方がいらっしゃるようにも拝見できますわね。こちらからでは距離がございますので、なんとも申し上げられませんけれども」

「お前ら、アルトマーレにときどき来てんだろ。ああいうの見たことねーのか」
「初めて……だよね」
「うん、みたことない」

「もしかして、ブラックナイトではございませんでしょうか。長躯の竜が、天に黒き渦を巻き、災いをもたらす……おくりび山の伝承では、そのように形容されていたかと」
「見た目はまさにその通りだな。ブラックナイト……二千年以上前にガラル地方を襲ったポケモンか。全国の言い伝えをまとめる伝承部も、たまには役に立つんだな」
「伝承のとおりであれば、ガラル地方の伝説ポケモンの方が、ブラックナイトをご討伐なさったそうです。今回も……そんな都合よく現れてくださるでしょうか」

「ガラルの伝説、私知ってるよ。おねえさんが剣でザーンってするの!」
「ぼくもしってる。たてでダーンってするやつ!」
「私たちでザーンダーンってやったら、優勝だね!」
「そいつはすげーな。いざとなったら頼むぜ」
「うん、まかせといて!」

「アレはどーなんだ。ちょっと前に、どっかの地方で人間が全滅したーみたいなのあっただろ。ココもなんか全滅しそうだし、関係あんじゃね?」
「パルデア地方ですわね。それに、全滅なんて物騒なこと仰らないでください。パルデアの人間のみなさんも、ちゃんと半分くらいは生き残っておられたようですから」
「それそれ。キンセツ学園でもその噂でむっちゃ盛り上がったから、おくりび山にはもっと話入ってんだろ」
「あれは……全国を行脚している四人のポケモンが、当人の意思とは別に、偶発的にもたらした天変地異……だと聞いている。ただそれ以上のことは、おくりび山でもよくわかっていないんだ。どんなポケモンたちかもな」
「お一人だけ……チオンジェン様という方は、以前おくりび山にいらっしゃったはずですわ。お父様が接待なさったと、伺っております」
「本当か。初耳だな」
「お父様……まさかご自身のご都合で、カエン様や皆様にご報告されなかったのでは。申し訳ございません」
「そーゆーのいいから、今のコレをどうするかっつー話だよ」
「そうだな。今アルトマーレで起こっていることと、パルデアの天変地異が、仮に同じものだったとしてもだ。わかっていることは『未知のポケモン四人の仕業』くらいで……」

「ねね、あのひとしらないひと!」
「指さしたらダメでしょ、このバカ!」
「だって、あんなでっかいぼうしかぶってるひと、みたことないもん」
「ほんとだ、なにあのクソダサ帽子」
「なんか……きもちわるい……」
「近づいたら……ダメな感じする」
ラテオの顔色が優れない。ラテアも嫌な違和感があるようだ。

「アルトマーレにちょいちょい来てる二人が知らないってだけで、もうむっちゃ怪しくね。ちょっくら挨拶してくんよ」
「ちょっとグレンさん。悪い方とは決まっておりませんし、穏便にお願い致しますね!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「バンチョーさん、アイツやっつけちゃって!」
「バンチョーがんばれー!」
「おーう、任せとけー!」
 ラテアとラテオの応援を背に、グレンはしっぽを構えながら、見慣れないポケモンの方へぐんぐん歩いていく。

「アレに任せては危険だ。ハナに頼んでもいいか?」
「はい、承知しました!」
「おばさんも、あの帽子やっつけちゃってくださーい!」
「おばさんがんばれー!」
「おば……ハナ、平常心を保つのよ。平常心を……」
 ハナも、人の姿からキュウコンの姿に戻り、グレンを追う。

――

「じゃあラテアとラテオは、ジッジさんとバッバさんのところに帰ろうか」
 グレンとハナを見送ったホタルは、ラテアとラテオの説得に移る。
「えー、やだー」
「私たちもアルトマーレのために戦います。ジッジさんとバッバさんに、恩返ししたいんです!」
「これ以上、キミたちを危険に晒すわけにはいかないんだ。異変に気づいたラティ王たちも、すぐに駆けつける。ここは、私たち大人に任せてほしい」

