ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十九話 特別にゲンナマなしで見せてやる


第十九話 特別にゲンナマなしで見せてやる

「え? 口の臭いは関係な……」
「いーや、関係あるね。お前の硬さの正体は、誰が何と言おーと、口の臭さだ。そのせいで気が散って、火力が下がってる。頭のクソダサ帽子も、口臭くちくさをなんかアレするやつだろ!」
「口の臭いではない、ワシの特性『ウツワオーラ』だ!」
「え、特性……てゆーか、名前ダッサ。臭い上にダサいとか、サイテーだな!」

「悪態をついている暇などあるのかな。いわなだれ!」
「キャアアア!」
「意外とかわいい声を出すではないか」
「黙れ、クソキモ野郎。口臭をばら撒くな」
「いつまで粋がっていられるかな」
「いつまでって……お前をボコボコにするまでに、決まってんだろ!」

(岩技あんなら、あの「とっておき」も命懸けになるか……)
 逡巡するグレンの視界に、見慣れた水色の影が映る。
(いや、どうにかなるな)

「そんなにお望みなら、もっとイイモン見せてやんぜ!」
「なに!」
「若い娘の生着替えだ。特別に、ゲンナマなしで見せてやる!」
「そんな破廉恥な……」

 グレンは、九本のしっぽをえいえいっと振る。
 まばゆい光が、キュウコン琥珀色の姿を覆う。

「おい、謎の光で何も見えんぞっ!」
「円盤なら、光がなくなるかもな!」
「どういうことだ⁉︎」

 光が収まった跡には、優雅に波打つ毛並みの、純白のキュウコンが立っていた。「アローラのすがた」だ。その降臨を祝福するかのように、神秘的に輝く白雪が舞い始める。

「その姿……貴様、バトル中にフォルムチェンジだと⁉︎」
「今度こそ、目ぇかっぽじってよーく見とけよ。マジカルシャイン!」
うおっまぶしっ!」
「どうした、足がとまってんぜ。アタシの姿に見惚れちまったか?」
「生着替えなどと期待……もとい、またもや謀りおって。許さんぞ!」
「先にキモいこと言ってきたのは、どの口臭だ。ふぶき!」
「ぐぬう……」
 効果抜群の技を立て続けに受け、さすがのディンルーも後ずさる。
「さっきまでの余裕はどーした。アタシのかわいい声を聞きたいんだろ。ああん⁉︎」
 ことさらドスを効かせた、ガブリアスのような声で凄む。

「まだだ、まだ跪かんぞ! じだんだ!」
「んなんじゃ、当たってやんねーなー」
「ひっかかったな。こちらが本命……トドメだ、いわなだれ!」
「見え見えなんだよ……レベッカ!」
「あいよ! ワイドガード!」
 レベッカワイドガードが、ディンルーの「いわなだれ」からグレンを守る。

「もう一人いたのか、卑怯だぞ!」
「アタシのケンカじゃ、卑怯は礼儀なんだよ!」
「アンタも相手が悪かったねえ。あらよく見れば、けっこういいカラダしてんじゃない」
「もっと涼んでいけよ。ふぶき!」
「ぐう……まだ跪くわけには……いかん!」

 ふぶきの猛攻をどうにか耐え凌ぐディンルーだが、その巨躯が、ついに分厚い氷で覆われる。ふぶきの追加効果で、凍結したのだ。
「こんなときに凍るとは、運の尽きか!」
「ねっぷうもふぶきも試行回数あったからな、そのうち凍るだろーよ。耐久型の定めだ」
トドメとばかりに、レベッカが追い打ちをかける。
「じゃあ後は、ゆっくり遊びましょ。ボディプレス!」
「グワーッ!」

――

「助かったぜ、レベッカ。よくここまで来てたな」
「港町の沖合で待機してたら、あの竜星群に気付いてね。どうせホタル君たちも異変の中心……このお城に向かうだろうと思って、加勢しに向かってたのさ」
ワイドガードをアテにしてたのも、よく気づいてくれた」
「バトル見てたら、あのガチムチの岩雪崩に苦戦してたからね。グレンちゃんなら、さっきみたいな『ふいうち』好きだろうと思って、機会を伺ってた」
「さすがだ」
「あと、ハナちゃんの顔も見えたけど……バトルが始まったのを見て、すぐ引き返していったね」
「ちっ。ケンカを、ホタルにチクりにいったか」

「……で、そっちのガチムチ口臭野郎。ケンカに勝ったからには、言うこと聞いてもらうぜ」
「その前に、貴様の目的はなんだ。なぜ、こうまでして邪魔をする。この土地のポケモンではない貴様が、なぜここの人間の味方をするのだ?」
「人間のことは知らねー。ただ、この人間の街が壊されると、アタシのちっせーダチが悲しむからな。それを止めてーだけだ」
「この街の破壊を止めたいのか。ならば貴様の言うことを、聞き入れるわけにはいかん」
「ケンカに負けたどの口臭が言ってんだ。もっかいぶっ飛ばされてーのか?」
「そういう問題ではない。仮にワシがこの街の破壊をやめたとして、アンヤの竜星群はどうするつもりだ?」
「それは……ホタルがなんかいい感じに考えるさ。そういう難しいことを考える係がいるんだよ」
「考えなしに動く、脳筋め」
「てめーだって、一緒だろーが!」
「何も考えていないわけではない。ワシらが散り散りになれば、ひとまずこの島の竜星群が止むのはわかっている。だがそれでは、いつかまた人間たちが、別の場所で同じ問題を繰り返すのだ」
「この竜星群は、人間のせいだって言ってたな」
「そうだ。そしてこれを根本的に止めるためには、ワシらを無理やりここに集めた人間を滅ぼす必要がある。だから、どうか邪魔をしないでくれ」
「無理やり集めた人間……その集まるのが、なんで竜星群になんだよ?」

