ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第七話 おしぼりで鼻ふいてください


第七話 おしぼりで鼻ふいてください

「じゃ……話もついたことだし、くおーぜくおーぜ」
「あとイチさんたちの船が沈んだ原因も……まあこれは直接は関係なさそうだし、いいか」
「せっかくのおいしいお料理が冷めてしまっては、作ってくださった方に申し訳が立ちませんからね。早くいただきましょう」

「ちょっお前、アタシのメシとんなよ」
「こちらは、ホタル様のためにとっておいたお皿ですのよ。愚民さん……あらごめんあそばせ。グレンさんは、カバルドンみたいガバガバお酒をお飲みになっててくださいな」
「ふざけんなよ。てめーだってドゴームみたいにでけー口あけて、ブッサイクな顔でしこたま飲んでたじゃねーか!」
「なんですって。よりによってホタル様の前で、そんなこと仰らなくてもよろしいでしょうに!」
「ブサイク顔は認めんだな。いーってやろー、いってやろー、ホータルーにー言ってやろー」
「私はもう、ココで聞いているんだが」
「せんせー! ハナさんがー! ドゴームでーす!」
「きゃあああ、おやめになってください! 違うんですホタル様。確かに、先ほどまで気が緩んでいたのは認めます。顔も多少はブサ……普段とは違っていたかもしれません。しかしながらこれからは、ホタル様がいらっしゃらないときでも油断せず、気を引き締めてしこたまいただきますので、どうかお見捨てにならないでください……」
「え……わ、わかった。楽しめているようでなによりだ」

「ホタルさんたち、楽しそうですね」
「『ゲンナマ』の言葉遣いが気になって仕方がなかった」
「方言なのかもですね」
「あと、途中で話す言葉を変えたようなのだが……まあお互い聞かれたらマズいことくらいあるだろうな」
「私たちも、国の人間であることを黙ってますし」
「で、聞き込みはどうだった。任せっきりですまない」
「イチ様は国民のみなさんに顔が割れてますから、私が聞いてくるのが道理ですよ」
「ありがとう。助かるよ」

「聞いてきた話をまとめると、事態の進展が思ってたよりも早いです。もうイチ様は亡くなったことになっていて、三日後にはフタ様の戴冠式が行われます。とは言っても、それまでにミツ様がフタ様に何かしらの『いちゃもん』をつけて、いったん戴冠式は『さきおくり』になると思いますが」
「死体は上がっていないのに、死亡扱いか」
サメハダーの海域でイチ様が乗った船が沈没するところを、タマタマ漁師が見たそうです」
「タマタマね……それもミツの息がかかった証言だろうが」
「それに加えて、船の瓦礫が浜に流れ着いているのと……『当時は嵐だった』という偽の情報も流れていて、総合的に見て『イチ様が亡くなった』と見なしたようですね」
「すべてはミツの筋書き通りか」
「いかがなさいますか。調査はこのへんにして、ジョウトに出発されます?」
「キミは……それでいいのか?」
「私、ですか?」

「キミは家族を守るために、今回の危険な役割を引き受けたと言っていた。結果的にこうして生き長らえた今、キミには家族の無事を確認する術がある。まあその術も、必ずしもお勧めはできないけど」
「ええ。確かに家族に会いに行くことはできます。しかし私が生きているとわかれば、まずミツ様が黙っていないでしょうね」
「暗殺の計画を知るキミを、今度こそ殺しにくる。キミが生きていると知った家族も、漏れなくね」
「私たちは、死んだままの方がいいということですね。残念ですが、受け入れましょう」
「命があるだけでも、儲けもんだ」
「ただ、もう少しだけ複雑なことがありまして……」
「なんだ。珍しく歯切れが悪いな」
「ホタルさんたちが探してる、行方不明の姉弟についてです」
「おお、そうだった」
「まずは、直接ホタルさんたちにも聞いてもらいましょう。複雑という話はその後で」
「わかった。頼む」