 三人の所へ、細長いオオタチのような影のポケモンが、ひたひたと近づいてきた。
ラティアスラティオス……キミたちは、人間に味方するんだね?」
 レパルダスのような顔立ちだが、全身が降り積もった雪のように白い。口からは、二本の剣が長い牙のように異様に伸びている。もともと一本だった剣が、二本に折れているようだ。

「また……しらない……ひと……」
「この感じ……前に……」
 ラテアとラテオは、その場にぐったりと倒れ込む。人の姿のホタルは、しゃがみ込んで二人の顔色を伺う。
「二人とも大丈夫か⁉︎ お前、何をした!」
 二人の異変の原因が、この剣の牙のポケモンなのは明らかだ。

「感受性の高いポケモン……とくにエスパータイプや子どもたちは、僕たちから放たれるオーラで体調を崩してしまうらしい。意図的なものではないので、ご勘弁いただきたい」
「オーラだと? まさか、最初にアルトマーレの海岸で、この子たちが倒れたのも……」
「ほう。もしやと思ったが、人間のくせに僕の言葉がわかるのか。その二人なら、じきに動けるようになるから、安心したまえ」
「私たちは……大丈夫……」
「だいじょ……」
 ラテアとラテオは、ついに気を失ってしまった。

「では、本題に移らせてもらおう。ラティアスラティオスを従える操り人よ。僕は、キミたち人間の行いを許すことができない。よって、キミたちの死をもって、懲罰とさせていただく」
「人間の行い……だと?」
「その反応だと、僕たちを集め『アンヤ』を呼び出したのは、別の人間なのだろうな。だがそれも関係ない。人間の街を壊し、ここにいる人間をすべて殺すことで、同じ悲劇を繰り返さぬための戒めとする」

「人間でなければ、争う必要がないということだな?」
 ホタルは人に化けた姿から、キュウコンの姿に戻る。
「私は、おくりび山王国王位継承一位ホタルという者だ。この肩書きは、好きではないけどね」
「なんと人に化けていたのか、これは失敬した。僕は……」

 そこへ、グレンを追っていったハナが、息を切らして帰ってきた。
「グレンさんとあの帽子ポケモンさん、すごい勢いでバトルをお始めになってしまわれ……え?」
「これは……美しいキュウコンのお嬢さん。僕はパオジアンと申します。以後お見知り置きを」
 パオジアンは、ハナに深々とお辞儀をした。
「ご丁寧にありがとうございます、パオジアン様。わたくしはキュウコンのハナと申します。ホタルの空前絶後超絶怒涛の妻でございます」
「えっ、その設定まだ生きてたの?」
「そうですか……ご夫婦だったのですね。表立ってお会いできないのは残念ですが、旦那さんに内緒で、後日こっそりお食事でもいかがですか?」
「お誘いありがとうございます。しかしながら、パオジアン様のような容姿端麗なお方でしたら、わたくしなどよりも、もっと相応しい方がいらっしゃると存じます。せっかくの有難いお誘いではございますが、お気持ちだけ頂戴致しますわ」
「完璧だ……ホタルさん、こんなに素晴らしい奥様がいらっしゃるとは、隅におけませんね」
「アッハイ」

「では、僕はこれで失礼させていただ……」
 パオジアンは、にゅるりと踵を返す。
「ちょっと待て。どこに行く気だ」
「いや、だって。炎キュウコン二人が相手じゃあ、どう見ても僕に勝ち目ないでしょ。氷タイプで相性不利な上に、耐久ぜんぜんないんだよ。人間とラティたちが相手だったら勝てそうだなーと思って、かっこよく顔を出したのに」

「私たちも、なにもキミをとって食おうとは思わん。せめて、今起こっていること……あの竜星群の情報が欲しい」
「もし協力しなかったら?」
「三人目の炎キュウコンが、こだわりはちまきヒヒダルマのような地獄の業火で、キミを焼き尽くすことになるだろう」
 ホタルの目は笑っていない。

「やれやれ……どっちみち、キュウコンであるキミに声をかけた時点で、僕の負けだからな。事情を話すくらいなら、アンヤの逆鱗にも触れないだろう」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルとハナがパオジアンと出会う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 ブラックナイトなど、ポケモン本編のゲーム内で詳しく語られなかった歴史や設定が多々ありますが、それらを勝手に掘り下げたり繋いだりするのが楽しいです。

Next
 第十七話 ご飯食べにくくないですか