ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十四話 戴冠式の前日に災厄を


第十四話 戴冠式の前日に災厄を

「パルデアを襲った災厄の正体は、四匹の災厄ポケモンたちです。彼らを一ヶ所に集めて解放する……つまり、まとめてモンスターボールから出すことで、災厄の力が発動します。そして、無数の竜星群がその一帯を襲うのです」
「なんと恐ろしい……」
「そして、四匹の災厄ポケモンのうち一匹でもボールに収めれば、災厄は止まる。そうやって災厄を安全に管理することができるのです」
「災厄ポケモン四匹を、フタ様の手元で解放するんだな」
「それが、フタ様を陥れるための『秘策』というわけか」

「はい。私が申しました『決着のバトル』で勝つための秘策とは、フタ様の手元で災厄ポケモンを解放して災厄を引き起こし、それを我々が収拾することです。フタ様は、災いをもたらした張本人として国民の信頼を失い、逆に我々は、災いを的確に収めたとして賞賛されるでしょう。信頼を失ったフタ様は王に不適格とされ、『決着のバトル』を迎えることすらなく、王位継承二位の座から退いていただくことになります」
「勝ちに執着したフタ様が、悪魔の力に手を出した……という触れ込みも通るな」
「ただ、フタ様の手元で四匹を同時に場に出すとなると、実際のバトル中では難しくないか?」
ダブルバトルだとしても、もう二匹をこちらから出すわけにもいかないしな」

「建設的にお話いただいて、嬉しい限りです。仰る通り、『決着のバトル』の最中に自然に災厄を発動させるのは、現実的ではありません。そこで、『決着のバトル』の前日……すなわち、戴冠式の前日に災厄を発動させます。フタ様がバトルの練習をしているところを、見計らうのです」
「なるほど、バトルの準備中を狙うのか」
「それなら、フタ様の操り人が四匹同時に場に出しても、不自然ではないな」

 今や真剣に思案している一同を前に、ミツの部下は講釈を締めくくる。
「長くなりましたが、以上が『決着のバトル』の秘策であり、我々が用意した『神の一手』の全容です」
「『決着のバトル』を申請し、フタ様が準備されている所で、意図的に災厄を起こす……」
「我々が災厄ポケモンをボールに収めて、災厄を収拾する……」
「フタ様は『災厄を起こした元凶』として国民から非難される……」
「逆に我々は『災厄を終わらせた英雄』として支持を集める……」
「元凶であるフタ様に、王位を継ぐ資格は当然なく、自動的にミツ様が王位に就かれる……」

「まさに、悪魔の力を使った神の一手……だな」
「そううまくいくのか?」
「何を言っている。よくできた筋書きじゃないか」
「他に、我々が生き残る道もあるまい」
「どうせこのままだと、路頭に迷って首をくくる運命だ。手段を選んでる余裕はねえ」

「正直、胸を張って言えるような、美しい計画ではありません。しかしながら、イチ様陣営とミツ様陣営双方の明るい未来を叶えることができ、さらにはアルトマーレを新しい時代へと進める、革新的なものです。ぜひとも、皆様のご協力をお願いしたく存じます……」
そう言って、ミツの部下は深々とお辞儀をした。

――

 村の役場から帰ってきたジッジ・バッバ・ハナの三人を、ラテアとラテオが出迎える。

「バンチョーさん、みんな帰ってきましたよ」
「おばさんもおかえりー!」
「よっ、おばさん!」
「そんな低俗な煽り方をなさっても、乗せられなくてよ。実際のお歳の差と、この子たちの自由奔放さを考慮すれば、おば……そちらの呼称も止むを得ませんわ」
「痩せ我慢しちゃって。じゃ、アタシもこの『大きいお子様』の面倒見んの疲れたから、後はお前に任せるわ」
「ホタル様になんてご無礼を。ホタル様こそ、この気の利かない乱暴者のお相手をされて、お疲れではありませんか? すぐにお茶をお淹れしますね」

「ちっす、アタシはグレン。このおバカ夫婦の、お目付け役ってとこだ。よろしくな」
「初めまして、ジッジと申します。三人でお越しになっていると伺っておりましたので、お会いできてよかったです」
「初めまして、バッバです」
「バッバ……さん……?」
「……グレンさん、人間としてもなかなか腕がお立ちになるようだね」
「もしかしてアンタ……伝説のヨーヨー使いの……」
「おっと、そこまでにしとくれ。もうとっくの昔に、引退した身なんでね」
「失礼しました!」
「アルトマーレグラスのヨーヨーなら、港町のお土産屋さんで売ってるから、買っていくといい」
「はい! ゲンナマしときます!」

