ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第二十九話 今は憚らない


第二十九話 今は憚らない

 補佐班の「いやしのはどう」で、ラテアは自力で飛べるまで回復していた……が。
「バンチョーさん……私のせいで……」
「はねがなかったら、どうなっちゃうの?」
「おばさんも……バンチョーさんを追って……」
「しっぽぐるぐるってまわしたら、とべるん……だよね?」
 グレンとハナの「喪失」を目の当たりし、ラテアもラテオも、とても動ける状況ではなかった。

「二人とも大丈夫だよ。下で補佐班が助けたって言ってたし」
「そ、そうだよね。よかったー……」
「そうだと……いいけど……」
 ラティ王が取り繕っても、重たい空気を拭い去ることができない。

 漂う戦場の沈黙を、補佐班のラティたちが打ち破る。
「ホタルさん、東はもうダメです! 破壊光線が集中して、火力に回れる者がいません!」
「北より『ゆめうつし』で連絡あり。北は壊滅状態と判断し、部隊を解散。西に合流します」
「くそっ。破壊光線の間隔が短すぎる!」
「前はもっとゆっくり……アレの半分くらいだったはずだぜ。アイツが出てくるの久しぶりなのに、どこでレベル上げてきたんだ……」
 さすがのイーユイにも、気持ちの翳りが垣間見える。
「すまん、ほんの少しだけ時間をくれ。『めいそう』に入る」

――

……どうする。想定以上に、四方の戦況が芳しくない。直接的な原因はただ一つ、「本体」からの破壊光線の乱射だ。破壊光線にしろ竜星群にしろ、なぜあれだけ継続して打てる。その仕組みがわかれば、戦況は好転するのか。いや、もともとアレは、常識を超えた未知の存在だ。それは「本体」を引き摺り出した今でも、何一つ変わっていない。これから多少やり方を変えたとしても、未知が未知のままで終わる可能性が高い。乱射の解明は糸口にならない。

「下の方が騒がしいようだな。アルトマーレのポケモンたちが集まっているのか」
「あ……たぶん、うちのパオとディンが『人間に復讐だー』っつって暴れてるんすよ。さーせん」

……こうなった以上、撤退も視野に入れるべきだ。判断が遅れれば、それだけラティたちの犠牲が増える。イーユイに非難が及ばないような理由付けが必要だが。それは後から考えればいい。つまるところ、撤退が糸口になるかどうかは、ラティの犠牲とアルトマーレへの恩とを天秤にかけた判断になる。まずはラティ王に相談するべきだ。

「かわいいラテア、かわいいラテオ。作戦本部の場所はわかるかい。ママが待っているところだ」
「黒い雲で見えないけど……お城と海が見えたらわかる……かな……」

……切り札はまだある。ラテアオの歌で士気を上げることだ。ただ、士気を上げるということは、ラティたちに物理的な無茶をさせるということと同義。ラティたちの身の安全を優先するなら、撤退を先に検討するべきだ。なにより、歌の要であるラテアオが、グレンとハナのことでそれどころではない。グレンとハナ……私が声をかけたばっかりに、グレンとハナは……

――

「ホタル君……ホタル君!」
 ラテオの背に乗るホタルの顔を、ラティ王がぐわんぐわんと揺らす。
「あっ、すみません。私が声をかけたばっかりに……」
「ん……とにかく、子どもたちを本部まで返したいから、私の背中で指揮を取ってくれないか」
「わかりました。その方が、二人にとって安全ですからね」
「ありがとう。というわけで……かわいいラテアにかわいいラテオ、ママのことを頼んだよ。二人で『ひかりのかべ』を張って、お互いを守り合えば、破壊光線だってへっちゃらだ」
「うん……わかった……」
「すみません。この子たちのことにまで、気が回らなくて」
「謝ることじゃない。それぞれができることを、できる範囲でがんばればいい」

「……」
「ねえ。あの声……」
 地上から聞こえてくる騒ぎ声の中に、ラテアが気づく。

「……」
「なんかきこえるね」
「あれは……」
 ラテオとホタルも気付いたようだ。

「……」
「もしかして、バンチョーさんじゃない?」

「ぅぉぉぉぉぉ」
「やっぱりそうだよ、バンチョーさん!」
「バンチョーだ、ヤッタァー!」

「うおおおおお!」
「ひいいいいい!」
 グレンとハナが、オオスバメたちに掴まれて、一気に飛び上がってきた。

ホウエン番長連合総代、グレンだああああ!」
「みなさん、ご心配おかけして、申し訳ございませんでした!」
「あのお嬢さん、生きるためのお迎えにいってたんだな。やるじゃねえか!」
「あれがキュウコンの『人に化けた姿』か。たしかに、私たちの変身よりずっと上手だ」

