ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第六話 酒の永久機関


第六話 酒の永久機関

「とりあえず、お上がりくださーい」
 クレベースに乗る男からそう言われたものの、イチたちがいる小舟からクレベースの背中まで、身長の倍は高さがある。
「上がれって言われても……全然届かなくない?」
「ですよね」
 二人は、怪訝な表情で顔を合わせる。
「すみませえええん。縄とかないですし、上がるのしんどいでえええす!」

レベッカ、水面まで沈んでくれるか。小舟の人間を乗せてあげたいが、高さがあって登ってこれないようだ」
「そっか……あの背格好のポケモンならだいたいは跳んで上がれそうだけど、人間だと厳しかったね」

 レベッカは、浮力をいい感じに調整して、背中と水面が同じくらいの高さになるまで沈んだ。イチと部下は、ようやくレベッカの背中に上がることができ、人の姿に化けたホタルたちと対面した。

――

「助けてくださって、ありがとうございます。僕はイチと申します。こっちは僕の部下です」

(イチ様の部下で、よろしいのですか)
(そういうことにした方が、話が早いだろ?)
(わかりました。ありがとうございます)

「あなた方は命の恩人です。感謝をしてもしきれません」
「私はホタルと申します。そして、友人のハナとグレンです」
 同じく人の姿に化けているハナとグレンを紹介する。

「ホタルさんは、操り人なんですね」
「操り人……ああ、このクレベースを操っている人間、という話ですね。操るというよりは、協力してもらっているのですが」
ポケモンと協力……ですか」
「はい。このクレベースレベッカと言います。とても優秀なクレベースです」
レベッカだ、よろしくな)
 人間のイチたちには鳴き声にしか聞こえないのをわかっていながら、レベッカは律儀に自己紹介をした。

「ところで……私たちは、子どもたちを探しています。アルトマーレの旅行中に、知人の子どもたちが行方不明になってしまったのです。イチさんたちは遭難されていたということですが、何かお心当たりはありませんでしょうか?」
「僕たちは、アルトマーレへ帰る船が海賊に襲われて沈んでしまい、この小舟で漂流していたのですが……」
「船が襲われた……それは災難でしたね」
「お気遣い、ありがとうございます。お探しの子どもたち、ひょっとしたら同じ船に乗っていたかもしれません。お子さんの特徴を伺えますか?」
「はい。仲のいい姉と弟で……でも人前ではあまり喋らないと思います。あと、二人とも人間でいうと、五歳から七歳くらいです」
「人間でいうと?」
「あ、気にしないでください」
「幼い姉弟……船の乗客の顔はあらかた見ているつもりですが、そういう子どもたちは記憶にないですね」
「そうなると、イチさんの船と探している子どもたちは、関係なさそうですね。情報ありがとうございました」
 ホタルに合わせて、ハナとグレンもお辞儀をする。
「では私たちは、子どもたちの捜索を続けるために、このままアルトマーレへ向かおうと思います。お二人も一緒にアルトマーレへ送り届ける……ということで、よろしいでしょうか?」

(どうしますイチ様。このままアルトマーレに帰るのは、いろいろマズイのでは)
(欲を言えば別の地方へ送ってほしいところだが、ホタルさんたちも忙しいだろうから……ここは覚悟を決めるしかないな)
(ええ、そうですね)

「はい。ではアルトマーレまで、お願いします」

――

 翌日、一行を乗せたレベッカは、アルトマーレの東の海岸にある港町へとたどり着いた。
 ジョウト地方ホウエン地方の間に浮かぶアルトマーレは、海運の要衝として栄え、街中にも縦横無尽に水路が張り巡らされている。空にはヤンヤンマヤミカラス、水路にはウパーやテッポウオチョンチーなど、多くのポケモンが人間と共に暮らしている。

「人間の街ですのに、ポケモンの方がたくさんいらっしゃるのですね……」
「キンセツと同じくらいでけーな」
「あの……もしアルトマーレにお詳しければ、この港町でいちばん大きな酒場を、ご存知だったりしますでしょうか」
 ホタルがイチに尋ねる。
「いちばん大きな酒場ですね。いちおうわかりますが……ご案内しましょうか」
「助かります。なにせ初めての土地なもので」

(よろしいのですかイチ様。あまりウロウロしていると、私たちが生きていることが国の関係者にバレて、面倒なことになりますよ。早くジョウト行きの船に乗りましょう)
(それもそうだが、国を出る前に今の状況を知っておきたい。フタかミツかが国を継ぐ話になっているはずだし、酒場ならその手の話はいくらでも聞けるだろう)
(イチ様……なんか急に積極的になってませんか?)
(一度死んだ身だからな。多少投げやりになっているのかもしれん)

――

「ぷっはー、うめー!」
 グレンは酒を一息に飲み干す。
「やっぱ人間の酒は、サイコーだな!」

 ラティ王国の連絡係との集合場所になっている酒場。ハナとグレン、イチと部下が、それぞれの席に分かれて酒と料理を満喫している。そこへ、ホタルが自分の飲み物を持って帰ってきた。

