ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十八話 穏やかに暮らせる日


第十八話 穏やかに暮らせる日

「ホタル様、『めいそう』からお帰りなさいませ。この竜星群……いかがいたしましょうか」
「ああ、待たせた。パオジアン、キミに聞きたいことが二つある」
「なんなりと」
 ラテアとラテオに絡まれているパオジアンは、顔だけホタルの方を向いて応える。

「まず、『認められない答え』を教えてくれ。『一人が遠ざかる』以外にも、何か方法があるんだろう?」
「ああ、それね。それは……あの竜星群の源になっているポケモン、アンヤを倒せばいいんだ。でもそれは、僕らにはできない。そもそも倒せるかどうかすら甚だ怪しいが、仮に倒せたとしてもだ……僕らがアンヤを攻撃すればするほど、僕ら自身が後々酷い仕打ちを受けることになる」
「仕打ち?」
「あのアンヤを倒せば、確かに竜星群は止まる。でも倒してもしばらくすると、復活なのか、再生なのか、転生なのか……よくわからないけど、また現れるんだよ。そして今度は、手を出した僕らを、この竜星群以上の力で直接狙ってくる。僕らは、処刑されるんだ」
「復活……処刑……竜星群の出どころの方は、思っております以上に、尋常ならざるポケモンのようでございますわね」
「だから、僕らはあのアンヤに手を出すのを諦めている。まあイーユイちゃんだけは、どうにか一泡吹かせられないか、虎視眈々と狙ってるみたいだけど」
「なるほど、ありがとう。『認められない答え』で解決できないかと思ったが、いったんはナシにしよう。キミたちが処刑される姿は、あまり想像したくないからな」
「助かるよ。じゃあもう一つの質問というのは?」

「そのイーユイと、あとグレンと戦っている『帽子』のポケモン、それと最後四人目のチオンジェンというポケモン。彼らが、この竜星群の解決方法についてどう考えているのか、教えてほしい」
「チオンさんのことも知ってるとは。さすがはキュウコン、賢しいね。まず、キミたちが『帽子』と呼ぶポケモン……ディンルーなんだけど、彼は僕とだいたい同じだよ。なるべく多くの人間と、人間の作った物を壊すことが、最大の予防だと考えてる」
「ということは、残りの二人は違う考えだと?」
「たぶんね。イーユイちゃんは、ケンカっぱやい子で、毎回一人でアンヤに戦いを挑んでるよ。実際、アンヤがいる空まで飛べるのも、イーユイちゃんだけだしね。でも単純に力不足でアンヤを十分攻撃できていないから、罰も軽めで済んでる。彼女の場合、何か考えがあってっていうより、単にバトルを楽しんでるだけだと思うけど」
「どこぞの『ギャラまた』さんと、気が合いそうですわね」

「チオンさんは……どう考えてるのかよくわからないけど、いつも明後日の方向に走ってるんだよね。アンヤの竜星群に当たるとやっぱり痛いから、出どころから遠ざかるのがいちばん賢い……といえば賢いのかな」
「それは、『一人が遠ざかる』を率先してやっているのでは?」
「なるほど、言われてみればそうかもしれない。さすが、僕らの中で知恵担当のチオンさん。あ、ちなみに僕は顔担当で、その他二人は脳筋たん……」
「つまり、チオン様なら『一人が遠ざかる』作戦に、ご協力いただけるということですね。お冷たい氷タイプの、パオジアン様とは違って」

「つめたいパオジサンだって、アハハ」
「こら、パオジサンに聞こえちゃうで……ぷっ! パオジサンっておもしろすぎ、アハハハハ」
「黙って聞いてれば、お前たちわあああ!」
「アハハハハ! パオジサンが怒った!」
「こらあああ、待て待てえええ!」
「こっちきた! にげろー!」

「顔担当というより、子守担当だな」
「はい。なんだかんだで、子どもたちのお相手をしてくださってて、助かりますわ」
「で、これからだが、チオンさんを探そう。遠ざかる作戦を『てだすけ』するか、他にもっといい知恵があれば拝借する」
「かしこまりました」

「パオジアン、私たちはチオンさんを追いたい。今どの辺りにいるかわかるか?」
「北西に! 向かったよ!」
 パオジアンは、ラテアとラテオを追いかけながら、声を張り上げて応える。
「まだそんなに! 遠くないはず!」

「北西……港町や漁村があった東側とは別方向か。わかった、ここまで協力してくれてありがとう。この竜星群を止めれるよう、努力してくる」
「ああ、がんばれよ」
「私からは……街を破壊するキミに『がんばれ』とは言えない。この土地の人間に、少なからず恩があるからな。ただ、キミたちが穏やかに暮らせる日が来るよう、なるべくいい着地点を探してくるよ」
「穏やかに暮らせる日か……それはありがたい」

