ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第五話 お前らの仲をズタボロに


第五話 お前らの仲をズタボロに

 アルトマーレの東の沖。
 二人の人間を乗せた小舟が、波に任せて力無く漂っている。

「船が沈んで三日……僕たち、ずっと流されてるよね」
「ええ。アルトマーレの陸地は見えますが、付かず離れずと申しますか……」
「そういう気休めはいいから。どちらかと言えば遠ざかってるし」
「はい、すみません」
「これ、漕ぐ用の櫂ってないの?」
「本当はあるはずなんですが、この救命用の小舟を急いで出したときに、流されてしまったみたいです」
「まあ、文句は言えないか。水と食べ物が積まれてただけでも、幸運だったし」
「それも、あと一日もつかどうか……」
「どっちみち、絶望的だね」
「すみません。私まで食べ物をいただいてしまって。王位継承一位であるイチ様をお守りするために、私がすぐに、海に身を投げるべきでした」
「それはそれで目覚めが悪いから、勘弁してくれ。それに僕一人だったとしても、死ぬのが、今か数日後かの違いだ」

 漂流してからというもの、二人は気を紛らわせるために、様々な世間話をしていた。しかしながら、イチには一つだけ、聞くに聞けない疑問があった。
「今さら責めるつもりはないんだけどさ、冥土の土産に教えてよ」
「……はい」
「僕が乗ってた船が沈んだのは……キミのせいだよね?」

「この期に及んで、隠すこともありません。仰る通り、私があの海賊を呼んで、船を襲うように仕向けました。私の主、王位継承三位のミツ様のご命令です」
「だよね。ホウエンの外交から帰る船で、ミツの部下であるキミの顔が見えて、嫌な予感はしてたんだ。何かの用でたまたま船が一緒になったんなら、挨拶の一つでもしてくれそうなもんだし」
「ミツ様は、ご自身が王位に就かれるために、海賊に船を沈めさせてイチ様を暗殺し、その濡れ衣を王位継承二位のフタ様に着せるおつもりなのです」

「こうやって一緒に漂流してるってことは……キミは、見捨てられたんだね」
「はい。本当は『海賊に回収してもらえる』と言われていたんですが、雇われた海賊にそういう話は通っていなかったみたいです。それどころか、私も暗殺の対象にしていたようで、殺されかけましたし」
「秘密は、それを知る者が増えるほど漏れるもの……暗殺計画としてはあり得る流れだね。笑えないけど」
「私も薄々勘付いてはいたんですよ。でも、この役割を引き受けるしかなかった」
「役割……?」
「狼煙をあげる役割が、必要だったんです。最悪、船を沈めるだけでも暗殺が成功するように、サメハダーの多い海域で船を沈めたい。けれど、雇われる海賊としても、そんな危険な海域を悠長にウロウロしてはいられない。だから、船から狼煙を上げて、海賊が見つけやすくする……という計画です」
「なるほど」

「私はミツ様の部下になって日も浅く、それなのに失敗も続いていたので、仕事を続けるためには危ない橋も渡らざるを得ませんでした。家族を守るためにも、断るわけにはいかなかったんです」
「家族……元気に過ごせてるといいね」
「ミツ様には『家族のことをお願いします』と意味深に念押ししてきたので、流石に大丈夫だと思いたいです」
「そうだね。もう僕たちには確認する術すらないし、そう信じることにしよう」
「はい。ミツ様を信じるしか……ありません」

「……僕としては、ミツよりもフタに王位を継いでほしいけどね」
「それは……ふふっ。私もそう思います」
「アルトマーレの国民はみんな、そう思ってる」
「フタ様は、ご立派ですからね」
「そう、僕なんかよりもずっと頭がキレるし、人格者としても申し分ない」
「イチ様も、そう思われてたんですね。意外です」
「ずっと思ってるよ、僕よりフタの方が王に相応しいって。僕の方がいいって言ってるのは、僕の部下たちだけ。彼らは『王に相応しいぞ、がんばれがんばれ』って僕を応援するけど、それは僕が王になった方が彼ら的に儲かるからであって、僕のためや国のためを思っての応援じゃない。王位継承という賭け事に、勝ちたいだけなんだ」
「それでも……せっかくの王位継承一位なんですから、もっと野心をお持ちになってもよろしかったのでは?」
「野心か。それも思わなくはなかったけど、気後れしちゃうんだよね。もし僕が王を務めたとしても、明らかにもっと適任なフタがいつもそばにいるわけだろ。『申し訳ない』とか『フタならもっと上手くやるんだろうな』とか、ずっと心配しながら仕事するのって、疲れちゃいそうで」
「そういう慎重なところ、イチ様っぽくて素敵だと思いますよ」
「はは……最期の話し相手がキミでよかったよ。安心して過ごせたし、思ったよりゆっくり話もできた」
「私もです。もっと早くサメハダーに食べられるかと思ってました」

