ゆとりるのはてなブログ

ポケモンのダブルバトルで遊んだり、このゆび杯を主催したり、小説を書いたりしてます・w・b

しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第三話 王子の皮かぶったヘンタイだ


第三話 王子の皮かぶったヘンタイだ

「アルトマーレ遠征に同行される方は、決まりそうですか?」
 従者のキュウコンは、ホタルの進捗を気にかけているようだ。
「ああ。人数は、少なめに絞ろうと思っている」
「左様で……何か狙いでもあるのでしょうか。人数が多い方が捜索は捗りそうですし、航海を手助けしてくれるレベッカには、大勢のキュウコンが乗れますが」
「今回の任務、皆の連携が大事だと思うのだ。行動の意図を都度説明しなくても、気の合う仲間で柔軟かつ効率よく進めた方が、早く解決できる……ウーラオスの呼吸というヤツだ」
「一撃のウーラオスと連撃のウーラオスは、言葉を交わさずとも意思の疎通ができる……という故事ですね」
「なので、どこのギャロップの骨かわからないキュウコンを呼ぶよりは、信頼できる少数精鋭の仲間と、任務を遂行したい。もし調査に人数が必要となれば、ラティたちや現地のポケモンの力を借りることもできよう」
「信頼できるお仲間と言いますと、やはり……」
「幼馴染のハナだな」

「確かにハナ様ご自身は、人に化ける能力にも優れ、ホタル様を忠実に手助けしてくださるでしょ
う。しかし、ハナ様のお父様の方に少々問題がある……とカエン様は仰っていました」
「ハナのお父様は、王の次の地位にあたる『副王』だったな。直接話したことはあまりないが」
「申し上げにくいですが、副王様は、カエン様のことをあまり良くは思っていらっしゃいません。ホタル様とハナ様の二人旅となれば、ハナ様を利用して、遠征が失敗するように何か画策される可能性があります」
「ハナを疑うようなことはしたくないが、お母様の心配も理解できる」
「そこで、こちらをカエン様からお預かりしております。ホタル様のご参考になればと」
従者は、数枚の紙を手渡す。キュウコンも、人の姿に化けた手で字を書くことができるのだ。紙などの道具も、人間の街で調達している。
「人に化ける能力に長けた者の一覧……ハナ以外に、他の同行者も検討しろということか」

――

「このキュウコン、私と歳が変わらないのに、化ける能力が最上級とはすごいな。それにバトルの能力も凄まじい」
「しかしながら、それ以外の評価が最悪です。良識・知性・品行・毛並みが驚愕の零点行進。キュウコンと呼んでいい存在なのかすら、非常に疑わしい。メタモンが化けているのかもしれません」
「なんだこの、トドメと言わんばかりの酷い通り名は……ギャラまたのグレン」
キュウコンの恥晒しもいいところですね。しかも『千歳の掟』を破り、指名手配中です。掟の意味すら、理解できていないのでしょう」
「『千歳の掟』……千年も長生きするキュウコンは、高い知能と強い霊力を持った、特別な存在。その有り余る力で、他のポケモンたちに迷惑がかかるなどの弊害が出てしまう。故に、ホウエン地方キュウコンは、自己統制のためにおくりび山に自治組合を作り『山以外の土地にはナワバリを作らない』という掟を作った……」
「その掟を破るキュウコンがいれば、国を挙げて探し出し、強制的に山に連れ戻す。このグレンという名のキュウコンも、山を抜け出しており、警察部から指名手配されています」

「このキュウコンは、どうして掟を破ってまで、山を抜けたんだろうか……」
「掟を破った理由ですか……言うなれば犯罪者ですからね。その頭の中を思い計るのは、なかなか難しいと思いますが」
「犯罪者か……」
「ホタル様のことです、何か思うところがあるのですね」
「この掟が本当に必要なのかと、前々から気になっているんだ」
「少なくともカエン様は、掟が必要だとお考えです。私も、山の多くのキュウコンも、カエン様と同じ考えですが……ぜひホタル様のお考えも、お伺いしたいです」
「私がひっかかっているのは……私たちキュウコンが、言うほど『特別な存在』には見えないのだ。昔はそういう時代もあったのかもしれないが、少なくとも私が見てきた範囲では、キュウコンも他のポケモンも言うほど違いはない。力の有る無しに関係なく、みんなそれぞれ一生懸命生きている、それだけだ。だから、『特別な存在』と言うのは、私たちの驕りなのではないか……そう、疑問に思っている」
「なるほど。それは、素晴らしいお考えだと思います。カエン様にご相談されれば、さぞ喜ばれることでしょう」