「お前は、よくこういう場所に来ているのか」
「まーな」
「街でこういうことをするのには、ゲンナマというのがいるんだろう。よくそんなゲンナマ持ってるな」
「お、ゲンナマ詳しいじゃねーか。いいか、ゲンナマがほしいときは店で働くんだ。若い人間の姿でオッサンと酒を飲んだら、ゲンナマがもらえる。もらったゲンナマでまた酒を飲む。酒の永久機関だぜ」
「オッサンと酒を飲んで、働いたことになるのか……」
「お前もやってみっか。イケメンになってっから、そういう店なら意外とイケる……いや、喋るとポンコツだからな。やっぱてめーはダメだ」
「今わたくしたちがいただいているこのお酒は、ホタル様のお母様……カエン様が用意してくださったゲンナマのおかげですわ。カエン様のお慈悲に、そして国民のみなさんのお供えに、しっかりと感謝してくださいね」
「確かに、人のゲンナマで飲む酒はもっとうめー。今日のとこはお前にノってやんよ」

「あっ、そちらの方。恐れ入りますが、同じものをもう一杯いただけますでしょうか?」
「なんだハナ、お前けっこうイケるクチだな。見直したぜ」
「グレンさんに見直していただいたところで、嬉しくもなんともございませんが……庶民の方に支持されてこその上流階級。ご好意はありがたく頂戴致しますわ」
「ったく素直じゃねーんだから。ま、そーゆー可愛げのねー女も、アタシは好きだぜ」
「なっ、何を唐突に仰いますの。わたくしはホタル様一筋ですのよ。それに女性同士でなんて……そんな……」
「今どき、関係なくね? そーゆー縛りとかめんどくせーし、やりたいよーにやりゃいーんだよ」
「やりたいように……」

「そーいや、アレはどーだったんだ。ラティたちの連絡係」
「ああ、店の裏で話をしてきた……が」
 ホタルは咳払いをする。

(ここから先は、隣のイチさんたちに聞かれるとマズい。キュウコンの言葉で話そう)
(左様でございますね)
(連絡係のラティオスの話によると、ここから南西の海岸沿いにある漁村に、身寄りのない人間の子どもが流れ着いているらしい。人間の足で歩いて半日ほどの距離だ。ラティたち自身で現場に行ってみると、ベットに寝かされた子ども二人が、窓越しに見えたそうだ。見た目の歳からも、流れ着いたという時期からも、ラテアとラテオで間違いないだろう。なんらかの事故に遭って養生しているんだと思うが、一向に起きあがる様子がないのが心配だ)

(寝てても化けたままなの、すげーな)
(わたくしたちとは、化け方の仕組みが違うんでしょうね)
(マジか。コツを教えてほしいもんだ)
(意外と向上心あるんだな)
(こっちだってケンカで鎬削って生きてんだ。もっと強くなるためなら、なんだってやるさ)
(その貪欲さを、キュウコンらしく知的で優雅なことにお向けになればよろしいのに)
(アタシにとっての「らしく」はケンカなんだよ。人の姿に化けたままだと「ねっぷう」とかの技が使えねーからさ。なんかもうちょっとがんばったら、化けたままでイケそーな気がすんだよな……)

(ケンカと化けるのとは、違うんじゃないのか?)
(どこでどう繋がってんのかわかんねーから、いろいろやってみんだよ。そうやってアタシは強くなってきた)
(なるほど、それは一理あるな。さすがはホウエン番長連合総代)
(いいぞいいぞ、もっと言ってくれ。アタシは褒めて伸びる子だからな)
(これ以上凶暴におなりになるのでしたら、もうキュウコンを名乗るのを、おやめになってはいかがでしょうか)
キュウコンを超えたキュウコンってか、おもしれー)

(それともう一つ、連絡係の話で心配なことがある。アルトマーレ王国の人間が、その漁村を何度も訪れているんだ。漁村と王国の城を往復する人間が明らかに増えているのを、アルトマーレのポケモンたちが教えてくれたらしい。ラテアとラテオが「お家騒動で雇われた暗殺者」ではないかと、警戒しているんだろう)
(暗殺……)
(ちっちぇーガキなのにか。よっぽどビビってんだな)
(それだけ「お家の事情」が逼迫なさっている……ということでございましょう)
(実際は、暗殺者どころかポケモンなんだがな。なんにせよ、アルトマーレ王国の人間たちが変に動き出す前に、早急に二人を保護したい。明日の朝にでも、漁村に旅立とう)

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/13 ラティ王が捜索依頼の手紙をおくりび山に送る
7/14 ラティ王の捜索依頼の手紙がおくりび山に届く
7/16 キンセツ学園でホタルがグレンを勧誘
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/20 アルトマーレ近海でホタルとイチが接触 → ホタルがイチを回収 Update!
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる New!
7/22 ホタルたちが漁村へ向かう New!

Comment
 このように(マル括弧)がついている場合は、ヒソヒソ話みたいな感じで使ってます。一般的な小説だと、何か共通のルールとかあるんですかね。たぶんないですね。しらんけど。

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 第七話 おしぼりで鼻ふいてください