ゆとりるのはてなブログ

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しっぽさまとアルトマーレの災厄 〜 第一話 逆にアンタがご飯だってば


第一話 逆にアンタがご飯だってば

 今から数百年ほど前のお話。

 ジョウト地方の南東にある島国アルトマーレ。その南の沖合に、二十人は乗れそうな大きな船が浮かんでいる。甲板に漁具のようなものは見当たらず、代わりに、土木用の資材がいくつも並んでいる。整った身なりをした人間が二人、船の手すりにもたれかかりながら、物憂げに島の方を眺めている。

「昨日は珍しく、門前払いでしたね」
「私たちの災厄商法が、漏れてるんでしょう。アルトマーレは海運の国。物だけでなく情報も多く集まると言いますし」
「あちこちの権力者に『軍事力になる』と謳って災厄ポケモンを売りつけてきましたが……ネタがバレてしまっては、誰も買ってくれるわけないですもんね。災厄ポケモンを封印する資材も、ただの嵩張る在庫の山です」
「情報の伝播も日進月歩。この商売が通用しなくなる日も、そう遠くはないのでしょう。そのうち、災厄ポケモンが霞むような、もっと強力な武器が開発されるかもしれませんし」
「そのときは、商団の本部がまた新しい商売を考えてくれますよ。うちらはそうやって、儲かってきたんですから。では……いったん本部に帰りましょうか?」
「いえ、もう数日ここで待ってみましょう。もう一息、いけるかもしれません」
「え……ネタバレしてる災厄ポケモンに、まだ商機があるんですか?」
「災厄とバレているからこその活用方法も、あると思うのです。ちょうどこのアルトマーレのように、複数の勢力が争っている情勢なら」
「事前の調査通り、アルトマーレはお家騒動の真っ只中でしたが……それでもやっぱり、厳しくないですかね」
「例えば……災厄を意図的に発動させ、それを政敵の仕業だと声高に叫べば、威信を落とすことができる思いませんか」
「なるほど。こないだパルデアですんなりいったような、マッスグマな売り方だけじゃあないってことですね」
「ええ。そういう使い方もできるということを、門前払いの去り際に仄めかしてきましたから……あとは先方次第ですね」

「あの問題は大丈夫でしょうか。暴走した厄災ポケモンの再捕獲が、難しくなっている問題」
「いちばんの『なやみのタネ』は、むしろそこですね。災厄を止めるためには、さしあたってオリジンボールで再捕獲する必要がありますが……」
 懐から、深紅のモンスターボールを一つ取り出す。
「最近は、何度も投げ続けてやっと捕まる……って感じですもんね」
「災厄ポケモンたちのレベルが上がってるんでしょう。仮に制御不能に陥ったとしても、お代をいただいた後の話ですから、災厄の混乱に紛れてとんずらすればいいだけですが……それでもやはり、今後の商売がやりづらくなるのは困りものです」
「災厄を抑えられるっていう保証がないと、売りづらいですもんね」
「なにより、災厄が暴走して被害が膨らむほど、災厄の噂も広がってしまいますから。我々も、操り人としての腕を磨くか、オリジンボールのさらなる改良を進めるか。なにかしらの対策が必要です」

「本部の話だと、プレシャスボールっていう新型の開発が、大詰めを迎えてるらしいですよ」
「技術班もがんばっているようで助かりますが、ただそれも一朝一夕で完成する物ではありません。ひとまずは、今すぐにでもできる厄災ポケモンの管理手段……『なかよくする』で参りましょうか」
 持っていた深紅のボールを、空に向かって投げる。
「出てきてください、イーユイ」
 ボールから、橙色のトサキントのようなポケモンが飛び出した。機嫌がいいのか、商人たちの目の前で、くるんと一回転して見せる。
「この子は、災厄ポケモンの中では珍しく活発で、外に出して運動させてあげると喜ぶそうです」

 イーユイは甲板から空高く飛び上がると、勢いよく空中を旋回する。水面ギリギリまで降りてきたり、甲板の商人の間を駆け抜けたり、また急上昇したり、自由気ままに飛び回る……が、ふいにピタリと動きを止めた。何かを察したのか、水平線の向こうを一点に見つめている。
「……」
 高速でこちらへ向かってくる二つの「見えない影」が、イーユイのすぐ側を立て続けに掠める。気配の先を振り返ると、「見えない影」はじわりとその実態を現し、鋭い両翼を持つ竜となった。片方は赤色、もう片方は青色をしている。そして、お互いを支え合うように寄り添いながら、海岸の砂浜へフラフラと落ちていった。
「あちゃあ……オレの特性のせいか。二人とも大丈夫かな……」

