ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第十七話 ご飯食べにくくないですか


第十七話 ご飯食べにくくないですか

「私たちの喫緊の目的は、この人間の街を守ることだ。そこで単刀直入に聞く。あの竜星群を止めるには、どうすればいい?」
 ホタルは、降りしきる竜星群を見上げながら、パオジアンに尋ねる。

「アレの発端は、僕たち四人の仲間が一ヶ所に集まったことだ。だから、僕たち四人のうち誰か一人でも、この場からいなくなればいい。それが、認められた唯一の答えだ」
「四人の方がお集まりになって……やはりパルデアと同じ現象のようでございますわね」
「誰か一人が『この場からいなくなればいい』と言っていたが、つまりキミを殺せばいいのか?」
「なるほど、僕たちが死んだら、どうなるんだろうね。考えたこともなかったよ……って、殺す気か!」
「すまない。キミを見てると、不思議とイライラしてしまって。つい、ガラにもない冗談を言ってしまった」
「わたくしに汚い手を差し伸べてきた悪漢を、忌むべき敵と認識してくださってるのですね。うれしゅうございますわ」
「悪漢て、お嬢さんもはっきり仰いますね」
「キミを殺すのは、とりあえず置いておいて……」
「とりあえずではなく、はっきりきっかりたっぷり置いてきてくれ」

「キミがこの場からいなくなる……つまり、キミが一目散にアルトマーレの島の端まで走れば、竜星群は止まるんだな」
「それなら、確実に止まる。僕が素直に言うことを聞くかは、わからないけどね」
「聞いてくれないのか?」
「僕には僕の都合があるからね。多少脅されたとしても、それでも言うことを聞くわけにはいかない。なんなら試しに、追いかけっこでもしてみるかい?」
「アルトマーレの果てまで、キミを追い詰めるか……」
キュウコンよりもラティアスよりも、僕の方がずっと素早いからね。このあたりをぐるぐる回って、一ヶ月逃げ続けようと思ってるけど」
「バトルはともかく、オタチごっこなら、キミの方が有利ということか」
「そういうこと。僕は僕で、『人間に恨みを晴らす』って目的があるんだ。街中でこの竜星群が長く続くなら、それだけである程度は目的を達成できる」

「では、その人間への恨みというのを、仮に私たちが晴らせたら……そのときは最果てへの旅に付き合ってもらえるものかな?」
「なるほど、僕たちに協力してくれるってことか。それはありがたい話だ。けど……たぶん『代わりに恨みを晴らす』のも、難しいと思うよ。達成条件は、僕たちをここ一ヶ所に無理やり集めた人間を見つけ、また同じことが起こらないようにすること。キミたちにできそうかい?」

「一ヶ所に集めた人間……この災厄を引き起こした、元凶の人間がいるってことなのか。それは誰なんだ?」
「それがわかれば、苦労はしないさ。犯人がわからないから、こうやって手当たり次第に人間の街を破壊して、戒めとしてるんだ。こんな酷い天罰が下るんだったら、次からはもうやめよう……賢い人間なら、そう考えてくれると思ってね」
「しかし人間は、パルデアでの惨事から学ばずに、同じ過ちをここでも繰り返している。キミの恨みの晴らし方が、有効ではない証拠だ」
「僕の仲間がパルデアで同じ目に遭った話は、知ってる。キミが『有効ではない』と言うのも、正しいんだと思う。じゃあ聞くけど、他にどんな方法があるっていうんだ? 否定するだけじゃなくて、代替案もぜひ出してほしいものだね」

 目線を尖らせるパオジアンとは裏腹に、ホタルは肩の力を抜き、笑顔で頷く。
「ああ、私もその代替案を一緒に考えたい。大丈夫だ、私たちは敵ではない。どこかいい着地点があるはずだ」
「それなら助かるよ。ぶっちゃけ、けっこうウンザリしてるんだ。目が覚めたら、人間から濡れ衣を着せられ、アンヤから竜星群でむっちゃ怒られる。僕も初めてじゃないからね。ほんと邪魔くさいよ、人間って」
「わかった。最善の方法をじっくり考えたい……ところだが、残念ながら時間も限られている。すまないが、『めいそう』に入らせてもらう」

 そう言うと、ホタルはそっと目をつむった。

――

……この場、どう旗を振る。協力者は足りている。ただし時間がない。こうして考えている間にも竜星群は降り注ぎ、人間の被害が拡大する。そしてなにより、ラテアとラテオが危険に晒され続ける。いくつか解決方法の糸口は思いつくが、「短時間」かつ「解決できる可能性が高い」糸口を選ぶべきだ。周りと相談している時間さえ惜しい。お母様はこの遠征を「おくりび山の王になるための試練」だと仰っていた。今ここで、私の責任で、判断しなければならない。一手でも間違えれば、それだけ子どもたちとアルトマーレの被害が倍増する。くそっ。責任が……重い。

