ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十話 末代まで祟って差し上げないと


第二十話 末代まで祟って差し上げないと

 アルトマーレの城から北西に向かって、キュウコンの姿のホタルとハナ、そしてレベッカが並走している。レベッカの背中には、ラテアとラテオが横たわっている。グレンの姿は見えない。

レベッカさんにお城までお越しいただいていて、本当に助かりました。疲れて寝てしまったこの子たちを置き去りにもできず、頭を抱えておりましたので」
「お役に立ててよかったよ。人間の姿ならともかく、ラティアスラティオスの姿のこの子たちを抱えて移動するのは、大変だったろう」

「もうすぐラティ王国のラティたちが気づいて、迎えに来てくれるはずなんだけどな」
「ラティ王国の方々とは、ご連絡をお取りになれましたのでしょうか」
「いや、できていない。連絡手段が『日没に港町の酒場』しかないからな。ただ、ラティたちは、日中から日没にかけてアルトマーレの周辺を定期的に調査している。この竜星群の異変にも気付いて、何かしら動いている頃合いだろう」
「ラティ王様の過保護っぷりでしたら、大軍勢でいらっしゃいそうですわね」
「私たちがレベッカで来ていることはラティ王も知っているし、空からでも目立つレベッカを、じきにラティ軍団が見つけてくれると思うんだ」
「この子たちを、これ以上危険な目に遭わせるわけには参りませんから。早く保護していただいて、お国へお帰りいただきましょう」

「このままチオンさんを見つけて一緒に城から離れれば、竜星群は止まり、アルトマーレは平和を取り戻す。城から遠ざかる分だけラテアとラテオも安全だろうし、私たちの役割も全うできる」
「でもそちらですと、パオジアン様やディンルー様の問題が……」
「ああ。竜星群の根本的な原因が残ったままだ。その辺りは、チオンさんと相談して考えたい」

「おーい、見つけたぞー!」
先行して走っていたグレンが、レベッカの進路の右手から現れる。

「あっちだレベッカ。まっすぐ北に走ってる……いや『歩いてる』くらいだな。むっちゃ遅え」
「みなさん足の速さはそれぞれ違うのですから、チオン様の前で、そういう失礼なことは仰らないでくださいね。グレンさんこそ、ディンルー様と無駄にバトルした後でしょうに。どうしてそのように体力が有り余ってらっしゃるのか、信じられないくらいですわ」
「無駄じゃねーって。ああいうヤツはケンカで黙らせねーと、喋ってくんねーからな。おかげで『ディンルーたち四人がボールから出ると、アンヤの勘違いで竜星群がドーン!』って話も聞けたろーがよ」
「ああ、それは助かった。今アルトマーレで起こっている竜星群と、あとパルデアの天変地異の原因も見えたからな。空に浮かんでるアンヤというポケモンの見た目から、昔のガラルのブラックナイトも、似たような経緯だったんだろう」

「まさかパオジアン様が、世界の平和のために各地を行脚されていたなんて。わたくしたちおくりび山のキュウコンホウエンを治めておりますのと、同じなのでございますね」
「パオジアンたちは、決して災いなどではない。むしろ私たちと志を同じにする、大事な仲間だ」
「あのアンヤも、ムチャクチャなとこはあっけど、全部が全部悪いってヤツじゃなさそーだよな」
「パオジアンたちの、上司にあたる存在だからな」
「『邪悪な怪物』とでもお呼びするべき諸悪の根源は……皆様を利用している、お腐りになった人間どもですわね。わたくしたちキュウコンの怨念で、末代まで祟って差し上げないと、気が済みませんわ」
「珍しくやる気じゃねーか。そのケンカ、アタシも乗るぜ」
「皆様は、わたくしたちの先輩でいらっしゃいます。おくりび山王国よりも歴史が古く、ブラックナイトの時代よりも昔から、しかも世界中の平和を守ろうと活動されていらっしゃるのです……」
「そんな先輩方に迷惑をかける人間がいれば、おくりび山王国としても、全力で援助するべきだな」

「じゃ、みんなの決起集会も済んだところで、ご到着だよ」
 レベッカが立ち止まり、鈍い緑色の巨大なマグカルゴのようなポケモン……チオンジェンに挨拶をする。顔は蔦と葉で覆われ、背中の殻にあたる部分には、木の札が螺旋状に連なっている。
「はじめまして、アタシはレベッカだ」

――

 レベッカを皮切りに、一通り自己紹介を終えるや否や、チオンジェンがタネマシンガンのように話し始める。

「あなたたち揃ってピクニックかしら。こんな散々な天気で、運が悪かったわねえ。曇りときどき竜星群でしょ。がんばって避けても、イテッって当たっちゃうでしょうし、怪我とかしてない? レベッカさんの背中でねんねしてる子どもたちも、楽しみにしてたでしょうに。まあ、世の中思い通りにはいかないっていう、お勉強になったと思えばね」
「何と申しますか……勢いがございますわね」
「私たちは、ピクニックではないんです。この竜星群を止めるために、チオンさんにご協力をお願いしたいと思いまして、ここまで伺いました」

「やっぱりピクニックするなら、そりゃもちろん、竜星群が降ってない日の方がいいものね。キュウコンさんなら、だいたいのお天気は『ひでり』でどうにかできるんでしょうけど、さすがにこのお天気は書き換えできないわ。今はちょうど、竜星群が止んでるお時間なんだけど」
「そーいや、ここまで走っておっかけてる間、竜星群降ってねーな」

「でしょでしょ。アンヤさんの竜星群って、休み休みなの。特性の『なまけ』みたいな感じかしら。しばらく竜星群をばら撒いたら、ばら撒いた時間の倍くらい休憩して、また竜星群ばら撒くお仕事して……みたいな。休憩時間の方が長いの、お仕事的には羨ましいわよね。でも夜もずっとそんな感じで続いてるから、そこは羨ましくないかも。夜通し働いてるのって、ポケモン離れしてるわよね。頭の中で、三交代制とかしてるのかしら」
「竜星群が止んでいるのは、たまたま凪の時間というわけなんですね。やはり根本的には、どなたかお一人でもアンヤと距離を置くことしか……」

「あらホタルちゃん、詳しいわね。そうなの、だからこうやって一生懸命走ってるのよ。焼け野原を眺めて楽しむなんて趣味はないし、早いとこ終わってくんないと、アンヤさんだって疲れちゃうと思うわ。三交代制とはいえね、たまには長期休暇もほしくなっちゃうじゃない?」
「走ってるっつーか……」
「こほん、グレンさん」
「……あーはいはい。一生懸命、お疲れさまっす」
「よろしければ、チオン様の逃避行を、お手伝いさせていただけませんでしょうか? わたくしたちとしましても、なるべく早めに、この竜星群を解決したく存じます」

「ありがとうねえ。手伝ってもらえるんだったら、そりゃあぜひお願いしたいわ。歳をとると時が経つのを早く感じるって言うけど、最近はほんと一瞬でびゅびゅーんって時間が過ぎちゃうから、困っちゃうわねえ。いつもの調子だと、竜星群が止むところまで逃げるのに、だいたい一ヶ月はかかっちゃうから……」
「一ヶ月! なが!」
「そ、それだけ走り続けるのは大変ですし、お疲れにもなるでしょう。よろしければ、うちのレベッカに乗って行きませんか?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがチオンジェンと出会う Update!
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 パオジアンたちを「災厄」と思っているのは人間だけなので、ポケモンたち(ホタルもラティもパオジアン自身も)はみな、「災厄」や「災い」とは呼びません。

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 第二十一話 人の色恋は蜜の味