――

 砂浜には、不時着したラティアスラティオスが横たわっている。ラティアスはゆっくりと身をもたげると、隣で気を失っているラティオスを抱き抱える。
「……大丈夫?」
「うーん……おねーちゃん……」
「ラテオ……しっかり」
「ここ……どこ……」
「いつもの遊んでるとこ……けどさっきの変なトサキントのせいね……私もまだフラフラする……」
「ぼく……ねむたいよ……」
「そだね、ちょっと休んでから……あっ」
 姉のラティアス……ラテアは、こちら向かってくる人影を注視した。

「おばあさんは家で洗濯中ー。おじいさんのわしは海へ魚ポケモンを釣りに来ましたよーっと。コイキングの一匹や二匹でも釣れればいいんじゃが。ん……なんじゃありゃ」

「やばっ、人間に見つかっちゃう。ラテオ、早く変身して!」
ペシン。ラテオのうつろな顔をひっぱたく。
「……おなかすいた……」
「なに寝ぼけてんのバカ! 人間に見つかったら、逆にアンタがご飯だってば!」
ペシンペシン。さらに勢いよくひっぱたく。
「いたいって……わかったよぉ」
 ラテオが人間の少年の姿に変わったのを確認してから、ラテアも少女の姿へと見た目を変えた。ラテオは、既にすやすやと寝息を立てている。
「よしこれで……食べられずに……」
 とりあえずの危機を脱して緊張の糸が緩んだのか、ラテアも気を失ってしまう。そこへ、老人が駆け寄ってきた。

「これは……子どもたち……なのか?」

――

 砂浜に近い老人の家。

「ジッジさん、あの子たちベッドまで運んだぜ」
 二人の屈強な男たちが、奥の寝室から出てきた。
「ありがとう。ワシら夫婦の力じゃ運ぶのも一苦労じゃったし、助かったよ」
「体が冷えていたので、温かくしておいた方が良さそうです」
 男たちは、子どもたちの身を案じてくれているようだ。

「それにしても、どこから流れ着いたんでしょうね」
「この辺じゃ見ない顔だ。近くで船が襲われたのかもしれん。沖合には、サメハダーの群れもよくいるしな」
「こんな小さい子たちじゃ、今頃親御さんも心配してますよ」
「そ、そうじゃな……」
 ジッジは曖昧に返事する。
「親も一緒に船に乗ってたんだろうし、もう海に帰ったのかも……いや、悪いことを考えるのはよそう。他にも流れ着いているヤツがいないか、みんなに当たってみようぜ」
「ジッジさんも疲れたでしょう。後は僕たちに任せて下さい」
「バッバさんのうまい飯でも食べて、この子たちと一緒に養生するんだな」
 そう言うと、男たちは家を去っていく。
「あ、ありがとう。お言葉に甘えることにするよ」

 男たちの姿が見えなくなったのを念入りに確認してから、ジッジはバッバに話し始めた。
「ばあさんや、あの子たちなんじゃけどな……」
「どうしたんだい、じいさん」
「わしゃ見たんじゃよ」
「見たって、もしかしてあの子たちの親の……」
「いやいや、あの子たちの姿じゃ」
「あの子たちの……姿?」
「砂浜で二人を見つけて、ワシが駆け寄ったときには、ちゃんと人間の子どもの姿をしとった。ただ、初めに遠目で見たときは……ポケモンさんの姿だったんじゃ」
「ポ、ポケモン?」
「白い竜のカタチしとった。見たことがないポケモンさんじゃ」
「人の姿に化けて悪さをするポケモンがいるとは、聞きますけど……」
「イタズラをするようなポケモンさんではないと信じたいところじゃが……何はともあれ、砂浜に倒れていたのも、人の姿に化けたのも、なにか訳があってのことじゃろう」
「そうですね。小さい子どもには変わりないでしょうし、あれこれ聞くのも可哀想です」
「だから、こちらからはとくに詮索はしないでおこう。二人から話してくれるまでは、普通の人間の子どもとして、接することにしよう」

――

Calendar
7/10 厄災商法の商談が失敗
7/11 ラテアとラテオがアルトマーレの砂浜に落下

Comment
 閑話休題的な気分で、執筆裏話みたいなのをココに書いていきます。例えば……数字が漢数字なのは、物理本に印刷するなど、縦書きにする機会を想定しているためです……みたいな。

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 第二話 かわいさにも留意されたい