「よかったらその『着地点』の結果を、キミにも報告したい。もしキミも興味があれば、五日後の日が沈む時間に、東の港町でいちばん大きな酒場の裏手に来てくれ。遣いの者を置いておく。五日後も竜星群が降っていたら、そのときは諦めてくれ」
「五日後の夕暮れに、東の港町の酒場か……遣いには『期待しないで待つように』と言っといてくれ」
「わかった。それと、ラテアとラテオの相手をしてくれてありがとう。二人とも、いくぞ!」
「パオジアンさん、またねー!」
「おねーちゃん、ちがうよ。パオジサンだよ」
「え、パオジ……どっちがほんとだっけ。アハハハハ」
 やれやれとしっぽを振り、パオジアンはその場を去る……が、首だけニュルンと振り返る。

キュウコンって、けっこうお人好しなんだね。騙したり恨んだりするのが好きな、意地悪なポケモンだとばかり思ってたよ」
「ありがとうございます。騙したり恨んだりも……否定しづらいところではございますが」
ハナとホタルは、揃って苦笑する。
「今回は、道理的・合理的に判断したまでだ。次も『お人好し』に見える行いができるかどうかは、保証できないな」

――

 ホタルたちがパオジアンと出会う少し前。
 竜星群が降り注ぐ城下町では、逃げ惑う人とポケモンがごった返し、大混乱が起こっていた。そんな中、バッフロンのような立派な体躯のポケモンが、建物に八つ当たりするかのように暴れている。巨大な兜をひっくり返したような異形の冠を振り回し、街の破壊をさらに加速させる。

「おい、てめー。何様のつもりで、好き勝手やってんだよ」
「ふむ、少しは骨のあるやつがいたようだな。ワシの名はディンルー。ここは貴様のナワバリであったか、失礼した」
「アタシは、ホウエン番長連合総代グレンだ」

ホウエン……ここはホウエン地方なのか?」
「ここがどこかも、わかってねーのか」
「ああ。ワシらは、人間によって無理やりここに集められた。あのアンヤを呼ぶためだろう」
「竜星群をぶっぱなしてるヤツ、アンヤっつーんだな」
「ワシは、その人間を探し出して復讐するのだ。貴様がこの地方の代表を名乗るのなら、ワシらを集めた犯人を、知ってはおらぬか」
「知らねーな。ここホウエン地方じゃねーし」
「貴様、たばかったな」
「勝手に勘違いしてんじゃねーよ。アタシだってよそモンなんだ」
「時間を無駄にさせおって。手伝う気がないのなら、邪魔をしないでもらおう」

「復讐するっつってたけど、この辺ぶっ壊すのが復讐になんのか?」
「ああ、そうだ。犯人が見つからないとは言え、この辺りにいる可能性は十分あるからな。それに、仮にいなかったとしても、人間たちの連帯責任で、街を破壊させてもらう」
「もっと他にいいやり方があんだろーよ。そーゆーのは、頭いい連中に任せときゃいい」
「他人任せになどできるものか。これ以上邪魔をするのなら、力で黙らせるまでだ」
「アタシも、喋るよりは殴る方が得意だからな。売られたケンカは買うのが心情。道理もゴーリキーも関係ねー!」

――

「グレンさん、争っている場合では……って、もう手遅れですわね」
 ハナがやっとグレンを見つけたときには、辺りは既に、炎と地鳴りと竜星群が飛び交う戦場と化していた。

 グレンは渾身の「ねっぷう」を放つ。しかし、ギャラドスも焼き尽くす程の炎を浴びてなお、ディンルーは顔色一つ変えずに歩みを進める。
「くっそ、むっちゃ硬え。何発当てても、ビクともしねーぞ」
「ふははは、それでねっぷうのつもりか。涼しいわ!」
「ほんとに等倍だよな。なんでこんなに通らねー」
「喰らえ、じだんだ!」
「当たってたまっか!」
「素晴らしい身のこなしだ。しかし、いつまで避けられるかな」
「こっちならどうだ、エナジーボール!」
「かゆいなあ。それが貴様の奥の手か?」
「不一致じゃ、弱点ついても足りんか……」

「貴様の技は効かん。片や、ワシのじだんだを喰らえば致命傷。貴様に勝ち目はないぞ」
「つべこべ言ってんじゃねー! そーか……わかったぞ、お前の硬さのワケが!」
「ほう、気づいたか」
「お前のくせー口だな!」
「そのとお……え?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / グレンがディンルーと戦う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 「穏やかに暮らせる日」など各話のタイトルは、本文中からそのままピックアップしています。固有名詞は含まず、なるべくネタバレにならないように考えるのも、楽しかったです。

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 第十九話 特別にゲンナマなしで見せてやる