ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第四話 しっぽをえいえいっと振って


第四話 しっぽをえいえいっと振って

「ヘンタイとは心外な。私と契約を結ぼうと、言っているだけなのに」
「……契約?」
「キミは『千歳の掟』によって、これからもおくりび山のキュウコンから追われる定め。しかし、もし私に力を貸してくれるなら、キミを掟の例外としよう」
「例外だと?」
「つまり、今後一切、王国の警察部がキミを連れ戻しに来なくなる」
「なるほど、さすがは王子様。権力でアタシを手なづけようってワケか。気に食わねー」
「そうか……私と契りを交わすのは嫌か……」

「気に食わねーが、悪い話じゃねー」
「おお、じゃあ力を貸してくれるんだな」
「お前はバカか。『力を貸せ』ってだけで、返事できるわけねーだろ。アタシに何をしてほしいんだ? それを聞いてから、協力するかどーか決めてやる」
「そうだった、これは失礼した。交わしてほしい契りというのは……」
「あと、その『契り』って言い方やめろ。マジでキモい」
「わかった。では、ちぎ……じゃなくて契約というのは、ラティ王国の子どもたちがカクカクシキジカで……」

――

 ホウエン地方の遥か沖合を西に泳ぐ、一人のクレベース。海面に浮かぶその背中には、キュウコンの影が三つ並んでいる。

「ホタル様と二人きりの愛の航海……と思っておりましたのに、乗るクレベースをお間違えになった女狐がいらっしゃるようですわね。くれぐれも、わたくしたちの恋路をお邪魔しないでくださいませ」
「ハナとか言ったっけ。お前ずっとそればっかだな。愛だの恋だの、盛ってんじゃねーよ」
「さか……そのような、品のないお話ではございませんの!」
「アタシだって、好き好んでついてきてるわけじゃねーし」
「そうだ。私からグレンに頼んで、契りを交わしてもらった」
「ち……契りですって。しかもホタル様から……そのようなことがございますわけが……ああこの世の終わりですわ……」
「だからその『契り』って言い方、キモいからやめろっつってんだろ。使い方間違ってっからな、このポンコツ王子」
「そうなのか。しかし人間の辞書には、『契約を結ぶ』意味だと書いてあったぞ」
「契約って、どんな契約ですの?」
「てめーに教えてやるわけねーだろ」
「まさか破廉恥な……」
「めんどくせーな。誰がこのヘンタイ王子と、そんなことすっかよ!」
「怪しいですわね。ホタル様、わっ、私とも……ちちちち契りを交わしてくださいませ!」
「やっぱり盛ってんじゃねーか、このアバズレお嬢様が!」
「そうか、ありがとうハナ。ぜひ私からも頼む」
「なんて幸せなんですの……一生ホタル様について参りますわ!」

「この旅終わるまで、ずっとこのポンコツたちに付き合わされんのかよ。てゆーか、その女がいるんなら、アタシいらねんじゃねーか?」
「あーそれは……」
「グレンさんの仰る通りですわ。ホタル様のお手伝いも、身の回りのお世話も、全てわたくしがやりますから。グレンさんは、さっさとおくりび山へお帰りくださいませ」
「と言っても、レベッカはもう、アルトマーレまであと半日のところまで来ているからな。今から引き返すのは、難しいぞ」
レベッカって、誰だそりゃ?」

「私たちに協力してくれている、このクレベースのことだ。ヌシ級に大きく、海を泳ぐのも陸を歩くのも、ほかのクレベースよりずっと速い。それに、私たち炎キュウコン冷え性で困らないよう、背中の氷の表面をいい感じに管理してくれている」
「グレンちゃん、よろしくな」
 レベッカと呼ばれたクレベースは、背中にいるグレンの方に顔を向けて挨拶した。
「ハナちゃんには、前に自己紹介したもんね」
「はい。いつもわたくしたちのために、ご配慮ありがとうございます」

「背中が冷たいのとか、氷キュウコンにフォルムチェンジすればいいだけだろ。『衣替え』でひょいだ」
「確かにわたくしたちは、しっぽをえいえいっと振って『衣替え』をすることで、炎キュウコンと氷キュウコンのフォルムをいったりきたりできますが……殿方の前でそんな端ないこと、なさらないでくださいね」
「すまない。私はあちらを向いて目もつむっておくので、気兼ねなく『衣替え』してくれ」
「そんな、ホタル様にお気を遣わせるなんて。それにわたくし、ホタル様になら……その……」
「はいはい、どーぞ末長くお幸せに……って、なんかこっち来てんな」
 グレンの視線の先で、海面に突き出た背鰭が三つ四つ、こちらへ一直線に近づいていた。

「ありゃサメハダーだ。安心しなレベッカ。あんなんアタシが、ケチョンケチョンに返り討ちにしてやっからよ」
「待って、あの子たちの様子……」
 やる気満々でしっぽを構えるグレンを、レベッカが制止する。