 イチが、隣の席のホタルたちに声をかける。
「みなさん。行方不明のお子さんのお話をしても、よろしいでしょうか?」

「お、イッチーの酒、全然空いてねーじゃねーか。今日はホタリュのかーちゃんのゲンナマだ。じゃんじゃん飲もーぜー」
「ホタル様ももっと召し上がってくださいませ。そうしないと、せっかくのお料理さんたちが……ぐすん……かわいそうで……うぇええええん」
「ホタリュは、なんだかんだでアタシのことが好きだかりゃよ、お嬢様の泣き落としなんかムダだぜ。ほらホタリュ、これ食え。あーん」
「ふがふが……そこ鼻……鼻に入ってる」
「ああ、ホタル様がわたくしの名を呼んでくださっている。わたくしもうそれだけで嬉しくて……うぇええええん」

「イチさん、助けてください。乙女心がさっぱりわかりません」
「お二人はもうダメです、諦めましょう。あ、おしぼりで鼻ふいてください」

「でさぁ、そんとき人間のやりょうのココをな……」
「どこを触っている!」
「うぇええええん。ホタル様、わたくしを置いていかないでくださいませえええ」
「その人は私ではない!」
 通りすがりの他人に追いすがろうとするハナを、ホタルは必死に止める。

「……キリがないので、話を進めちゃいますね。子どもたちについて集めてきた情報を、頼む」
「はっ、はいっ。港町の医者の話なんですが、郊外の小さな漁村に往診に行って、幼い姉弟を診たそうです。漁村があるのは、この港町から南西……ちょうど港町とアルトマーレの城下町の間あたりですね。歳もホタルさんの話と一致してましたし、間違いないと思います」
「医者の往診……その姉弟は、なにか病気でもしているのですか?」
「数日寝込んだまま目が覚めず、体温もやけに低かったという症状です。正直さっぱり原因がわからなくて、また来週に往診するそうです」
「体温が低い……私たちが探している子どもたちの可能性が高そうですね。やはり地元の方に手伝っていただいて、とても助かります」
「あーそうなんですね。お力になれたようで、よかったです」
「私たちは、明日の朝早くに、漁村へ出発しようと思います。ご協力ありがとうございました」

「そのことなんですが。イチ様、私たちも一緒に漁村へ行きませんか?」
「私は構わないが……複雑と言っていた話か?」
「実は、その漁村というのが……私の家があるんです。やはり家族の姿を、一目見ておきたいと思いまして」
「一目……単身赴任みたいな感じですか?」
「そ、そんな感じですね」
 ホタルの疑問に、部下はとっさに答える。
「わかった。では僕たちも、漁村までご一緒してよろしいでしょうか?」
「もちろんです。もう少し一緒に旅ができますね」
「ホタル様あああ。その素敵なお色目を、イチ様にお使いにならないでくださいませえええ。うぇええええん」
「もっとイチャつけー、キャハハハ!」

――

 その夜、ホタルたちとイチたちは、酒場近くの旅館に宿を取った。イチの部屋には、部下が訪れていた。

「漁村に置いてきた家族を一目見たい……気持ちはわかるが、『知らない方がよかった』ということもあるぞ」
「イチ様の仰ることはわかります。順調に事が進んでいれば、私は二階級特進で家族に恩賞が出ているはずですが……ミツ様に一度騙されている身。ミツ様がそれを反故にしている可能性もあります。最悪、家族も……」
「もしいい方に転がって、健やかに暮らしていたとしても、顔を合わせることは叶わないからな」
「はい。私が生きていることが知れれば、確実に一家もろとも皆殺しになるのはわかっています。そこは、ぐっとこらえます」
「あと、これも先に言っとく。家族に声をかけることすらできないというのは、思ってるよりもしんどいぞ。そのときに僕が言ってやれる優しい言葉も、思いつかん」
「お気遣い、ありがとうございます」
「それでも……行くんだな」
「はい。私もイチ様と同じように、一度死んで投げやりになっているのかもですね」
「その意気や良し。じゃあ遠慮なく漁村に向かおう。朝早くに出るって言ってたな」
「あのお嬢さんたち、だいぶグデングデンでしたけど、ちゃんと起きれるんですかね……」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 ホタルたちが漁村へ向かう → イチたちと一緒に漁村へ向かう Update!
7/24 フタの戴冠式の予定 New!

Comment
 当初は「こうこうのしっぽ」という道具と掛けて、「こうこう(高校)のしっぽさま」的なタイトルにする予定でした。しかし、酔っ払いのシーンが思いの外楽しかったので、「こうこう」の表記は諦めました。

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