「ばあさんは、何の話をしてるんでしょうね」
 グレンとバッバのやり取りを尻目に、ジッジはホタルに、役場で聞いてきた話を報告する。
「村の役場で、明日の戴冠式の詳しい話を聞いてきました。戴冠式自体はお昼からですが、その日の朝に『決着のバトル』というのをするそうです。急に決まったみたいなんですが……ポケモンさんのバトルでも、戴冠式を盛り上げてくれるようですね」
「急に……なんですね。盛り上がるのなら、なによりです。戴冠式の会場って、あそこに見えるお城ですよね?」
「はい。朝のバトルを見るなら、よっぽど早起きをしないとですね」
「でもこの子たちに乗せてもらえれば、すぐにでも飛んでいけますので……」

――

 初めに異変に気づいたのは、ラテアとラテオだった。
「おねーちゃん、おしろにはなびー!」
「お祭りは今日じゃなくて、明日でしょ。バカなこと言わないでよ」
「ほんとだってばー!」
「わ、ほんとだ。でも花火って、下から上にドーンじゃなかったっけ。あれ、お空から落っこちてない?」
「したからもでてるよ。くろいもくもく」
「え……あれ……なんかダメなやつだよ……」

「ホタル様、あのお城の煙……ご様子がおかしくございませんか?」
「そうだな。ジッジさん、バッバさん、何かご存知ですか?」
「お祭りの予行練習……ではなさそうですね」
「じいさん、ありゃ火事ですよ。しかも相当な大火事だ……みんなで助けにいきましょう」

「空から城に降り注ぐ光……巨大なポケモンに襲われているようにも見えるな」
「わたくしたちで、止められるでしょうか」
「わからない。しかし居合わせた以上、やるしかあるまい。まずは、この子たちの安全を……」
 ホタルは、ラテアとラテオを無事にラティ王国へ帰すまでの算段を巡らせる。定期的に漁村の様子を見にきているラティたちに、二人を連れ帰ってもらおう。そのためには、城から離れたこの漁村で、ジッジとバッバに預けておくのが最適だ。

「ジッジさん、バッバさん、私たちはお城へ向かってあの『火事』を止めてきます。お二人はこちらに残って、子どもたちをお願いできますか? 今日の夕方までには、他のラティオスラティアスたちが、子どもたちを引き取りに現れるはずです」
「わ、わかりました」
「バタバタになって申し訳ありません。それと……お二人には彼らの言葉がわからないかもしれませんが、お二人からの言葉は必ず伝わります。『そのとき』が来たら、ぜひ言葉をかけてあげてください」
「わかった、任せときな」
 バッバが頼もしく応える。
「バッバさん、ありがとうございます!」
「グレンさんが敬語を⁉︎ 拾い食いでもなさったのですか⁉︎」
「あの伝説のバッバさんに、失礼しちゃダメだろーが!」
「何を仰ってるのか、わかりません!」
「とにかく、ガキたち聞いてたよな。ここに残って迎えが来るのを……」

「ラテオ、わかってるよね。王こそ前へ出よ……」
「うん……こわい……けど!」
 瞬時にラティアスラティオスの姿に戻る。
「「いこう!」」
「「いくな!」」
 グレンとホタルの制止を耳に入れる間もなく、ラテアとラテオは、凄まじい勢いで城へと飛び立った。

「なんという速さですの」
「アイツら、根性すげーな」
「くっ、子どもが危険な場所に赴くなど……」

「こい、オオスバメ!」
 グレンはふいに、虚空に向かって叫ぶ。
「さっそく出番があるとは、ありがてえ!」
 オオスバメが一人、どこからともなく現れた。
「アタシたち三人、あの城まで運べるよな。キュウコンと人間、どっちが持ちやすい?」
「人間の方が運び慣れてます。すぐに仲間呼びますんで」

「どちら……さま?」
「アタシの弟子だ。今朝いろいろあって知り合った」
「さすが、手が早いな」
「そういう意味深な言い方、マジでキモイからやめろって」
「えっ、意味深?」
「天然ちゃんかよ!」

「お待たせしました、姐御!」
 オオスバメは仲間を呼び、いつの間にか三人に増えていた。
「助かる! だいぶ離されちまったけど、前のガキたち追ってくれ!」
「「「あいよ!」」」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 ジッジの家のホタル・ラテア・ラテオにグレンが合流 → 災厄が発動 Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 オオスバメとの出会いを描いたエピソードも二話分書いたので、なにかの折に公開できたらと思っています。ホタルとハナが二人きりで過ごした漁村の夜の、グレンサイドのスピンオフです。

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