「ありがとう。で、このグレンは、今どこにいる? 西の『カナズミ同盟組合』の領地には、さすがにキュウコンは入れてもらえないだろう。山の領内であれば、居場所を見つけるくらい、簡単だと思うが……」
「もちろん把握しております。キンセツ学園の寮に、寝泊まりしているようです」
「キンセツ学園か。あそこは、山の権限が及ばない特別自治区。下手に手を出せば、条約違反で組合と戦争になりかねないし、逃げ込むには最適の場所だな」
「そして何より、キンセツ学園は『ホウエン番長連合』の拠点です。ギャラまたのグレンは、『番長連合』を取りまとめた立役者ですから」
ホウエン番長連合……最近台頭してきた第三勢力か」
ホウエンを二分する『山』と『組合』にはまだまだ及びませんが、無視できない勢いを持っているのは確かです」
「一人のキュウコンが、第三勢力を作り上げるまでの力を持っているとは……すごいな」
「お会いになるのですね、ギャラまたのグレンと」
「ああ。化ける能力もバトルの能力も申し分ないし、なにより彼女とは掟の話をしたい」
「懐柔できれば心強いでしょうが、一筋縄でいく相手ではありません。くれぐれも、お気をつけ下さい」

――

「何かいい誘い文句はないだろうか。こういうときは、人間の街で手に入れたこれ……『チューニ大辞典』だ」
 ホタルは、辞典をパラパラとめくる。

「なになに『契りを交わす』……契約を結ぶこと。または男女の行為をすること……契約というのはいい感じだな。しかし、行為とはなんだ?」
 それ以上の言葉の説明は書かれておらず、用語の「チューニ度」の情報が続いている。
「暗黒レベル星四つ、大人レベル星五つ、魔法レベル星四つ、知識レベル星五つ。なかなか総合点高いな。しかも知識レベルが満点の星五か……この言葉を知っているキュウコンなら、人間との会話にも支障なさそうだ」

――

 ホウエン地方中部にある、人間の街キンセツシティ。その西に延びる百十七番道路から、北に外れた森の奥に、ポケモンたちの学校……キンセツ学園がある。東の大国「おくりび山王国」と、西の大国「カナズミ同盟組合」の友好の証として設けられた学園は、両国の干渉を受けない特別な自治区とされた。そこへ、学業に興味のあるポケモンたちが、ホウエン地方全土から集まっている。

「よくもうちの子分に、手ぇ出しやがったなぁ!」
 キンセツ学園の学舎裏で、十人ほどのポケモンたちに向かって、怒号を浴びせているキュウコンがいた。コノヨザルのように逆立つ毛並みが、より一層の恐怖を見る者に与えている。
ホウエン番長連合総代、グレンって知っててやってんのか!」
 グレンのあまりの気迫に、対峙するポケモンたちは言葉を返すことすらできない。

「そこまでにしてあげないか」
 そこへ、優雅な毛並みの色違いのキュウコン……ホタルが颯爽と現れる。
「んだとてめー。見ねー顔だな、どこ中だ!」
「おくりび山王国王位継承一位ホタルだ。この肩書きは、あまり好きではないけどね」
「おくりび山の……王子だと? そんなんで、アタシがビビると思ってんのか!」
キュウコンは、おくりび山の外に居てはいけないポケモン。山を離れたキュウコンがどうなるのか、キミも『千歳の掟』を、知らないわけではないだろう」
「ちっ。そーゆーのがめんどくせーから、山を抜けたっつーのによ……」
「私のように行政や視察のためにホウエンの各地を回ることはあっても、山以外の土地に定住するのは掟破りだ。いくら特別自治区のキンセツ学園と言っても、その例外ではない」
「アタシを連れ戻しに来たっつーんだろ! 細けーことギャーギャーぬかしてんじゃねーよ!」
「聞きしに勝る凶暴っぷりだね。ギャラドスも遠慮して跨いでやり過ごす……『ギャラまたのグレン』と呼ばれるのも納得だ」
「わかってんなら、おぼっちゃんは黙ってママんとこに帰んな。それとも、アタシの『ねっぷう』を喰らってみるか? ギャラドスも灰にしちまう火力だぜ」
「実に頼もしい。それでこそ、ここまで来た甲斐があるというものだ」
「あんだって?」
「キミ、人に化けるのも得意なんだろう」
「ナメんなよ。キンセツにもよく遊びに行ってるし、山のヘタレキュウコンたちより、よっぽどうめーぜ」

「素晴らしい。では、私と契りを交わそう」
「契りを交わす……だと? お前こんなとこで、何言ってんだ?」
「その反応、人間の言葉にも精通しているね。完璧だ」
「ふざけんな。なんでアタシがお前なんかと!」

 ホタルはジリジリと歩み寄る。
「さあ……私と一緒に来てくれないか」
「や、やべーぞコイツ」

 九本のしっぽを扇のように広げた姿は、神秘的にさえ見える。
「契りを交わし、共に新しい未来を築こう」
「キモいキモいキモいキモい」

 視線のブレない笑顔は、周囲のポケモンたちさえも、ドン引きさせる。
「まずは、キミのカラダの毛繕いからだ」
「お、王子の皮かぶったヘンタイだ……ヘンタイ王子だ!」

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下
7/13 ラティ王が捜索依頼の手紙をおくりび山に送る
7/14 ラティ王の捜索依頼の手紙がおくりび山に届く
7/16 キンセツ学園でホタルがグレンを勧誘 New!

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 グレンは、数百年後には「しっぽさま」というニックネームをもらい、理知的で優しいお姉さんに成長しています。しっぽさまにとって、ヤンキー時代のこの物語は、目も当てられない黒歴史です。

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 第四話 しっぽをえいえいっと振って