「ホタルさん、急に黙っちゃったけど、大丈夫?」
「大丈夫です。このようなときのホタル様は、『めいそう』で集中して、お考えを練っていらっしゃるのですわ」

……この問題、竜星群を仕組んだ人間を、突き止めればいいのか? 犯人を突き止めるには、情報が必要だ。パオジアンから情報を聞き出し、犯人と接触する。再犯を防ぐためには、犯人の動機を把握し、それを解消する必要がある。そこまでしないと、パオジアンは納得してくれないだろう。それからパオジアンをアルトマーレの端まで走らせて、やっと竜星群の問題は解決する。必要な手順は「パオジアンから聞き出す、犯人にあたりをつける、犯人を見つける、犯人の動機を聞き出す、動機を解決する、パオジアンを納得させる、走れパオジアン」……順調に進んだとしても、手順が多すぎる。その間にも、アルトマーレはどんどん破壊されていく。この糸口ではダメだ。

「おはよう……ございます」
「おはよー……」
「ラティちゃんたち、起きるの早いね。もっと何日もかかると思ってたのに」

……話の端々に出てきた「アンヤ」とはなんだ? ポケモンの名なのか。なぜパオジアンたちが集まることが、アンヤの竜星群に繋がるのだ? これも、パオジアンから聞き出すことはできるだろう。ただ、それを聞き出したところで、問題の解決に役立つかは不透明だ。むしろ、パオジアンから詳しく話してこないということから、少なくともパオジアン自身は「解決に直結しない」と思っているんだろう。だったら、このアンヤの謎はひとまずおいといて、他の糸口を探る方が、効率が良さそうだ。

「お二人は、十日ほど前に、同じ症状をご経験されているのです」
「だから耐性がついてて、復帰が早いのか」

……もっと根本的に「アルトマーレの人間を助けない」という糸口はどうだろうか。そもそも、私がアルトマーレに来た目的はなんだ。ラテアとラテオを探し出すことだ。だったら、二人を強引にでもラティ王国へ連れ帰るのが、最善ではないのか。パオジアンの問題は放置することになるが、子どもたちを危険に晒してまで解決するべき問題ではない。……いや、これはダメだ。今はたまたま、パオジアンたちを見捨てることで目的を達成できるが、もし今後同じような問題がおくりび山で起こったら、私はおくりび山のポケモンを見捨てるのか。それは本当に本当の最終手段だ。だから今も、まだ、その最終手段を選ぶわけにはいかない。

「前の症状が十日くらい前ってことは、イーユイちゃんが顔を出したときだろうね」
「イーユイ様……という方もいらっしゃるんですね」

……なんにせよ情報が足りないことと、その情報を聞き出す時間が足りないことが、解決の妨げになっている。それなら「既に情報を知っている者」が考える解決方法はどうだ? パオジアンももちろんその一人だが、パオジアンの考えでは「戒めとして人を滅ぼす」という答えで行き詰まっていた。他に事情を知る者……そうだ、パオジアンの仲間がいるじゃないか。今グレンと戦っている「帽子」が一人、その他にもう二人。彼らの考えている解決方法を聞けば、光明になる可能性は十分にある。この糸口が有効かどうかを判断したいが、それならパオジアンに聞くことで、早めに判断できそうだ。よし、この方法はアリだ。

「このしろいおじさん、だれ?」
「ご飯、食べにくくないですか?」
「余計なお世話だ!」

……それと、パオジアンは、一人でもこの場からいなくなるのが「認められた唯一の答え」だと言っていた。「認められた」とはなんだ? 言いづらい「認められない」答えというのが、きっと存在するんだろう。それもさっさと聞いて、有効な糸口かどうか判断するべきだ。よし、この方法もアリだ。

――

「うぇーん、白いおじさんが怒ったー」
「うぇーん、ぎゃくたいだー」
「うぇーん、子どもたちが僕をいじめるー」
 ラテア・ラテオと一緒に、パオジアンも「うそなき」をしている。

「『めいそう』から只今戻った……って、なんでこの三人で遊んでるんだ?」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルとハナがパオジアンと出会う
7/24 決着のバトルとフタの戴冠式の予定

Comment
 「イタチごっこ」ではなく「オタチごっこ」みたいな、ポケモン世界ならではの言い回しが好きです。リコアニポケ五話でも、「オタチごっこ」って言われてました。

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 第十八話 穏やかに暮らせる日