――

「アンタたち、ホタルの旦那ご一行だな? 相談したいことがあるんだが」
 サメハダーの中の一人が、海面から話しかけてきた。
「ああ、私がホタルだ。お前たちは何者だ?」
「そう警戒すんなって。俺たちも旦那と同じ、ラティ王国のお子さん方『ラテアオ』を探してる仲間だ」
「ラテアオ?」
「俺たちの間で人気の、ラティ姉弟だよ。姉のラテアちゃんと、弟のラテオ君。二人ともかわいい上に、歌がめっちゃうまくて、このへんのポケモンの間で大人気でな。ラティたちの『ゆめうつし』で、このへんのポケモンみんなにライブハイシンしてくれるんだ。目の前にラテアオがいるみたいで、感動するぜ」
「『ゆめうつし』……ラティオス様やラティアス様がお持ちになっている、特別なお力でございますね。ご自身が見聴きしている景色を、お近くのお仲間に共有できるという」
「行方不明になっているラティ王国のお子さんたちが、そのラテアオなのか」
「それそれ。ラテアオが行方不明っていうからよ。居ても立ってもいられなくて、捜索に協力してるんだ。旦那がこのへんを通るってことも、ラティ王様から聞いてるぜ」
「なるほど。それで、相談したいことというのは?」

「ああ。この先にじっとして動かないちっせえ舟がいてな、人間が乗ってるんだ」
「こんな陸から離れたところに、小さい舟……漁師か?」
「そんなんはわからん。ただ、ラテアオが人間に攫われたって話だから、何か知らないか聞きたいんだけどさ。もちろん言葉が通じるわけねえし、人間は俺たちの姿を見ただけで逃げ出しちまうしで、どうしようもねえんだ。ラティ王様も『なんか困ったらキュウコンを頼っとけ』って言ってたし、ホタルの旦那ならなんとかしてくれるんじゃねえか……っつー相談だ」
「とどまっている小舟か……確かに気になるな。話を聞いてみる価値はありそうだ」
「なにか特別な事情がありそうですわね。こんな沖合に魚ポケモンを獲りにいらっしゃるなら、もっと立派な大きい船のはずですから」
「船の大きさが、なんかおかしーのか?」
「人間の方が陸から遠くまで船をお出しになるのは、より大きな獲物を狙ってらっしゃるとき。かわいらしい小舟では、せっかくの大きな獲物を運ぶことができませんもの。目的が魚ポケモンをお獲りになることではなく、ましてホウエンへ向かう船旅なら、じっと留まっている理由がございませんわ」

「へえー、人間のことよく知ってんだな。さすがはお嬢様、そんなん勉強する暇があって、羨ましいこって」
「トゲのある仰り方ですね。文句がございましたら、もっとはっきり仰ってはいかが。あ……おつむがお子様過ぎて、ものの言い方もご存じないんでしたら、ごめんあそばせ」
「なんだとこら。こっちが気ぃ遣って遠慮してりゃ、調子にノリやがって!」
「お調子にお乗りになっていらっしゃるのは、どちらの一般キュウコン様でしょうか?」
「減らず口叩いてんじゃねーよ。口じゃなくて拳で伝えるっつー作法を、教えてやってもいいんだぜ!」

「もしかしてあなたは……ギャラまたのグレンさん!」
 グレンとハナのしょうもないやり取りに、サメハダーが口を挟む。
「ああ、ホウエン番長連合総代グレンったあ、アタシのことよ!」
「さすがっす! 姐さんのお噂はいつも伺ってます。お会いできて光栄です!」
「話のわかるヤツじゃねーか、気に入った!」

 グレンは、ドヤ顔をハナに向ける。
「見ろよ。お勉強だけの箱入り娘じゃあ、こういう人徳っつーやつはできねーよな。残念だったな、お嬢様」
「くっ……わたくしだって……箱から……」
「え? 聞こえねーなー?」

「そこまでにしないかグレン。つっかかってきたのは、お前からだろう」
「はいはい。さよーでございますね、おぼっちゃま」
「お前のいる『箱の外』の世界は確かに素晴らしいと思うが、私たち『箱の中』にもそれなりの事情がある。それはわかってほしい」
「ちっ。わーったわーった」
「ハナ、すまなかったな」
「いいえ。ホタル様のそのお気遣いだけで、わたくし幸せでございます!」

「で、旦那。その人間の舟なんだが……」
「そうだったな。話が逸れてしまってすまない。レベッカサメハダーの言う方へ向かってくれるか」
「ああ、任せときな」

「……いよいよ、人間の方とお会いするのですね」
「そうだな。そろそろ、人の姿に化けておいた方がいいだろう」

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/13 ラティ王が捜索依頼の手紙をおくりび山に送る
7/14 ラティ王の捜索依頼の手紙がおくりび山に届く
7/16 キンセツ学園でホタルがグレンを勧誘
7/18 ホタルたちがホウエンからアルトマーレへ出発 New!
7/20 アルトマーレ近海でサメハダー接触 New!

Comment
 うちでは炎キュウコンも氷キュウコンもみんな「しっぽさま」という同一個体……という設定なので、「衣替えでフォルムチェンジする」という仕様が生まれました。

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 第五話 お前らの仲をズタボロに