 一同のさらに頭上まで上昇したところで、オオスバメたちはグレンとハナを手放す。
オオスバメのお二方、ご協力感謝致します!」
「ラテア、無事でよかった。また頼むぜ!」
「うん!」
「お背中、改めてお借り致します」
「もちろんだ」

 グレンとハナは空中で、人に化けた姿からキュウコンの姿に戻る。そして、それぞれラテアとラティ王の背に着地する。

「パパ。ぼくもこのまま、おじさんといっしょにたたかうね。おーこそ、まえー!」
「そうだな。ラテオには引き続き参謀君の護衛を任せよう。超重要な任務、できるかなー?」
「もちろんできるよ、まかせて!」
「おおえらいなー、かわいいなー!」

――

「ホタル、面倒かけたな。カチコミはどうなってる?」
「……」
「ん……なんだ。泣いてんのか?」
「うるしゃい……作戦中だ」
「泣いてんだろ。泣いてもいいんだぜ。またアレやってやろっか?」
「しょういうのは後にしてくれ」

「はいはい。見たとこ、『本体』の指一本は詰めてるじゃねーか」
「だが、しょこからが膠着している。指一本に対して、こちらからの竜星群が百発ほど必要だった。残っているラティたちの体力を考えると、うまくいっても壊せるのはせいぜい三本目まで。残り二本を破壊するだけの戦力が、どう考えても足りない」
「破壊光線が、厄介そうだな」
「アレの頻度が想定の倍だ。そのせいで消耗が激しいのが、致命的すぎる……」
 ホタルの声が、また別の震え方をしている。不安と重圧に抗っているのだろう。

「ラティ以外の戦力が集まってるのは、気づいてるか?」
「ああ。オオスバメ以外にも、プテラワタッコクロバットエアームドピジョット……アルトマーレのポケモンたちが、ちらほら手伝ってくれてるな」

「地上で見て来たんだけどさ、ここのポケモンたちは、みんな仲良しこよしなんだ。人間の街にたくさんポケモンが住んでるの、お前も港町で見ただろ。ポケモン同士もあんな感じで、ナワバリを超えてみーんな助け合ってる。しかも、この竜星群の中でだぜ。ホウエンとは大違いだ」
ポケモンの国境……という考え方自体がないんだな」
「ああ。ホウエンの中で『山』とか『組合』とか言ってケンカしてるアタシらからすれば、信じられない連中だ」
「私たちよりもずっと『進化』してるんだな。だから、作戦や指示がなくても、率先して駆けつけることができるのか」

「アイツら、どんくらいいると思う?」
「戦力のアテにしようというのか? 数十、いや寄せ集めなら数百いたところで……」
「飛んでるヤツらだけでも、少なくとも……一万」
「いっ……一万だと⁉︎ お前、数え方知ってるのか? ひゃく・せん・いちまん、だぞ!」
「あーホタル君。今のそれは、乙女心が『だいばくはつ』だな」
「えっ、これも……はい。ごめんなさい」

「こっからだとアンヤの雲みたいなヤツが邪魔だけど、オオスバメでここまで上ってくるときに見えたんだ。味方が七分に空が三分。いいか、味方が七分に空が三分だ」
「そ……」
 のしかかっていたものが、ほろほろと崩れ去っていく。

「それは……それは……」
 涙を、今ははばからない。
「ああ。圧倒的な数の暴力で……」

「「勝ち確だ」」

――

Calendar
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/17 イチが乗っていた船が沈む
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/19 城の一室でミツ側近がイチ側近に災厄の発動を提案
7/21 アルトマーレの港町に到着し酒場で盛り上がる
7/22 漁村でラテアとラテオが復帰
7/23 災厄が発動 / ホタルたちがラティ王国の一団と合流
7/24 竜星群殴り込み艦隊のカチコミ / アンヤ本体を引き摺り出す

Comment
 「しょういうのは後にしてくれ」ってことは、またあの「だきしめる」を後でやってほしいってことなんですかね。そこんとこ、どうなんですかね。

Next
 第三十話 真・竜星群殴り込み艦隊