サメハダー……そういえば、サメハダーの多い海のはずなのに、全然いないね」
「言われてみれば」
「うーん……でもあっちの方から、何か来てないか?」
「アレは、クレベースですね。アルトマーレの近くでは、まず見ることがないポケモンのはずですが」
「こっちにどんどん向かってない?」
「しかも、異常に大きい。水面に見える高さだけでも……普通の三倍はありますよ」
「このままぶつかったら……」
「食べ物云々よりも先に、小舟が沈んで一巻の終わりですね……」
「え、やだやだやだやだ」
「ととと、とりあえず落ち着きましょおおおおお」
「まっすぐこっち来てるし、ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
「うわあああ、助けてお母さあああん!」

――

 レベッカの背中には、キュウコンではなく人間の影が三つ並んでいる。三人とも、人の姿に化けたのだ。
「小舟に乗っている人間は、二人だけのようだな。少しの波でも沈んでしまいそうだ。レベッカ、波を立てないように、そっと近づいてくれ」
「あいよ」
「小舟の人間とは私が話をするから、ハナとグレンは……どういう関係という設定にしておこうか?」
「わたくし、ホタル様の……おおおお嫁さんを務めさせていただきます!」
「じゃあアタシは愛人な。お前らの仲を、ズタボロに引き裂いてやんぜ」
「相変わらず、ご発想に品の欠片もございませんわね。そんな破廉恥なご関係を、ホタル様がお持ちになるはずがございませんわ」
「ホタルの母ちゃんだって、旦那がたくさんいるじゃねーか。愛人もへったくれもねー」
「ホタル様は特別ですの。わたくしのことを一途に愛して下さってるのですから!」

「せ、設定の話なんだけどな……」
「ホタル君、自分で火種を蒔いちゃったね」
 呆気に取られるホタルに、レベッカが諭す。
「こういう話題は気を付けるべきだね。この旅で、乙女心を学んでいくといいよ」

「てゆーか、普通にダチでいいだろ。アタシらは黙っとくから、さっさと人間から聞くもん聞いてこい。まあこのお嬢様がケンカを売りてーんだったら、どっちが上か、ハッキリわからせてやってもいいけどな」
「どちらが上かですって? わたくしのマグカルゴよりも熱い愛の方が、上に決まっておりますわ!」
「んな話なんか、してねーよ!」
「愛のない愛人なんて、キュウコンのいないおくりび山と同じですわ。恐るるに足りませんことよ!」

レベッカ、その乙女心というもの、後で詳しく聞きたい……」

――

クレベースが……止まってくれた。ぶつからずに命拾いしたよ」
「このクレベース、私たちのことを認識してくれてるみたいですね」
「死ぬ運命とはわかっていても、やっぱり怖いものは怖かった……」
「私も、お恥ずかしながら、思ってた以上に生に執着があったようです」

 クレベースの上から、女性同士が激しく言い争う声が聞こえる。
クレベースの背中に……人間が乗ってる?」
「でも、すごい剣幕で揉めてますね」
「いちおう助かるってことで、いいんだよね?」
「少なくとも、絶望的な状況からは、一歩前に進めたかと。ちょっと声をかけてみますね」
 クレベースの天面に向かって、声を張り上げる。
「どなたかあああ、いらっしゃいますかあああ?」

 頭上の天面の縁から、男……人の姿に化けたホタルが、ひょっこり顔を覗かせる。
「私たち遭難してましてえええ!」
「あっ、そうなんですねー」
「ダジャレで返してくる系?」

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/13 ラティ王が捜索依頼の手紙をおくりび山に送る
7/14 ラティ王の捜索依頼の手紙がおくりび山に届く
7/16 キンセツ学園でホタルがグレンを勧誘
7/17 イチが乗っていた船が沈む New!
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発
7/20 アルトマーレ近海でサメハダー接触 → ホタルとイチが接触 Update!

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 ポケモンは自分たちの数を「匹」ではなく「人」で数えています。「私たち三匹で戦いましょう」みたいに、ポケモン自身が自分たちのことを「なん匹」と数えるのは、違和感があったからです。

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 第六話 酒の永久機関