「ワシらは四人で一組のポケモン。それぞれがあちこちの地方を回り、ポケモンたちの様々な問題を解決する役割を担っている」
「おくりび山のキュウコンたちとおんなじようなことを、お前らはやってんのか……」
「しかし、一人の力では解決できないような大きな問題が起こると、ワシらは一ヶ所に集まってアンヤの助けを借りるのだ。ワシら四人の特性が一ヶ所で重なったとき、アンヤは世界の危機だと察し、大空から現れてワシらを助けてくれる」
「助けてくれるって……じゃあアンヤは、いいヤツなのか?」
「本来はな。ただし、大した問題でもないのにアンヤを呼び出すと、『つまらないことで呼ぶな』とお叱りを受ける。それがあの竜星群だ」
「お叱りって……ちょっと呼んだだけでこんな竜星群祭りとか、ムチャクチャだな!」
「それは同感だ。しかしワシらではどうしようもできん。アンヤは、ワシらにとって神に等しい存在だからな」
「ほんとはぜんぜん平和なのに、勝手に人間に集められて、であの竜星群祭りか。そりゃお前が怒るのも当然だ」
「わかってくれるか」

「だけど、なんで人間たちは、そんな面倒なことするんだろうねえ。自分たちの街を、自分で壊すってことだろ?」
 レベッカも会話に加わる。
「ワシも、そこがさっぱり理解できない。その理由がわかれば、犯人の人間を見つける手がかりになりそうなんだがな。わかっているのは、ワシらの入ったボールを人間たちが一ヶ所で解放して、アンヤを呼んでいるということだけだ」
 ディンルーは、崩れかかっているアルトマーレの城を見やる。
「その城のような立派な場所で呼び出されることが多い故、身分の高い人間が犯人だろうと考えてはいるが……」

「人間は、ヘンなことを考えるやつが多いからな。いろいろあるんじゃね」
「いろいろとはなんだ」
「『アンヤを操って世界征服するぞぐははは』とか『竜星群をドーンされたくなかったらゲンナマよこせ』とかな」
「ゲンナマってなんだい?」
「世界を征服……自分の仕事が増えるだけだろうに。そんな面倒、何になるというのだ?」
「なんか、こう……イイことがあるんだよ。うまいメシが食える……とか?」
「アタシだったら、ラテアオちゃんの歌を、一度聞いてみたいねえ」
「そ、そういうものなのか……」
ディンルーもレベッカも、言い始めたグレンでさえも、よくわからない空気になってきた。

「と、とりあえずだ。ワシらの想像のつかない理由がある……というのは、なんとなくわかった」
「よーするに、アタシら脳筋組が考えてもラチがあかねーってことよ。うちらは、いったんホタルんとこ戻ろーぜ。考えるのは、アイツに任せとけば大丈夫だ」
「そうだね。アタシがいるのを知ったら、びっくりすると思うけど」

「お前はどうするんだ。やっぱこの街をぶっ壊すのか?」
「ああ、そうしたいところだ」
「やれやれ。頑固モンはめんどくせーな」
「ただ……一つ、貴様に聞きたいことがある」
「奇遇だな。アタシも一つ、お前に言いたいことがある」

「貴様たちは、これから何をするつもりだ?」
「何って、このへんの大惨事をなんか終わらせる……みたいな?」
「つまり、ワシらの力になってくれる……というのか?」
「それは、アタシらの『考える係』次第だな」
「そうか。正直なところ、この『勝手に集められてアンヤの竜星群を喰らう』という問題、頼れるものなら藁にも縋りたい思いなのだ」
「ああ。悪い人間のせいで、お前らが迷惑してるってのは、わかった。『考える係』なら、もっとよくわかってくれる。アイツのことだし、全部が丸く収まるいい感じのアレにすると思うぜ」
「そうなることを祈らせてもらおう。では、貴様の言いたいこととはなんだ」

「お前もケンカの流儀がわかるヤツのはずだ。アタシが勝ったからには、その流儀を通させてもらう」
「もちろんだ」
「街を壊すのをやめろ。そっちの都合もあるだろーし、ずっととは言わん。三日でいい」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / グレンがディンルーと戦う
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

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 ダブルバトルでは、岩の物理技は「いわなだれ」が主流なのです。範囲技かつ怯みが狙えるので。環境によっては、範囲技の対策としてワイドガードが採用されることもあります。

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 第二十話 末代まで祟って差し上げないと